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キーボードを打つ手が止まる。
「……はぁ」
小さく息が漏れる。
無理だろ。
集中出来るわけがない。
思考がまとまらない。
そのとき、
「佐藤くん」
「……っ、はい」
思わず、びくっとする。
普通に呼ばれただけなのに。
不自然な反応をしてしまった。
「これ、昨日のやつなんだけど」
資料を差し出される。
「……あ」
途中で止まってたやつ。
それどころじゃなくて、
すっかり忘れていた。
「やっといたよ」
「え、まじ?」
思わず顔を上げる。
一ノ瀬の視線は、画面のまま。
「確認だけお願い」
「あ、うん……ありがとう」
少しだけ、引っかかる。
「助かった」
「ん」
短い返事。
やっぱり、目は合わない。
でも、
会話はできている。
資料も、ちゃんとまとまってる。
……気のせいか?
そう思いかけて、
ふと視線を上げる。
一ノ瀬は画面を見ている。
さっきのやり取りを思い返す。
普通だった。
でも、どこか引っかかる。
結論が出ないまま、
キーボードに手を戻す。
そもそも、俺はどうしたいんだ。
避けられたくはない。
それはなんでだ?
友達だから?
……友達なのか?
プライベートで会ったこともないし、
連絡だって業務連絡だけ。
それは友達って言うのか?
じゃあなんで、
こんなに引っかかる。
仕事に支障が出るから?
……いや、出てない。
むしろ今、カバーしてもらったばっかだし。
じゃあ、このままで問題ないじゃん。
…………嫌だな。
普通に話したい。
視線を合わせたいし、
笑ってほしい。
くだらないことで連絡したいし、
一緒に買い物とか、絶対楽しい。
そこまで考えて、
ふと止まる。
今朝の夢がよぎる。
距離。
表情。
あと少しの距離。
……あれ。
これ、
普通に
好きじゃね?
春、来てね?
なんなら夢の続きみたいもんな。
恋じゃん。
うわ、甘酸っぱ。
俺にもこんな感情あったんだな……
頑張れ、俺。
「一ノ瀬!」
「…な、なに!?」
「あ……いや、ありがと……」
「……うん?どういたしまして」
現実に戻る。
避けられてるんだった。
今だって、目合わなかったし。
え、自覚してすぐ失恋?
可哀想すぎない?
挽回……できるか?
いやー……
「……はぁ」
さっきより、少し重い息が漏れた。




