パート1 33
その固いグリップを握り、左右に傾けながら観察するシンディ。
黒一色に塗られたその武器は小さいながらもそこそこの重量があり、装飾も特にないデザインからは冷たい印象が漂っていた。
「ふんっっっ···!! んんんっ···!!」
シンディから離れ、部屋の角で同じ様な形の武器の引き金を一生懸命引こうとしているジークは、両指でも中々動かない引き金に苦戦していた。
太ももに押さえ付けながら力いっぱい引こうとしてもビクともしない引き金に呼吸が乱れて、時折肩で大きく息をしている。
この世界では見たことのない材質の武器。
シンディは自分の机の上に置いて、考えを巡らせていくのだった。
「んっ···! あぁっ! はぁ···なんなんだよコレ···どうやって扱ってんだアイツら···はぁ···っ」
ジークもあきらめたのか、自分の机にゼロの銃を放り出すと、椅子に座って背もたれに深く腰掛けるのだった。
シンディが手にしているものとは違う形の銃が二丁。
力自慢のジークが力一杯握っても、その引き金は全く動かなかった。
信じられないほど固く作られている武器にジークの表情が歪む。
「あの二人、ニホンってクニの人間なんでしょ? アルト様もあの神の御業を持っていたのだから、二人に何かしらの力があってもおかしくないわ。単純に···物凄く力が強いんじゃないかしら?」
「だからってよぉ、あんなヒョロヒョロの体でこんな重くてカッテェ武器を軽々扱えるなんて···どうなってんだ。どんな鍛え方したらあんなになるんだ?」
「魔法を使ってる様子もない、元々そういう体の作りなのよ。この世界のどのルールにも当てはまらない。ニホンっていうクニは、そういう場所にあるんだわ」
「なんだよそれ···、ハッ。わけわからねぇ。あいつらもホントわけわからねぇっ!」
バンッ、と机を叩くジーク。
再び銃を手にとって眺めるシンディ。
所々に見たこともない文字で何かが書かれているが、シンディにも全くわからなかった。
突然現れたあの二人。
聞けばこの城の地下に何があるのか知りたいという。
国家機密というレベルで門外不出のその情報を掴んでいる時点で只者ではないことが伺える。
内通者がいるとも考えにくい、シンディ含めこの城の人間には''神''がいるとしか教えてもらっていないからだった。
この地下には''何''がある? と、''神''とは口走ってはいなかった。
そんな···神の存在に気付いてるのはどうしてなのか、シンディの疑問が絶えない。
「···あの二人は、この地下にある神を探しにきたんじゃないかしら?」
「カミサマを? どうして? 何の為に?」
「さぁ···、''対処''するとは言ってたけど。どうするのかは私にもわからないわ」
「対処たって、なぁ···」
ジークも腕を組んで考え込む。
「アタシたちだって、あそこに何があるのかわからねぇってのに···」
地下深くにあるあの場所。
左右に開く大きな横開きのドアの向こうはアルトのみしか立ち入ることが出来ないようになっていて、シンディもジークもその先のことは全くわからなかったのだ。
「このクニを支えるような大きな存在···か。一体何があるんだろうな? ものすっげぇ魔法使いがいて、何かあったらそいつが助けてくれるとか?」
「でもそれなら、人間以外の何かがいるとしか考えられないわ。本来なら人間は魔法を使えないのだから」
「そうだけどよ···。にしても、王様凄いよな、お前が魔法を使えるようにしてくれたんだから···っよっ!」
ジークは再び立ち上がると、銃を手に取り引き金に指を掛けた。
銃口がシンディに向かないように気を付けながら、ジークは再び引き金を引こうと声を荒らげるのだった。
そんなジークを見ながら、シンディは懐からそれを取り出す。
アルトから渡された''それ''。
手のひらサイズの、薄い円盤のような道具だ。
なんてことないアクセサリーに思えるが、持っていると自分が思い描いた通りに魔法が使えるというとんでもない代物だった。
仕組みは全くわからない。
これまで常識とされていた魔法のバイブルを完全に無視した代物で、アルトの力を認めざるを得ない出来事だった。
その昔、どこからともなく取り出してすんなり渡してくるアルトに少し恐怖を感じたのを、シンディは今でも覚えていた。
「···でも私はまだ、アルト様の考えがよくわからない」
「あぁぁんっ?」
シンディの言葉に、ジークは銃を片手に肩で息をしながら立ち尽くした。
ジークに返事をするでもなく、椅子に座りながらその手の中の円盤を眺めているシンディにジークはジリジリと近づいてその顔を覗き込むのだった。
「何も読めないのよ。今アルト様が一体何をしたいのか···私にはわからないの」
「そりゃあ、戦いだろ。決まってるじゃねぇか。考えてみろよ、王様は小さい時から自分のスキルはどうだ、戦いになったときはこうだって、お前も見てきただろ。そりゃあもう楽しそうに語ってたじゃねぇかよ」
ジークは机に戻り、立て掛けていた自分の剣を手に取って眺める。
