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零の世界  作者: GT
パート1
24/25

パート1 24

 オペレータールームから離れて廊下を進み、フロアの片隅にある部屋へと三人は入っていく。

 中央には長机があり、壁に大きなモニターが吊り下げられているだけのシンプルな作りの一室だった。

 その奥、机の端にチーフが一人立っており、三人が入ってくるなり微笑みながら迎える。

 

「おつかれさま、二人とも。初戦にしては中々にいいセンいってたみたいだけど、どう?手応えは?」

「···まぁ、日頃鍛えてるだけはある」

「でも、まだまだ感覚が掴めない。基本定数?···っていうのもイマイチまだピンと来てないっていうか、よくわからない」


 ゼロとレイの横を通り抜けたデイは、長机の端にあった本を開いてページをめくり始めた。

 チーフが近づくのに合わせて、ゼロとレイもデイの横まで近づき、本を覗く。


「それも後で説明する。レイもゼロと一緒に行くことになる。レイは現地人と親交があるみたいだから都合がいい。ゼロは暴力的すぎ」

「あいつらが話を聞かないからよ」

「お、俺が行く?それは大丈夫なのか?」

「レイのおかげで安全に降り立てる場所ができた。不幸中の幸いよ、そこはコールの手柄ね」


 見やすいように本を少し机の奥へ寄せると、ページを開いていって説明を始めるチーフ。

 入ってきた時とは違い、その場の雰囲気が厳かなものに変わり、淡々と言葉が並んでいく。


「今回また行ってもらうのは、その世界で得体の知れない何かの反応を感知したからなの。これまではあり得なかった何かの···エネルギー原のようなもの。詳しくはこちらのモニターでも確認できなかった」

「詳細に見ることはここでもできないのか···」

「その世界そのものはわかる。でも建物内部の詳しい構造などは映像化できない。だから、こちらで情報を用意して出来るだけサポートする」


 デイは用意していたもう一冊の分厚い本を開き、机に広げる。

 そこには街に堂々とそびえ立つ大きな城の写真が載せられていて、その側には詳しい見取り図が張り付けられていた。

 中は階層が少ないかわりに構造が複雑で、地下の階層には''不明''と書かれた大きな空間があるのだった。


「この城の地下の辺りからそのエネルギー反応があったから、転生者が関わっていることは間違いないと思う」

「ゼロが前に潜入していたけど、何も分からずじまいだったのよね」

「警備が無駄に厳重すぎる。一人じゃ無理」

「ここに、その転生者がいる?」

「このお城は転生者が作ったのよ。貰った能力でね。いる可能性は非常に高い」


 近代的な設備が街に広がっていたが、そこに建てたのはビルでもなく城というのが気になったレイだった。


「この世界の転生者の能力は、自分の想像したものを何でもその場に出現させる能力。創造すると言ったほうがわかりやすいかも。建物や家財だけでなく武器も含めて、イメージできるものなら生命以外なら何でも」


 その能力でここまで大きいものも創造できるというのには驚く。

 この街の雰囲気に合わせたかったのか、はたまた転生者の趣味なのか。


「しかし、一体何を考えてるんだ?城はともかくとして、何も無しにそんな···エネルギー原のようなものを作るなんてこともなさそうだし」

「住民が口々に言っていたのは、''あの城には神がいる''ってやつ。私も城の地下までは調べてないから、そのエネルギー原と関係があるかも」


 ゼロは地下の''不明''と書かれた場所を指差してそう言う。

 転生者の意図がまるで読めなかった。

 そのエネルギー原というのが生活の為の何かしらなのか兵器なのか、何もわからないとデイは説明した。

 

 何はともあれ、そのエネルギー原というのが本来この異世界では創造し得ないオーバーテクノロジーであり、その世界の存続が不安視される事案なのだという。

 本当に得体の知れない何かとしか言いようがなかったのだった。


「とにかく、目標は城の捜索。戦闘はなるべく避けたいけど、期待はしないで」

「敵の本丸だから、今回はしょうがない。でもレイがいるから変わるかも」

「···俺?」

「警察官だから。同じ日本人だし説得できれば儲けもの。でも準備はしておく」


 デイが本を閉じると、チーフも本を閉じて片手に持ち、二人とも会議室の出口へと向かっていく。

 四人は再びオペレーター室へと戻り、地下へと続くエレベーターへ進むのだった。

 それについていく道中で、レイはゼロに尋ねる。


「本当に相手さんと戦うことになるのか?」

「私の経験からすると、100億%そうなる。交渉はするけど、あまり期待はしないほうがいい。特に女が近くにいると···いいとこ見せたいのか大体そうなることが多いの」


 悲しいことだが、少なからずその気持ちはわかってしまうレイだった。

 苦い顔をしながら首を左右に振るレイを見て、ゼロは察したのかため息をつく。

 

「男ってみんなそうなの?転生者はそのパターンが多かったから」

「女の子にカッコいいところを見せたいって気持ちはわからなくもない、悲しいけど。でも、犯罪者たちもそうだけど、それが行き過ぎると間違った方向に進むこともあるから···本人次第としか」


 エレベーターに乗り込んだ際に、チーフが話に入ってくる。


「あの世界の女の子たちは男を判断する基準が根本的に違ってくるの。日本みたいに安全が保障されているとルックスとかに目が行くけど、常に命と隣り合わせになるといかに自分を守ってくれる強さを持ち合わせているかが重要になるから」

「ヒトも生き物。その感覚は本能に組み込まれているから何もおかしなことは無い。異世界なら尚更。この世界でも状況によっては似た現象が起こる」

 

