76話 代用品
「……お久しぶりですね」
「勇者様」
空の上から返事をしたのは杖を空飛ぶ箒の様にラテラル、いわゆる横座りしたミアさんだった。
そう、ミアさん。
ミーカワで国王と王妃を匿っていた魔導師団の副師団長マカダミアさん。
魔王軍をこの王城に一時的に閉じ込める策略を成功させた張本人でもある。
美しく長いストレートの黒髪をなびかせ、まさに魔導師と言った出で立ちで天井の吹き飛んだ謁見の間から見える空、そこに現れたのである。
そう、ミーカワで封印結界の核であるコアクリスタルを使い、結界の維持をしていた筈のミアさんがここに居る。
「なんで、ミアさんがここに?」
「ってか何故か復活してる封印結界もミアさんが?」
状況を理解していないリナが、相変わらずマシンガンの様に質問攻めにして来る。
空を飛んでいたミアさんが、スッと降下してきて僕達の側に着地する。
「勇者様に熱烈に口説かれてしまいましてね」
イタズラっぽく不敵な笑みでトンデモない事を言い始めるミアさん。
「はぁ!?」
「どういう事よ?」
ミアさんの言葉にリナが何故か激怒して、僕に詰め寄って来る。
「ぁ〜、違うって」
「いや……違わないけど」
グイグイ詰めてくるリナにタジタジになる僕。
「ミアさんを口説いた……?」
「本当ですか?永太様」
「……説明、して」
レナもモモもクルミも次々と僕に鋭い視線を向けながら問い詰めてくる。
「あんなに情熱的にせまられてしまったら、もう……ね」
ニヤニヤしながら僕を見て遊んでいるミアさん。
「いや!ワザと誤解させるように言ってますよね!」
そんなミアさんに僕は慌ててツッコミを入れる。
「ふふっ」
動揺する僕を見て不敵な笑みを見せるミアさん。
「……それで」
「ミアさんを口説いて何したのよ!」
「いやらしい!」
そんな風に僕に叫ぶリナは、なんか凄くキレてる気がする。
「ぁ〜、いや」
「北の塔のクリスタルを復活して貰っただけだよ」
このままだと誤解が酷くなりそうなので、僕は手短に説明をする。
「はぁあ!?」
なんだかずっとリナがリアクション芸人みたいな驚き方をしている。
「ぇ?いや、復活って……そんな簡単に」
「いや、普通出来ませんよそんな事!」
モモも動揺しながらシドロモドロに喋る。
「……いや、いつもトンデモない事をするミアさんなら」
「もしかして……出来ちゃったり、します?」
ミアさんをよく知る隠密特殊部隊の陰の調律者No.2コードネーム【幻影】なレナがそう呟く。
「……師匠なら、やりかねない」
同じく隠密特殊部隊で陰の調律者No.3【影法師】のクルミもレナに合わせて呟く。
「ふふっ」
「さすがの私でも、完全消滅したクリスタルを復活させるなんて」
「この短期間では無理ですよ、ふふっ」
口元に手を当てながら優しく微笑むミアさん、だが短期間じゃなければ可能なのか?という言い回しにも聞こえてなんか恐ろしい。
なんて話をしていると、
「貴様ら!またまたこの魔王を放ったらかしてイチャイチャしてるんじゃない!」
完全放置ですっかり忘れていた魔王が、激おこで僕達に向かって叫ぶ。
「と言うか、北の塔のクリスタルはゴブシ兄が吹き飛ばしたんだろ!」
「そういう作戦だって聞いてるもんね〜」
なんか威厳まで弱体化したのか、魔王が小学生みたいな喋りになってきてる。
「ぇえ、そうね」
「北の塔のクリスタルは跡形も無く吹き飛んでいました」
ミアさんが言っているクリスタル、北の塔に居た暗黒四天王のゴブシが吹き飛ばそうとしていたのは事実である。
だけど実際にはリナを助ける為に、僕が吹き飛ばしたのだ。
まぁ、ここはゴブシが吹き飛ばした事にしておけばクリスタル破壊の責任が魔王軍のせいになりそうなので、大人しく黙っておこう。
なんて思っていると、
「そうよ!コイツが吹き飛ばしたのよ!」
リナがいらん事を言って僕を指差す。
「そうですね、リナ姉さんを助ける為にですが」
すぐにレナがフォローして補足説明をしてくれる、ありがたい。
