66話 デザート
魔王軍の侵攻が沈静化している合間に僕達は仮眠を取り、その後騎士団伝統であるココ一番の戦いの時に食べるというカレーにトッピングを乗せて堪能した。
綺麗に平らげた後、食器が片付けられてそのまま食後のティータイム……もとい作戦会議へと移行する。
「そういえばみんなは寝れたの?」
僕は爆睡していたのでお昼までしっかり仮眠を取れたが、みんなはどうだったかと心配する。
「そうですね、レナの治療をした後に少しだけ」
モモは僕に向かってそう言う。
その顔は割とスッキリしているので、それなりには寝れている様だ。
「別に寝なくても魔王軍ごときぶっ飛ばしてあげるわ!」
「まぁ、レナが休めってうるさいから寝たけど!」
リナは元気がありすぎて良くわからないが、レナが上手いこと手綱を握っているようだ、さすが副団長。
「……大丈夫」
クルミはいつも通りクールで分かりづらいが、隠密特殊部隊だし寝れる時にちゃんと寝るんだろう。
むしろさっきのカレーで元気が出てる感じがする。
「レナの怪我の方はどう?」
僕はそう言って怪我をしていたレナの足を心配する。
「治療のおかげでずいぶん回復しました」
「ありがとうございます、モモ姫様」
レナは治療をしてくれたモモに対しお礼を言う。
「それと……」
「勇者様、先程は危ない所を助けて頂き、ありがとうございます」
「また、騎士団副団長としてお見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
凄く畏まってお礼と自身の至らなさの謝罪をしてくれるレナ。
「ぁ、いや……」
「気にしないで」
リナと同じ顔で真面目な喋りをするので、不思議な感じがしてちょっと動揺し返事する僕。
「いいのよ、そんなの気にしなくて」
「どうせ永太だし」
リナがそう言って茶々を入れてくる。
「いや……リナ姉さんだって永太様に助けられたって聞きましたよ」
レナがリナに対してそう詰め寄る。
「ぁ、いや……あれはねぇ」
北の塔の死亡フラグ回避の件を突っ込まれてドモるリナ。
「ほら姉さん、お礼!」
レナが再びリナに詰め寄って来る。
「……はぃ」
「ぁ、あり……がとう、永太」
リナがもじもじしながら僕にお礼を言ってくれる……なんかカワイイ。
「ひとまずおおよその状況は聞きました」
「私からもお礼を言わせて下さい」
「ありがとうございます」
レナが余りにも真正面からお礼を言ってくれるので、僕はちょっぴり照れる。
「ど、どういたまして」
「でも……」
そこまで言って僕は、
「リナを助ける為とは言え北の塔のクリスタルを破壊し、ここの防衛線を張ってくれている騎士団や魔導師団、さらにはこの国をも危険に晒すという選択をしてしまいました」
「勇者として、その責任は取らないといけないです」
「だから僕が必ず……この国に平和を」
真面目な顔でみんなにそう告げる。
「私も助けられた者としての責任があるわ」
「だから、永太一人の責任じゃない」
先程まで恥ずかしがっていたリナも、真面目顔で僕にそう言ってくれる。
「そうです、永太様一人の責任では無いです」
「そもそもこの国を救うという責任は、この国の姫である私が背負うべきです」
モモもそう話し、僕に詰め寄る。
「……私も」
「背負うべき」
クルミも責任問題に参加してくる。
「これはもう誰か一人の責任問題では無いですね」
「むしろ責任と言うよりは」
「この国に平和を取り戻すことが、皆の責務」
「といった所です」
レナが上手いこと言い換えてまとめてくれる、さすがまとめ上手の副団長。
「……そうだね」
「ありがとう」
「みんなで力を合わせてこの国に平和を」
僕はお礼を告げ、そう言いながらみんなを見る。
「そうね」
「そうです」
「……うん」
「はい」
リナ、モモ、クルミ、レナがそう言って僕を見つめる。
リナを助け死亡フラグを回避した、リナも助けメインシナリオに戻ろうとする補完も断ち切った。
ココから先の展開はもう昔の僕が作った自作ゲームのシナリオの流れから外れつつあり、もはや未知数だ。
