チームヘラクレス、始動
昆虫型の魔物だって!?
耳を疑う俺をよそに、ジャン王孫殿下は指を振りながら得意気に語り始めた。
「ショックアントっていうんだけどね。そいつら、単体でもかなり危険な魔物なんだ。猛毒の針と強靭な顎を持っていてさ」
ジャンは楽しそうに続ける。
「しかも厄介なのはそこからだよ。奴らは群れで行動する。大群になれば辺りの生き物を食い尽くすって話なんだ」
「――それヤバくね?」
普通に考えれば、リリカの感想が正しい。
だがジャン王孫殿下は違った。
「ぼくね、気になるんだ」
少年の碧い瞳が輝く。
「奴らも群れを統率するためにフェロモンを使ってるはずなんだけど。それと、ぼくのスキル」
ジャンはにやりと笑う。
「どっちが強いのか試してみたくてさ。面白そうだろ?」
「そう?」
……なるほど、フェロモン対決というわけか。
それにショックアントがどんな虫なのかも、この目で見てみたい。
「――リリカはそう思ってないみたいだけど」
ジャン王孫殿下が俺を指差す。
「そこのヘラクレスは乗り気みたいだね」
「え、そうなの? ヘラクレス」
おっとバレたか。
俺も昆虫マニアの端くれだ。虫が絡んでいるとなれば黙ってはいられない!
その時。
「――どうしたですか~?」
寝ぼけ眼をこすりながら、部屋の奥からタマコが顔を出す。
「やあ、タマコ」
「はわっ!? 王孫殿下がどーしてこんな朝早くに~!?」
ジャン王孫殿下の姿を見るなり、タマコの狐耳と尻尾がビクン!と跳ねた。
「あはは、邪魔したね」
ジャンは軽く笑う。
「あと、ぼくのことは好きに呼んでくれていいよ。王孫殿下なんて堅苦しいだろ?」
「そ、そうですかねぇ……?」
タマコは少し戸惑いながらも頷く。
「じゃあ、ジャンくんはわたしたちに何の用ですぅ?」
もきゅっと首をかしげるタマコに、リリカが親指でジャンを指し示した。
「こいつ、昆虫型の魔物が欲しいんだって」
「それでリリカたちの力を借りたいっぽい」
「わ、わたしたちでよければお力になるですけど……」
タマコは少し不安そうに言う。
「虫の魔物、ですかぁ……」
虫嫌いなタマコは指を突き合わせて迷っていた。
そんな空気を吹き飛ばすように、ジャンは指をパチンと鳴らした。
「それじゃあ決まりだね! ホテルの外で待ってるから、準備してきてよ!」
そう言い残して、ジャンはさっさと去っていった。
「……なーんか勝手に決められちゃったね」
「大丈夫、ですかねぇ……?」
リリカとタマコは顔を見合わせ、呆れたように肩をすくめる。
その後、朝食のビュッフェ会場で俺たちは梨香たちとカルラに合流した。
そして事情を話したところ――
「――お前ら、王孫殿下の依頼を勝手に引き受けたのか!?」
梨香が怒声を上げた。
「引き受けたってゆーか、押し付けられたって感じ?」
「なんか受けることになっちゃったですぅ……」
「そうか……っ」
梨香は頭を抱えた。
そこで俺がフォローを入れる。
『リリカたちだって勝手なことをしようとしたわけじゃないさ。それは分かってやってくれ』
「パパがそう言うなら……」
梨香はため息をついた。
「――しかし困りましたね」
ピルクが顎に手を当てて考える。
「ショックアントといえば、一匹でもシルバーランク相当の危険度ですよ。それが大群となると……」
だがカルラはあっけらかんと笑った。
「だが面白い話ではないか! 王孫殿下の遊戯に付き合うなど、並大抵の者では参加も叶うまいぞ!」
『一匹でシルバーランク相当の魔物の大群か。相手に不足はないっ』
ムサシもカルラの懐から大顎を覗かせ、やる気満々だ。
「それって、みんなも協力してくれる的な?」
「当然だリリカ」
梨香が言った。
「我々は戦友であり、家族だからな」
「乗り掛かった船です。最後まで付き合いますよ」
「わらわたちも力を貸すぞ」
「みんな……ありがとうですぅ!」
タマコが目を潤ませる。
それなら――みんなでジャンの願いを叶えてやろうじゃないか。
「そだね、ヘラクレス!」
俺が角を掲げると、リリカが手を重ねた。
「せっかくだから円陣組まない? なんかチームって感じするっしょ!」
「それ、いいですぅ!」
「悪くないな」
「仕方ないですね~」
リリカの提案で、タマコ、梨香、ピルクが順に手を重ねる。
「わらわも混ぜてくれるのだろ?」
「もちろんです、カルラお姉ちゃん!」
カルラも笑いながら手を差し出した。
そして。
「それじゃあ――」
リリカが声を張る。
「チームヘラクレス、レッツゴー!!」
「「「「「おー!!」」」」」
みんなの声が高く響く。
俺も角を高々と掲げた。
……なんだか胸の奥が、少し熱くなる。
『――チームヘラクレスか。悪くないセンスだな、リリカ』
「でしょでしょ~?」
こうして俺たちチームヘラクレスは、ジャン直々の依頼を前に団結を深めたのであった。




