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エミネスベルンの約束  作者: 深山 観月
第二部 北の魔女編 4章 
122/128

21話

鳴り響くは金属音。

行き交うは赤と青の魔力。

互いの色を奪い合い。

衝突のたび、空気が裂け。

戦場のにおいが、その場に満ちていく。


非常にやりにくい。

それがバルロットの第一の感想だった。

メルルとベルルは常にお互い部屋の対角線上。

同時に仕留められないように立ち回っている。


「(ちょこまかと……)」


舌打ちを飲み込みながら、バルロットは状況を整理する。

強力な範囲攻撃でも使えば違うのだろう。

しかし、狭いこの場所では味方ごと巻き込んでしまうため、避けたいところだ。


「(となれば、あいつらがどこまでできるかだが……)」


そのときだった。

ベルルが放った魔力。

それをここが引き寄せた勢いのまま、メルルへと受け流す。

彼女は魔力を纏い、相殺する準備を始める。

だが。

なつが反発させ、魔力の勢いをさらに加速させる。


「……!」


想定外の速さに準備が間に合わない。

メルルは抵抗を諦め、攻撃を受け入れることにする。

どうせベルルと同期すれば、『食らっていない状態』にできるのだからと。

そして、直撃する魔力。

ここからだった。

煙が晴れた先にいたのは────血塗れのメルルだった。


「あれ……。おかしいな、おかしいな……?」


口から大量の血液を吐き出し。

段々と目から光が消えていく。


「(同期が、できていないだと……!?)」


そこで、なつの足元で光る青い白い魔法陣。


「なっちゃん!」


その声とともに、なつは魔術によってぐいと引き寄せられ。

ここが彼女の体を抱きとめる。

今いた位置には魔力の柱が噴き出して。

轟音が肌を震わせた。


「そっか! そうなんだ! 反発できるのは、『魔術そのもの』もなんだ!」


ベルルが何度も頷きながら笑う。


「じゃあ、────その子を殺しちゃえば安心ってことだよね?」


血塗れのメルルはいつの間にか、怪我をしていない状態に戻っていた。

なつの魔術が途切れた瞬間に、ベルルと同期をしたのだろう。


「そうだね! そうすれば安心だね、メルル!」


メルルが言う。


「そうでしょ? 安心でしょ、ベルル!」


ベルルが言う。

そのやり取りを聞いて、こことなつは戸惑いを浮かべる。


「あ、あれ……!? あっちがメルルさんで、こっちがベルルさんのはずでは……!?」

「なんかおかしい……!」

「おそらく、繰り返し同期し続けて、自分がどっちなのかわからなくなってるんだろう」

「ひ、ひぃ~!」

「可哀想だと思うのなら、もう終わらせてやるぞ」


そうして、バルロットは二人と小声で話し合う。


「覚悟はいいか」


その言葉に、二人は顔を見合わせ頷く。

そして、目を閉じ、お互いの手を固く繋いでから。

双子に向き合った。


「いくぞ!」


その掛け声とともに、三人は部屋の壁を背にしながらメルルとベルルを三角形に取り囲む。

彼女らに挟まれないためだ。

そして、その彼女らが最初に狙うのは、当然、同期の魔術を妨害できるなつから。

メルルは槍を抱えて距離を縮め、ベルルは槍を象る魔力でメルル諸共、円形に周囲を覆う。


「させねえよ!」


バルロットはベルルに斬りかかる。

だが、それを見越していたメルルは、手に持った槍をバルロットへと投げ飛ばした。

剣で防ぐバルロット。

そして、メルルの手にはベルルが持っていた槍が出現する。

魔力と槍の両方を反発させようとなつは手を伸ばした。

瞬間。

メルルの口角がより一層吊り上がる。


「あはは! かかったかかった!」


彼女は宙で身を翻した勢いで、その槍を────ここ目掛けて投げ飛ばした。

そう。

メルルとベルルの狙いは始めからここだったのだ。

先ほどのやりとりで、なつを狙うと思わせて、その裏をかく。

これこそが、彼女たちの狙い。

引き寄せる術しかないここを先に処理する。

確実に相手の数を減らすためにだ。

だが。

急速に迫ってくる槍を見ても、ここは余裕の笑みを浮かべていた。


「……読んでいましたよ!」


彼女に突き刺さる直前で────槍は吹き飛ばされる。


「何!? 何が、どうなって────!?」


ここが行使できるのは、引き寄せる魔術だったはず。

目の前で起きていることが受け止めきれないベルルだったが。

ずぶと、その胸から剣が顔を覗かせる。


「か、はッ……!」

「今だ! やれ!」

「なっちゃん!」


なつは頷きながら、魔術を行使する。

すると。

バルロットと彼女の剣が突き刺さったままのベルル。

二人がなつに引き寄せられていく。

そしてそれは。


「そん、な……ッ!?」


