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この家の、あかり  作者: めこねこ


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第七話の横で 誰と、誰?

 食事をしながら誰ともなく話題にするのが、家の猫たちは、誰と誰が仲良しなのか?である。


 私としては、諭吉とかぐやはマストだと思うが、最近、かぐやにマロンがちょっかいを出している。かぐやは相手にしていないから、単なる遊び相手なんだろうが、諭吉は嫉妬していないだろうか。逆に、たまに諭吉とチャトランが一緒にいることもある。なんとなく大人の二人って感じもして。あ、ただ、チャトランとおはぎだけは間違いない。


 そんな思いを知ってかしらずか、この子たちは様々なペアで一緒にいる。


――――――


 仕事から帰ってきた時、諭吉はたいてい私の椅子の下、いつもの定位置にいる。


 座る前に、念のため、一声かけることにしている。声をかけると目が合う。寄ってくるわけじゃない。ただ、いる。それだけなのに、帰ってきた気がする。不思議なものだ。玄関を開けた瞬間、あの目が迎えてくれると、肩の荷が少しだけ、おりる気がする。


 諭吉が来た日のことを、たまに思い出す。


 ペットショップに設置されたサークルの中で、元気にアピールしている子たちに混じって、諭吉だけはひとり控えめに鳴いていた。諭吉だけは、時々首をコテッと曲げながら、こちらの様子をうかがっていた。値段を見て、店員に理由を聞いた。言葉を選びながら答えてくれた。全部はわからなかったけれど、だいたいのことはわかった。


 それでも、連れて帰った。


 理由は、うまく言えない。ただ、あの目が、何かを問いかけていた気がした。私を連れてって、ではなくて。一緒に暮らしませんか、と。


 この子でよかった、と今も思う。


――――――


 かぐやは、竹林で見つけた。


 台風の前の日だった。仕事に向かうため家を出てすぐの竹林で、細い声が聞こえた。振り返ると、竹林と道路の境界近くに小さな白黒の猫がいた。精一杯、鳴いていた。台風が来るのがわかっているのか、その声には懸命さがあった。生まれたてにも見えるほど小さいのに、周りに親猫の姿はない。怖かっただろうに。心細かっただろうに。だから、目いっぱい声を出していた。


 仕事に行かなければならなかったので、妻に電話をして、様子を見てもらうよう頼んだ。家に帰ったら、ちゃんと迎え入れられていた。妻と娘が、タオルにくるんで連れ帰ってきたらしい。帰宅したら、居間に小さな白黒が丸まっていた。


 あの子が来てから、家の中に声が増えた。かぐやは主張が多い。蛇口の前で「ニャア」と一声鳴けば、息子が走っていく。要領がいいというか、この家の人間の使い方を一番よくわかっているのは、あの子かもしれない。


 諭吉とかぐやが並んで窓辺にいるのを見ると、絵になるな、と思う。どちらも静かで、どちらも品がある。並んでいるだけで、なんとなく、絵のようだ。マロンがちょっかいを出して、かぐやが逃げて、諭吉がどっしりとそれを見ている。あの三角関係というか、なんというか。複雑なのか、単純なのか、私にはよくわからない。


――――――


 チャトランは、大きな地震の後の混乱の中で、うちに来た。


 被災地にいた友人から送られてきた一本の動画がきっかけだった。餌場で悲痛な感じではなく、どこか陽気に、ご飯の催促のために鳴き続けている猫がそこにいた。比較的被害の少なかった我が家で迎え入れることは、自然な流れだった。迎えに行ったら、思ったより小さかった。毛並みがふっくらしているから少し小太りに見えるが、実際に抱き上げると、思ったよりも痩せている。食べることに苦労してきたんだろうと思った。


 とても賑やかな子なのに、家に連れ帰る時はとても静かだった。疲れていたんだろう。いろんなものを、抱えてきたんだろう。そして、安心したんだろう。


 あの子は、私が出かけようとするのによく気がつく。歯を磨いていると、いつの間にか足元に寄ってきて、ぐるぐると回る。小さく「ニャッニャッ」と鳴いている。何を言っているのか、正直よくわからない。妻は「心配してるんじゃない」と言う。そうなのかもしれない。そうじゃないのかもしれない。ただ、毎朝、あの子がそこにいる。それだけで、なんとなく、一日が始まる気がする。


 チャトランとおはぎが並んで寝ているのを、よく見かける。おはぎはあんなに慎重な子なのに、チャトランのそばにいる時だけは、私が近づいて触れても逃げない。撫で続けると「撫ですぎ」と言わんばかりにニャオンと鳴くが、それでも離れない。


 あの小さい黒猫が、あんなに無防備に背中を預けられる相手がいるというのは、なんというか、よかったな、と思う。そういう相手がいるというのは、大事なことだ。


――――――


 マロンとおはぎは、子どもたちが見つけてきた。


 新聞の無料広告に載っていた二匹だった。つぶらな瞳でこちらを見つめる写真に、子どもたちが虜になっていた。できれば二匹一緒に引き取ってほしい、と書いてあった。二匹一緒となるとハードルが高いだろう、なら引き取れる家が迎え入れるべきではないか。そんな、変な理屈で、引き取ることが決まった。


 保護していた方のもとに伺った時、マロンはこちらをじっと見ていた。おはぎはケースの奥にいた。マロンは私から視線を逸らさず、グッとこちらを見ていた。


 今でも、マロンはおはぎのことが気になるんだろうと思う。そっぽを向きながら、ちゃんと見ている。あれは、そういう子だ。


 マロンがかぐやを追いかけて楽しそうに走り回っているのに、娘にヒョイッと抱っこされた途端、耳がぺたんとなり、とろけるような顔になるのを見て、少し笑ってしまった。


 ボスの息子というわりには、案外かわいいところがある。


――――――


 五匹、全員が揃ったのは、あっという間のことだった気がする。


 でも考えてみれば、諭吉が来てから、ずいぶん時間が経った。かぐやが来て、チャトランが来て、マロンとおはぎが来た。その間に、子どもたちも大きくなった。家の中の景色が、少しずつ変わった。


 誰と誰がペアか、なんて野暮なことを言う気はない。猫たちはそれぞれで、それぞれに誰かのそばにいる。それで十分だ。


 ただ、思うのは、喧嘩をしないでいてほしい、ということだ。仲良くしろとは言わない。ただ、この家の中に、あの声が絶えないでいてほしい。


 諭吉が、ずっとあの椅子の下にいてほしい。

 かぐやが、ずっと蛇口の前で「ニャア」と鳴いていてほしい。

 チャトランが、ずっと足元をぐるぐるしていてほしい。

 マロンが、ずっとドタドタと走り回っていてほしい。

 おはぎが、ずっとあのまん丸な目でこちらを見ていてほしい。


 いつまでも、いつまでも。


 そんなことを思いながら、今日も椅子に座ると、諭吉が私の足元で丸まっていた。


 目が合った。

 何も言わなかった。


 それだけで、十分だった。

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