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エミネスベルンの約束  作者: 深山 観月
第二部 北の魔女編 3章 背負うもの
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24話

始めは、一筋の光だった。

ぷつりと今にも切れてしまいそうなほど細い。

それが、窓から床に差し込んで。


何者かによって照らされているのか。

しかし、それは保っていた。

確かな温度を。

手をかざせば、温かさが。

本能に刻まれた、あの温かさが。


徐々にそれは太くなっていき。

窓際に駆け寄ったこの身を照らしゆく。

肌に染み込むその熱と裏腹に、背筋は冷たくなるばかりで。


「なんじゃ、これは……」


見上げたその先で目にした。

この国を包んでいた夜が、溶け落ちていくのを。

その様子はまるで、蕾の中から花が開くのを眺めているかのようにも思えて。


「地上に、浮上した……!?」


教団本部と同様に。

どうしてこんなことになっているのか。

今回の範囲はどこまでなのか。


窓から空へと飛び立ったバームガルト。

頬に触れる白雪の冷たさが、これが現実だと訴えかけてくる。

そうして、見渡せる高さまで到達した先で、彼女はギリと奥歯を噛み締めた。


「こんな、ことが……」


あり得ない。

あり得てはならない。


「国そのものが、地上に浮上したじゃと……!?」





教団本部のみの浮上は、何者かによって意図的に引き起こされた可能性が高い。

それも信じ難いことではあるのだが。

しかし、国そのものが浮上したのであれば。


「リューベルク様の身に危険が及んだという可能性にも繋がってくる……!」

「──ううん、それは違うと思う」


部屋に戻ってきたバームガルトに、声をかけたのはあかりだった。


「だって、今のには魔力を感じたから」

「魔力じゃと?」

「どういうことだ、あかり」

「影の魔法が解除されたんだったら、その魔力は消えていくはず。でも、今の振動には魔力を感じた」

「私に魔力は感じませんでしたが……」


ヴェルミナの言葉にバームガルトとバルロットは頷いた。


「それでも、お主は感じたんじゃな」

「うん。でも、誰の魔力かまではわからなくて……」

「……あかり様は特別なお方です。我々に感じ取れない魔力を感じてもおかしくはありません」


つまりは、元凶がいるということになる。

この規模で。

この事態を。


沈黙が降り積もる中。

喉がごくりと音を立てた。

心臓の鼓動がやけにうるさい。


この国で立て続けに起きている事件の数々。


確実に。

決定的に。

何かが次の段階へと進んだ予感。 


だが、謎は謎のまま増えていき。

途端に、掻きむしりたくなるほどの焦燥に襲われる。


「ヴェルミナ様! ご報告があります!」


部屋に飛び込んできたノクスヴェーレの一人。

よほど急ぎの用件なのだろう。

返答を待たぬまま、彼女は言葉を続けた。

だが、それも当然だった。

広がるばかりだった謎の数々。

それを紐解くことができるかもしれない手がかりがようやくその姿を現したのだから。


「────レイギベルト学院長殺害の容疑者を確保しました!」


電流が走ったように体がびくりと震えた。

開け放たれた窓。

そこから差し込む陽光が、室内を照らしていた。


「容疑者の名前は──」


知りたい。

だが、同時に恐れてもいた。

もしもそれが、見知った者であった場合──。


「ユースティア・ミスリット。魔術学院の教員です……!」


────私は、何を信じればいいのかわからなくなるから。





ミリヤに授業を見学させてくれ、自分に初代北の魔女のことを教えてくれた。

確かに、あのペストマスクは不気味に感じたが。

とても、そんなことをするような人物には。


「レイギベルト学院長の心臓から検知された魔力を照合したところ、彼女のものと一致しました」

「──わしは先に城へ行く!」


報告が終わるのとほぼ同時。

その言葉を残して、バームガルトは窓から外に飛び出した。


何をすればいいのかわからない。

ただ立ち尽くすことしかできなかったその中で。

あかりは自分の服が掴まれているのに気が付いた。


「あかり様……」


泣き腫らした顔。

掠れた声で彼女は縋り付いてくる。

その手はひどく震えていた。


「一体、何が起きているのでしょうか……?」

「スージラメアさん……」

「わたくしたちは一体、どこに向かっているのでしょうか……?」


涙に塗れた彼女の瞳。


「助けて、いただけませんか」


そこに反射する自分の姿を見て。


「魔法使いであるあかり様なら、きっと……!」

「魔法、使い……」


言葉を繰り返す。

途端に、ずしりとした重さが体にのしかかった気がした。


「この国をどうか。どうか……!」


この国を保っているリューベルク。

彼女が扱う影の魔法。

確かにそれは、他の魔女とは一線を画している。


だが、自分はその域まで達していない。

そんなこと、誰に言われるまでもなく、自分が一番よくわかっている。


困っている相手がこちらに助けを求めているのであれば、できうる限りで力になりたいと思う。

けれども、それがここまでの事態となると、今の自分には背負い切る自信がなかった。

泣き崩れるスージラメアを見て、唐突に孤独感が芽生える。


そこで、ふと彼女たちの声が聞きたくなった。

思い返せば、最後に連絡を取ったのは、マーガレットのもとでアルバイトをしていたときか。

彼女たちは今、何をしているのだろうか。


「(サヤさん、みんな────)」





「テーマパークに来たみたいっす! テンション上がるっすね~!」

「ころも、あんたね。私たちは観光に来たんじゃないのよ」

「わかってるっすよ~」


絶対にわかってないと車内でため息をつくまつり。

その隣に座っているサヤは、これまでのことを振り返っていた。


影の国との同盟により、協会の司法部門を誘致することになった。

そのために予定していた影の国への視察の日付は、先方の要望により、大幅に早められた。

理由は、保護したあかりの引き取りだという。

西の魔女らが宣戦布告をしたあの日、あかりは北の勢力圏へと強制的に飛ばされた。

そのとき、サヤは何度もあやめに要望をした。

今すぐに助けに行かせろと。

しかし、影の国は地理を理解している自分たちがまず捜索をすると言い、その時期が早められることはなかった。

北の魔女の体調が優れないといった理由もあった。

いっときはあかりと直接連絡を取れたこともあったが、それもすぐに途絶え。

その後、影の国に辿り着いたと先方から連絡があり、それに基づいての視察の前倒しだった。

視察のメンバーは、自分たちに加え、司法部門の魔女10人程度。

あやめが下した、翡翠きょうかを匿ったサヤに対する処分。

それが、視察に行く彼女たちの補佐だった。

あかりの引き取りが「ついで」というかたちとなっていることに不満を覚えつつ。

この程度で済ませてくれたあやめの温情もまた、感じつつ。

だが。


「にしても、影の国なのに地上に出てきてしまったら、それはもう影の国とは言えないってことっすよね? あれ? じゃあ、私たちはこれからなんて呼べばいいんすかね?」


のんきに首を傾げるころも。


そうだ。

本来影の国は、地上にはないはず。

影の中に沈んでいると聞く。

にもかかわらず、こうして地上へと浮上した。

自分たちを迎えてのことではないことは、この車を運転している影の国の魔女の動揺からしても明らかだった。

何か異常事態が起きていると見て、間違いないだろう。

そうなると、あかりの無事も保証されたものではなくなってしまう。


不安も乗せて、サヤたちの車は国の中心部へと向かう。


「(あかりさん、どうかご無事で────)」


第二部 北の魔女編

 3章 背負うもの 完


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