63話 昏き太陽の勇者
バサッ バサッ
大きな黒い鳥が朝日が昇る前の早朝の空を飛ぶ。
その鳥はクルミがシャドウを変化させ、創り出した巨鳥である。
僕達四人はその背中に乗り、王都へと向かっていた。
北の塔でリナを救うために結界の要であるクリスタルを吹き飛ばしてしまった。
その為、王都に足止めしていた魔王軍本隊を封じ込めている封印が解けてしまったのである。
王都周辺で防衛線を張ってくれている王国騎士団と魔導師団。
そこにいるであろう騎士団副団長のレナ。
そのレナの身に危険が迫っている、と僕の勇者の勘が言っている。
馬車や歩きではきっと間に合わない、そう感じた僕はクルミに無理を言ってこうして空から王都へと向かっている、という訳だ。
「凄いわね、あんなに大変だった山道も一瞬で飛び越えちゃうなんて」
もう遠くに小さく見える山道を見下ろし、頑張って歩いていた事を思い出しながらリナが呟く。
いや遠すぎるし常人の視力じゃ普通見えませんよリナさん。
北の塔を飛び立った直後も、北の塔の傍の山中に居たカシューおじいさんを見つけて手を振っていたし、クルミも同じ位見えているみたいで一緒に手を振っていた。
クルミは隠密特殊部隊だからなんとなく凄いんだろうな〜ってのは分かるけど……と、みんなの目力の凄さに改めて驚く。
「それにしても、クルミは大丈夫?」
「四人も乗ってるし、無茶言ってごめん」
クルミが昔、カシューおじいさんが住むメイジ村に居る時にシャドウを鳥に変化させて飛び回っていた話を聞いて思いつきで提案してみたのだが、さすがに四人乗りは無茶かな?と思いクルミを心配する。
「まぁ、なんとか大丈夫……だと思う」
「それよりも」
「……急ぐんでしょ?」
クルミにそう言われて僕は頷く。
本来のシナリオでは北の塔でリナが死に、その代わりにレナが仲間に入るという流れだった。
でも今リナは生きている。
なのでシナリオの辻褄合わせの為に、仲間に入るはずだったレナの方が死んで帳尻を合わせてくる。
根拠は無いが、僕の勇者の勘がそう言っている。
今まで言っていた勇者の勘は、昔の自分が作った自作ゲーム内なのでシナリオの流れや説明されていない事を知っていたりした時に、言い訳のように使っていた。
でも今僕が感じている本物の勇者の勘は急げ、と言っている。
クルミも僕の顔を見て感じ取ってくれたようでシャドウ鳥で頑張って飛んでくれている。
そんな事を考えている内に、王都近くの平野が見えて来た。
「ぁ、あれ」
「王国軍ですかね」
モモがそう言って指差した先に多数の騎士や魔導師が見える……遠いけど。
リナといいクルミといいモモもだけど、視力10ぐらいありそうだ。
なんて思っている内にどんどん近づいてくる。
なんせ廻り道や障害物なんて気にせずに真っ直ぐ進めるので、馬車や歩きとは比べ物にならないぐらい速い。
「……あれはきっと第二次防衛線」
「レナはもっと向こうの第一次防衛線……のさらに先」
「……最前線に、居ると思う」
冷静に状況を見て、的確に判断する。
凄くクルミっぽくて頼りになる。
「防衛線って、そんなのしてないで」
「やっぱり正面突破よ!」
作戦も何も無いリナは相変わらずだ。
「副団長の苦労が伺える、ね」
僕がボソリと呟くとリナがすかさずツッコんでくる。
「うっさいわね!」
「作戦はレナが考えてくれるから、私は安心して正面突破出来るのよ!」
ツッコミというか……ノロケというか、リナからレナとの信頼関係が感じ取れる。
「ならレナを助ける為、なおさら急がないと……ね」
僕がリナにそう言うと、
「わかってる!わよ」
怒りながらもレナの事を心配している様子が伺える。
そうこうしている内に魔王軍本隊が見えて来る。
第一次防衛線の殆どは第二次防衛線に退き、再編成が始まっているようだ。
「あれ!」
クルミがいち早く何かを見つけ叫んだ。
「ゴブリンジェネラル?」
それは通常の雑魚ゴブリンよりも大きなゴブリンと戦うレナだった。
「レナ!」
リナが叫んだのは、そのレナが大きなゴブリンの持つ棍棒によって吹き飛ばされていたからだ。
「クルミ低く飛んで、このまま突っ込む!」
明らかなレナのピンチに僕はクルミにそう指示して剣を構える。
「……わかった」
クルミはシャドウ鳥の高度を下げ、地面を這うように飛ぶ。
「ちょ、体当たりでもする気!?」
リナが僕の指示にビックリして聞き返す。
僕はそんなリナを横目にクルミをチラ見する。
クルミはそっと頷き、僕の意図を汲んでくれる。
レナを襲うゴブリンジェネラルが、手に持った棍棒を振り上げ、今まさに振り下ろそうとしたその瞬間。
ズシャアァァァアア!
