57話 ツンデリーナ死す
「04:39.18」
みるみる内にカウントが減る。
本来はこの国を護る結界の力の源となるクリスタルがどんどん昏く禍々しい呪いと闇の力に染まって行く。
それと同時にその呪いと闇の力からもの凄い威圧感と黒い霧が広がっているのがわかる。
ゴブシが言った呪力爆発でこの塔や砦もろとも吹き飛ぶと言ったのは、この状態を見れば本当なのだろうと信じざるを得ない。
この場から急いで脱出すべきなのだろうが、リナが魔力障壁の中に居て取り残されている状態である。
また、魔力障壁のせいでその外に居るモモがクリスタルの浄化に向かえないのである。
と言ってもとてもカウント内ですぐに浄化しきれる様な状態でも無い。
それでもクルミが魔力障壁のコントロールパネルらしき物を操作し、その障壁を解除しようと試みているが一筋縄では行かない様子である。
さらに言うならこの魔力障壁を解除した上でリナを連れ、ここから急いで爆発に巻き込まれない場所まで逃げる……というのも時間的に厳しいと思える程に勢い良くカウントが減って行く。
まさに手詰まり……と皆が絶望の顔に染まり始めたその時、
「……大丈夫、ここは私がなんとかする」
「だから、ここから急いで離れて」
魔力障壁の内側に居るリナが、外側居るみんなに向かってそう呟いた。
「なんとかするって……どうやって?」
モモがそんなリナに向かって叫ぶ。
「あの呪いと闇の力、それを私が全部引き受ける」
リナがとんでもない事を言い始める。
「そんな、あんな大量の呪いと魔力の渦」
「とても人が耐えられる量ではありません!」
リナを制する様にモモが必死に叫ぶ。
「わかってる……」
「でも私しか出来ない」
「……大丈夫、呪いとか闇の魔力を食らうのは、何故か得意……になったのよ」
「あの変な試練でね」
リナが少々強引にモモを言いくるめようと……しているのがわかる。
「だから!」
「モモ、後のことは頼んだわ!」
リナがモモに向かって叫ぶ。
「クルミ!」
「モモを、お願い」
クルミにもリナはそう告げる。
「……そして」
「勇者永太!」
初めて僕を名前呼びし、さらに勇者とまで呼んでくれて、
「絶対に!」
「モモを、クルミを、この国を」
「救いなさいよ!」
リナがそう続ける。
「……頼んだ、わよ」
そこまで言ってリナは禍々しい呪いと闇の魔力に覆われたクリスタルに向かって行く。
「リナぁぁあ!」
魔力障壁の外側に居るために止めることも出来ず、必死に叫ぶモモ。
「……くっ!」
必死に手を動かし、魔力障壁を解除しようとしているクルミ。
「うぁぁあぁあああ!」
禍々しい呪いと闇の魔力の渦に飛び込んだリナは両手でクリスタルに触れたかと思うと、その禍々しい渦を自身の身体に取り込もうとしている?
黒く昏い霧がリナの身体にどんどん吸い込まれて行く。
「ぐぁぁぁぁあああぁぁ!」
リナの身体が少しずつ、呪いと闇の魔力に侵食されていき黒い痣が身体に現れる。
「ゔぁぁぁぁあああ!」
リナの身体からは血が吹き出し、口からは血を吐く。
「もぅ、やめて!」
「リナぁぁあ!」
そんなリナを見てモモは泣き叫ぶ。
「00:58.32」
カウントが一分を切るが、クリスタルは未だ禍々しい黒い闇に覆われている。
「間に……合わない……」
泣きながらコントロールパネルを操作し、魔力障壁を解除しようとするクルミ。
「ぐぁぁぁぁあぁぁぁあ!」
全身から血を吹き出し、それでも呪いと闇の魔力の渦を自身の身体で引き受けようとするリナ。
「00:28.41」
カウントが30秒を切る。
北の塔の最上階には魔力の渦と色々な感情が渦巻いた叫びが響く。
「00:08.12」
カウントは10秒を切る。
「00:04.57」
「00:03.23」
「00:02.02」
「00:01.15」
「00:00.31」
……そしてカウントはゼロになる。
「リナぁぁぁぁああ!」
モモがそう叫びクリスタルとリナは黒い閃光に包まれ、それと同時に凄まじい轟音と衝撃波が魔力障壁内に広がる。
「モモ、危ない!」
魔力障壁を叩きながら泣き叫んでいたモモを引き剥がし、護る様に床に覆いかぶさる僕。
すぐさま魔力障壁にヒビか入ったかと思うと、一瞬で砕け散り衝撃波と煙と轟音が僕達を包み込む。
「……」
「……いたた」
轟音と衝撃波が凄すぎて何がなんだか分からない状態だったが、徐々に煙が晴れていく。
「……モモ」
クルミもどうやら無事だったようで、僕とモモの側に来て声をかけてくる。
激しい衝撃波と轟音が僕達を襲ったものの、魔力障壁のおかげもあってか多少のかすり傷程度で済んでいるようだ。
「ぅ、う……ん」
魔力障壁から離れるように庇ったおかげか、モモもなんとか無事の様である。
「!?」
「リナ、リナは?」
気がつくと同時にモモはそう叫んで呪力爆発の中心地であるクリスタルの方を向く。
