58話 ちゃぶ台返し
昔の僕が作ったこのゲーム。【エイタークエスト 〜伝説の始まり〜】
自分の名前を入れたイタイ黒歴史な自作ゲーム。
そのゲーム内らしき世界に居る僕は、ずっとメインシナリオから外れないように進めてきた。
やろうと思えば四つの塔なんて無視していきなり魔王討伐、なんて事も出来た。
それでも各地の塔を周り、数々の冒険を乗り越えて来たのはこのタイミングを見極める為だった。
このリナの死亡シナリオ、それを回避する為にここまでメインシナリオをなぞって来たのである。
この世界は多少の事なら辻褄を合わせてくれたり、都合のいい補完をしてくれたりする。
なので、もっと前からメインシナリオの流れを変えようとしてもシナリオの辻褄を合わせてきたり、都合よく補完したりしてリナの死亡シナリオの流れに戻ってきてしまう可能性があった。
実際に死亡シナリオ回避用にとリナにヴァーンパークで手に入れた聖剣を渡そうとしたが、辻褄合わせなのかリナは受け取らなかった。
だから辻褄を合わせようもなく、上手いこと補完も出来ないほどに直前でこの死亡シナリオのフラグを完全にへし折る必要があったのだ。
普通にシナリオを進めているだけでは手詰まりだったかもしれない。
でも今の僕にはこの展開を覆す事が出来る手札がある!
リナが意を決して話すその瞬間。
「……頼んだ、わよ」
そこまで言ってリナは禍々しい呪いと闇の魔力に覆われたクリスタルに向かって行く。
そう!ここが岐路だ!そのタイミングで僕は行動を起こした。
チート剣である光輝闇暗炎竜剣のトンデモ技、邪王暗黒流次元断層剣零式改でリナの死の元凶そのものを消し去る!
ズゴォォォアアァァァァアアァァァァ!
爆音と閃光と闇と炎と、もうなにがなんだかわからない攻撃がクリスタルもろとも北の塔の最上階の天井をも吹き飛ばす!
ゴゴゴゴゴゴ……
禍々しいクリスタルがあったその場所は跡形も無く、何かの消し炭や破片やらが飛び散って居るだけであった。
「ふぅ~」
光輝闇暗炎竜剣をアイテムボックスにしまいながら、僕は息を整える。
「ちょっとぉ!!」
「危うく死ぬ所だったんですけどぉ!」
トンデモ技に巻き込まれない様、間一髪所で僕の攻撃を躱したリナが怒りながら叫ぶ。
僕はそんなリナを見て微笑みながら呟く。
「そうだね、危うくリナを死なせる所だったよ」
「……っ!」
僕のその言葉の意味を理解し、リナは口ごもる。
自分の命を犠牲にしてクリスタルの呪いと闇の魔力を引き受けようとした事を思い返し、言い返す事が出来なかったのだ。
「ぅあぁぁぁあ」
「リぃいナぁぁあ」
モモが泣きながらリナに抱きつく。
「……ちょ、モモ」
激しく抱きつかれたものの、自分のしようとしていた事とモモの想いを考えると引き剥がすことも反論も出来ずに、モモと一緒に倒れ込む。
「よがったぁぁあ」
「リぃいナぁぁあ」
モモはリナを強く抱きしめたまま泣きじゃくる。
リナは寝そべりながらモモの頭を静かに撫でていた。
僕はそんなリナとモモを見つつも周囲の警戒をしていた。
リナの死亡する元凶となったクリスタルは完全に消滅したものの、謎の補完力によってリナの身に危険が及ぶかもしれないと思ったからだ。
だが、天井の吹き飛んだ北の塔の最上階にある広間は静寂につつまれ、空に瞬く星空とモモの泣き声だけが響いていた。
倒れ込んだリナの胸の上で泣いていたモモも落ち着いて来て、どうやら辻褄合わせも謎の補完も起きない様なので僕は少し胸を撫で下ろす。
すると、クルミがそっと近づいて来て、
「……ありがとう、永太」
そうボソリとつぶやく。
それに合わせて落ち着いてきたモモは涙を拭いながら、
「ぁ、ありがどぅ、ございまずぅ」
「永太さまぁ〜」
止まっていた涙が再び大量に流れ落ち、僕にそう叫ぶ。
リナもムクリと起き上がり、優しい顔をしモモの頭を撫でながら、
「あり……がとう、永太」
そこまで言った所で、
「ってか!やるならさっさとやりなさいよ!」
「危うく死ぬ所だったじやない!」
「まったく……もぉお!」
そんな憎まれ口を叩きながらも目にはうっすら涙が滲んでいる。
僕はその涙に気づきながらも黙って見守っていた。
そんな静かな時間が過ぎていたが、クルミがボソリと呟く。
「……あれ、どうしよう」
そう言って見つめる先には何も無かった。
「って、何も無いじゃない!」
「クリスタルはどこ?」
クリスタルのあった場所には……僕が天井ごと吹き飛ばしてしまった為、もはや何も無かった。
そのクリスタルはこの国の結界の要であり、王城に居る魔王を封印結界を構成する大事な塔の一つだった、がそのクリスタルはもう影も形も無い。
「大事な結界のクリスタルが無くなったら」
「大変な事になっちゃうわよ!」
「どうしてくれるのよ!永太!」
クリスタルが無くなるとどうなるかは、余り良くわかって無さそうなリナが僕に向かって叫ぶ。
「確かに大事なクリスタルだったね」
僕はリナの叫びに冷静に答える。
「そうよ!」
リナがいつもの調子で僕につっかかってくる。
「……でも」
「リナの方が大事だった」
自分でも分かるぐらいのキメ顔でリナにそう言った。
「……っ!」
「それを言われたら……何も反論、出来ないじゃ無い」
リナは顔を背けながら、そう呟いた。
ちょっぴり照れた様にも見えたが、僕は気付いてない振りをする。
「ぞうでずよリナ〜、なんで」
「なんであんなことを〜」
モモは相変わらず泣きながらリナに詰め寄る。
「……ぁ、えと、ほら」
「この国を護る騎士団長の役目というか……」
「責任感というか……」
リナが珍しくモゴモゴしながらモモに説明する。
「……それでも、ダメです〜」
「……リナが居なくなっちゃったら」
「誰がこの国を守るんですか〜」
グスングスンしながらモモはリナに向かってそう告げる。
「そう……ね」
「この国……そして」
「モモはこれからも私が守るわ……」
泣いているモモをあやすように頭を撫でながらリナはそう呟く。
「って」
「上手いこと丸め込まれたけど!」
「ホントどうするのよ」
今度は落ち着いた感じで再び僕に問いかけるリナ。
「まぁ……なんとかなるでしょ」
「というか」
「僕がなんとかするよ」
「勇者だし!」
そう言ってみんなにおちゃらけて叫ぶ。
おちゃらけて叫ぶ僕にいつもの様な鋭いツッコミが来るのかな?と思いきや、
「……そうね」
「期待しているわ」
「……勇者様」
静かにそう言ったリナの顔は微笑んでいるように見えた。
そんなやり取りをしていると天井の無くなった塔の最上階から見える空がうっすら赤くなってきた。
夜が明けてきたのであろう、それほどまでに険しい戦いだった……なんて脳内ナレーションが流れる。
すると僕はある事に気付く。
「そういう事か!」
「リナ!」
そう言ってリナに向かって叫ぶ僕。
「ちょ、いきなり何よ!」
急に呼ばれて驚くリナ。
「レナが危ない!」
そんなリナに僕は再び叫んだ。




