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ジャンの秘密

 フェロモンを操るスキルだって!?


 俺が複眼を白くするそばで、リリカとタマコはポカーンとしている。


「ふぇろもん? 何それ」

「聞いたことないですぅ」


 どうやらこの異世界ではあまり一般的な言葉ではないらしい。


 そんな二人に、ジャン王孫殿下は得意げに指を振った。


「フェロモンっていうのはね、簡単に言えば虫たちの言葉みたいなものなんだ」

「言葉?」

「そう。匂いで意思を伝えるんだよ」


 そう言ってジャン王孫殿下は軽く息を吹きかける。


 すると――ヒラヒラヒラヒラッ!


 温室の奥から、おびただしい数の蝶が舞い寄ってきた。


「うわっ!?」

「すごいですぅ!」


 蝶の群れがジャン王孫殿下の周囲を取り囲む。


「今のは蝶を呼び寄せるフェロモンさ」

「だから蝶々が寄ってきたというわけか」

「不思議ですね……」


 梨香とピルクも感心したように頷いている。


「これでも制御が大変なんだよ」


 ジャン王孫殿下は肩をすくめる。


「ちょっと量を間違えるだけで、虫まみれになっちゃうからね」

「それはちょっと想像したくないですぅ……!」


 虫が苦手なタマコは背筋をゾクッと震わせた。


 そこへ、リリカが手を挙げる。


「でもさー、虫なんか呼び寄せるスキルって何か役に立つの~?」


 ジャン王孫殿下の口元がニヤリと歪んだ。


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたねリリカ。ぼくができるのは蝶を呼び寄せるだけじゃない」


 指を一本立てる。


「蜜蜂を集めたり、逆に害虫を追い払ったり」


 さらにもう一本。


「その気になれば――昆虫型の魔物だって操れる」

「えっ!?」


 リリカが目を丸くする。


 俺も思わず複眼を見開いた。


 昆虫型の魔物……。

 つまり、俺たちが戦ったリオックやオオエンマハンミョウも操れるというのか?


 そんなことを考えていると、ジャン王孫殿下の視線が俺へ向いた。


「……でも」


 少年は腕を組み、首を傾げる。


「一つだけ、おかしいんだ。ヘラクレスだったっけ。そのカブトムシ。ぼくがどんなにフェロモンを浴びせても、全然反応してくれないんだよ」

「ヘラクレスが? そなの?」


 キョトンとするリリカの胸元で、俺は角を上げた。


『確かに少年からは並々ならぬものを感じるが、それくらいだなあ。俺が元人間だからか?』

「何だろねー」


 軽く流すリリカ。


 しかしジャン王孫殿下はそうではなかった。


 その目が、研究者のそれに変わる。


「ちょっと待って。リリカって、そのヘラクレスと話せるの?」

「あ、うん」


 リリカはあっさり答える。


「リリカには動植物の声を聞くスキルがあんの。でもヘラクレスが一番話しやすいかな」

「なるほど……!」


 ジャン王孫殿下の瞳がギラリと光った。


「それはすごく興味深い!」

「もしかするとこの虫、普通の昆虫じゃないのかもしれない!」


 そう言って、俺の角をつかもうと手を伸ばしてくる。


 やめろ。絶対ロクなことにならない。


 俺は慌ててリリカの胸元にしがみついた。


「ちょっとヘラクレス! そんな爪立てたらリリカの服が破けちゃう~!」

「すごい筋力だ……!」


 ジャン王孫殿下の目は完全に研究者モードだった。


「これはぜひ詳しく調べさせてほしいな!」


 研究って、なんか嫌な予感しかしないんだが!?


 ムサシが彼を嫌うのも、なんとなく分かる気がする。


 俺に並々ならぬ執着を見せるジャン王孫殿下だったが、お付きのメイドに耳打ちされると、名残惜しそうに俺を離した。


「――もうこんな時間か。それじゃあぼくは勉強しにいってくるよ。またね!」


 は、はあ。なんだか慌ただしいな。


 ジャン王孫殿下はそのまま歩き去ろうとして――ふと足を止め、くるりと振り返った。


「そうそう」


 少年はにやりと笑う。

「今すぐじゃなくていいからさ。君が死んだときは、国宝級の標本にしてあげるから~!」


 ……まだ諦めていなかったのか。

 そうしてジャン王孫殿下が本当に去っていったのを見届けた俺は、背筋がぞくりと冷えた。


『……なあリリカ。俺はいずれ標本にされてしまうのだろうか?』


 弱音を吐いた俺を、リリカが胸元でぎゅっと包み込んでくれる。


「安心してよヘラクレス。あんたはジャン坊の標本になんて渡さないから」


 柔らかい声で言った。


「ずっと一緒だよ!」

「あ、ああ」


 リリカの豊かな胸に埋もれて、俺は少し恥ずかしくなりながらも、どこか安心する。


 そうだよな。

 俺はリリカたち家族と、これからも一緒にいるんだ。


「――それじゃあ戻ろうかの。クラン、ホテルまで案内してくれ」

「あなたに言われなくてもそのつもりだ、カルラよ」


 近衛隊長クランに案内され、俺たちは王宮を後にした。


 それにしても、目まぐるしい一日だった……。



 翌朝。


 俺は扉を叩く音で目を覚ました。

 コンコン、と規則正しいノックの音だ。


『おいリリカ。誰か来てるぞ』

「むぅ……しょーがないなあ」


 まだ眠そうな声でぼやきながら、リリカはラフな寝間着のまま扉を開ける。


 そこに立っていたのは――


「やあ。昨日の今日でおはようだね」


 満面の笑みを浮かべた、ジャン王孫殿下だった。


「こんな朝早くに何なん? ヘラクレスは渡さないからねっ」


 リリカは俺を胸に押しつけるように抱き寄せる。


 あの、柔らかいけどちょっと苦しい……。


 俺が胸の中で悶々としていると、ジャン王孫殿下は楽しそうに笑った。


「あはは。確かにヘラクレスは魅力的だけど、今日は別の用事なんだ」


 リリカの顔を覗き込みながら、ジャン王孫殿下は声を弾ませる。


「ぼくね、この辺りに住み着いてるっていう昆虫の魔物が欲しいんだ」

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