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いつも通りの時間に出社し、

パソコンを立ち上げメールを開く。


「おはよ」


隣から声がして、


「おはよう」


と返す。


それだけ。

いつも通り。


業務は淡々と進む。


資料を確認して入力して

分からないところは聞いて、また進める。


「一ノ瀬、ちょっといい?」


「いいよ」


椅子を少し寄せて画面を一緒に見る。

距離は近いけど、触れない。


これが普通だと思う。


「ここさ」


佐藤くんの指が動く。


エレベーターの中を思い出す。


あれは仕方なかっただけだと思う。


「これでいい?」


「うん、大丈夫」


顔を上げると、やっぱり距離は同じまま。


「ありがと」


「いえいえ」


軽く笑って、それで終わる。


ちゃんとしてる。

誰に対しても同じで、距離も崩さない。


何も変わってない。


午後もキーボードの音を聞きながら画面を見ている。


「それ、終わりそう?」


「あとちょっと」


「そっか」


短いやり取り。


それだけ。


あれは特別な状況だったと思う。

暗くて、見えなくて、怖かったから。


あれはあれで終わり。


そうやってちゃんと理解してる。


でも、ふと手が止まる。


キーボードの上で指が少し浮く。


あのときは、平気だった。


触れるのは苦手なはずなのに

あの距離も、嫌じゃなかった。


視線を横に向けると、

佐藤くんはいつも通り画面を見ている。


何も変わらない。


距離も、態度も。


分かってるのに、少しだけ引っかかる。


理由は分からない。


「これ、送っといた」


ふいに声がかかる。


「ありがとう」


いつも通り返す。


仕事は進んで、時間も過ぎていく。


何も問題はない。


それでも、ほんの少しだけ残っている。


消えないままのなにかをそのままにして

また画面に視線を戻した。




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