────直線上にいるメルルも巻き込むかたちで。





壁に突き刺さった剣。

バルロットがそれを引き抜くと。

二人の体が床に倒れ込んだ。


「入れ替え……できたんだ……?」


メルルは仰向けでぽつりと呟いた。

すでに息絶えたベルルを抱きかかえて。

霞みゆく意識で思い返すのは。

こことなつが、手を繋いでいた時のこと。


「(あのときに、お互いの魔術を入れ替えて……)」


体はもう動かない。

血の気が引いていき、ひどく寒い。


「わりいな、同時に仕留めるつもりだったんだが」


言葉とは裏腹にバルロットの声調はひどく無機質なものだった。

見下ろす視線も同様で。

そこからは慈悲深さも、憎しみも感じ取れない。

対照的に、こことなつは心配そうな目で彼女を見ていた。


「ううん、大丈夫……。私は、お姉さんだから……。ベルルよりも先に生まれたから、我慢できるの……」

「そうか」

「よかったぁ……。ベルルが、後じゃなくて……」


その言葉は、心の底から安堵しきったものだった。


「あなたも、お姉さんなら。この気持ち、理解できるでしょ……?」

「理解できねえし、するつもりもねえよ。俺なら遺言を聞いてくれと懇願し、油断して近付いてきた相手の喉笛に噛みつくくらいはする。今、お前がそれを狙っているんだとしたら、話は別だけどな」

「あはは……しないよ……。私たちがここに来た目的は、私たちを殺してもらうことだもん……」

「どういう意味だ」

「私たちじゃ、お互いを殺せない……。だから、誰かに殺してもらう必要があった……」

「てめえ、何を考えて……!?」


「────殺してくれて、ありがとうね」


そう言って、メルルは一筋の涙を流し。

その体が光を放ち出す。

やはり裏があったかと、ぎりと歯を食いしばるバルロット。

こことなつの服を掴み、乱暴に部屋の端へと放り投げる。

部屋中を包み込む眩い光。


「くそ……!」


そう吐き捨て、目を閉じた彼女だったが。

いつまで経っても、衝撃は来ない。

爆発でもするのかと思っていたが。

恐る恐る目を開く。

光が収まった先で、彼女の視界に入ってきたのは。


「どうなってやがる」

「よくやってくれました。メルル、ベルル」

「どうしてお前がここにいる……!?」


────死んだはずの魔術教団長ノルヴィスの姿だった。





「だだだ、第二形態っていうことですかぁ!?」

「ここからが、本番……!?」


慌てふためくこことなつ。

だが、バルロットは違和感を覚えていた。

ノルヴィスはこちらに攻撃してくる気配はなく。

何か考え込んでいる様子だった。


「なるほど。『本体』の私はすでに殺害されてしまったのですか。そして、教団本部は壊滅と」

「本体、だと……?」

「やはり、彼女らを本部から離して配置していたのは正解でしたか」

「おい、質問に答えろ……!」


そこでノルヴィスは、視線だけをバルロットに向ける。

ようやくこちらの存在を認識したかのようだ。


「ああ、ご安心を。あなた方に対して敵意はありません。むしろ、感謝と称賛の気持ちで満たされています。北と東の共闘。その第一歩として、これ以上ない素晴らしいものでした」


柔和な笑みを浮かべながら、手を叩く。

その動作の一つ一つが、こちらの神経を逆撫でする。


「そもそも、あなた方をどうにかできる魔力など、今の私にはありません」

「どういう意味だって聞いてんだ」

「あらかじめ、彼女らには、死の直前に肉体と魂を私のものに上書きする魔術を仕掛けていたのです。そして、私の死後、彼女らは私を復活させるために行動してくれた」


慈愛の満ちた目で、自分の手を眺め。


「ですが、本体の私がすでに死んでいることで、完全にとはいかなかったということです。今の私は亡霊のようなものとお考えください」

「これからお前はどうするつもりだ。返答次第では、すぐに地獄へ舞い戻ってもらうことになるが」

「最優先事項は影の城へ向かい、リューベルク様の身に何が起こっているのか。それを確認することでしょう」

「(もっともらしいこと言いやがって……)」


バルロットは喉の奥でひとりごちた。


やはりこの女、信用ならない。

すでに本体の自分が息絶え、教団そのものが消え去っているのもかかわらず。

こちらの神経を逆撫でするような彼女の言動。

むしろ、そうして自分を襲わせることこそが本当の目的ではないかと疑ってしまうほどで。

結局、どうすることもできず。

ただただ、気味の悪さが胸の中で渦巻いていくのを感じる。


────たとえ今ここで斬り伏せたとしても、何も終わらない気がしてならなかった。


そうしてこちらの様子を眺める彼女は。

その反応を楽しむように目を細めて。


「────行きましょう。全てが手遅れになってしまう前に」

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