83話 薔薇の花咲く庭
王都の街は屋台などが並び、夏祭りの様なお祭りムード一色となっていた。
皆平和になったこの国を喜んでいるのである。
僕も長い式典や、長く有難いお言葉を聞く時間が終わり、ようやく落ち着いてきた。
この後は祝勝大晩餐会のメインである晩餐会が始まる。
言うなればブッフェ形式?バイキング形式と言った方が馴染み深い立食パーティーとの事。
控え室に戻り、式典用のキッチリした服からカジュアルな冒険服に着替えて、一息ついていた僕の所にリナとレナがやってくる。
「だいぶんお疲れの様ね」
うなだれている僕を見て、何故か嬉しそうに呟くリナ。
「ぁ〜、うん」
生返事をしてリナの方を見ると、急に目が冴える。
「ぉお」
「……綺麗」
思わずそう呟き、見たものはリナとレナのドレス姿だった。
モモが着ていたような式典用の豪華なドレスでは無く、カジュアルで動きやすそうな深紅のドレス。
リナもレナも、深紅に緑の差し色のドレスを着て並んで立つさまは……まさに双輪の薔薇。
戦いで赤い髪をなびかせ、舞い踊る双輪の薔薇も可憐だったが、この赤髪に深紅のドレスの双輪の薔薇もまた素敵だ。
何よりあの猪突猛進なリナがオメカシして、綺麗なドレスを身に纏っている姿が新鮮で……なんかこう綺麗だ。
「……」
「……ちょっと、見すぎ、じゃ無い!?」
僕にマジマジと見つめられて、頬を赤らめながら照れるリナ。
「リナ姉さんが綺麗だからですよ」
レナがリナの横でニヤけながらそう呟く。
「戦いにくいけど、仕方ないでしょ!」
「晩餐会なんだから、この位の格好はしないと!」
綺麗と言われ、照れくさくて言い訳をツラツラと並べ立てるリナ。
だけどなんだか嬉しそうなので、僕は突っ込まずにリナに向かって微笑んでおいた。
「まぁ、あんたの格好は……あんたらしくて良いんじゃない」
普段通りの格好に戻っている僕を見て、褒め返してくれたのかな。
なんてニヤけていると、
「さっさと行くわよ!」
「そうですね、行きましょう」
リナとレナに促され、僕は晩餐会の会場であるホールへと連れられて行った。
「ぉお……」
その会場からは、かぐわしい食欲をそそる香りと皆の歓談する声が聞こえてきた。
僕はその香りのする壁際に行くと、テーブルの上に所狭しと料理が並べられていた。
浜尻の町のタピオカミルクティーや、ニヴァーンの町の魚料理、ミーカワの味噌グルメとこの国の各地の名産料理が一堂に会している様は、壮観である。
そんな美味しそうな料理を見ていると、クルミが僕の服の端を引っ張り呟く。
「……約束」
何のことかな?と一瞬頭をよぎるが、すぐに思い出して返事する僕。
「ぁ……ぁあ、大丈夫」
そう言ってクルミに差し出したのは、
「くりきんとん!」
そう、最終決戦前にクルミと約束したくりきんとん。
魔王を倒したら、祝勝会でくりきんとんを食べようと言っていたあの件である。
忘れていたら大変な事になっていたかもしれない……というか忘れてませんよ。
王城に着いてから晩餐会の日まで魔力をヘコヘコと消費し、大量に作り上げておいたのだ。
くりきんとんは賞味期限が短いとは言え、晩餐会までの数日なら十分持つし、大量に作っても消費できるからね。
そんな大量のくりきんとんをクルミに渡し、一応一言告げる。
「みんなの分、だからね〜」
「うん!わかってる!」
クールキャラにあるまじき満面の笑みで答えるクルミ。
そのくりきんとんもテーブルに並べられ、大盛況となっていた。
「えぃふぁも、食ゔぇて」
口にくりきんとんをハムスターみたいに頬張りながら僕にそう言ってくれるクルミ。
「そうね。私達も食べましょうか」
レナもそう答え、僕達の祝勝大晩餐会が始まった。
「ほら、あんたも食べなさい」
そう言って美味しそうな料理を持って来てくれるリナ。
何というか……あのリナが僕に気を使ってくれている事にちょっぴり感動してしまった。
「べ、別にあんたの為にやった訳じゃ無いんだからね!」
「勇者がお腹空かせていると、この国が悪く見られる……から」
「だから、いっぱい食べなさいよね!」
リナのツンドラがツンデレになる様を見れて、僕は益々感激する。
「ありがとう、リナ」
そう言ってリナが持ってきてくれた料理を受け取る。
その料理はどれも素晴らしく、この祝勝大晩餐会という場も合わさってか、より美味しく感じた。
リナもレナもクルミも、それらの料理を美味しそうに食べていた。
ひとしきり食べ終えた所で僕が呟く。
「そういえば、モモは?」
それを聞いたレナが、
「モモ姫様は別件で遅れるとの事です」
「でも……そろそろ頃合いな時間ですかね」
そう返答する。
「別の場所で待ち合わせてるのよ」
