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「一ノ瀬」


布団に閉じこもっていると、

優しい声が降ってくる。


「そろそろ支度しないと、チェックアウト」


……私、どうやって寝たっけ。


メイク落として、


そのあと……


そこまで考えて、止まる。


「佐藤くんみた!?」


「なにを!?」


「顔!!」


「俺の!?一ノ瀬の!?」


「私の!!」


「さっき目合ってたよね!?」


そうだ。


普通に視線を合わせて会話してた。


寝起きぼさぼさすっぴんを、がっつり見られた。


しかも今。


自覚したばかりで。


好きって分かったばっかりで。


この状態。


「切腹するしか……」


「なんで!?」


佐藤くんが、ずっと本気で驚いている。


その反応がだんだん面白くなってきて


気づけば、笑いがこぼれていた。


「一ノ瀬が壊れた…俺のせいだ…」


「チェックアウトまで後どのくらい?」


「…30分くらい」


歯磨きして、顔洗って、


化粧品は持ってないから仕方ないし、


アイロンはした方がいいか。


「アイロンあった?」


「髪?あったよ」


「佐藤くんも使うよね」


「いや、ワックスないからこのままで」


そっか。


あのふわふわは、ワックスがないと出来ないのか。


ワックスしてない方が、ふわふわなのかな。


……なんで気になるんだろ。


「……」


「…ん?なんで見てんの」


「髪、触ってみていい?」


「…いいけど、本当どうしたの」


布団から抜け出して、佐藤くんに近づく。


座ったままだと、少し触りにくい。


膝立ちになる。


思ったより、距離が近い。


一瞬だけ止まる。


でも、そのまま手を伸ばす。


指先が髪に触れる。


まだ少し湿ってる。


ふわふわ、ではないかな。


どちらかというとしっかりめだ。


目を閉じて、大人しくなる佐藤くん。


おっきいわんちゃんみたいだ。


わんちゃんは、どこ撫でるのがいいんだっけ。


顎?


……人間に顎は違う気がする。


耳とか、良いって聞いた気がする。


人間も耳ツボとかあるし。


ゆっくり手を動かして、耳に近づく。


そっと触れると、ぴくっと揺れる。


そのまま、


ふにふにとマッサージする。


だんだん赤くなってきた気がする。


血流が良くなったのかな。


「……一ノ瀬、支度」


少し低い声。


「あ、うん、洗面台使うね」


洗面台の鏡に、私がうつる。


顔が赤い気がする。


枕の跡、って感じではない。


髪を撫でて、


耳に触れた感触を思い出す。



一瞬、思考が止まる。


え!?


私、何して…!


「うわぁ……」


思わずしゃがみ込む。


チェックアウトまで


あと25分。


アイロンは、無理そうだ。




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