59話 シャドウウイング
「ふぅ〜」
頬を撫でる風が心地よい。
朝日はまだ登って無いが、夜だった空がだんだん明るくなのを眺めていた。
ここはどこかと言うと……空の上。
なんでこんな事になっているのかと言うと……それは少し前に遡る。
北の塔でリナの死亡フラグをちゃぶ台返しした僕は一安心していた、だけどある事に気付きリナに向かって叫ぶ。
「レナが危ない!」
「……って」
「なんであんたがレナの事知ってんの?」
僕の叫びを聞き驚いてリナがそう返す。
「ぇ、だって」
「王国騎士団の副団長でしょ?レナは」
リナの驚きを他所に冷静に返す僕。
「ぇ、まあそうなんだけど」
「あれ?私話したっけ?レナの事」
自分の顎に指を当てて、考えてるのか思い出しているのかというポーズを取るリナ。
「リナ双子の妹で騎士団の副団長」
「ヤンデレーナ(レナ)」
僕は顔をしかめているレナに向かって説明する。
そもそも騎士団の団長であるリナが、騎士団をほったらかして各地を周っていられるのはレナという優秀な副団長が居るからなのだ。
だってリナに騎士団を全部任せていたら猪突猛進の正面突破しかしない脳筋部隊になってしまう。
レナはそんなリナに代わって騎士団の内務や作戦立案などをしているのだ。
あと、重要な役目としてリナのブレーキ役というのがある。
そんな優秀な副団長が居るからリナの様な猛烈騎士団長でも騎士団が成り立っている、という訳である。
とは言えリナもお飾りの団長と言うわけでも無く、その素晴らしい剣技だったり、躊躇わず進む行動力を買われている。
なにより裏表の無い真っ直ぐな性格が人の心を惹きつける所が団長として選ばれた所以なのであろう。
「まぁ、それはそうなんだけど……」
「それでレナがどうしたって言うの?」
レナを知っていた事についてイマイチ納得のいっていないリナが僕に向かって問いかける。
まぁ、当然である。
王国騎士団の副団長の話は時折出てきたものの、レナの話自体は出てきてないし説明もされてない。
でも僕は知っている、なぜならここは昔の僕が作ったゲーム内世界……らしいのだから。
「この北の塔のクリスタルが無くなったって事は」
「王城に閉じ込めている魔王軍本隊の封印が解かれたって事になるんだ」
そう、僕はリナの死亡フラグをへし折る為に、ここにあった結界と封印の要であるクリスタルを天井ごと吹き飛ばしてしまったのである。
「……!」
僕の言った事の真意にいち早く気付いたモモが口を開き、
「王都周囲に防衛線を張っている王国騎士団と魔導師団」
「そこに魔王軍本隊が襲いかかる……」
「という事ですね」
僕の言いたいことのあらましを説明してくれるモモ。
「まあ、確かに大変なことだけれど」
「王国騎士団は無敵よ!」
「魔王軍だろうが本隊だろうが負けないわよ!」
いつものリナの謎の自信が炸裂する。
と言うか、副団長のレナの事を信頼しているから出る言葉なのだろうか。
だけど……
「もともと魔王軍本隊を王城に閉じ込めたのは」
「王国の全戦力では太刀打ち出来ないから、じゃ無かったっけ?」
僕はそんなリナに鋭いツッコミを入れる。
「そ、そんな事は無いわよ!」
「王国騎士団は最強なんだから!」
「主に私が!」
リナは強がりながら僕に向かって叫ぶ、が最後の一言がリナらしい。
「……まぁ、太刀打ち出来ないは言い過ぎかも」
「王国騎士団と魔導師団、それに隠密特殊部隊の全戦力で戦えばそれなりに持ちこたえる……事は出来そう」
クルミが状況を冷静に判断して答えてくれる。
「ほら見なさい!」
その答えに何故かリナがドヤ顔して返してくる。
「……ただ」
「魔王軍本隊との全面戦争になったら」
「深刻な被害が出るのは容易に想像出来る……」
さらに突っ込んだ説明をしてくれるがクルミだが、その顔は険しい表情だ。
「……なるほど」
「つまり防衛線を張ってくれている王国騎士団と魔導師団に危機が迫っている」
「そういうことですね」
モモがリナにも分かりやすく噛み砕いて説明してくれる、うん有難い。
「まぁ、確かに」
「危険が危ないってことなのね」
リナがわかったようなわからない様な返事をする。
「そういう……事かな」
大筋はそうなのだが、僕には別の懸念事項がある。
この北の塔でリナが死ぬ筈だった死亡フラグを全力回避した。
だけど本来のシナリオでリナが死んだ場合、副団長のレナがリナの代わりにこのパーティーに入る事になっていたのだ。
