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エミネスベルンの約束  作者: 深山 観月
第二部 北の魔女編 4章 
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9話

「ではでは~~乾杯っす~~~~!!!」


ころもの掛け声と共に始まった協会視察団の会食。

ずらりと並べられた数々の大皿には、一つにつき、一つの料理が入っている。

立食形式で、みな自由に移動しながら、その大皿から好きな料理を自らの小皿に取り分けて口に運ぶ。

協会のみんなとこうしてわいわいとした雰囲気で食事を取るのはいつぶりだったか。

一年も経っていないのに、遠く昔のようにあかりは感じた。


「あかりお姉ちゃんの日本でのお仲間さんなんだよね」


ミリヤが小皿を片手に声をかけてきた。

彼女とマゴットの潜入がバレた後、あかりの交渉によって何とか2人の参加も了承されたのだった。


「うん、そうだよ。東の魔女連合協会っていう組織に所属しているんだ」

「どういうことをしている組織なんだっけ?」

「人間に危害を加える魔女を取り締まっているんです」


会話に入ってきたのはサヤだった。


「えっと、お姉さんは……」

「はじめまして、ミリヤさん。私は日向サヤといいます」

「サヤさんは、協会の幹部なんだよ。こっちでいう、学院長とか商会長みたいな! 私はサヤさんのサポートが仕事なの!」

「そんなすごい魔女なんだ! は、はじめまして! よろしくお願いします!」

「いえいえ、私はあかりさんに助けてもらってばかりで。お恥ずかしい限りです」

「そうなんですか! やっぱりすごいなぁ、あかりお姉ちゃんは!」

「そうよ。分裂しかけていた私たちのことを、あかりは一つにしてくれたんだから」


次いでまつりも話に入ってくる。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。魔女になった私に居場所を与えてくれたサヤさんたちの力になりたいと思っているから」

「協会のお仕事もかっこいいなぁ! 私も入ってみたいかも!」

「一緒にマゴちゃんを捕まえちゃう?」

「あははっ、なにそれ楽しそうだね!」


そんな会話をしながら、マゴットの方に視線を向ける。

彼女は多種多様な料理に夢中な様子で、一つを食べたら、次の皿へと移っている。

どうやら、全ての料理を味わうつもりのようだ。


「じゃあ、ついに開けちゃうっすか! この『影の国スパークリングワイン』を!」


そんな中、ころもが宣言しながら瓶を掲げる。


「普通のワインと何が違うのだ?」

「どうやら、色が真っ黒らしいっす!」

「……それ以外は?」

「それだけらしいっす!」

「……」


出た。

影の国ご当地シリーズ。

ただ色が黒いだけのやつ。


「だめっすね~司法部門の魔女は。この良さがわからないとは」

「お前、はるな様に失礼だぞ!」


次々に、会食に参加している司法部の魔女たちから抗議の声が上がる。

それを意にも介さず、口笛まで吹いているころもは余裕の表情だった。


「いつも白か黒かでしか物事を考えていないから、見慣れちゃってるんすよ~って、んぎぎ……なかなか開かないっす……!」


歯を食いしばりながら、コルクを引っ張っているがなかなか抜けないようだ。

その振動で揺れている瓶。

あかりはなんだか嫌な予感がした。


「ころもさん! 私、ワインオープナーを探してきますね!」

「私も探してみる……!」

「大丈夫っすよ、ここ、なつ……! もうちょっとっすから……!」

「いけ、ころも。大事なのは呼吸。ひっひっふー、あそれ、ひっひっふー」

「なな、ありがとうっす! ひっひっふー! あそれ! ひっひっふー!! ぬおおおおおお~~~~~!!!! う、生まれるっす~~~~~!!!!!!」


スプォン!


