冬休み(1)
なかなか話がまとまらず、投稿が遅くなってしまいました。
すみません。
学園の冬休みは1ヵ月(30日)ある。
新年を自分の領地で過ごす生徒達の移動時間を考慮しての事だそう。
ちなみに、一番遠くに領地がある生徒で、一週間から10日ほどかかるそう。
ジークも領地で過ごすため、冒険者活動が出来ないことを残念がっていた。
この時期は、私達が受けることができる依頼が少なく、私も、新年の準備で忙しい教会を手伝うために冒険者活動はしない予定だと伝えたところ、
「それなら、良かった」
と、安心したようだ。
「今年からは、(孤児院の)下の子たちにそれぞれ役割分担をさせて、お手伝いさせようと思っているの。いつまでもアイリスに頼るわけにはいかないでしょ」
教会に手伝いに行くと、シスターに言われてしまった。
「そうだよ。おねえちゃんはむずかしいおべんきょうをしているんでしょ。おてつだいはボクたちががんばるから、おねえちゃんはいっぱいおべんきょうして」
と、ちびっ子にまで言われてしまっては、無理に手伝うことも出来ず・・・。
冒険者ギルドも人手は足りているそうなので、ライアン商会にやって来た。
「ミライさん。何かお手伝いしましょうか?」
店は、いつも以上に人がいた。
護衛依頼で遠方に向う冒険者が、旅の装備を整えに来たようだ。ついでに、故郷の家族のお土産の購入も。
「アイリス!ちょうど良かったわ!私の代わりに配達に行ってきて!」
普段がおっとりしたイメージのミライさんが珍しく焦っている。
「兄さんが配達場所まで馬車で送ってくれるから。品物をお客様に確認してもらって、受領書にサイン貰ってきて。帰りは悪いけど乗合馬車を使って。これ、馬車の運賃。ついでに手間賃も渡しておくから」
お金の入った布の袋を押し付けられ、そのまま御者台のユリウスさんの隣に座らされた。
「アイリスが来てくれて助かったよ。本当はこの配達、キャサリンさんにお願いする予定だったんだけど、彼女、今、体調があまり良くないから、無理させたくないからね。他の人に頼むわけにもいかない配達だったんで、ミライが行くことになったんだけど、店があの状態じゃ簡単に抜けられないしね・・・」
キャサリンさんは結婚前は騎士をしていたお姉さんだ。
「キャサリンさん。そんなに具合が悪いんですか?」
「ちょっと、悪阻がひどいらしくってね」
「え~~!そうなんですか?それなら、仕方ないですね。うわ~~。キャサリンさんがお母さんか~。いつごろ生まれるんですかね?」
「初夏のあたりって言ってたかな?」
赤ちゃんの性別や、出産祝いのことを考えていたら、いつの間にか馬車が目的地に着いていた。
「・・・ユリウスさん、ココって・・・王宮ですよね・・・?」
目の前には高い塀と大きな門。その前には鎧を着た門番の兵士が二人。
「そうだよ。すみません、ライアン商会です」
ユリウスさんが門番に通行証のような物を見せていた。
門番も事前に聞いていたのか、ユリウスさんに向う場所を指示していた。
王宮なら、キャサリンさんが配達には適任だよな~。と、納得はしたけど、何で、代わりが私?
