パート1 31
謁見室、そう言われてその場に踏み入ると、他の一室とは比べ物にならないほど広大な空間が広がっていた。
エントランスと同じ様に二階天井まで伸びる広い室内となっていて、他の室内とは別次元の装飾が壁や天井に施された豪華な造りとなっていた。
吊り下がる大きなシャンデリアが室内を明るく灯している。
二階部分には回廊のように室内をぐるりと囲うバルコニーがあり、その下にはそれを支えるようにいくつもの柱が並ぶ。
「こっちだ、ここじゃ広すぎるから。みんな、こっちだよ」
恐らく大規模の会議で使うような室内の大部分を占める長机。
そこにいくつも備えられている椅子に案内されるかと思ったが、歩みを止めることなく王様を先頭に部屋の奥の扉へと向かっていくのだった。
「お前たちには勿体ねぇ」
ジークがゼロの耳元に顔を近づけて嫌味のようにそう言うが、ゼロは顔色一つ変えず黙ってついていくのだった。
「ここだよ。さぁ、掛けて」
衛兵が扉を開くと、王様に言われるがまま中へと案内されるゼロとレイ。
そこは王様の為の一室なのか、こぢんまりとしていて、王様が少人数と謁見する際に使用するような、まるで面接室のような室内だった。
しかしながらこの城の造りに習い、他の一室と変わらず豪華な内装があしらわれていた。
豪華な数人掛けのソファーが長テーブルを挟んで向かい合っており、壁には立派な暖炉とその上に高そうな調度品がいくつか並んでいた。
「座れ」
ジークがソファーの前に立つゼロの肩を半分突き飛ばす勢いで押すと、ゼロは跳ねるように腰をソファーへと落とす。
それを見ていたレイの傍らにはいつの間にかシンディが立ち尽くし、レイを蔑むかのような目線を送るのだった。
まわりを取り囲んでいた衛兵たちの視線が一気にレイへと集まる。
言葉にしなくとも、さっさと座れという意図を十分に感じることができた。
ゆっくりと座っていくレイ。
完全に腰を下ろすと、やっとシンディは視線を外すのだった。
「···さて、腹を割って話そうか。まず確認しておきたいんだけど、先日城に入った''賊''っていうのは君だね?」
「···」
同じ様に反対側のソファーに座った王様が、ゼロに向かって問い掛けた。
その物言いに嫌気が差しているのか、目元が一瞬ピクつくが何も答えないゼロ。
傍らにいるジークにイライラが募っているのがわかったがものともせずに視線を逸らし、コートのフードを被り始めた。
「コートを脱げ」
威圧的に責めるジークは、無理やりゼロのコートを脱がせようとするが、それを振り払うとゼロは自分でコートを脱いだのだった。
スーツ姿のゼロを上から下まで舐め回すような視線で観察する王様。
ゼロも目線を逸らすその一連の動作が生々しく、思わずレイも疑いの目を王様へと向ける。
「ほうほう···この辺りで見る格好じゃないね。報告にあった通りの姿だ、まさかとは思ってたけど、それはスーツだね。君も同じだ」
「はい」
レイも同じ様にコート脱いで、自分に視線を向けさせた。
スーツ姿のレイに王様の目尻にシワがより始め、何かを考え込むように顎に手を当てる。
「やはり君たちは···この世界の人間じゃない?」
「そうだと言ったら? あなたは何なの?」
畳み掛けるように言うゼロ。
相手が王様だろうがものともせず、堂々とした態度で質問を返していた。
あくまでも自分の口から言わせるように誘導させるその技術は、いくつもの修羅場をくぐってきたように感じていたレイだった。
「そうだね。君たちになら言っても差し支えなさそうだ。それに、理解も早そう」
王様は少し前のめりになるようにして、二人に言い放つ。
「僕の名前はアルト。この異世界に転生した、転生者だ」
「アル···ト?」
その名前に違和感を覚えるレイ。
会議室で見た資料に書かれていたのは全く別の名前だったと頭を捻った。
「···前世の記憶はあるんですね? 日本の」
