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斯くして彼は異能となった  作者: 後藤秀之真
殺人アメーバ
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新しい容疑者

会話が多いですが

あと誤字脱字が多いかも知れませんが、時間がある時に修正させていただきます


能登が濃紺の髪を揺らし、懐からUSBメモリを取り出した。

コンビニででも簡単に購入できる、プラスチック製のシンプルな物だ。


「署内で死亡した警察官のデータです。いやぁ映像持ち出すの苦労しました。箝口令も出されてますから」


軽い口調だが、その声色には明らかに疲労が滲んでいた。

見れば、いつもは綺麗にセットされている髪も、何となくではあるが崩れている。


「そンな中でよく入手できたな。監察も混じってただろうに」


「まぁ協力者もいてくれたので、なんとか」


能登の視線に倣い、養老樹を見る若本。

養老樹は能登からUSBメモリを受け取りながら、「あらぁ」と得意げな表情を浮かべる。


「ふふっ、今回みたいなことがありますからねぇ。こっそり見張っておかないと」


「イェース、Spyは大事でス。にしても、《裏》はちゃんと仕事してますデスかー?」


キーボードに指を走らせながら、迫浴は挑戦的な視線を縣へと向けた。

対して縣は苦笑いを浮かべ、小さく息を吐く。


「ちゃんとしてるっつーの。今回の件もまとめ役まで情報行ってるだろうし……ん?」


と、そこで縣が気付く。

智彦が、一同の話に何となくではあるが置いてけぼりになっている様に見えたのだ。


「あー、そうか。八俣には最初から説明する必要があるか」


「説明?……うん、ちょっと流れが解らなかったから、お願いできるかな」


智彦としては、養老樹の下に死体が集まり、それを解剖していること自体に疑問は無かった。

が、能登の言った「署内で死んだ警察官」……つまり、堕悪棲寧苦の悪事に協力していた悪漢の死体が、何故ここに無いのだろう、と。

そして自分以外はそれに対し疑問を抱いていないことに、首を傾げていたのだ。


智彦の言葉に頷く、縣。

いや、縣だけでは無く、智彦を除く全員が頷いた。


「まず、ここみたいな一般の病院で死体が解剖されることは基本的にないんだ」


「だな。こンな感じの司法解剖は、大学病院といった場所で専門医が行う」


なるほどと、若本の言葉から智彦は以前観た覚えのある刑事ドラマの内容を手繰り寄せた。

薄らとではあるが『大学附属病院』とか、そんな感じの看板があったような気がする。


「てことは。えっと、奇怪な事件の死体はここ、せれんの病院に運ばれるってことなのかな」


「そうねぇ。不良刑事さんのお仲間……あの胡散臭い男が、頼んでも無いのに手配してくるのよねぇ」


まぁ必要なことだからよいのだけど、と。

養老樹は軽く笑みを浮かべながら、手元の缶コーヒーをカコンと開けた。


胡散臭い男。

つまりあの『人間の殻に入った何か』の道明堂のことだろうと推測する。

とは言え、今は関係ないだろう、と。

智彦は皆の説明に耳を傾けた。


「で、だ。ここに送られてこない普通の死体が、普通じゃない時があるんだよ」


「例えばそうねぇ……、見づらい部位にゾンビ化する呪いが刻まれてたとしたら……どうなるかしらぁ?」


あー……、と。

その後に起こる惨事を、智彦は何となくではあるが想像できた。

ゾンビ。

つまり、嚙まれたりすれば、その被害者もゾンビとなる。

となれば、その病院は地獄と化すだろう、と。


「まぁそんな悲劇を防ぐために、熾天使会や《裏》はこっそり人員を送ってる、ってことよぉ」


「……そういう所でも、ちゃんと皆を守ってくれてたんだね」


智彦の、心からの賛辞。

養老樹は一瞬動きを止めると、手でパタパタと首筋へ風を送った。

それが照れ隠しだと知っている迫浴はニヤつくが、養老所に睨み返される。


ちなみに。

そのような呪いや瘴気を消し去る為に、聖水といった特殊な洗浄を死体に施す場合があり。