刀身に映る自分の姿を見ていたジークを横目で確認するシンディだったが、その戦いを望んでいるような姿勢をあまり良く思っていなかった。
「こんなすげぇ軍隊を作って、今までだっていくつもの土地を救ってきたんだ。魔物も簡単に倒しちまうような武器もたくさんある。王様はすげぇ、前の人生でもさぞかしすげぇ戦士だったに違いない。だろ?」
「···救った?」
その言葉が引っ掛かり、シンディはジークと向き合う。
「あんな、迫害するようなやり方で?」
シンディがそう言った瞬間、ジークの目が大きく開き、床に剣を突き立てて残すとシンディに迫った。
鋭くシンディを睨み付けるその目にはアルトへと揺るぎない信頼が滲み出ているのがわかる。
「救ったんだよ、わかるか? ''救ったんだ''。くだらない争いを続ける民衆を統治したんだよ。おかげで誰も争わなくなったじゃねぇか。王様が作った道具でみんなが幸せ、獣人共ももう殆どいねぇ。アタシたちはこれからも王様の元で人々の為に尽くすんだ···だろ?」
その言葉にも疑う余地のない、アルトへの信頼が表れていた。
陶酔といってもいいのかもしれない。
シンディは思わずジークから目をそらし、机の上の銃に目線を落とした。
「どうにも私には、そうは見えないの。まるで自分の力を見せびらかすような、誰かに認められたいだけのように思えて、大義を感じない」
それを聞いた瞬間、ジークの眉間にシワが寄り、シンディに不満そうな態度で迫るのだった。
「お前···あいつか。あいつに何か吹き込まれたのか? え? あのレイとかっていう男に」
「···別に」
ジークの顔に背中を向けながら目をそらし続けるシンディだったが、ジークはその背後を回り込むようにしてシンディを追い続けるのだった。
そのジークの顔には疑うような表情が浮かび、さらにシンディに迫る。
「そういえば言ってたよなぁ、巡り合うだとか? 運命だとか···? ハッ、なんだそれ。王様の嫁になれるんだいいじゃねぇかよそれで! みんな惚れ込んでるだろ? あの力によ!」
シンディから離れると、剣を引き抜いて背中に背負い直すジーク。
自分の机に戻っていくが、それでも背を向け続けるシンディだった。
「王様の嫁になる、それで生活も安泰だ。守ってもらえる、その居場所だけは誰にも渡したくねぇ。色々もらった分、今度はアタシが捧げなきゃな」
シンディの頭の中に過去の記憶が甦ってくる。
小さい頃、小さな村、共に育った様々な記憶だった。
アルトの力でみるみるうちに変わっていく環境、増えていく信者のような人間たち。
魔法に憧れていたシンディは最初こそその力に憧れを抱いていたが、次第に恐怖が見え隠れしてくるのを感じていた。
この世界では考えられない力。
際限がどこにあるのかわからず成長していくアルトの能力に疑問が芽生えたのはわりと早い段階だった。
この人の存在はいずれ、希望から脅威になるのではないか。
初めて土地を手に入れた瞬間に、シンディの中にそんな考えが浮かんだ。
まわりが心酔していく中、シンディだけは一歩距離を置いてアルトへとついてきたのだった。
「獣人の奴らも、魔法が使えるからってデカい顔してたけど、見ただろ? あの間の抜けた顔をよ。王様が変えてくれたんだ、アタシたち人間の地位も、何もかも」
「でも、こんな侵略するようなやり方、好きにはなれないわ。一体···アルト様は何を望んでいるのかしら」
「平和だよ、そして正義だ。その為の犠牲だったんだ。いや、犠牲に''なってくれた''んだぜ。そう思うだろ? 思わなきゃだめだ、な? こっち向けよ、レヴリス」
その呼び掛けにやっとジークの方に顔を向けたシンディだったが、今度はシンディがジークに対して鋭い視線を向ける。
だがそんな視線をものともせずに、ジークは口元に笑みを浮かべてシンディに向き合うのだった。
「···やめて」
「懐かしいだろ? あの頃とは違うんだ。お前もアタシも、新しい名前をもらって王様に尽くすって決めた。もう違和感も消えてくれたぜ、な? ''シンディ''」
「ええ、そうねジーク。いえ···ヌーカル」
シンディとジーク。
アルトから貰ったその名前が、改めて自分たちが誓った過去を思い出させる。
拾われたシンディと、ついていくと決めたジーク。
生まれも、アルトとの付き合いの長さも違うが、認められて付けられた名前。
それを信じてあの村から全ては始まった。
「だから、あんな男の言ったことは忘れろ。犯罪者に耳を貸すヒマなんてアタシたちには無いんだからよ」
「···そうね、私が馬鹿だったわ」
シンディは自分の机にある銃を見て、そうジークに言った。
シンディの返事に満足したのか、ジークは机にあったもう一丁の銃を持ち、再びトリガーに手を掛けていた。
シンディもレイが持っていた銃を再び見回し始めるが、レイのその言葉が頭から消えないでいた。
出身は一緒でもここまで考えが違うものなのかと、気がつけば物思いに更けていってしまうシンディだった。