レナは本来ポニーテールでは無いのだが、リナの形見である髪留めを渡して、それを付けてレナはポニーテールになる。
レナはそのポニーテールに魔王軍への復讐を誓い、闇化するといった具合だ。
いわゆる主要キャラが死んだ後に瓜二つの双子が突然現れ仲間になるというアレでである。
だけど今リナは生きている。
そのメインシナリオの流れをちゃぶ台返しした為に、正直ここから先はゲームを作った僕でも先が読めない。
ここからは憶測だが、本来死ぬ筈だったリナの代わりにレナが死ぬ流れに補完される恐れがある。
クリスタルが破壊され王城の封印が解かれ、丁度いい具合にレナがピンチを向かえそうだからだ。
だから、「レナが危ない!」となるわけである。
「じゃあ、急いで王都に向かわないと」
「えっと……なんか夜が明けてきそうだし」
「北の塔の馬車の始発とかってあったんだっけ?」
リナがそう言って僕達に問いかける。
「……いや」
「今さっきまでこの北の塔というか番犬の山砦は暗黒四天王に占拠されてたんだし」
「そんなのあるわけ無いし」
リナのボケに対して僕はクールにツッコむ。
「じゃあ、どうするのよ!」
「王都まで走るの?」
リナがそう言って僕につっかかって来る。
なんか久しぶりにリナのキレ散らかしが発動して、なんだか微笑ましい。
「走って行くのはちょっと無理がありますね」
「結構な距離です」
モモが冷静に回答してくれて、モモの優しさを感じる。
「なので……」
「クルミにお願いしようかな、と」
僕はそう言って静かに話を聞いていたクルミを見る。
「……私?」
相変わらずクールに返答するクルミ。
「そう」
「クルミにお願いしたいのは……」
「シャドウウイング!」
僕はクルミに向かってカッコイイ謎の技名を叫ぶ。
「……」
「シャドウウイング?」
キョトンとした顔でクルミは僕に聞き返す。
まぁ当然である、このシャドウウイングという技名……今僕が思いつきで付けた名前なのだから。
なので改めてクルミに説明する僕。
「ぇと、あのクルミが乗ってたっていう」
「シャドウが鳥になれるって技の事なんだけど」
クルミが幼い頃居たというメイジ村のカシューおじいさんから聞いた話で、シャドウが鳥に変化してクルミを乗せて飛び回っていたという件の事である。
「……なるほど」
「その鳥にみんなを乗せて王都まで行きたい……という事」
「理解」
すぐに僕の意図を理解してくれてクルミは本当に有難い。
「私達四人も乗せて飛べるのですか?」
「それに……悪目立ちしてしまうって言ってましたから」
人を乗せて飛べるほどの大きな鳥が普通に飛んでいたら目立ってしょうがないという訳だ。
しかもクルミは隠密特殊部隊なのでそういう目立つことは極力避けたい的な事も言っていた。
モモはそれを心配してクルミに問いかける。
「人数的な事は……大丈夫、四人位なら頑張ればイケる」
「目立つという件は……」
「緊急案件だから、そんな事言ってられない」
「ってこと……だよね」
クルミはそう言いながら僕の方を見る。
「うん」
「クルミ的にはどう?」
僕はクルミの問いかけに頷いたあと、クルミの意志を確認する。
クルミが嫌だと言うなら無理強いはしたくないからね。
「大丈夫……」
「ここぞというときには」
「出し惜しみはしない」
さすが隠密特殊部隊の陰の調律者No.3であるクルミ。
技の使い所を心得ている。
クルミはそう言ってちびシャドウを手に乗せたかと思うと、
ズオォォォォォォォォ……
シャドウが巨大な鳥……カラス?に変化した。
「「ぉお〜」」
僕とモモ、リナはそれを見て思わず声を上げる。
「さすがクルミね」
リナが素直にクルミを褒める、僕にもそんな態度して欲しいな……なんて思った。
「カワイイですね、鳥シャドウちゃん」
モモが鳥になったシャドウを撫でながら謎の愛称で呼ぶ。
「……で、ちなみに」
「この技、本当はなんて言うの?」
僕は素朴な疑問をクルミにぶつけてみる。
「……」
「ぇと」
「影の翼」
「……今決めた」
少し間が空いたあと、僕をからかうようにクルミは不適に微笑みながらそう答えた。
「今決めたんかぃ!」
そんなクルミに条件反射でツッコミを入れてしまう僕。
てな事で僕達は巨大な鳥になったシャドウ……もといシャドウウイングに乗りこみ、リナが叫ぶ。
「さぁ行くわよ!」
「いざ王都へ!」
こういう号令はリナの十八番だ。
といった具合で空の上で風を浴び、僕達は王都へと向かっているのである。




