56話 拳のゴブシ
タッタッタッ
モモとリナが塔の最上階を目指して走る。
「なんだかすんなり北の塔に入れたわね」
砦に入ってからは特に迷うことなく、北の塔に行くことができた。
クルミが魔力管制室から隔壁などを操作し、分かりやすく誘導してくれていたおかげなのだがリナはあまりわかってはいなさそうである。
「クルミのおかげ、ですかね」
モモはそのあたりをわかっているようで、リナにそう告げる、
「さすがクルミね」
「私も負けてられないわよ」
こういう負けず嫌いな所が騎士団長たる所以なのであろう。
タッ
リナとモモは階段を登り塔の最上階に着き、結界の要であるクリスタルがあるであろう広間の扉の前に立つ。
「さぁ、突撃よ!」
正面突破で猪突猛進なリナは早速そのを開けて広間に突入する。
モモもそれに次いで広間に入って行く。
ザッ
リナがすかさず剣を構えて警戒する。
広間の奥にクリスタルがありその側にいたのは……暗黒四天王最後の一人。
「あんたが最後の一人ね!」
「この王国騎士団長のリナ様が来たからには覚悟しなさい!」
リナはその暗黒四天王最後の一人に向かって叫んだ。
「……まったく」
「下は壊滅状態の様だな」
「この砦は落とすのに苦労したのだぞ」
その暗黒四天王最後の一人はリナとモモに向かってそう呟く。
「残念だったわね」
「ついでにあんたも壊滅状態にしてあげるわ!」
リナがその最後の一人に向かって啖呵を切った。
「生意気な口を!」
「拳のゴブシの力、とくと見せてやる」
暗黒四天王最後の一人、拳のゴブシはそう告げるとリナに対し手甲の付いた拳を構える。
「てぇえぇぇぃ!」
リナも剣を抜きゴブシに向かって鋭い斬撃を繰り出す。
キィイイイン!
ギイィィィン!
リナの剣とゴブシの拳が打ち合う音が広間に響き渡る。
「あんた、なかなかやる……いや、やらないわね」
リナが相手の技量を褒めようとして慌てて訂正する。
「ふっ」
「時間が掛かったがそろそろか」
ゴブシが意味深な事を言ったかと思うと広間の中心に大きな魔法陣が現れる。
「ぇ?」
足元に急に現れた魔法陣にリナが驚く。
「これは!?」
その魔法陣はリナとゴブシを覆う程の大きなものだ。
それが光ったかと思うと魔法陣を中心に半円状のドームの様な物が展開される。
「魔力障壁?」
先程砦を包んでいたのと同じ様な魔力障壁が、リナとゴブシの周囲に広がる。
「リナ!」
モモは魔法陣の外側に居て、魔力障壁に閉じ込められたリナに向かって叫ぶ。
「……こんなので私が止められるとでも?」
魔力障壁の中に閉じ込められているリナが、同じくその中に居るゴブシに向かって呟く。
「ふっ」
「雑兵を閉じ込めるためにこんな事をした訳では無い」
「聖女に邪魔でもされては困るからな」
ゴブシはそう言いながら歩き始める。
「……どういう事?」
リナに向かうわけでもなく横に歩くゴブシを睨みながらリナがそう返す。
「リナ!あれを」
そう言ってモモは広間の奥を指差した。
リナはモモの言われた方向を見ると……
「……あれは」
リナの目にしたものはこの塔の結界の力の元であるクリスタル……のはず、
「何?あれ、本当にクリスタル?」
リナの見つめる先には黒く禍々しい闇の霧に包まれたクリスタル?だった。
西や南、東の塔でも闇に染められているクリスタルを見てきたが、このクリスタルを覆う闇は今までの比では無い程に黒い……いや昏い。
「ここまで闇の力を凝縮させるのに」
「時間が掛かってしまったがな」
「今まで各地の塔を落とされるのを、黙って見ていた訳では無い」
「敢えて貴様ら勇者一行を泳がせ、各地を周らせる事で」
「このクリスタルをここまで闇に染める為の時間を稼いでいたのだ」
その禍々しいクリスタルの前に立ち話し始めるゴブシ。
「ふん、どれだけ時間を稼ごうが私達には」
「治癒と浄化の聖女、モモが居るのよ」
「そんな闇、直ぐに打ち払ってくれるわ」
リナがモモをチラ見しながらそう言ってゴブシに言い返す。
「ふっ」
「だから治癒と浄化の聖女に邪魔をされては困るのでな」
「この魔力障壁を利用させて貰ったのだ」
リナとゴブシを覆う魔力障壁、それはその禍々しいクリスタルを中心に展開されていた。
モモはその外側に居て、この状態では今迄の様にクリスタルを浄化しに行く事が出来ない。
「ふん、そんなの」
「私があんたを倒して魔力障壁とやらもぶっ飛ばしてしまえば」
「全部解決よ!」
リナがゴブシに向かって剣を構え、そう叫ぶ。
「そう上手く行くかな?」
ゴブシはそう言って手甲の付いた両手の拳を打ち合わせると、その両手の拳が燃え炎を纏った。
ギィイイン
キィィィィィィィン
炎を纏ったゴブシの拳とリナの剣が勢い良く打ち合い、激しい音を立てる。
「くっ!」
ここまでの戦いを乗り越えて来たリナの剣技は凄まじく、暗黒四天王であるゴブシを凌駕しつつあった。
「これで最後よ!」
リナが体勢を崩したゴブシの隙を見逃さず、ゴブシに向かって斬撃を繰り出す。
ズヴァァァァァァァアア!
