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エミネスベルンの約束  作者: 深山 観月
第二部 北の魔女編 4章 
126/128

25話

「私が話していたリューベルクが、影の方……!?」

「というか、これまで北の魔女として振る舞っていたのが私ね」

「いや、えっ……? え……!?」


そうして彼女は、今も泣き続けている自分を横目で見ながら。


「臆病で泣き虫な『私』がこうして自分の殻に閉じこもっているから、私が代わって表に出ていたの」


その事実に愕然とするあかり。

これまで接してきた方が影なのか。

いや、そうしてはいけないという決まりはないが。

自分の中の常識が覆されたような気がした。


「とはいえ、この子とあかりが会うのは全く初めてというわけではないわ」

「そうなの……?」

「夢の中で一度、会ったことがあったでしょう? そのときはあやめも一緒だったけれど」

「うん。私たちが最初に会ったときだよね」

「そのときはこの子が表に出ていた。夢の中だから気が大きくなっていたのでしょうね。普段のしがらみから解放されて」


ゲームセンターで遊んだ記憶が蘇る。

楽しげに遊ぶリューベルクの姿が。


「とはいえ、私たちは同じ存在だから記憶とかは全て共有しているの。あぁでも、エアホッケー? あれをしたときは4人必要だったから、一回独立した存在として私も分かれたわね」


『エアホッケーて言って、この上で円盤を打ち合って、相手のゴールに多く入れた方が勝つゲームだよ』

『面白そう! ぜひみんなでやりましょう!』

『でもこれやるなら四人じゃないと』

『大丈夫よ、私が二人になるから!』


そう、だったのか。


ハルバドルから聞いた情報によれば。

影とは、自身が自分ではないと否定したり、抑圧していたりする人格の側面を指すとのこと。

ということは、リューベルクは……。


「強さを、望んでないということ……?」

「元々、影の魔術扱えるオーガルフェルデン家の魔女は、例外なく自分の中に影を抱えている。その中で私は、彼女が強さを拒絶した結果肥大化した、いわば『強さの象徴』としての人格」

「どうしてそんなことに」


何かを守るため。

そのために、誰もが強さを求めている。

あかり自身求めている。

失いたくない。

誰かが傷付くのを見たくない。

そしてその思いは、地位が高くなるにつれて、増していくのが一般的なはず。


「……いい加減自分で答えたらどう?」

「うぅ……」

「このままだと、あかりも困ったままだけれど」


泣いているリューベルクの側に寄って、肩に手を置くあかり。

びくりと震える彼女の体。


「お願い。教えて、リューベルク」

「あかり……」

「私、あなたの力になりたいよ」


震える唇。

何度か開けては閉じを繰り返し、躊躇う様子を見せながらも。

その末に彼女は言葉を紡ぐ。


「……私は、お母様とお姉様たちを殺してしまった。そんなこと、本当はしたくなかったのに。殺してしまうくらいだったら、私は別にこのままでも……」

「その理由って、協会と手を組むのを拒んだからって言ってたよね」


力なく頷いた。

それはただ項垂れたようにも見えたけれど。


「いつの頃からか、私の中で思うようになってしまったの。お母様たちは世界の敵。だから、殺さないといけないって」

「世界の、敵」

「この思いを抱えているのは、私だけじゃなかった。この国のみんなだった。だから、クーデターは成功した。……成功してしまったの」

「……」

「でも、そんなの私にとってはどうでもよかった。亡命でも何でもして、みんなで暮らしていければ。それが私にとっての幸せだったはず。それなのに、『私』はそれを許してくれなかった。それに──」


再び、頬を伝う涙。


「一度そうしてしまったら、今後もそうせざるを得なくなってしまうじゃない。そうして、また大切な人を失って。それが、あかりなのかもしれないのよ……? 私がこの手で、あかりを殺さないといけないかもしれないのよ……?」

「っ……」

「もう、そんなのは嫌なの。耐えられないの。北の魔女とかそういうの、どうでもいいの」


そうして、彼女はあかりの胸に顔を埋めて。


「……助けて。あかり……私、もう……」

「リューベルク……」


「────そうして逃げたところで、事態は好転しない。全てを失ってからでは、取り返しがつかないのよ」

「……わかっているわ」

「これまではなんとかなった。あなたの代わりに私がやれば。でも、そうはいかなくなってしまった。魔法を使いこなせないままでは、この国は。あなたは────」

「わかっているわ!」


そこで初めて、声を荒げた。

だが、それもすぐに。


「わかって、いるけれど……」


その様子からあかりは知る。

彼女は見るべき方向も、進むべき道も本当は理解していることを。

理解していながらも、動けないことを。


そして彼女は、『影』が言う通り、覚悟を抱くための材料を持っている。

世界の敵として、家族を殺してしまったという事実。

それが、全ての世界の敵をこの世から討ち滅ぼすまで行動し続ける材料だ。

揺るがない芯。


『単に命を奪うっていう話じゃないわよ? 相手の主義主張、誇り、信念。そういったこれまでに積み上げてきたもの全てを引っくるめた、『存在そのもの』を否定することができるのかっていう話』


あのときのことねの言葉が脳裏によぎる。

それだけの覚悟を抱くための材料を彼女はすでに。

だが、一方で。

それと比較することで浮き彫りとなる自分の覚悟の理由。

その軟弱さ。


「(私の覚悟ってなんだ……?)」


二人に悟られないように、奥歯を噛みしめる。


「一度あなたは、世界の敵を自分の目で確かめた方がいいわね。どれほどの脅威なのか、その目で」

「……」

「そしてそれは、あかり。あなたもよ」

「教えてリューベルク、私は何をすればいい?」


尋ねると、影はあかりの上着を指差した。


「ポケットの中を探ってみて」

「ポケット……?」


彼女の指示通りに手を入れてみる。

すると、指にひんやりとした小さな物体が触れた。

取り出してみると、それは。


「銃弾!?」


予想外の物に思わず声を上げてしまった。

こんなもの、いつ。

どこで。


「ルクラット・アデンスフィア。彼女が城を訪れた時、ポケットに忍ばせていたみたいね」

「え、ルクラットさんが……?」


『そのまま動かないで。払ってあげるから』


まさか、上着に付着したゴミを払ったあのときか。


「過去の北の魔女である彼女が大々的に力を貸すと、私たちに差し障りがあると考えた。だから、こっそりとそれを入れて置いたのでしょうね」

「でも、これって一体何のために……?」


その瞬間、あかりのポケットの中で。

────銃弾が、微かに光を放った。

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