64話 仕切り直し
ズシャアァア!
ズバァァァア!
魔王軍本隊に向けて突撃したリナはその力をいかんなく発揮し、魔王軍を薙ぎ払っていく。
千切っては投げ、千切っては投げといった感じだ。
副団長でありリナの双子の妹であるレナを傷つけられた怒りなのか、溜まったフラストレーションを吐き出して大暴れ出来るのが嬉しいのか……いやその両方か。
僕がチート剣のトンデモ技で吹き飛ばした後の魔王軍先行部隊の残党を、勢い良く蹴散らして行く。
「リナは相変わらずだねぇ」
僕はそう言いながら治療しているモモとリナの側に行く。
「貴方が……勇者様」
レナが僕を見てそう呟く。
「まぁ、詳しい説明はここを脱出してからにしよう」
先程僕が繰り出したチート剣のトンデモ技であらかた吹き飛んだとは言え、まだ近くにはチラホラとゴブリンが残っている。
正門近くの魔王軍先行部隊の残党はリナに任せるとして、モモがしているレナの治療の邪魔をさせないように露払いをしないと。
「クルミ!」
僕がクルミにそれを告げようとしたが、既にクルミは雑魚処理に動いていた。
「ぅ〜ん、さすがクルミ」
「僕も負けてられませんな」
隠密特殊部隊の陰の調律者No.3コードネーム【影法師】であるクルミは状況判断が速い!
ズシャアァア!
ズバァァァア!
まばらに残っていた雑魚ゴブリンをあらかた片付けた辺りで魔王軍本隊が引いているのに気付く。
王都の正門は開けられたままだが、そこから出てくるゴブリンが居なくなった。
「なに、もう終わり?」
「魔王軍本隊って大したことないわね」
散々大暴れして魔王軍に大打撃を与えたリナが、ドヤ顔で言い放つ。
まぁその大打撃の大半は僕のチート剣で出したトンデモ技なんだけどね……なんて言えずリナのドヤ顔を眺める。
「ひとまずこれで歩ける位にはなったと思います」
するとレナの治療に当たっていたモモがそう言う。
「ありがとう……ございます、モモ姫様」
レナはモモにお礼を言うと静かに立ち上がる。
「ありがとう、さすがモモ」
僕はそう言ってモモを労う。
浄化と癒しの聖女であるモモのおかげで、とりあえずレナの足の傷は回復した様だ。
「……レナ、大丈夫?」
クルミもレナの元に駆け寄り心配する。
「危機一髪やったなぁ〜」
肩に乗ったちびシャドウも顔を出す。
「……ってクルミ、大丈夫なの?」
「その影の能力見せちゃって」
クルミが普通にちびシャドウを出しているのを見て、レナが逆にクルミの心配をする。
「……大丈夫」
「もうみんなには伝えてある」
「私が隠密特殊部隊の陰の調律者No.3ということも」
レナの心配顔を他所にクルミはクールに淡々と答える。
「ぇ?」
「……そう、なのね」
一瞬驚いた顔をしたもののすぐに何か納得した様子のレナ。
東の塔でクルミがシャドウバレしたのだが、同じ陰の調律者No.2であるレナは当然そのクルミの影の力のことを知っている。
さらに言うなら、その影の力の事をモモやリナに伝えたいのに伝えれなかったというクルミの葛藤も知っていた筈である。
「あれ、レナはちびシャドウちゃんの事を知ってるんですか?」
ちびシャドウちゃんに驚かないレナを見て、そう問いかける。
「ぁ、えと」
「ねえ〜」
クルミとは違う理由だがレナも自分が隠密特殊部隊であり、陰の調律者No.2である事を隠している為に、ぼんやりとした返答で誤魔化そうとする。
「レナも同じ陰の調律者No.2だし、シャドウの事を見られても大丈夫でしょ」
レナにはシャドウバレしても大丈夫だよ、という意図で僕は喋ったつもりだったが、
「ぇ?レナもそうなんですか?」
「隠密的で特殊な部隊」
モモはレナが隠密特殊部隊とは知らなかったようで、僕が思いっきり口を滑らせた形になった。
「ぁ、え!?」
「なんで知ってる……んですか?」