リナの鋭い剣筋がゴブシに直撃したその瞬間、広間の裏口の扉が
開く。
「……リナ!」
広間に入って来たのは裏口から侵入していたクルミと勇者である永太だった。
「ヴァァアアァァァ!」
リナの斬撃が直撃したゴブシが叫び声を上げる。
「ふっ、これで暗黒四天王も終わりね!」
リナがドヤ顔でゴブシに向かってそう叫ぶ。
それを見守っていたモモにクルミと永太が駆け寄る。
「……これは?」
リナとゴブシを覆うドームを見てクルミがモモに問いかける。
「魔力障壁みたいです」
「この塔のクリスタルと一緒にリナが閉じ込められてしまって」
「この障壁のせいでクリスタルの浄化も出来ない状態なのです」
駆け寄って来た二人にモモがそう説明する。
「……クックック」
するとリナの斬撃を受けたものの倒れず踏みとどまっていたゴブシが笑い始めた。
「……まだやられていなかったの?」
リナがそう言って再び剣を構えるものの、ゴブシの受けた傷は深く明らかに致命傷であるのは明白だった。
それでもゴブシはまだ倒れず、リナに向かって叫ぶ。
「クックック……」
「もう……時間稼ぎは終わりだ!」
「貴様ら全員、道連れにしてやる!」
もはや絶命寸前のゴブシがリナと魔力障壁の外にいる三人に向かって叫んだ。
「……なにそれ、負け惜しみ?」
ゴブシの話を聞きがながらも警戒したまま剣を構えるリナ。
「……このクリスタルは、グフッ」
「間もなく……大量に蓄えられた禍々しい呪いと闇の魔力により……」
「呪力爆発を起こす!」
ゴブシは口から血を吐きながらそう説明する。
「「ぇ!?」」
リナを含め魔力障壁の外に居る三人はその衝撃発言を聞き、驚く。
「その呪力爆発の威力の前では魔力障壁など紙くず同然」
「この塔はおろか砦もこの周囲一体吹き飛ばす程の爆発!」
「貴様ら全員木っ端微塵だ!」
ゴブシは両手を広げ高らかに叫ぶ。
「そ、そんなの浄化でなんとか……」
「なるわよね?」
ゴブシの言葉に少々不安になったリナがモモの方を向いて問いかける。
「ぇ、あ、えと」
「まずはこの魔力障壁をどうにかしないといけないですし」
「それに……この禍々しい呪いと魔力の渦」
「すぐに浄化出来るような状態では……」
昏く暗い闇と呪いに染め上げられたクリスタルを見つめ、モモがそう呟く。
「残念だったな……」
「もはや悠長な浄化などで止めることなど出来ん!」
「爆発まであと5分も無いのだからな!」
「これで……貴様らも、終わりだァァァ!」
ゴブシが断末魔の様にそう最後の言葉を叫ぶと、そのまま倒れ込んだ。
それと同時にクリスタルの前方にカウントが表示される。
「04:56.41」
今まで南の塔のクイズなどで表示されていたものと同じ様な表示だ。
表示されると同時にカウントがみるみる減っていく。
「!?」
そのカウントを見て驚くリナとモモを他所にクルミはすぐさま周囲を確認し、恐らく魔力障壁を制御しているであろうコントロールパネルらしき台へと駆け寄る。
「……くっ!」
キーボード操作のように目にも止まらぬ速さで何かを操作するクルミだが、その顔には珍しく焦りの顔が見えていた。
「……クルミ、いけそう……ですか?」
必死に魔力障壁を解除しようとしているのであろうクルミに問いかけるモモ。
「……っ!」
「……間に、合わないっ!」
いつもクールなクルミだが、凄まじい勢いで操作しながらも焦った顔で話す。
「……大丈夫、私がなんとかする」
すると魔力障壁の内側に居るリナが、外側に居るみんなに向かってそう呟いた。




