表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

ざぁざぁ

 そのまま横並びになり、空を眺めながら小林はつぶやく。


「なんていうかさ、清水って影のある子が好きだよね」


 影? と聞き返すと、


「暗いとかじゃないんだけど、なんだか周りより一歩身を引いてる感じの子。それが悪いってわけじゃないけど、明るい子とか賑やかな子ってあんまり趣味じゃないのかな、とかゴニョゴニョ……」



 え? なんだって?



 まぁ、言いたいことはわかるけど。


「……なんか気が引けちゃうんだよな。ほら、僕って普通じゃないだろ?」


 空を指差して、降り続く雨を見る。


「変っていうか、特殊っていうかさ。日向にいるようなタイプの人たちには、文字通り水を差すことになりそうだし」


 せっかくのイベントをゲリラ豪雨で邪魔されたくないだろ?と冗談まじりに続ける。ああいう人たちは、僕みたいな人間とは違う。


 自然に笑えて、人の失敗も軽く流して、気づけば周りに人が集まっているような――。


 目の前にいる小林だってそうだ。


 いつも笑顔で周りに人がいて。口は悪いけれど、それで嫌われるようなことは絶対にないだろう。

 


 最初から、誰かに好かれる側にいる連中だ。


 一度だって、あの時みたいな目で見られたことなんてないんだろう。



 卑屈な僕に、日向側は眩しすぎる。



 だからこそ、同じ日陰側にいそうな、そんな雰囲気のある人に安心感を覚えるのかもしれない。


 ……いや、自分でも失礼なやつだな、これ。

「ふーん」



 小林は腕を組んで、じっとこちらを見てくる。


「なに」


「いや、めんどくさいなって思って」


 は? 泣くぞ?


「だって、こんな天気になるくらい悲しいんでしょ? それなのに翠ちゃんにアピールもしないし。好きならアタックあるのみでしょ!」



 しゅっしゅ、とキレのいいボクシングの真似をする小林。



「好きになってもらおうと努力する前から、勝手に距離取ってるじゃん。『どうせ自分なんか』みたいな顔して。そんなんじゃ、誰にも好きになってもらえませんよ〜」


 友達に対してもそうだよね、と小林は続けながら、軒から滴る水をパンチで弾く。


「別に……そういうわけじゃ」


「あるでしょ。だって清水、さっき『水差す』とか言ってたし」


 パンチが強すぎる。僕の心はサンドバッグじゃないぞ。


「……仮にそうだとしてさ」


 少しだけ視線を逸らす。


「嫌われるよりは、マシだろ」


 ぽつりと零れる。



「は?」



 今度は小林が目を丸くする番だった。


「何もしないで好かれない方が、まだマシだ。迷惑かけて嫌われるくらいならさ」



 恋愛にしても友達関係にしても、どうしても一歩引いた位置に居座ってしまう。


「うわぁ……」


 シャドーボクシングをやめ、ドン引きした目でこちらを見ている。


「なんだよ」


「陰湿ナメクジ男」


 こいつの語彙力は底なしか?


「……嫌われるのが、そんなに怖いの?」



 少しだけ、声のトーンが落ちた。


「別に。」



どうでもいい奴らならね。



「ただ……」



 一瞬、言葉が詰まる。



「……迷惑かけたくないだけだって」



(――お前のせいで)



 子供の時に向けられた、あの嫌悪の目。いつだって思い出す。今なら興味のない人から向けられる分には、どうだっていいと思う。


 でも――それが、もし自分の好きな人たちから向けられたらと思うと、耐えられる気がしない。


 胸の奥が、ぎゅっと縮こまる。



 例えば。



 さっきの翠ちゃんたちも。



 仲良さそうに並んで帰っていたあの空気が、急に降り出した雨で途切れて。足を止めて、困った顔をして。そのまま、言いかけた言葉を飲み込んだりとか。



 もしかしたら、繋ごうとした手を伸ばしかけて、やめてしまったかもしれない。


 ほんの少しのタイミングで、うまくいったはずのものが、すれ違ってしまったり。



 そういう「今しかない瞬間」を。



 もし、自分のせいで潰してしまっていたとしたら――。



 雨音だけが、やけに大きく響く。



 強くなる雨に触れてみようと手を伸ばそうとして、やめる。雨の軌跡が、まるで檻みたいに軒下の外を塞いでいた。



 雨は、まだ止みそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