「……」
「!?」
やがて煙が晴れていき、見えて来た……のはクリスタルだ。
おそらく呪いと闇の魔力の大半をリナが引き受けたからなのだろう、本来ならば北の塔や砦ごと吹き飛んでいたはずの呪力爆発の威力が抑えられたのだ。
そのおかげでクリスタル含め北の塔や僕達は無事だったのである。
「クリスタルは、無事……」
「じゃあ、リナは?」
僕に抱えられていたモモはそう言いながらゆっくり立ち上がる。
「……あれは」
やがて土煙の向こうにクリスタルの側に立つ人影が見えてくる。
「リナ!?」
モモがすぐさまその人影に向かって駆け出し、僕とクルミもそれに続く。
「……!」
クリスタルに近づき、その人影を確認したモモが絶句する。
身体中血だらけで身体には呪いなのか闇の魔力なのか分からないドス黒く変色した斑な痣が全身にあるリナだった。
そんなリナがフラリと倒れ込むのを僕が急いで抱える。
リナを抱えながらそっと膝をつき、顔を覗き込む。
凄まじい呪いと闇の魔力の渦と呪力爆発をその身に引き受けたのであろう、顔の半分は焼けただれた様になっている。
「リナぁぁ、リナぁぁああ……」
そんなリナを見てモモは嗚咽を漏らしながら叫ぶ。
「……モモ?」
「無事だったのね……よかった」
「ゴホッ」
今にも消え入りそうな声で呟きながら血を吐くリナ。
「今!助けるからぁあ」
大粒の涙を流しながらモモは治癒と浄化の聖女の力を使いリナの傷を治そうとする。
「ぅあ……ぁ、ぅぁぁあ」
「なんで……なんで治らないの」
「リナが……リナがぁ」
モモが必死に治癒の力でリナの治療を試みるも回復する様子は無い。
その身に受けた大量の呪いと闇の魔力は深く、もはや治療不可能なほどであった。
「……モモ」
「……貴方は、この……国を照らす……聖女よ」
「……だから、笑って、いて……」
目が見えていないのか、もはや視線が定まっていないリナがモモに対してか細い声でそう呟く。
「……クルミ」
「……モモを、支えて……あげて……」
リナは命の残り火を精一杯燃やし、手を伸ばしクルミにも告げる。
「……っ」
クルミは泣きそうな声をグッと堪え、リナの言葉を聞く。
「……永太」
「……」
「……お願い、この国を……救っ……て」
リナはそこまで言うと、リナの手は力なく地面に落ちる。
「ぅぁぁああ!」
「リナぁぁあ!」
モモが泣き叫ぶも、リナからの返事は無く泣き声だけが虚しく響いていた。
そこから誰も口を開かず、静寂が永遠に続くと思われたが僕がそっと口を開く。
「リナの……想いを無駄にしない様に」
「僕達がこの国の平和を取り戻すんだ!」
「さあ行こう、魔王の待つ王都へ!」
と、叫ぶまでがこの北の塔のメインシナリオの流れ……なのだが、こんなシナリオなんてクソ喰らえだ!
昔の僕が漫画かアニメのキャラが死ぬ話に影響を受けて、唐突に入れてきたこの北の塔の話の流れ。
北の塔でこんな事になるのを知っているのは僕だけだ。
昔の僕は主要キャラがカッコよく死ぬことで話が盛り上がるなんて安易な考えだっただろうが、今の僕は違う!
そう、キャラの命の重さ……ハッピーエンドの尊さを!
だから僕はちゃぶ台返しを敢行する!
そのタイミングは、リナが闇に染まったクリスタルに向かうその直前。
「勇者永太!」
初めて僕を名前呼びし、さらに勇者とまで呼んでくれて、
「絶対に!」
「モモを、クルミを、この国を」
「救いなさいよ!」
リナがそう続ける。
「……頼んだ、わよ」
そこまで言ってリナは禍々しい呪いと闇の魔力に覆われたクリスタルに向かって行く。
そう!ここが岐路だ!そのタイミングで僕は叫ぶ。
「リナは!」
「絶対に!」
「死なせない!」
そう叫び、光輝闇暗炎竜剣を取り出し構える。
「ぇ?ちょ……」
カッコよくクリスタルに向かおうとしたリナが、僕の雄叫びのような叫びにたじろいで振り向く。
そんなリナに一言。
「上手く避けてね!!」
リナの返事も聞かずに僕はそのまま、チート剣のトンデモ技を繰り出す。
「邪王暗黒流次元断層剣零式改!」
振り抜いた光輝闇暗炎竜剣から凄まじい衝撃波なのか次元断層波なのかわからない凄まじい何かが出る。
その凄まじい何かは魔力障壁を紙くず同然にぶち破り、禍々しく光るクリスタルに直撃する。
ズゴォォォアアァァァァアアァァァァ!
爆音と閃光と闇と炎と、もうなにがなんだかわからない攻撃がクリスタルもろとも北の塔の最上階の天井をも吹き飛ばした!
ゴゴゴゴゴゴ……
禍々しいクリスタルがあったその場所は跡形も無く、何かの消し炭や破片やらが飛び散って居るだけであった。
「ふぅ~」
光輝闇暗炎竜剣をアイテムボックスにしまいながら、僕は息を整える。
「ちょっとぉ!!」
「危うく死ぬ所だったんですけどぉ!」
リナが怒りながら僕に向かって叫ぶ。
僕はそんなリナを見て微笑む。