小気味よく放たれたコルクが直線軌道を描き、飛んでいく。

振動によりその速度は相当なものだ。


そして。

目で辿っていた。

行方を全員が。


「あ」


誰かが言った。

その先にいたのは、マゴット。


「ふんふふ~ん♪ 次はこの料理を~~♡ ん~、美味しい! 美味しすぎます!!」


喜びを体全体で表現する彼女は。

奇妙なことに、背中を反っていた。

さらに、もっと奇妙なことに。

その鼻の穴へと。


【1カメ】

「────へブッフォ!?」


【2カメ】

「?!ォフッブヘ────」


【3カメ】


……芸術的なまでにコルクが突き刺さった。





「うう……、こんな体じゃもうお嫁にいけません……」


その場にしゃがみ込み、涙を流すマゴット。

彼女から見て左側の鼻が赤く腫れ上がっている。


「マゴちゃん大丈夫……?」

「大丈夫ですかマゴットさん?」

「……大丈夫?」


ミリヤにこことなつの3人が彼女を心配して取り囲んでいた。

似たような体格の中、泣いているマゴットが一番年長という事実。

それも、あかりよりも年上という。


「大丈夫なように見えますか? これが……」


見えないな、うん。

だが、純真無垢な3人はその返答にひどく動揺し、あわあわとしている。

かわいいなぁもう。


「あかり、あんたまた顔が溶けてるわよ……。失敗した福笑いみたいになってるけど……」

「気にしないで、ニヤけすぎただけだから。多分、体には良いはずだし」

「そ、そうなんだ……」


だいぶ引いてしまっているまつりとサヤを前に、あかりはニヤけ過ぎで溶けてしまった顔のパーツを整える。


「ところで、私がいない間に協会ではなにか変化はあった?」

「天ヶ崎れいによる被害の事後処理もようやく落ち着いてきたところです」

「そっか、それはよかった。……あやめは特に嫌がらせみたいなことはしてきてない?」

「今のところは大丈夫ね。あいつはあいつで、忙しいから。特に今は、南の魔女との同盟の件で」


まつりの言葉に、あかりは方角を冠する最後の魔女について、自分がよく知らないことに気が付いた。

思い返せば、これまであまり話題にも上がってこなかったような。


「南の魔女はどんな魔女なの?」

「一言で言えば、人間と共存している魔女です」

「へ~! 共存かぁ。やっぱり、東西南北で違う感じなんだ」

「その方針は、『悪と決めつけられ、排除された無辜の人間を救うこと』」

「積極的に人間と関わっているんだね」

「無辜の人が悪だと決めつけられて排除される事例はどの時代にだってある。魔女狩りもその一つに過ぎない。だから、自分たちと同じ境遇の人たちを救ってあげることが彼女たちの無念を晴らす方法だと考えているのよ」


話を聞いている分には、人間にとって善良な魔女という感じだが。

ちょっと引っかかる部分がある。

ならばどうしてこれまで、こちらと関わっていなかったのか。


「……もしかして、その『救う』には、排除した人間の命を奪ったりっていうことは含まれてたりする?」

「いえ、彼女たち南の勢力は、あくまでも排除された人間を保護するにとどまっていて、他の人間に危害を加えることはありません」

「そうなんだ。じゃあ、こっちの方針と相容れないわけじゃないし、同盟を結ぶのは簡単なように思えるけど。向こうも世界が終わっちゃったら困るでしょ? そんなに準備が必要なことなの?」

「……聖女の存在がなければね。あいつらは東の勢力だし、元々協会から分裂したという経緯があるから、警戒するのは当然って話」


そこで、その名前が出てくるのか。


「でも、聖女たちの方針も一応こっちと同じで、魔女による人間への被害を拡大させないことでしょ? その手段が過激なだけで。だったら、南の勢力に所属している魔女は殲滅対象から外れてるんじゃないの?」

「分裂当初はそうだったんだけどね。危害を加える魔女に対し、憎しみを抱いている者を引き入れているうちに、徐々に変わってきたのよ。東の勢力と方針が異なる時点で、南の勢力も将来人間に危害を加える、もしくはそれを容認する可能性が否定できない。なら、その不安の種はあらかじめ排除しておくべきだって」

「そんな無茶苦茶な……。それに、もし南の勢力がなくなったら、それまで保護されてた人たちの行き場所はどうなるの……?」

「さあ、そこをどう考えているのかまでは知らないけど、自然淘汰とでも言うつもりなんじゃない? それよりも、自分の魔女に対する憎しみの方を優先しているのよ、あいつらは」


聖女の考えは理解できるが、納得はできない。

南の魔女たちは、ただ排除された人たちを守っているだけ。

それを将来危険になるかもしれないという理由で切り捨てようとするなんて。

やはりおかしいのは聖女側の方だと思った。


「まあ、いずれにせよ南との同盟はあやめに任せましょ。ここで何ができるわけでもないしね」

「はい。私たちが今するべきは、この国の事態の解決に助力することです」

「うん、そうだよね。目の前のことに集中しないとだよね」


あかりは心のわだかまりを洗い流すように、コップの中身を飲み干した。

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