「アイリス、この受領書にサインを貰ってきてくれ。私は他にも配達があるからここで戻る。帰りにおいしい物でも食べてくれ」
門番に指示された場所で待っていた王宮の使用人に荷物を渡すと、私に受領書とお金を渡してユリウスさんは去って行った。
逃げられた・・・。何故か、そんな言葉が頭に浮かんだ。
「どうぞ、こちらです」
使用人に案内されるまま、王宮内を進む。
通されたのは、見覚えがある室内。
「あら、ライアン商会の方ってアイリスちゃんだったの?」
部屋にやって来たのはベルさんだった。
どうやらここは魔術研究所の応接室。以前も通された場所だった。
「以前から時々お手伝いしているお店で、今日も行ったら、いきなりこの配達の仕事を頼まれました。商品に間違いがないか確認して、この受領書にサインお願いします」
荷物の中身は、ラベルのついた瓶が半ダースと、色違いの服のセットが5着。素材の見本帳のような物がも入っていた。
「はい、間違いないわ。ねぇ、アイリスちゃん、この後時間あるかしら?」
「はい。特に帰りの時間は指定されていませんでしたし、乗り合い馬車で帰る予定だったので」
サインして貰った受領書を鞄にしまいながら答えた。
「そう、よかったわ。近いうちにアイリスちゃんに連絡して来てもらわなきゃと思っていたところだったから。ホント、偶然ね」
この、“偶然”と言う言葉にほんの少しイヤな予感がした。
「先ずは、あの遺跡の事なんだけどね、現地での調査が開始されました。遺跡にあった資料も現地で確認が済んだ物からこちらに運んでくることになっています。周辺の森の探索は、春になってから本格的に行うことになっていて、学園の春休み期間中はアイリスちゃんも参加してくれるかしら?」
「もちろんです」
面白い植生だったから、また行ってみたいとは思っていたのんだよね~。
「それから、遺跡の発見のことで・・・」
ベルさんがそう言いかけたとき、ドアを大きくノックする音がした。コンコンではなくドンドンと。
「失礼。例の物が届いたと聞いたんだが・・・」
勢いよくドアを開けて入って来たのはレオンハルトさんだった。
「レオン。お客様がいるんだから、もっと静かに入ってこれないの?驚かせてしまうでしょ」
「ああ・・・、すまない・・・って、アイリスじゃないか!どうしてココに?」
ベルさんに注意されて謝るレオンハルトさん。私を見て、驚いた顔につい笑ってしまった。
「お久しぶりです。今日は、ライアン商会の配達で伺いました」
「そうなの。偶然にもアイリスちゃんが持ってきてくれたの。この後、特に予定もないらしいわよ」
用事、思い出したことにしていいですか?
「さっき言いかけたことなんだけど、遺跡発見の騒動でアイリスちゃんの昇格試験が出来なかったから、『冬休み明けの、学園がお休みの日に改めてしないといけないわね』ことになっていたのだけど、ちょうど良いから、今からやってしまいましょう」
イヤな予感って当たるものなんだね。
別に昇格試験がイヤってわけではないのだけど、今日だけは避けたほうが良いと本能が言っている。
「今日はちょっと・・・。試験を受けるような格好ではないですし・・・」
今日の服装は、本当に普通のワンピース。コレで魔物と戦えって言われても無理です。
「それなら、大丈夫。さっき配達してもらった服。あれ、女性魔術師団の新しい制服の試作品なの。デザインはほぼ決定していて、後は色と最終調整かな~ってことで、サイズも数種類用意してもらったから、アイリスちゃんに合うサイズもあるはずよ」
女性騎士団だけではなく、女性魔術師団も制服新調するのか~。
魔術師団って、戦闘魔法に特化した魔術師さん達が属している、王国軍の事だったはず。女性もいるんだ~。
「女性は多くないわよ。だから今までは男性と同じ制服だったんだけどね、動き辛いらしくって新たに作ることにしたの」
制服の試作品に着替えている間、ベルさんが説明してくれた。
で、昇格試験の内容は、用意された複数の的に攻撃。全ての的を攻撃するのにかかった時間と、的の破損具合で攻撃能力を判定するそうだ。その結果次第で、その次の試験内容が変わるそうだ。
「ここで試験が出来るのであれば、魔の森に行く必要は無かったのでは?」
「訓練場を使用した試験では、複数の試験を行う必要があるの。その点、実際に魔物を倒せばその時点で合格なの。魔の森は、あの人がただ行きたかっただけだったんだけどね・・・」
ベルさんは、近場での試験の予定だったらしい。
試験会場は、王宮内の王国軍の訓練場の一角にある、魔法専用の訓練場だった。
レオンハルトさんの指示で、すでに的が用意されていた。
的は全部で五つ。
不規則に立てられていて、的と的の間隔は近いところで2メートル。離れているのは10メートルはあるのではないだろうか。
「魔法を使用した攻撃であれば、魔法の種類は問わない」
「身体強化魔法を使用して、素手で的を破壊することも可と言うことですよね?」
「その通り!」
私の質問に、レオンハルトさんが嬉しそうに答える。だって、それ、レオンハルトさんの攻撃方法だもんね。私はしないけど。
試験の注意事項を聞いている間に、見学者が増えていっている気がする・・・。
この観衆の中、試験だなんて・・・。魔の森で魔物が現れなかったばかりに、こんな事に・・・。
的をあの時現れなかった魔物に見立て、八つ当たりをすると決めたその時、背後の観衆のざわめきが大きくなった。
それと同時に、今までモヤモヤとしていた“イヤな予感”が背後に迫ってきていることを感じ取り、思わず振り返ってしまった。
それがいけなかった。
「アイリス!何故、君が訓練場に?!」
そこに立っていたのはアーサー様だった。