この時の作業員が、熾天使会や《裏》の新人に任されることが多く、手当も出る。

それが『死体洗いのアルバイト』といった都市伝説の原型になっている……と。

縣の説明に、智彦は思わず膝を叩いた。


とりあえずではあるが、一連の流れを理解した智彦。

その頷きを見て、ならば話を続けようと……若本は電子タバコを取り出そうとした手を、戻した。


「ンで、だ。水もない署内で溺死した警察官。明らかに異常だよな?」


「異常ですね。流れからしてここに運ばれる死体じゃないんですか?」


「そう思うよな? だがそこは大人の……いや、組織の事情って奴があンだよ」


白昼堂々。

警察署内で。

警察官が。

何者かに殺された。

普通であれば、あってはならない事件。


「そンため自力で解決しようとしててなぁ……、警察の沽券に関わるって感じでよ」


「はぁ……」


智彦としては、どうもピンとこない。

水の無い場所で溺死するという、常識的にあり得ない事件。

それを、オカルトを交えずに解決しようとすることへの、懐疑。


「……ちなみに可能なんですか? その、建物内で溺死って」


まるで、探偵アニメや刑事作品にあるような、インパクトのある死因。

とは言えそれは、決して現実的ではない。

智彦からの素朴な疑問に、若本と縣は目を彷徨わせた。

一方、能登、養老樹、迫浴の女性陣……と熾天使会二人の守護天使すら「うーん」と思慮に耽る。


「窒息ならわかるのだけれどもぉ、溺死、なのよねぇ」


「For example……洗面器に水をためてヘッドを突っ込ませる、トカ?」


「あー、実際見て貰った方がいいかも知れません。 さっきのメモリに映像が残ってるので」


能登の言葉に反応し、迫浴がUSBメモリの中身から動画ファイルを再生した。

液晶パネルに鮮明に映し出されたのは、件の事件のあった警察署内部の防犯カメラの映像だ。

場所は警察の窓口らしく、多くの住民に混ざり警察官が忙し気に行き来している。


「14:12あたりからです」と、能登。

動画がスキップされると、堕悪棲寧苦の仲間らしき……筋肉質な男性二人の警察官が、窓口の女性と談話している場面だ。


「名前は右崎と左倉。家を調べた結果、半グレ集団と繋がっている証拠が残ってました」

「おー、出てきたか。ンまぁ、上の連中がそれを公にするかどうか、だな」


「こいつ等が、野口の脚を……」


殺気を乗せた、縣の呟き。

だが映像の二人の末路を知っている為、その呪詛は力を持たずに消えていく。


警察署内の喧々囂々とした騒めき。

その中に、小さいうめき声が混ざりはじめた。


『……うぼぁ? んぼぉ!』

『ぶががが! いびば!』


突如苦しみだす、右崎、左倉と呼ばれた警察官。

周りは何事かと、二人から距離をとる。


『ぼはっ! いぎ! いびが! ぶぼぼぼっ!』

『あばあべ! ふぶえぇ! んぼぉ!』


涙を浮かべ、床をのたうちまわる二人。

他の警察官がどうにか助けようと近付くも、どうにもならない。


時間としては1分程。

徐々に動きが鈍くなっていった二人はやがて動かなくなり……。


『うわっ!』

『なにこれ! 水⁉』


ゴポリ、と。

骸となった二人の口と鼻から大量の水が溢れ、床の上に大きな水たまりを作ったところで……映像が、止められた。




「……これ、普通の捜査で解決できるんですか?」


無表情の智彦が放つ言葉に、若本と能登が困ったように唸る。

一方、縣といった裏関係も、流れた映像に対して同じように唸りだした。


「乾性溺死とは違う、明らかに胃の大きさ以上の水量ねぇ。舞子、あっちの司法解剖の結果は?」


「やはり溺死、でス。ちゃんと水性肺気腫……マジでストレンジでスよ!」


「水の怪異と思って《裏》のデータバンクを漁ったが、事例がねぇな。なんなんだこれ……」


映像が早戻しされ、再び同じ場面が再生される。

死んだ警察官に何者かが介入したようにも見えないし、霊といった存在も見えない。



だったら。

もしかしたら。

前々から体の中に潜んでいたのでは……?

