82話 祝勝大晩餐会
僕の受け取った手紙、それは祝勝大晩餐会への招待状だった。
その祝勝大晩餐会とやらは要するに、魔王を討伐しこの国に平和が訪れた事を高らかに宣言するお祭りみたいなものだ。
各地を周って平和宣言して来た巡業とやらの最後の締めでもある。
割と色々書いてあったが要約すると、勇者である僕がその祝勝大晩餐会に招待されたという内容である。
この手紙は僕だけに宛てた招待状であり、モモやリナ、レナやクルミは記載されていない。
まぁ当然と言えば当然だ、みんなは王国側の人なのでどちらかと言うと招待する側だからか。
しっかりした作りに豪華な便箋、こんな物貰ったのは始めてだなぁ、なんて思っていると、
「早速出発するわよ!」
気が早ってるリナが意気揚々とそう叫ぶ。
「ぁ、いや、開催までまだ数日あるみたいだし」
「とりあえず落ち着いて、リナ」
いつもの猪突猛進が発動しているリナを落ち着かせるようにそう言う。
「そうですよ、リナ」
モモが僕に同意して一緒になだめてくれる……
「すぐに準備して向かわないと、ですね!」
と思ったら、モモもノリノリで猪突猛進になっちゃってる?
「ですね、楽しみです」
「すぐに発ちましょう!」
いつもはリナのブレーキ役である筈のレナが、アクセル踏んじゃってるよ。
「……実は、もう」
「出発の準備は済んでる」
クルミさん、相変わらず仕事が早いですね!
流石モモ専属のお付きメイド、と言う細かい設定もアピールする仕事っぷり。
「……」
「じゃあ、行きますか」
みんなの視線が僕に集中して、合図を待っている様な感じを察したので、僕は一息ついた後にそう呟いてみんなを見る。
「「ぉ〜」」
モモとリナ、クルミにレナが声を合わせ、手を上げ喜びながら叫ぶ。
お世話になったカシューおじいさんに挨拶をして、メイジ村を後にする。
メイジ村や北の塔のある王国北部から、馬車に乗り王都へと向かった。
以前来た時は魔王軍の影響で馬車など通ってなくて、しかもリナレナの件でバタバタしてたので、クルミの鳥シャドウで一気に王都に飛んでいったんだったか。
あの時は緊急事態だったから、クルミが頑張って超特急で向かい、小一時間で王都に着いた覚えがある。
そのおかげでレナも間一髪で助けられた、ありがとうクルミ。
なんて物思いにふけりながら馬車に揺られる。
モモやリナ、クルミにレナはよほど楽しみなのかお喋りが絶えない。
まぁ、そんな耳障りの良いみんなの声を聞きながら馬車は王都へと進む。
空は晴れ渡り、爽やかな風が吹き抜ける。
「……これが、最後のイベントか」
僕がそう呟くが、お喋りしているみんなには聞こえていない。
これが最後……ここは昔の僕が作った自作ゲームの世界のようで、大筋は変わらず話を進めてきた。
北の塔のリナの死亡フラグ回避の為に、多少メインシナリオから外れていたが、魔王討伐により本筋に戻ってきた感じである。
魔王討伐後に各地を再び巡り、王都への凱旋を果たす。
そこで最後のエンディングを迎えるという流れだ。
この冒険が終わってしまう……という寂しさもあり、この巡業はなるべくゆっくり進めてきた。
メイジ村では思いのほか長く過ごしてしまい、気がつくと魔王を討伐してから一月は経とうとしていた。
なんか冒険した時間よりも、討伐後の方が長かった気までしてくる。
そんな物悲しい顔をしていると、
「なに気の抜けた顔してるのよ」
「あんたが主役でしょ」
「勇者永太!」
リナがそう言って、何故かドヤ顔して来る。
「そうですよ」
「あれを見てください、永太様」
モモもそう言って見えて来た王都を指差す。
「凄い歓迎ぶり、ですね」
「まぁ、勇者様の凱旋ですからね」
勇者様が返ってくるとの噂を聞きつけたのか、王都の正門の前には沢山の人が集まっていた。
その歓迎ぶりにレナも嬉しそうに話す。
「……永太」
「手を振って」
僕にそう促してくるクルミ。
クルミがそんな対外的アピールをしてだなんて、ちょっと以外だ。
