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案の定残業です。
はい、ありがとうございます。
自分が悪いんですけどね。
正真正銘、自業自得です。
「腹減ったぁー…」
現在時刻19:34。
全然終わりません。
そりゃそうよ。
隣にしか意識なかったもん。
唐揚げとか食いたいなぁ。
もう帰ろうかな。
「お疲れ様」
「うぇい!?」
無人のはずのオフィスで女の人の声。
心なしか一ノ瀬に似てる。
ゆっくり振り向く。
……あ、一ノ瀬だ。
え、一ノ瀬だよな?
俺の妄想が作り出した幻覚とかじゃないよな?
「…今日、佐藤くん全然集中してなかったでしょ」
……バレてる。
「まだ終わってないんじゃないかと思って」
くそださいじゃん俺。
好きな子に仕事できないのバレてるじゃん。
つらい。
もう帰ろうかな…
「だからお弁当買ってきた」
神がいた。
まだ帰らない。
お仕事頑張らせていただきます。
なんなら泊まります。
「佐藤くん?」
「お、おん、ありがと」
「ふふ、なにそれ」
一ノ瀬が笑ってる。
普通だ。
あれ、避けてなくね?
避けてたら弁当買わないよな。
……もしかして、
考えが少しだけ前に進む。
避けられてるの、勘違い?
「唐揚げとね、カツ丼どっちがいい?」
「……唐揚げ」
以心伝心じゃん。
もう両思いじゃん。
……いや、それは違うか。
でも、
ちょっとだけ期待する。
「唐揚げね、はい」
差し出される弁当。
指先が、触れる。
次の瞬間、
びくっと手を離す一ノ瀬。
空気が、ほんの少しだけ変わる。
……避けられてますがな。
あからさまですがな。
さっきの期待、全部回収された。
いやもうどっちなの??
よくわかんなくなってきたぞ…
ただひとつわかるのは、
このままじゃだめだ。
なにか、
進展するようななにかを。
「あの、さ、一ノ瀬」
「…ん?」
「あー…えと…」
勢いで話しかけたものの、
何も考えてなかった。
どうしよう。
えと、
……だめだ。
首傾げて待ってる一ノ瀬可愛いとか、
無人のオフィスで2人きりとか、
結構ちゃんと好きかもとか、
絶対違う。
全部、今じゃない。
今そんな話したら、余計嫌われる。
「あー……寒くね?」
最悪だ。
つまんねえ男大賞受賞。
意味わかんねえ。
なんなら今日ちょっと暑いしな。
「……そうだね?」
一ノ瀬が、少しだけ困った顔で笑う。
ほらぁ。
やっぱり困ってるじゃん。
ばかだろ俺。
何のために話しかけたんだよ。
「……佐藤くん、目とじて」
…………え
なに。
キス?
俺キス待ちするの?
じゃなきゃケーキとか出てくる?
俺誕生日じゃないよ?
やっぱキス?
え、一ノ瀬から?
急過ぎん?
「はやく」
「あ、はい」
待て待て待て。
落ち着け。
落ち着け、俺。
初キスが鼻息荒いとか笑えねえから。
まず呼吸を整えて……
え、場所大丈夫?
ここ職場だよ?
……逆にえろいか。
あり寄りのありだな。
何考えてんだ俺。
一ノ瀬の、少し冷たい指が頬に触れる。
え、ガチじゃん。
距離、近くね?
これ完全にキス前の距離じゃん。
ちょっと待て、心の準備が
「ん、もういいよ」
「え」
「まつ毛、ついてた」
ですよねぇ。
キスなわけないだろ。
調子乗んな佐藤。
「あ、ありがと、あ、弁当、いくら?」
動揺し過ぎてカタコトになった。
きっしょ。
我ながらきしょすぎる。
「いいよ、昼間のお礼」
「いやいや、金額全然違うじゃん」
「んー……じゃあ、また何か奢って」
はぁ〜〜〜?
可愛過ぎんか?
こんなん脈ありやん。
……いやでも、
距離感おかしくない?
近くない?
あれ、これ普通?
いや普通じゃないだろ。
魔性?
一ノ瀬ってサキュバスかなんかなの?
悪くないな。
むしろ全然ありだな。
……きっしょ。
こういうとこが嫌われる要因では?