レナは驚きながらも敬語に直し、僕に問いかける。
なんか僕、いらん事喋った?と気付き、えとぉ……となんて言おうか僕は考えていると……
「……永太には勇者の勘があるから」
「大体お見通し」
「……私もそうだった」
クルミのシャドウが最初から僕にだけバレていたのは昔の自分が作った自作ゲーム内異世界だからなのだが、それを勇者の勘として誤魔化していた。
そのおかげか、初対面なはずのレナの秘密を知っていても不思議ではないと、クルミが上手いこと説明してくれる。
なんかありがとう、クルミ。
「ぇと……そう、なんですね」
イマイチ理解しきれていないようだが、ひとまず納得するレナ。
「一応レナの事は……秘密みたいだから」
「ナイショ、ね」
つい口が滑ってしまったので、自分の口元に指を当ててナイショポーズをモモに向かってする。
「ぁ、はい」
リナと違い、なんとなくモモは察してくれた。
なんて事を話していると、リナが戻って来る。
「まったくもう、まだ暴れ足りないわね」
なんか恐ろしい事を言っているが……珍しく深追い正面突破せずに戻ってきたのは、やはりレナを心配してなのだろう。
「レナ、元気だった?」
大暴れしてスッキリしたのか満面の笑みでそう話すリナ。
「まぁ、あんまり元気ではないかな(汗」
危うく死ぬ所でさっきまで結構な怪我をしていたレナなので、苦笑いしながらそう返事する。
「魔王軍の侵攻が……止まってる?」
すると先程まで大挙して攻めてきていた魔王軍本隊が、王都の正門から出て来なくなっている事に気付いたモモがそう呟く。
「そうね、なんか出て来なくなっちゃったわよ」
もっと暴れたかった感を出し、ちょっぴり不満気に答えるリナ。
「ゴブリンジェネラルを倒せれば、一時的にでも侵攻を止めれるかと思っていたんですが」
「まさか魔王軍本隊の先行部隊を壊滅させるなんて……」
「リナ姉さんはともかく」
「勇者様のあのとんでもない技……凄まじい、ですね」
レナがそう言って僕を見つめる。
いえいえ、大した事ありませんよ……なんて言おうとした所で、
「気にしなくていいわよ」
「永太はいつもこんなんで、色んなもの吹き飛ばしてばっかりだから」
「洞窟の天井とか、クリスタルとか」
リナが割り込んで来て、いらん事を言い始める。
「クリスタル?」
レナがそう聞き返した所で、
「まぁ魔王軍が静かになったし、細かい事は一旦ここから退いてからにしようか!」
僕が北の塔のクリスタルを破壊しちゃった事とかを突っ込まれたり、追求されたりしたら話が長くなりそうだったので僕は急いで話をすり替える。
「そう、ですね」
「恐らく魔王軍の先行部隊が壊滅状態になった事で」
「内部的に混乱状態なのか、こちらの様子を伺っているのか……」
「どちらにせよ時間が稼げるのは僥倖です」
「一旦、第二次防衛線まで下がりましょう」
レナが王都の正門を見ながら状況を解説してくれる。
「……そうだね」
「今のうちに」
クルミもそう呟き、第二次防衛線のある方向を見て退避を促す。
「わかりました」
「行きますよ、リナ」
モモもそう言って同意する。
「ぇ〜、まぁ、仕方ないわね」
「ぁ、レナ肩貸そうか?」
リナにしては珍しい言葉を発する。
いつも突撃ばかりのリナが素直に引くのは、レナの身を案じてなんだろう。
「大丈夫」
「ありがとう、リナ姉さん」
レナもリナを心配させないようにそう返し、立ち上がる。
なんて微笑ましい姉妹愛なのだろう、と僕が微笑ましく見守っていると、
「……なんかキモい」
クルミが僕のニヤけ顔を見てボソリと呟く。
「ぐふっ!」
その言葉に僕は謎ダメージを食らう。
こうしてレナの危機を救い、魔王軍本隊の先行部隊に大打撃を与えた僕達は、第二次防衛線まで下がり体勢を整える事にした。