「……だって、永太は」
「自慢の勇者……だから」
凄く照れくさそうに横目でそう呟くクルミ、うんこれは萌えポイントですな。
こんな萌えアピールされたら、ヤラない訳にはいかないでしょう。
と、言うことで僕は自分でも珍しく、観客へのアピールとして手を振る。
「キャー、勇者様〜」
なんて黄色い声援が聞こえてきて、ちょっぴり照れくさい。
そんな顔をしていると……
「まったく、いやらしい!」
照れくさくて鼻の下が伸びていた様に見えたのか、リナが僕に向かってそう叫ぶ。
「ぇ〜、リナの方がよっぽどいやらしかったし……」
リナに聞こえないようにボソッと呟く僕。
「はぁ!?」
「こんな所で何言ってんの、信じらんない!」
しっかりと聞こえていたのか、リナが顔を真っ赤にしてキレ散らかして来る。
「まぁまぁ」
「ほら、もう正門ですよ」
さすがブレーキ役であるレナ、上手いこと話の流れを変えてくれる。
それにしても、王都決戦の時は張り詰めた空気で見ていた正門だけど、今は和やかな歓迎ムードで王都に入ることが出来る。
王都内も戦ってばかりだったから、落ち着いて街並みを見るのは初めてかもしれない。
あの時とは様変わりして、人も大勢戻ってきている。
王都内や王城があまり破壊されていないのは、最初の封印結界で魔王を閉じ込めた際、一緒に蜃気楼というミアさんの得意な魔法を掛けていたおかげらしい。
一番破損が酷かったのは、僕が吹き飛ばした謁見の間の天井だったとの事……はい、ごめんなさい。
そうこうしている内に王都正門からのメインストリートを通り、王城に着いた僕達を迎えてくれたのは魔導師団副師団長のミアさんだ。
「お早いお着きですね」
「もっとゆっくりしていらしても良かったのですよ」
そう言いながらニヤニヤしている気がする。
「はぁ、まぁ」
「結構長い巡業だった気もしますが……」
実際一ヶ月ぐらい経っているので、個人的には長いかな?とは思うが、思い返してみるとあっという間だった気もする。
「さ、お部屋を用意してあります」
「クルミ、お願いね」
そうだった、クルミは魔導師団所属でもあり隠密特殊部隊の陰の調律者No.3のコードネーム【影法師】でもあり、モモお付きのメイドでもあった。
その多めな所属の内、この王城内ではメイド属性を駆使し僕を部屋へと案内してくれる。
「永太様、また後で」
「だらしない顔してないで!勇者なんでしょ!」
「まぁまぁ、リナ姉さん」
などと言いながらモモは王城内にある自室へ、リナとレナは王国騎士団管轄の宿舎へと向かって行った。
クルミに案内された部屋は来賓用の部屋であり、王城という事もあって今まで泊まったどの宿よりも豪華な作りだった。
ベッドに至っては天蓋付きという、何処の貴族?と言った感じだった。
というか、ここは王城だから王族的な作りなのか、と自分で納得する。
こうして僕は、クルミに色々ねお世話をしてもらいながら祝勝大晩餐会迄の数日を過ごした。
モモやリナ、レナは王国や騎士団の仕事などが忙しかったのか、あまり顔を合わせなかった。
そして、祝勝大晩餐会の日を迎える。
「……」
「……これでよし」
メイド姿のクルミが式典用の勇者服へと身支度をしてくれてる。
冒険していた時のカジュアルな服とは違い、まさに勇者と言った出で立ちの服だ。
格好が勇者過ぎてちょっぴり恥ずかしい。
「勇者……永太」
僕のその格好を見てクルミが笑顔で呟く。
普段クールなクルミが照れくさくそうに笑顔で微笑んでくれて、これはもう萌えポイント倍増ですよ。
そのおかげか、恥ずかしさも和らいでキメ顔でクルミに、
「じゃあ、行ってくる」
なんて家を出る夫みたいな口ぶりでカッコつける僕。
「……頑張って」
「永太」
そう言ってクルミが、僕だけに見せてくれる笑顔で送り出してくれる。
案内された部屋にはモモやリナが居た。
どうやら控え室の様である。
割と可愛い感じの服で冒険していたモモだったが、ここではさらに可愛いというか綺麗なドレスに身を包んでいる。