「やっぱり、あなたも日本人だったんだね。顔を見たときからそうだと思ってた。そうだよ、あんな何もできない世界、もう帰りたくもないね」
そう言いきる王様···アルトからは、まったく未練がないとでも言いたげな態度が感じ取れた。
「今はこの国の主さ。僕のスキルでみんなが助かる。みんなが幸せ。この国には僕という存在がなくてはならないものになっているんだ。みんなが言うんだ、王様ってね」
「その、それにしては随分とお若く見えるといいますか。失礼ですがご年齢は···?」
「18歳だよ?」
「本当の年齢だ」
ゼロが会話に割って入る。
すっとぼけるように答えるアルトに我慢できなかったようだった。
「それはこの世界で生きた年齢だ。ここに来る前、本当の歳はいくつだ」
「おい、お前」
「いいんだジーク。はぁ···あんまり答えたくないけど···」
頭を振って項垂れるアルトは、少し間を置くと答える。
「47かな、覚えてる限りは」
「47歳···合わせると、65歳···」
「王様は前の人生で修行を積んできたんだ。再びこの世に舞い戻ってくるってことは凄い力なんだ。バカにするなよ黒服ども」
ジークはそう言うが、ゼロの表情は変わらない。
レイもそうだった。
日本にいた頃の生活の様子を資料で見たが、そこからはここまでの偉業を達成できるほどのカリスマ性を見出だせなかったのだ。
「小さい頃からこの力を持っていたよ。だから僕は、この力でこの世界を良くしようと考えたんだ」
「では···、この街もその得られた力で造り上げたと聞きましたが、最初からその力を使えたということですか?」
「そうだよ、当たり前でしょ? 転生したから赤ちゃんの頃からね? 君もこの異世界に転生したなら神様から貰ったんでしょ? スキル」
さも当たり前のように言うアルトにレイは困惑する。
「俺は、転生はしていません。その''スキル''? っていうんですか? そんな不思議な力も貰っていません」
「そんなバカな! じゃあ何で異世界に来てるんだい? 女神様に会わなかった? ラノベに出てくるような!」
「ラノベ···」
頭を抱えるレイは、その頭の中でチーフに言われた言葉を思い出す。
このアルトという名前に改名した青年は、あの組織の編み出した円環の中にいて、いいように利用されている実験体になっている。
手のひらの上で転がされていることに気付いていないのだ。
人類の進化を促す···、力を持つことでここまで人は変わってしまうとは、ある意味で成功してるというのか。
いや、人としては何も変わっていないのか。
どう答えていいかわからないレイだった。
「じゃあ私たちがここに来た理由を教えてあげる。あなたに一つ聞きたいことがあるだけ」
「聞きたいこと? 何だい?」
ゼロが会話を遮り、切り込んでいく。
ジークとシンディも、次に飛び出す言葉に備える様子だった。
「この城の地下に何があるのか知りたい」
その言葉に、部屋の中の空気が変わる。
ジーク、シンディ、そしてアルトにも緊張が走り、衛兵たちも思わず身構えたのた。
それほどまでにこの地下にある''何か''は、ここにいる人たちにとって重要なようだった。
「···それを知ってどうするんだい?」
「場合によっては対処させてもらう。その為に私たちは来たの。この世界ではあり得ないものだから不測の事態が起こる可能性がある。で、この地下には何があるの?」
アルトはふと立ち上がった。
ソファーから離れ、暖炉の上に飾ってある写真を撫でるのだった。
「僕は、この国を守るために動いてきた。この力を、より良い世界にするために。戦いに溢れていて、誰かが統治しなきゃいけないと思ったんだ。戦いのない世界、安全が保証された生活。この国には最強の防御システムを敷いた」
「質問の答えになってない。この地下には何があるの」
立ち上がってそう尋ね続けるゼロに、レイも立ち上がろうとするがシンディに肩を押さえられ、鋭い目付きで威圧される。
