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規則的な水の音がする。
「んん…んー…っ」
目覚めかけの身体を伸ばす。
「一ノ瀬起きた?」
「ん、おは…よ…?」
「おはよ、寝ぼけてる?」
目を開けるとタオルで髪を拭く佐藤くん。
佐藤、くん…?
「佐藤くん…?」
「佐藤です」
そう言って、笑う佐藤くん。
「あー…一ノ瀬も酔ってた?」
酔ってた。
酔い…
「あ」
やっと頭が回り出す。
「覚えてない?」
「ううん、寝ぼけてた」
「……昨日さ、ごめ「ありがとう」
「「……え?」」
「いや、え?なんでありがとう?」
「だって、助けてくれたでしょ」
新人歓迎会。
上司に目をつけられグラスを断れずにいた。
佐藤くんが庇ってくれなければ潰れてたのは私だ。
「いや、でも…」
「ありがとう」
「……どういたしまして?」
「ふふ、なにそれ
とりあえず服着たら?」
「お、おう」
下着1枚で頭にバスタオルを乗せて話す佐藤くん。
さっきの水の音はきっとシャワーだ。
ぼーっと座っていると
ぎしっ、とベッドが沈む。
服を着た佐藤くんが向いに座る。
正座で。
意味がわからなくて見つめていると
息を深く吸う佐藤くん。
「あ、あの、さ」
「うん?」
「本当にごめん!」
「……うん?」
佐藤くんは何を謝ってるんだろう。
そういえばさっきも謝ってた気がする。
謝るようなこと……
「いや、あの、なかったことにとかそういうことじゃなくて、」
なかったこと…?
ますますわからない。
「……俺、記憶なくて」
「………あ、なるほど」
「だから、その…」
「どこまで覚えてる?」
「部長の酒奪ったとこ…」
思わぬパワーワードについ笑ってしまう。
「佐藤くん酔い潰れちゃって、
私のせいだから私が送るって言ったんだけどおうちも聞ける感じじゃなくて」
「面目ない…」
「私実家だから連れて帰るわけにも行かず」
「あー…その、」
言いづらいのか、視線が忙しない。
「あ、何もないよ?佐藤くんは勝手に脱いだ」
「あ、うん、だよね。いや、そうじゃなくて…」
「うん?なあに」
「……嫌いになった?」
嫌いに、
佐藤くんを?
「なんで?」
「何もなかったとしても、こういうの良くないでしょ」
「んー…不可抗力?」
私のせいで潰れてしまった佐藤くんを
私が介抱するのは当然だし
家がわからないならホテルしかない。
仕方のない出来事だ。
「……とりあえず、恋人でもない男とこういうとこ来ないで」
「え」
「男なんてその辺放っといていいから
一ノ瀬が責任感じることじゃないし」
「それはちょっと良心が…」
「良心より一ノ瀬のが大事だろ」
私の心配してくれてるんだ。
でも、私だって誰でも介抱するわけじゃない。
佐藤くんだった、から………
佐藤くんだったから…?
「一ノ瀬!?」
思わず布団を頭までかぶる。
心臓の音がうるさい。
さっきの言葉が、頭の中で繰り返される。
佐藤くんだったから。
なにもないだろうとは思ってた。
でも、少しだけ。
なにかあってもいいって、思った。
そこでやっと、引っかかる。
……ああ。
そうか。
好き、なんだ。
「え、一ノ瀬?怒ってる?」
「お、おこってない…」
「なんで布団…?」
「ちょっと、のっぴきならない事情が…」
「ええ…?」




