ざぁざぁ
そのまま横並びになり、空を眺めながら小林はつぶやく。
「なんていうかさ、清水って影のある子が好きだよね」
影? と聞き返すと、
「暗いとかじゃないんだけど、なんだか周りより一歩身を引いてる感じの子。それが悪いってわけじゃないけど、明るい子とか賑やかな子ってあんまり趣味じゃないのかな、とかゴニョゴニョ……」
え? なんだって?
まぁ、言いたいことはわかるけど。
「……なんか気が引けちゃうんだよな。ほら、僕って普通じゃないだろ?」
空を指差して、降り続く雨を見る。
「変っていうか、特殊っていうかさ。日向にいるようなタイプの人たちには、文字通り水を差すことになりそうだし」
せっかくのイベントをゲリラ豪雨で邪魔されたくないだろ?と冗談まじりに続ける。ああいう人たちは、僕みたいな人間とは違う。
自然に笑えて、人の失敗も軽く流して、気づけば周りに人が集まっているような――。
目の前にいる小林だってそうだ。
いつも笑顔で周りに人がいて。口は悪いけれど、それで嫌われるようなことは絶対にないだろう。
最初から、誰かに好かれる側にいる連中だ。
一度だって、あの時みたいな目で見られたことなんてないんだろう。
卑屈な僕に、日向側は眩しすぎる。
だからこそ、同じ日陰側にいそうな、そんな雰囲気のある人に安心感を覚えるのかもしれない。
……いや、自分でも失礼なやつだな、これ。
「ふーん」
小林は腕を組んで、じっとこちらを見てくる。
「なに」
「いや、めんどくさいなって思って」
は? 泣くぞ?
「だって、こんな天気になるくらい悲しいんでしょ? それなのに翠ちゃんにアピールもしないし。好きならアタックあるのみでしょ!」
しゅっしゅ、とキレのいいボクシングの真似をする小林。
「好きになってもらおうと努力する前から、勝手に距離取ってるじゃん。『どうせ自分なんか』みたいな顔して。そんなんじゃ、誰にも好きになってもらえませんよ〜」
友達に対してもそうだよね、と小林は続けながら、軒から滴る水をパンチで弾く。
「別に……そういうわけじゃ」
「あるでしょ。だって清水、さっき『水差す』とか言ってたし」
パンチが強すぎる。僕の心はサンドバッグじゃないぞ。
「……仮にそうだとしてさ」
少しだけ視線を逸らす。
「嫌われるよりは、マシだろ」
ぽつりと零れる。
「は?」
今度は小林が目を丸くする番だった。
「何もしないで好かれない方が、まだマシだ。迷惑かけて嫌われるくらいならさ」
恋愛にしても友達関係にしても、どうしても一歩引いた位置に居座ってしまう。
「うわぁ……」
シャドーボクシングをやめ、ドン引きした目でこちらを見ている。
「なんだよ」
「陰湿ナメクジ男」
こいつの語彙力は底なしか?
「……嫌われるのが、そんなに怖いの?」
少しだけ、声のトーンが落ちた。
「別に。」
どうでもいい奴らならね。
「ただ……」
一瞬、言葉が詰まる。
「……迷惑かけたくないだけだって」
(――お前のせいで)
子供の時に向けられた、あの嫌悪の目。いつだって思い出す。今なら興味のない人から向けられる分には、どうだっていいと思う。
でも――それが、もし自分の好きな人たちから向けられたらと思うと、耐えられる気がしない。
胸の奥が、ぎゅっと縮こまる。
例えば。
さっきの翠ちゃんたちも。
仲良さそうに並んで帰っていたあの空気が、急に降り出した雨で途切れて。足を止めて、困った顔をして。そのまま、言いかけた言葉を飲み込んだりとか。
もしかしたら、繋ごうとした手を伸ばしかけて、やめてしまったかもしれない。
ほんの少しのタイミングで、うまくいったはずのものが、すれ違ってしまったり。
そういう「今しかない瞬間」を。
もし、自分のせいで潰してしまっていたとしたら――。
雨音だけが、やけに大きく響く。
強くなる雨に触れてみようと手を伸ばそうとして、やめる。雨の軌跡が、まるで檻みたいに軒下の外を塞いでいた。
雨は、まだ止みそうにない。