アルトは暖炉から離れ、レイたちが座っているソファーの後ろへと歩き始めた。
「だけどそれは守るためのもの。それとは別に、どんな相手にも負けない絶対的な力が必要だった。平和のため、そのために作ったんだ。説明したときみんな感謝してくれたよ、この国には神がいるって」
「質問に答えて、この地下には何があるって聞いてるの。王様ならちゃんと話聞いて」
「おい」
ジークが腰に備えていたナイフに手を伸ばしながらゼロの前に立ち塞がるジーク。
「随分な物言いじゃねぇか。お前ら一体何なんだ? え? 王様に対して態度ってモンがあるんじゃねーのか?」
「王様?」
ゼロは臆することなく、腕を組んでジークと張り合う。
「それはあなたたちが勝手に言ってるだけでしょう? 戴冠式もない、王位の継承もない。始めての王にしても民意を得ていない。勝手に王様だって言い張ってるだけよ」
「民意だぁ? 民衆から支持を得ていないってか。ここに来るまでに見てこなかったのか? 王様に感謝してる奴が山ほどいたんじゃねーのか?」
「そうね、そういう''人間''は山ほど見たわ。だけど···」
ジークから体を逸らして、アルトと向き合ったゼロ。
その表情には一切迷いがなかった。
「自分にとって都合のいい人物たちからどれだけ支持を得ることが出来たとしても、それが王位に繋がるとは私には思えない」
「お前、何が言いたい?」
その後ろからジークがにらみつけるが、全く相手にせずアルトに向かって言い放つ。
「あなたに王の素質があるようには思えない。人となりじゃなく、そのスキルだか何だかっていう力に魅力を感じているだけ。あなたたちの中にもそういうのがチラホラいるんじゃない?」
ゼロの言葉に、その場が沈黙する。
ジークもシンディも黙り込み、その場にいた衛兵たちに至ってはまわりの他の衛兵がどういう反応をしているのかチラチラと様子を伺っているような仕草をしだしたのだった。
「···お前ら、言えよ。何か言えよ。おい! どうなんだ!!」
「は、はい! 王様のために、この身を捧げる覚悟であります!」
ジークが一人の衛兵に詰め寄ると、衛兵が大きく響く声で背筋を伸ばしてそう言うと、その様子を見ていた衛兵たちも同じ様に姿勢を整えて、直立するのだった。
「···僕は、みんなと一丸になってこの国を作った! 誰が何と言おうと、僕は今、この国の王様なんだ!」
「そうだ!お前らにはわからないだろうよ。過去にどれだけ苦労したか···この国を作ってどれだけの人間が助かったのか」
そう言ってゼロに迫る王様とジーク。
そんな中、今度はレイが立ち上がるのだった。
「王様、失礼。俺からも、この国の過去の事を知らないので、お聞きしたい。獣人族の方々についてです」
レイの言葉に、あれだけ盛り上がっていた室内に沈黙が戻る。
アルトの視線がゼロからレイへと移るのだった。
「この土地は元々、獣人族の皆さんが開拓し、住まわれていたと聞きました。この街の中を見てみても、獣人族の方々の姿がほぼありません。一体どこにいるのか伺いたい」
アルトよりも先にジークが反応する。
何か思い当たる節があるのか一旦目線が下がり、顔が自然とアルトの方へと向く。
するとアルトはレイの側まで歩いてきて、向かい合った。
「彼らは···僕たちのやり方が合わなかったのか、出ていってしまってね」
「···出ていったって?」
ゼロもそのアルトの返答に、目元にシワが寄り、目が鋭くなった。
「何人かは残って一緒に暮らしたんだけど、やはりその人たちも合わなくて···出ていってしまったんだ」
「では、エニージェさんは今どこに?」
その名前にアルトは少し驚くような反応を示した。
レイからその名前が出るとは思わなかったのだろう。
「彼女は、安全な場所で暮らしている」
「安全な···場所?」
レイはその物言いに違和感を感じた。
どこに住んでいるのかと聞いたときに''安全な場所''という言い方を普通はしないからだ。
