10
出社し、パソコンを立ち上げる。
いつも通り。
……なのに、落ち着かない。
「佐藤くんおはよう」
「お、おはよ」
声を聞いた瞬間、今朝のことを思い出す。
画面から目が離せない。
……変に思われたかな。
隣からも起動音がする。
横目に見ると、メールを確認している。
……普通だ。
よかった、バレてない。
少しだけ安心して、視線を戻す。
それにしても、なんであんな夢……
だめだ、思い出すな。
ホテルの続きだったな、とか
やけにリアルだったな、とか
やめろ、反応するな。
仕事中だぞ、俺。
意識が隣に集中する。
手は動いてるのに、何も進まない。
「………い、一ノ瀬」
「……ん?」
一ノ瀬の肩が上がる。
あの夢と、同じ。
また思い出しかけて、意識を逸らす。
「自販機行くけど、なんかいる?」
「え、と……ううん、大丈夫」
「あ、そう……?わかった」
「ありがとね」
すぐ画面に戻る。
席を立ち、自販機に向かう。
小銭を入れて、ボタンを押す。
ガコンッと缶が落ちる。
それを拾いながら、さっきの様子を思い出す。
……おかしくね?
肩が上がるほど驚くことも、
目が合わないことも。
身体はこっち向いてたのに
視線だけ、下がってた。
……いや、気のせいか。
一度はそう思う。
でも、
もう一度小銭を入れて、ボタンを押す。
缶を取って、席に戻る。
「一ノ瀬」
「……ん」
「これ、いつも飲んでるよな?」
「え、」
受け取ろうと伸びた手が、一瞬止まる。
「……ありがとう」
一ノ瀬が缶の端を持つ。
「あ、お金」
「いいよ、今度なんか奢って」
「……うん、ありがとう」
また画面に戻る。
渡した缶は、デスクの端。
確信する。
絶対、触れないようにしたよな。
受け答えもちょっと遅いし。
え、嫌われた……?
やっぱり潰れたから?
男のくせにだっさって思われた?
それか、本当は何かあったとか……?
……いや待てよ。
思考が一瞬止まる。
夢に見たの、バレてる……?
いやいやいや。
超能力者じゃないんだから。
そもそも、嫌いな相手の耳触らな……
……やめろ俺。
頼む、仕事してくれ。
思い出すな。
……でも、
あの時点では嫌われてなかったってことか?
じゃあなんで今こうなってる。
一気に距離できたよな。
……何した俺。
ホテル?
いや、あれは不可抗力だろ。
じゃあ何。
思い当たるの一個しかないんだけど。
……いやいやいや。
バレるわけないだろ。
夢だぞ?
どうやってだよ。
でも、このタイミングで距離できたのも事実で。
……まさか。
ただの同僚なのに気持ち悪いってことか?
いや、それはそう。
それは全面的に俺が悪い。
なんなら土下座したいレベル。
……待て。
土下座の理由なんだよ。
「すいません夢で迫りました」って?
無理だろ。
終わるわ。
……だめだ。
さらに集中出来なくなった。
どうすりゃいいんだよ……