クルミのシャドウ鳥がゴブリンジェネラルの横を掠める様に飛び、僕はタイミング良く飛び降りると同時にその勢いを利用して棍棒を持つ腕を斬り飛ばす。
ザザザァァァッ……
飛び降りた勢いを上手く攻撃に乗せたので、着地の衝撃を緩和する事が出来た。
我ながら無茶な事をしたと思うが、それをする価値は十分にあった。
チラッと見ただけでもレナは満身創痍で、僕がここで振り下ろされる棍棒をどうにかしなかったら大変なことになっていただろう。
「ヴォォォォオオオ!」
右腕を落とされたゴブリンジェネラルが嬌声を上げ、その腕を落とした僕を睨むと同時に残った左手で殴りかかって来た。
僕はその攻撃に怯むことなく、既に技の構えに入っていた。
そう、今僕が持っているのは光輝闇暗炎竜剣。
「邪王暗黒流次元断層剣零式改」
僕はそう呟きながら手に持ったチート剣を振り抜き、トンデモ技を繰り出す。
振り抜いた光輝闇暗炎竜剣から凄まじい衝撃波なのか次元断層波なのかわからない凄まじい何かが出る。
その凄まじい何かはゴブリンジェネラルを一瞬で消し飛ばし、さらにその後方に居た多数のゴブリン達を巻き込んでいく。
ズゴォォォアアァァァァアアァァァァ!
爆音と閃光と闇と炎と、もうなにがなんだかわからない攻撃が魔王軍本隊と思われるゴブリン達を吹き飛ばした!
ゴォォォォォォォ……
「ふぅ~」
光輝闇暗炎竜剣を構えたまま僕は息を整える。
辺りにはそのトンデモ技の残滓なのか、黒いのか眩しいのかよくわからないものが立ち込めていた。
気付くと朝日が昇り始めていて、その眩しい輝きが僕を照らしていた。
「……昏き太陽の勇者」
そんな僕を見てレナがそう呟く。
「……へ?」
突然カッコイイ勇者呼びされて僕は素っ頓狂な声を出す。
と同時にレナの後方から声がする。
「「レナ〜!」」
旋回した後、着地したシャドウ鳥から降りてきたリナとモモである。
クルミもその後に続く。
「……リナ姉さん?」
レナが聞き覚えのある声に反応し、振り向く。
どうやら先程の素っ頓狂な返事は聞かれてない……ようで一安心。
「大丈夫?レナ」
レナの側に駆け寄り心配するリナ。
「足が……いま治療します!」
モモも駆け寄って来て、レナの足が負傷しているのを見てすぐに治癒を始める。
「レナ姉さん、どうしてここに」
「北の塔は?」
「勇者は?」
レナはまくしたてる様にリナに問いかける。
「勇者は……」
「あいつよ」
レナを間一髪で助けた僕をアイツ呼ばわりしながらそう言うリナ。
「あの人が……」
「あの方が勇者」
レナはそう呟きながら僕を見つめる。
「……さて」
リナがレナの無事を確認した所でそっと立ち上がり、何やら怖い顔をする。
「よくもレナを痛めつけてくれたわね……」
「この落とし前はつけてもらうわよ!」
そう叫びながら突撃したくて堪らない、そんな顔で魔王軍を睨みつけた。
「永太!クルミ、レナをお願い!」
負傷しているレナと、それを治療しているモモを僕とクルミに任せてリナは魔王軍に向かって駆け出す。
「ぁ、はい」
「……わかった」
リナのすごい剣幕に僕とクルミはそう返事する。
「覚悟しなさい!」
「これが王国騎士団、団長リナ様の」
「正面突破よ!!」
そう叫びながら魔王軍本隊へと突撃するリナ。