危険が及ぶことのない安全な場所、というように受け取れば聞こえはいいが、相手によっては''自分以外誰も手を触れることができない場所''というようにも受け取れる。
確保した、という意味なのか。
監禁した、という意味なのか。
まるで犯罪者みたいな言い回しだったが、今の状況ではまだレイには判断できなかった。
「あなた、獣人に関しては誰から聞いたの?」
静かに話を聞いていたシンディだったが、レイにそう問い掛ける。
「郊外に住んでいる、ニーラムさんからです」
「あの女か···!」
名前を聞いた瞬間、ジークが静かに叫んだ。
シンディも怪訝な顔をして考え込んでいると、ジークが傍にやってきて何やら二人話し込んでいる様子だった。
「王様、俺は民意といいますと元々暮らしていた獣人族の皆さんも含まれていると考えています。もしあなたがその···この国の王というのであれば、何故その方々が出ていったのかを詳しく知りたいのです。そうでなければ、ニーラムさんや他の獣人族の方々に説明が出来ません」
レイはアルトにそう尋ねるが、アルトは暖炉に飾ってある写真を見たまま何も話さなかった。
それは何か思い当たることがあるのか、レイは再び尋ねようとするが、ゼロが再びアルトに尋ねる。
「他の獣人たちは? どこへ行ったの? 出てったのはわかった。でもそんな半分追い出すような事をするならその先の移住地も面倒見るのは当然でしょ。で、どこに行ったの? まだあなたからは何も答えを貰ってない」
ゼロは黙り込むアルトに尋ねるが、アルトはため息をつくだけで何も答えない。
煮え切らない態度ばかりとるアルトに詰め寄ろうとするが、ジークが前に立ち塞がり阻まれる。
「それなら侵略と何も変わらないわよ。違うというのなら質問に答えなさい」
ジークの肩越しにそう言うゼロ。
しかしアルトは振り返ることもせず、その様子を見てジークはゼロの肩を押して突き放す。
「質問は終わりだ。王様もお前らと違って忙しいんだよ。お妃選びの真っ最中だしな」
その言葉に意気揚々と振り返って襟を正すアルト。
尚もにらみつけるゼロをよそに済ました顔で答える。
「そうなんだよ、ごめんね。今お妃候補のみんなを待たせているところなんだ。僕はこれで失礼させてもらうよ。後はシンディ、ジーク。まかせるよ」
そう言って数人の衛兵と部屋を出ていこうとするアルトをレイが呼び止めた。
予想外の事にゼロも思わずレイを見て、ジークもシンディもレイに少し警戒する。
「···何だい? 僕は忙しいんだ」
「そのお妃選びって、あなたが始めたんですか?」
「そうだよ。王様の伴侶に相応しい女性を選ばなくちゃいけないんだ。何かおかしいかい?」
「女性を並べて、その中から選ぶという行為が同じ日本人としてわからない感覚だな···と」
そう言うとアルトは部屋の出口の前で立ち止まり、レイに振り返った。
「何が言いたいんだい?」
アルトはレイの言葉に不満があるのか、不機嫌な様子でそう返したが、レイは謝ることなく話を続ける。
「そうですね、警察とかそういうのはナシにして、男として一つアドバイスがあります」
「···それは何だい?」
「女性を''選ぶ''というのは相手に対して大変失礼だと思います。同じ人間です、人形じゃない」
まだピンときていないアルト。
その様子から、アルトはあまり女性経験が無さそうなことが伺えた。
「そういう妻となるような女性は、選ぶものじゃない。巡り会うものです。だからこそ、運命の出会いと言うんだと思います。同じ日本人なら、あなたも理解していると思ったのですが」
レイの言葉にゼロの口元がほんの少し緩んだ。
聞いていたシンディは少し驚くように目が開いて、その場の空気にジークは戸惑うようにアルトやシンディを交互に見るのだった。
この場のアルト一行たちがどのような生活を営んでいたのかはわからないが、それは確かに今まで聞いたことのないような意見という反応だった。