大元の魔王討伐自体は変わっていないが、最悪魔王に負けるシナリオすらあり得る。
リナが死ぬシナリオなら無難にゲームクリア出来たかもしれないが、それでもリナを助ける選択をしたのはハッピーエンドにしたかったからだ。
だから僕、いや僕達でハッピーエンドを掴み取る。
僕は改めてそう決意した。
「なので……」
僕はそう言いながらみんなの顔を見て……
「万全を期す為に」
「デザートにしよう!」
そう宣言する。
「ほぇ?」
レナが素っ頓狂な顔をする一方で、
「あれね!」
「あれですね!」
「キタコレ!」
リナとモモとクルミが瞬時に察知し、声を合わせて叫ぶ。
「ぇ、何?」
三人の有頂天具合に動揺して驚くレナ。
「じゃん!」
僕はそう言って、先程カレーを食べていたテーブルにブツを出す。
「「ぉお〜」」
リナとモモとクルミの三人は歓喜の声を上げる。
「……これは?」
レナだけが状況を把握出来ずに聞き返す。
「……これは」
「くりきんとん!」
僕はレナにキメ顔でそう言う。
「おせちとかに入っている栗金団では無く」
「和菓子の栗金飩!」
このくりきんとん【無限くりきんとん】という箱アイテムに大量の魔力を注ぐ事により生成される回復アイテムなのだが、魔力消費が激しいのでおいそれと作ることが出来ない。
RPGなどゲームのお約束として、仮眠でもグッスリ寝てしまえばHPMPが回復するというのがある。
その特性を利用して、仮眠を取る前に事前にいくつかくりきんとんを作っておいたのだ。
くりきんとん製作で大量の魔力を消費しても、寝れば回復してるという訳である。
ただ、この和菓子は日持ちしないという弱点がある。
今回はHPとMPの他に怪我などもしっかり回復して、万全の状態で最終決戦に臨みたかったから、あらかじめ準備しておいたという事なのである。
「リナ姉さん、これは……?」
和菓子のくりきんとんを初めて見たのであろう、レナが警戒してリナに問いかける。
「やる気なくて、頼りない勇者だけど」
「永太のコレだけは褒めてあげられる」
「それぐらい素晴らしいモノよ」
なんか褒めるフリしてサラッとディスられた気もするが……リナはレナにそう言いながらくりきんとんを勧める。
「……そっ」
そんなレナの前にお茶が出てくる。
メイドで魔導師団で隠密特殊部隊の食いしん坊、クルミが先回りしてお茶を出してくれたのだ。
「コレには……」
「お茶が合う!」
そう呟くクルミの瞳は輝いていた。
素早くみんなにお茶を配り終えると元の場所に戻り、僕にくりきんとん要求と言わんばかりの熱い視線を送ってくるクルミ。
クルミ他、皆の熱い視線を浴びながら僕はみんなにくりきんとんを配る。
「……じゅる」
おあずけされた子犬みたいにヨダレを我慢しながら待つクルミはなんだか可愛らしい。
「……じゃあ」
「「いただきます」」
僕が音頭を取ってみんながそれに合わせてくる。
「……では」
パクリ
レナが警戒しつつもくりきんとんを一口食べる……と、
「ぅまあ!」
畏まった喋りやリナのブレーキ役で静かなイメージのあるレナが、思わず叫ぶ。
「なにこれ?美味し……すぎる」
口の中に栗の風味と甘みと色々なモノが広がっていく。
「ふっふっふ」
「美味しいでしょう!」
僕が出したくりきんとんなのに、何故かリナがドヤ顔で勝ち誇っている。
「お茶との相性も良いです」
「相変わらず美味いわね!」
「……控えめに言って、最&高」
モモもリナもクルミもくりきんとんを堪能し、お茶とのマリアージュも相まって自然と笑顔がこぼれる。
「……なんだか」
「怪我の調子も良くなった?」
「気がします」
この短時間ではモモの治癒でも完治しきれなかったレナの怪我が、くりきんとんの回復効果なのか完全回復した様だ。
まぁ、レナの傷も含めみんなの体力と魔力を完全回復させる、それが僕の狙いだったのだ。
こうして僕達はお茶と茶菓子でひとしきり堪能した……という所でクルミがそっと呟く。
「……あと一つ」
「残ってる」
「じゅる」
目ざといクルミが一つ残っていたくりきんとんを見つけ、ハンターの様な目つきでヨダレを垂らしていた。