「ま、まぁそうだけど!」
「色々あったのよ!色々と!」
矛先が自分に向きそうになり、慌てふためくリナ。
相変わらずイジられリナは見てて可愛らしい。
「うっさいわね!」
「やかましいのよ!」
リナはそう言って、僕に向かって叫ぶ。
「いや、何も言ってないし!」
いつものパターンで、何も言ってない僕に突っかかって来る。
「ふふっ」
「お互いを想い合って、微笑ましいですね」
僕達のやり取りを見ながらそう言ってミアさんが微笑む。
「「いや、違うし!」」
そんなミアさんに、リナと僕が同時に突っ込む。
「ともかく、北の塔のクリスタルは吹き飛んでいました」
ミアさんはそう言って説明を続ける。
「だろう!だから此処の封印結界も解けた筈だ!」
「だが何故!?今再び結界が構築されているのだ!」
魔王ゴブーゴも無視されない様に、がんばって話を続ける。
「貴様……どこかで見た覚えがあると思ったら」
「幻覚を見せて、この王城に誘い込んだあの魔導師か!」
ミアさんを改めて見た魔王ゴブーゴが、不敵に微笑むミアさんに向かって叫んだ。
「ふふっ」
「そうですね、あの時は少々骨が折れましたが」
魔王に対しても、臆することなく話すミアさんはなんだかカッコいい。
そんな僕を察してか、こちらにウインクして来る……どんだけ鋭いんだか。
「また貴様が何かやりおったのだな!」
「忌々しい奴め!」
一度惑わされて魔王軍本隊を封印で足止めされた恨みか、ミアさんに対する当たりが強い魔王ゴブーゴ。
「そんな大した事はしてませんよ」
「北の塔に代わりのものを設置して」
「四つの塔で構成される結界を、再度張り直しただけです」
ミアさんが大変そうな事を、あたかも軽作業の様にサラッと話す。
「そんな都合のいい代用品なんてあるの?」
「その辺になんか丁度良い石が落ちてたとか?」
「知らんけど!」
リナがまた適当な事を言ってチンプンカンプン化してる。
「ミアさんが裏で何かしてるとは思ってましたが……」
「そんな事をしていたんですね」
「先の先を読んで動いていたなんて、さすがです」
ミアさんを信頼している様子のレナは、そう言って驚きながらも感心しているみたいだ。
「ふふっ」
「そうでもないですよ」
ミアさんがレナの褒め言葉に謙遜しつつ、話を続ける。
「だってこの作戦は」
「勇者様の提案なのですから」
そう言って僕の方を見つめてニッコリ微笑むミアさん。
「「ぇえ!?」」
リナとレナ、モモやクルミが驚きながら僕を見る。
「一体いつの間に?」
「勇者様の作戦?」
「永太様がお考えになられたんですか?」
「……勇者の勘、ってやつ?」
捲し立てるように僕を質問攻めにする四人。
「ぁ、いや……うん、そう」
みんなの勢いに押されながらも、なんとか返事する僕。
「ってか、何なのよ」
「その代用品って」
リナが早く答えを言え、と言わんばかりにグイグイ聞いてくる。
「ぇ〜、あ、ほら」
「詳しい事はミアさんから」
質問攻めにタジタジの僕はその返答をミアさんに放り投げる。
いや放り投げた訳じゃ無いよ、実際に作戦実行したのはミアさんだから、説明してもらうならミアさんからの方がいいかな〜なんて。
「ふふっ、そうですね」
タジタジの僕を見て微笑みながらそう返事してくれる。
「そんな都合よく代用品があってたまるか!」
「どうやって結界を再構築したのだ!」
また魔王ゴブーゴが無視されない様にがんばって会話に参加して来る。
「吹き飛んでしまった北の塔のクリスタルの代わりは……」
「コアクリスタルです」
そんな魔王ゴブーゴに優しく説明するミアさん。
コアクリスタル、それは魔王や魔王軍をこの王城に閉じ込める封印結界を構築した要のクリスタル。
まだ四つの塔のクリスタルが健在で、この国全体に結界が張られていた時、その塔の結界の力とコアクリスタルの力を合わせることで魔王軍を封じ込めたのだ。
そのコアクリスタルを吹き飛んしまった北の塔のクリスタルの代用品として設置したのだ。