そんな智彦の想像に、若本の声が被った。


「なぁ、姫さン。アメーバって保水性持ってたりするか?」


「あらぁ? 残念ながら持ってますわぁ。……不良刑事さんは、これも殺人アメーバの仕業と思ってるわけですねぇ?」


「流れとしては違和感がねぇからな」


死んだ警察官は、殺人アメーバにて喰い殺された半グレ組織の仲間だ。

殺人アメーバが次の獲物として定めることは、おかしくない。


もし、殺人アメーバが水を溜め込めるのならば。

あらかじめ被害者の体内に潜伏し、空気の通り道を防いだのではないだろうか。

智彦と同じく、若本もその可能性へ辿り着いたようだ。


「うーわ、だとしたらえげつねぇな。殺し方のバリエーションまで揃えてやがる」


「んー、Doですかネ。私には、死体をInsult……辱めてる気がするでスよ」


映像の二人の死に様は悲惨だが、見ようによっては……迫浴の言う通りにも智彦は思えた。

見開いた目、だらりと伸びた舌、鼻と口からちょろちょろと流れる、水。

生前の彼らを知ってる人が見れば、その醜い死に顔が最後の最後に記憶に刻まれ、今までのイメージを塗りつぶしてしまうだろう、と。



「強い恨みを感じるな。ンで、能登。仏さんは見つかったか?」


低くなった若本の声が、響いた。


「……はい。スクラップヤードを捜査した結果、五つの遺体が出てきました」


顔を歪めた能登がファイル名を告げると、迫浴がの指がキーボードの上を再び走る。

表示されたのは、男性二人と女性二人の計五人の顔写真。

それぞれに名前や年齢も添付されている。


「詳しくはまだですが、一番古い死体で、半年前程。男性は激しい暴行の痕跡、女性には、その……」


「あぁ、それ以上はいい。ったく、殺されて当然の連中だったって訳か」


一同の眉間に、皺が寄る。

埋められていた男性は、恐らくリンチにて命を奪われ、埋められた。

そして女性は……。


「あの時動いてなけりゃ、堂前も同じ目に合っていたかもな」


「……だね」


縣に同意する、智彦。

堕悪棲寧苦……葛山達は車を使って女性を攫い、あのスクラップヤードで酷い事をしていたのだろう。

殺されはせずとも、傷つけられた人々は多いはずだ。


「葛山って奴の死体はいまだ見つかっていない。なら、生きている可能性が高いな」


「手配をかけますか?」


「しなきゃならンだろうよ。命の危険がある以上、保護しなきゃあならン」


仕事柄、悪人であっても守られるべきだ、と。

若本が面倒そうに……そして、憎々し気に息を吐いた。


智彦は内心モヤッとしたが、それを密かに押し込める。

《裏》と熾天使会に続き、警察組織……それも若本達の立ち位置を、理解し始めているからだ。

だが、それでも譲れないモノも、ある。


「こちらが先に見つけたら、ちょっと撫でてもいいですか?」


知り合って間もないが……友人である野口の将来を奪ったことへの、報復。

無表情のまま尋ねる智彦の横で、縣も「いいだろう?」と犬歯をむき出しにした。

若本と能登も慣れたもので、苦笑いを浮かべ、頷く。


「殺すなよ? ……だがまぁ、もう死んでる可能性が高いンだがなぁ」


「そうとう恨みを買ってるみたいですからねー。……で、若本さん。今回はどっちのスタンスで行きますか?」


「もちろン、オカルトだ。恨み神は関係無し。生者……生きてる人間が、殺人アメーバ使って奴らに復讐している前提で捜査する」


「わかりました。道明堂にもそう伝えておきます!」


一足先にと、部屋から出て行く能登を視界に収めながら、若本はネクタイを緩めた。

どこか遠くを見るような、目。

職務に励もうと意気込んでいた表情は、次第にやるせなさを携えていく。


「あらぁ? 不良刑事さんもすっかりこっち側の考え方ができる様になりましたわねぇ」


「だなぁ。霊が復讐するなんてあり得ねぇって激高してた頃が懐かしいぜ」


二人からの揶揄いに、フンと鼻を鳴らす若本。

その顔に不快感は、無い。


「俺は真実が知りたいだけだ。縣、姫さん、奴さんの死体を見つけたら教えてくれ」


通常であれば、死体が見つかれば警察へ連絡がいく。

しかしながら今回は、堕悪棲寧苦のリーダー……葛山に関しては、もし死んでいるのならば、普通ではない凄惨な死体で見つかる可能性が高い。

同意する、縣と養老樹。

横では今回の件のレポートに纏めるために、迫浴が再び映像を最初から流し始めた。


「はぁ……殺人アメーバ側の容疑者の割り出しが難儀しそうだな、今回は」


と、そこで。

若本が智彦へ目を向ける。


「八俣。お前の友人の野口って奴。そいつが殺人アメーバを使っていた可能性は?」


「無い、と思います。根拠はないんですが」


「そうか。お前がそう判断するなら、間違いないだろうな」


よくわからない評価を受け、「えぇ……」と顔を歪めてしまう智彦。

横で笑い声をあげる縣だが、次の瞬間、その声が驚愕に変わった。


「……迫浴! 一時停止してくれ!」

「What⁉ なんでスか、縣⁉」


縣の視線の先には、先程の映像が流されている液晶パネル。

迫浴がマウスをクリックすると、その映像が止まった。


何事かと、一同が影響パネルを見つめる中、智彦もそこに映し出された存在に、気付く。



「冬馬さん……」



そう。

映像内、二人の警察官が苦しみだす直前に。

野口の彼女である、冬馬の。

見切れてはいるが……金色の髪を揺らし出口に向かう姿が、映し出されていた。

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― 新着の感想 ―
水の無い場所で溺死をオカルトを交えずに解決しようとしたら変な結論になりそうw 堂前かと思ったら冬馬?
 冬馬さんなんか悪い空気がまとわりついていたな。  智彦でも本人のものか外的由来のものか判らないみたいだったが。  一番怪しい堂前が何かしたのだろうか。  それとも「黒幕」と敵対するポジションなのだろ…
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