 デイもチーフに続いた。

 それなら女性に囲まれている姿にも納得がいく。

 転生者が女をはべらせている姿もあながち間違ってはおらず、その中で側近を巡る女の争いがあるのだと思うと、レイは少し恐くなった。


「それに女たちもそんな環境だから、戦闘に躊躇がない。容赦なく命を狙ってくるの。だからこっちもやらなきゃ殺られる」


 エレベーターの扉が開き、またモニター室へと続く地下の通路へ歩きだしていく四人。

 そんな時、先へ進んでいくチーフとゼロを尻目にデイがレイを呼び止めるのだった。


「レイ」


 声を掛けると同時にデイは立ち止まり、ロングコートの懐からそれを取り出してレイへと差し出す。

 細く綺麗な手の平には似合わない武骨な印象の武器が、その上で今は大人しく横に寝ている。

 スライドからグリップまで全身が黒光りしていて、その銃口からは冷たい空洞がこちらを覗いていた。

 差し出し続けるデイの手からレイは受け取ると、銃口を向けないように慎重に眺める。


「···使うときが来なきゃいいけど」

「必ず必要になる。使わないにしても、見せるだけで戦況が変わる時もある」


 日頃携帯している回転式の拳銃とは違い、軍隊にも採用されている小型の自動拳銃。

 実弾がすでに装填されていて、いつでも戦闘に入れるようにメンテナンスされているという。

 重量を感じ、冷たい感覚が自分の手の平から伝わってくる。

 レイはそれを自分のスーツの上着へ納めると、再びデイと共に通路を進んでいくのだった。


「じゃあ二人とも早速準備して、デイもね。侵入するから」

「わかったわ。レイ、何か持っていくものがあったら今のうちよ」

「私は転送装置の準備をする。用意が出来たら台座に来て」


 大きなモニター室に戻ると、それぞれ役割はわかっているのかバラバラに動く。

 チーフはいくつもあるモニターの前のパソコンを操作し、ゼロは自分のデスクで二丁の銃を懐から取り出して弾倉を確認していた。

 デイは装置に取り付けられているキーボードを操作しており、電源を入れたのか装置に光のラインが見える。


 レイは持っていた牛乳を飲み干すと、自分の持ち物を確認する。

 胸元にしまった銃はもちろん、元々の服に入っていた持ち物もいつの間にかスーツのポケットに入っていたのだった。

 どういう技術なのかサッパリだったが、携帯電話や財布を持っていてもしょうがないので、ある物をポケットに入れると、他はここに置いていくことにしたのだった。


「···それ必要なの?」


 準備を終えてやってきたゼロがそれを見て呟く。

 レイは再びポケットからそれを取り出すと、頷いてまたしまうのだった。


「もしかしたら役に立つかもしれない。それに、持ってないと落ち着かないんだ」

「そう。失くさないようにだけ気をつけて、スーツに入れておくか持ってないと消滅するから」


 それだけ言うとゼロは装置へと歩いていってしまった。

 大きな音を立て始めた装置、モニターのキーボードを操作していたデイもゼロに気付き、台座に乗るように促していた。


 レイも装置へと向かって歩いていく。

 前とは状況も立場も違い、目的を持って異世界へと侵入する。

 昨日無事だったのは本当に偶然が重なった結果であって、今度は油断すると命を落とすかもしれない。

 逆に命を奪う立場になるのかもしれないと様々な思いが巡る中、レイは装置の台座の上に上がるのだった。


「レイ、最後に伝えておく。この世界と異世界では物理法則が違う。力負けすることはほぼ無い。だけど加減に気をつけて」


 デイがキーボードの操作を一旦止めてそう言う。

 レイにさっきのシミュレーションルームの光景がよみがえるのだった。


「それが···さっき言ってた基本定数ってやつか?」

「そう。こちらの世界のほうが定数が9倍になる。異世界に行くと、現地の人たちと比べて9倍体が頑丈になり、それは力にも反映される」

「こちらの世界の物、たとえば武器とか弾丸の威力も桁外れに強くなる。あなたも見たでしょ?私が撃った銃の弾丸が、レンガの地面をえぐるように突き刺さったの。あんなことこっちではあり得ないから」


 異世界での逃走劇の最中だった。

 確かにゼロの撃った弾丸が地面を砕いたのをレイは見た。

 確かに拳銃にしては威力が高いと思っていたがそういう理由があったとは。

 異次元のルールに戸惑うレイだった。

 思わず自分の懐にある銃に手で触れた。


「だけど、あちらの世界には魔法が存在する。攻撃魔法の場合どれ程の威力があるものが存在するのか全部はわからない。油断しないことね」

「···極力戦いは避けたいですね」

「起動する。二人とも準備して」


 二人の頭上にある円上の機械がクルクルと回り始め、光の輪が浮かび上がってきた。

 するとそこから台座の二人を包み込むように上から光のカーテンが伸びてくる。

 微動だにせず台座の奥に備え付けられている扉を見るゼロと、光の中でまだ落ち着かないレイ。

 扉が開き始めると、レイは一つ深呼吸して心を落ち着かせるのだった。


「二人とも頼むわよ。ゼロ、申請は通ったから、いざとなったら''アレ''を使ってもいいわ」

「わかった」


 近くにやってきたチーフがゼロにそう言うと、それだけで話が通じているのかゼロは短く返事をするだけで動かない。

 隣でわからない会話が繰り広げられていたが、レイは襲ってきたあの感覚にまた苛まれていくのに耐えようと必死だった。


 体が上下に引き伸ばされていくような感覚に包まれて、レイは目の前が真っ白になっていく。

 周りの景色も匂いも音もわからなくなっていき、流れに身を任せるのだった。

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