「···ジーク、シンディ。二人の処分は君たちにまかせるよ」
レイに返事をすることなく、アルトは衛兵たちと部屋を後にしていくのだった。
もう何を言われても自分を曲げることはない。
自分の考えこそが正義という態度が行動に出ていた。
持っているその能力も相まって、その考えこそが正しいと周りを無理やり納得させるようになってしまっていた。
「···ってワケだ。おかしな質問も終わりだよ終わり。さてと、お前たちをどうしようか。とりあえず拘束させて今度は色々とこっちから聞かせて貰おうか」
ジークは残っていた衛兵に合図すると、手錠を取り出してゼロとレイの元へ持ってくるのだった。
レイはどうするか迷っていたが、ゼロがおとなしくお縄につく様子にレイも大人しく両手を揃えて差し出すのだった。
「随分と素直じゃねぇか、あん? ま、無理もないけどな」
敵の本拠地のど真ん中、武器も取り上げている。
どう考えてもジーク側に有利な状況なのは明白だった。
ジークの口元に笑みが浮かび、ゼロの手首に手錠を掛けていく
「···あなたも''ニホン人''···なのよね?」
「ええ、まぁ···」
レイにはシンディが手錠を掛けていくが、その際にふとレイにそう尋ねたのだった。
しばらく沈黙が続き、室内には手錠を掛ける金属音だけが聞こえてくる。
シンディの意図が掴めない中、再びレイは話し掛けられた。
「''ケーサツ''って、どういう仕事なの?」
「なんといいますか···、今のあなたのようなことをする仕事ですね」
「フゥン···」
その思惑が読めないまま、ゼロとレイは同じ様な格好で並ばせられるのだった。
「その時計だけはそのままにしてやるよ。ありがたく思いな」
「···そりゃどうも」
ご満悦な様子のジークに、無表情で佇むシンディ。
衛兵たちに囲まれながら、ゼロとレイは謁見室を出ていくのだった。
「さて、勝手にされちゃあ困るから、専用の''客室''に案内してやる。すぐにでもぶっ殺したいところだが···調べてからでも遅くない。感謝しろよ? へっへっへ。連れてけ、''丁重''にな」
ジークがそう言うと、衛兵たちに背中を小突かれて歩かされるゼロとレイ。
大きな謁見室から廊下に出ようとしていた時、一人の衛兵が扉を開けて中へと入ってくる。
「失礼します! こちらの獣人はいかがいたしましょうか」
そう言ってその衛兵が手を引っ張って入ってきたのは、着ていたコートを剥ぎ取られたチップだった。
「そこの二人と共に城へ入ったという報告ですが、いかがいたしましょう?」
「離して! 離してください!」
もがくチップを無理やり押さえ込む衛兵。
ジークもそんなチップに対して蔑むような目線を向けながら近づき、その頭を鷲掴みにする。
「やっぱり油断ならねぇな。残ってるってだけでも厄介なのに···。こいつらと一緒だ、放り込め。なんなら処分しt」
「ちょっと待て!」
割り込むように入り込むレイ。
「あん?」
その言葉にジークは体を動かすことなく、首だけを回して振り返るとレイを睨み付けるのだった。
「その方···そいつは、利用しただけだ。俺が無理やり言いくるめて城に入れるように脅した。だから無関係だ、人質にしては働いてくれたな、はっはっは···」
チップが驚くように目をまんまると開き、レイとゼロに視線を向けるが、二人は一切目を合わせなかった。
チップの頭を締め付けていた手を離し、レイに近づくジーク。
レイの顔を覗き込むが、そのジークに目線も合わせず表情を崩さない。
「···ふんっ、まぁいい」
レイから離れると、ジークは衛兵に指示を出した。
「そいつは放っておけ。どうせ何も知らないし、知る必要もない」
ジークがそう言うと、衛兵はチップの手を離し、城から出ていくように伝えていた。
何から何までわからないチップは、ただ連行されていく二人を見守るしかなく、立ち尽くす。
そして謁見室を振り返るゼロを最後に、その扉が閉じられていくのだった。