「……ぉお、素晴らしい」
「お姫様みたいだ」
モモの綺麗さに思わず心の声が漏れる。
「当たり前でしょ!」
「お姫様よ!」
隣に居たリナがすかさずツッコミを入れてくる。
さすがリナ、僕が意図せず言ったボケまでも拾ってくれる。
そんなリナもいつもの甲冑に色々と豪華な装飾を着けている。
「……リナも」
「ゴージャスですね」
僕はなんとか言葉を捻り出し、リナを褒める。
「はぁ?」
「私が魔王だとでも?」
確かに魔王はゴージャスでゴールデンなゴッドゴブリンだったけど……
「ぁ、いや……そういう意味ではなくて」
「騎士団団長としてカッコイイな〜と」
再び言葉を絞り出し、リナを褒め称える。
「……ふん!」
「まぁ、今日ぐらいは……許してあげるわ」
なんとか上手いこといったみたいで、リナがほんのり頬を染めてデレてくれる。
「さぁ、皆さんお待ちかねですよ」
リナとのやり取りが一段落した所で、モモがそう告げる。
モモに促され、扉を開けたその先には……
「ワァァァァアアァァァッ!」
「ォォォォォォォォ!勇者様だ!」
そんな大歓声が聞こえてくる。
そこはテラスの様になっており、下の広場には沢山の観衆が声を上げていた。
式典や告知、様々なことを知らせる為の場所なのかな。
「この方が、この国を救ってくれた勇者様だ!」
そう高らかに叫んでいるのは、モモの父であり国王様のネクタリン十四世だ。
ミーカワの地下で会っていた頃が、なんだか懐かしく思えてくる。
その傍らにはモモの母であるアンズ王妃が、こちらを見て微笑んでいる。
僕達が出てくるまでに、国民へ向けた話をしていたのであろう、観衆達はすっかり盛り上がっている様だ。
国王様の有難いお言葉と僕達の紹介を終え、今度はモモが前に出る。
僕もそれに次いで前に出てモモの傍らに立つ。
リナも同じ様に凛々しく立っている。
何というかこの二人、何度となくこういう場で話をしてきたのだろう、すごく落ち着いている。
当の僕はというと、こんな大観衆の前で話したことなんて無いので、見るからにカチコチに緊張している。
とは言え、一応勇者としての威厳も示さないと……なので、顔だけはキメ顔をする様に心がけた。
するとモモが話し始める。
「勇者様から与えられた新しい希望の息吹をこの身に宿し、その輝きを胸に私達は新たな時代へと進むのです」
なんだか政治家の様な皇族の様な、難しカッコイイ演説をし始めるモモ。
ぁ、皇族だったか……なんて考えていると、リナが、
「ほら、あんたもやりなさい」
そう言って剣を高らかに掲げる。
「ぁ、はい」
緊張して、つい敬語で返しながら僕も剣を掲げると、
「ワァァァァアアァァァッ!」
「ォォォォォォォォ!勇者様!」
そんな大歓声が聞こえてくる。
僕達の掲げた剣が、祝勝大晩餐会という名のお祭りの開催を告げた。
そんな形式的な開会宣言を終え、控え室に戻り一段落して一息つく僕。
「まぁ、様になってたじゃないの」
そう言ってリナが褒めてくれる。
「ぁ、ありがとぉ」
なんだかどっと疲れた僕は、気の抜けた返事をする。
「ふふふ」
そんな僕を見てモモが微笑む。
一山超えたかな、と安堵する僕にリナが一言、
「さぁ、まだまだあるわよ!」
なんだか嬉しそうに僕に向かってドヤ顔して来るリナ。
「ぅえ〜ぇえ」
ズリズリ……
謎のうめき声を出しながら、リナに首根っこを掴まれて引きずられて行く僕。
その後、僕か吹き飛ばした天井を突貫工事で修理して、仮の天井から差し込む光が眩しい謁見の間に連れて行かれ、来賓の言葉やらなんやら面倒くさい式典が続いた。
こんなのを毎回やってるなんて、皇族とか貴族って大変だなぁ〜なんて思いながらうなだれる。
日が傾いてようやく落ち着いて来た所で、世話をしてくれていたクルミが声を掛けてくる。
「……ここからが本番」
そう呟くクルミはなんだかニヤけて、ヨダレを垂らしている……気がした。
そう、ここから祝勝大晩餐会という名の通り、晩餐会が始まるのだ。




