↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は滅亡したのに、俺の視界だけゲームUIが起動しています  作者: Laz
第1章:『目覚めと青い光』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/9

第8話:『張り詰めた糸』





「す、すごいぞ一条くん! やった、私たちは助かったんだ!」



遠藤がバールを取り落とし、ペタペタと革靴を鳴らして駆け寄ってきた。



その顔には安堵と、それ以上に――信じられないものを見たあとの、どこか値踏みするようなギラついた光が混ざっていた。



「これで食料も水も手に入った! ここを拠点に、警察の救助を待とう! 私が元営業部長として、物資の管理と配給の計画を立ててやるから――」



湊は、冷凍ストッカーに背中を預けたまま、ずるずると床に腰を落とした。



肩で激しく息をする。肺が焼けるように熱い。



レベルアップで傷やスタミナが数値上は回復したとはいえ、さっきまで巨大な肉の塊が自爆し、強酸が頭上を飛び交っていたのだ。神経のすり減り方まではシステムもリセットしてくれない。全身の筋肉が小刻みに強張っていた。



「……一条くん?」



立ち止まった遠藤を見上げながら、湊は乾いた唇の端をわずかに引きつらせた。



「……遠藤さん」



「な、なんだい?」



「頼むから、ペラペラ喋らないでくれ……頭に響く」



悪態をつく声すら掠れていた。



助かった実感よりも、耳鳴りと、鼻腔の奥にこびりついた腐敗と酸の臭いで吐き気がぶり返しそうだった。



だが、目の前の男は、湊がへたり込んだのを見て少しだけ表情に余裕を取り戻している。



昨日の世界なら、自分のような派遣の若造なんて目にも留めなかっただろう中堅商社の部長。その男が、怪物の死骸が散らばる店内で、早くも「仕切る側」に回ろうと舌なめずりをしている。



その浅ましさが、恐怖や疲労と同じくらい、じっとりと胃を重くさせた。



(……ここでこいつに舐められたら、次は寝首を掻かれる)



湊は奥歯を噛み締め、震えそうになる膝に力を込めて、ゆっくりと立ち上がった。



煤けた金属バットを杖のように突き、わざと感情を押し殺した低い声で言った。



「あんた、俺が戦ってる間、奥で何してた?」



「え? い、いや、私は背後をだな……」



「何もしてないだろ。……責めてるわけじゃない。普通の人間なら動けないのは当たり前だ。俺だって腰が抜けそうだったよ」



湊は小さく自嘲するように息を吐いた。



冷酷な支配者ぶる気なんてない。ただ、対等でもないのに上から指図される筋合いはどこにもなかった。



「でもな、何もしなかったやつに『物資の管理』なんて任せられると思うか? 誰が命張ってここを片付けたと思ってんだ」



「な、何を……! 私は君のためを思ってだな、社会経験のある人間が組織をまとめた方が効率的だと――」



「悪いけど、ここはもう会社じゃないんだ。……生き残りたかったら、まずそのドアの隙間に外のゴミ箱を引きずってきて塞いでくれ。隙間には雑誌を詰めろ。手伝う気がないなら、申し訳ないけど自分の車を探しに行ってくれ。俺はあんたの部下じゃないし、ボランティアでもない」



淡々と言いながら、湊はバットを肩に担ぎ直した。



荒っぽく怒鳴るよりも、疲れ切った目で静かに言われたことが効いたのか、遠藤は顔を赤くしたり青くしたりしながら、言葉を喉に詰まらせた。



「……わ、分かったよ。やればいいんだろ、やれば」



遠藤は恨めしそうに目を逸らすと、ブツブツと文句を呟きながら入り口のバリケード作業へと向かった。



その背中を見送りながら、湊はふう、と深く息を吐き出した。



心臓がまだ嫌な音を立てている。強く出たものの、もし遠藤が逆上してバールで殴りかかってきていたら、自分は本当に咄嗟に反応できただろうか。そんな冷や汗が背筋を伝う。



(……疲れるな、人間相手の方がよっぽど)



湊はレジの残骸を跨ぎ、店舗の奥にある「関係者以外立ち入り禁止」のドアへ向かった。



視界の端で、システムが淡い光を灯している。




【節目レベル到達ボーナス:ステータスポイント+20、スキルポイント(SP)+100】


【メインクエスト[フェーズ1:セーフエリアの確保]完了】

【店舗内の脅威が排除されました。拠点の簡易防衛機能を解放します】




「簡易防衛機能……?」



説明文を読むと、店舗周辺の感染者の侵入確率を少し下げ、店内の食品の劣化を止めるフィールドが張られたらしい。



ゲーム的なご都合主義に思わず苦笑いが漏れるが、背に腹は代えられない。腐らない食料があるだけで、明日を生き延びられる確率は跳ね上がる。



さらに、事務所の中に『高純度エナジードリンク』があるという表示。



湊はバールをドアの隙間に差し込み、体重をかけてこじ開けた。



中は散らかった四畳半ほどの空間だった。デスクの上のメモには「八王子方面の自衛隊が甲州街道で全滅した」「空が割れた」という不穏な文字が走り書きされている。



(自衛隊が全滅……? 空が割れたって、なんだよそれ……映画かよ)



背筋に冷たいものが走るのを誤魔化すように、デスクの引き出しから小さな鍵を見つけ、足元の耐火金庫を開けた。



札束の山の上に、青白く発光する一本のガラス瓶。




【高純度エナジードリンク(試作型・Ver.0.4)】


効果:MPを即座に100%回復。さらに10分間、思考速度が2倍に上昇する。

備考:『常人が飲むと心臓が爆発するため廃棄指定されたいわくつきの逸品。君なら飲めるよね?』




「……心臓爆発って、冗談キツすぎんだろ」



湊は思わず声に出してツッコミを入れた。



システムのテキストは、時々悪趣味な悪ふざけが混ざっている。手にとった瓶はかすかに温かく、飲むのを躊躇わせるような怪しい光を放っていた。



その時だった。



事務所の外――店舗の入り口の方から、硬質な金属音が響いた。



カシャリ……



感染者の足音ではない。



「ひっ……!?」という遠藤の短い悲鳴と、それに続く荒々しい男の声。



「動くな。騒いだら穴だらけにすんぞ」



湊の指先がピクリと止まった。



静かに事務所のドアに額を寄せ、隙間から店内を伺う。



そこには、バリケードを押しのけて入ってきた、迷彩服を着た二人組の男たちが立っていた。



手には、黒く鈍い光を放つ本物の自動小銃アサルトライフル。銃口が、床にへたり込む遠藤の眉間にピタリと突きつけられていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。