「ついてらっしゃい」
リナが僕の手を取り移動を始める。
「ぇ、どこに?」
すかさず僕がそう問いかけると、
「……薔薇の花咲く庭」
クルミが静かに答えた。
そこは晩餐会の行われていたホールから少し離れた場所にある中庭だった。
その中庭には沢山の薔薇が咲き誇っていた。
「……ぉお」
その美しい中庭をみて、感嘆の声を上げる僕。
そしてその美しい薔薇の花の中にモモが立っていた。
日の落ちて薄暗くなってきた空に、晩餐会の会場から漏れる光でモモがほのかにライトアップされている様だ。
その美しさに息を呑む僕。
そして僕は一度振り返り、一緒に来たリナとレナとクルミの顔を見る。
リナはドヤ顔してるし、レナはなんだかニヤけてる。
クルミはくりきんとんの件で満足して、クールな顔に戻っていた。
さぁ、行きなさいと、言わんばかりの顔で僕を見送るリナ達。
再び前を向き、薔薇の花咲く庭に立つモモを見る。
なんだかこの神妙な空気に気圧されて、ビビっているかの様に見える僕だが、本当の所はちょっと違う。
……それは、
……僕の記憶が確かなら、これが最後のシーンだ。
そんな感傷にふけりながらも、僕はモモへ向かって歩き出す。
「永太様……」
モモの側に立つと、僕に向かって優しげに微笑む。
「モモ……」
僕は、それに返事する様に呟く。
「……」
「お父様とお母様は、一人娘として私を大切に育ててくれました」
「その為、小さい頃はずっと一人だった」
「皇族だから、簡単に外に遊びに行けないのは分かっていましたし」
「それが皇族だとも、納得はしていました」
「だから、その時間を埋める為に書庫によく行ってました」
「そこで伝承や言い伝えの本に出会い」
「私にもいつか、勇者様が現れてくれるのかな……なんて思う様になったんです」
静かに自分の事を話すモモを、僕は黙って見つめる。
「そんな私を見て、お父様とお母様が」
「リナやレナ、クルミ達と出会せてくれて」
「騒がしくも楽しい日々に変わりました」
「そして……」
「最初に魔王軍が攻めてくると聞いた時」
「本当はとても不安だったんです」
モモは鮮やかに咲く薔薇を見ながら話し始める。
「伝承の勇者様なんて現れてくれるの?とか」
「居たとしても、本当にこの国を救ってくれるの?とか」
「心配で押し潰されそうでした」
そう静かに話すモモの話を僕は静かに聞く。
「でも、あの時」
「ゴブイチに襲われそうになった私を助けてくれた」
「……とても、嬉しかった」
少し離れた所に居るリナ達も、静かに僕達を見守る。
「それから、西の塔を解放してくれて」
「南の塔も、東の塔も……」
「本当に勇者様が現れてくれたって」
話を続けながら僕に近づくモモ。
「だから……永太様」
そう言った後にモモは、
「これからも私の勇者様で……いてくれますか?」
優しく僕に微笑み、問いかける。
それと同時に選択肢が現れる。
【はい】
【いいえ】
……【
それが最後の選択肢だという事を僕は知っている。
さらに言うなら、魔王討伐後のエンディングは殆ど台詞とかは無く、ダイジェスト的に各地を周ってこの王城の薔薇の花咲く庭でラストシーンとなる流れとなるのも知っていた。
モモの過去語り等は僕作った自作ゲーム内には無く、実際に話すのは最後の問いかけだけである。
だが、その言葉はこの世界で生まれ育ったモモとしての思いが合わさり、僕の心に響く。
その最後の選択肢が僕の目の前にある。
メインシナリオが終わってしまったら、この世界はどうなるのかとか色々と疑問は絶えないが、それ以上に僕は……
モモの気持ちに応えたかった。
そして僕は選択する。
→【うんこ】
「うん、これからは……」
「ずっと一緒に居よう」
モモの問いかけに、笑顔で答える僕。
「はい!永太様!」
涙を流し喜びながら僕に抱きつくモモ。
僕はモモを優しく抱き返す。
遠巻きに見守っていたリナやレナ、クルミもそんな二人を見て微笑んでいた。
すると、そんな僕達を祝福する様に花火が上がり始める。
……こうして勇者の活躍により王国は平和を取り戻し、皆幸せに暮らしました……とさ。
なんて脳内ナレーションが流れ、場面が暗転してエンドロールが流れ始める。
走馬灯の様な、思い出の様な冒険の日々が思い出され、まるでエンディングの様に流れていく。
やがて、エンドロールも終わり……最後の文字が現れる。
〜fin〜
……と、
ヴーッ、ヴーッ……
「ぅ、う〜ん……」
ドガァッッ!!
「痛ったぁ……」
アラームの鳴っていたスマホを止めようとして、ベッドから転がり落ちた僕は頭を触りながら、そう言う。
「……ぇと、夢?」
朝日が差し込む、いつものワンルームな部屋を眺めながら、僕は呟いた。




