55話 正面突破
「どういう事?」
リナが目の前の状況を理解出来ずにモモに語りかける。
先程まで睨み合っていた雑魚ゴブリンが砦の内部防衛システムに攻撃されているのである。
ズガガガガ!
「ウボァーッ!」
ドガガガッ!
「ヴギャャァ!」
激しい音と共に雑魚ゴブリンの悲鳴が響き渡る。
程なくして正面扉側に居た雑魚ゴブリンは一掃されていた。
気付くと先程まで展開されていた魔法障壁も無くなっていて、砦の正面扉はガラ空きというか何時でも突入出来る状態になっている。
ガサガサ
森の中から物音がしてモモとリナはその音のした方を向く。
「クルミの方が上手くいったようじゃな」
するとカシューおじいさんが森から顔を出して解説してくれる。
「そうですね」
モモも瞬時に状況を把握して相槌を打つ。
「……って事は」
リナも状況を把握した様で目を輝かせながら、
「正面突破ね!」
今まで貯めていたフラストレーションを吐き出して、嬉しそうに叫ぶ。
「まぁ、そうですね」
リナが余りにも嬉しそうに叫ぶので、ひとまず同意するモモ。
「カシューおじいさんは危険ですので……」
モモがそこまで言いかけて、
「そうさな、ワシはここらで引くことにするさな」
モモの意図を汲んでカシューおじいさんはリナとモモに手を振り、再び森の奥へと姿を消した。
「それじゃあ」
「行くわよ!」
カシューおじいさんが身を隠したのを確認したリナは意気揚々と剣を構え、モモにそう叫んだ。
「はい」
「リナも気をつけて」
もう正面突破自体を引き留めはしないものの、一応リナに釘を刺す様に話すモモ。
「わかってるわ!」
リナもモモの意図を汲んで……いるのかいないのか良くわからないがそう返事して砦の正面扉へと向かった。
正面扉は既に開いており、魔法障壁も無い状態である。
その扉をくぐると砦内部は大混乱になっていた。
砦の内部防衛システムが雑魚ゴブリンに向かって攻撃を仕掛けているからである。
「……さすがクルミですね」
砦の魔法障壁や内部防衛システムを制御している魔力管制室を制したのは魔導師団及び隠密特殊部隊であるクルミだ。
そもそも僕達たった四人で多数の雑魚ゴブリンが居るこの砦を攻略すること自体普通に考えると無謀なのだが、この砦の防衛の要である魔力管制室を奪取したことにより形勢が逆転したのである。
と言っても隠密特殊部隊であるクルミの腕前があってこそであり、僕などの普通の一般人とかでは到底無理な所業である。
ともあれ魔法障壁を解除し、砦の内部防衛システムを掌握するクルミの手際の良さに感心していた。
剣と魔法の世界観の筈なのに近未来的な管制室で素早い指さばきを行い、砦の内部防衛システムを奪い返して砦内部に居る雑魚ゴブリンの掃討を始めるクルミの手腕に惚れ惚れする。
まぁ世界観的な事にはあえてツッコまないでおく事にする。
近代的な魔法科学とかよくある設定だしね。
なんて自分を納得させる。
魔力管制室のモニターには砦内の各所が映し出されており、砦正面側扉や砦内部に居た雑魚ゴブリンをみるみる内に殲滅していくのが見える。
その後、歓喜して正面突破するリナを魔力管制室のモニターで僕は眺めていた。
「……これで大体片づいた」
「ここまでは作戦通り、だけど」
そこまで言ってクルミが言い淀む。
「どうしたの?」
そんなクルミに僕は聞き返す。
「砦中央にある北の塔のシステムが切り離されていて」
「ここからでは制御出来ない」
「ひとまず北の塔への侵入経路は確保できたから」
「北の塔内部に向かう」
現在の状態と作戦の概要を丁寧に説明してくれるクルミ。
「了解」
素人の僕が口出しするより作戦の流れはクルミに任せた方が良いと感じ、素直に同意する。
「リナの方は大丈夫かな」
とは言え正面突破大好きなリナ側を心配して僕はそう呟く。
「砦内部から北の塔へ直接向かえる様に隔壁とかで分かりやすくしておいたから」
「多分大丈夫」
さすがクルミ、リナの猪突猛進で正面突破な性格をわかってらっしゃる。
「私達は裏側から、モモとリナは表側から塔に入る形になる」
「うまくいけば暗黒四天王の残りの一人を挟み撃ちに出来るかも」
さらにはその先の事まで考えているなんて、とても頼りになるなぁ。
「さすがクルミ」
「とても頼りになるなぁ」
なんて思った事がそのまま口に出ていた。
「……そんな、でもない」
褒められてちょっぴり照れくさそうなクルミがまたカワイイ。
「それよりも」
「北の塔へ向かう」
すぐに冷静さを取り戻したクルミと僕は既に正面突破し、先行しているモモとリナの元へと向かった。
この砦、番犬の山砦は北の塔の根元の周囲を砦として築き上げたものである。
なので砦と塔の根元部分は繋がっており、僕とクルミはその裏口から北の塔内部へと向かった。
道中の雑魚ゴブリンはあらかた砦の内部防衛システムにやられていたので、それほど苦も無く北の塔裏口から塔内部へと侵入出来た。
正面側のモモとリナも同じ様な状況で、表側から塔を登って最上階にあるクリスタルに向かっていると思われる。
恐らくそこには暗黒四天王の最後の一人が待ち構えているのであろう。
その暗黒四天王を打ち倒し、闇に染まったクリスタルを浄化する、それを目指して僕達は走る。
塔の一階は正面側と裏側に扉があり、僕とクルミは裏側から入った。
裏側にある階段は作業用とか避難経路で使うような無骨な階段である。
表側にある階段は恐らく大きくて見栄えの良いしっかりした階段なのであろう。
「リナは…下で待ってるわけ無いよね」
階段を見て僕はそう呟き、リナなら間違いなく猪突猛進するであろうことは見ていなくても簡単に想像出来た。
「モモとリナは先に上に向かった……みたい」
クルミもそう呟き、リナの猪突猛進は予測の範囲内の様で僕と同意見だった。
「よし、じゃあ」
僕がそこまで言いかけて、
「……上に向かう」
クルミが続きを言ってくれた。
タンタン
タンタン
静かな塔の裏口階段に足音だけが響き渡る。
この国の東西南北にあるこの塔は結界の要である。
魔王軍の侵攻と共に暗黒四天王によって占拠されてしまったのだがここまで西と南、そして東の塔も僕達たった四人で奪い返してきた。
王国騎士団や魔導師団などの王国軍はと言うと、王城を代償に魔王と魔王軍本体を王都に一時的に封印することが出来た。
だけど封印しきれなかった残党の対処や封印が破られた場合の対応の為に王都周囲に防衛線を張っているのである。
動けない王国軍の代わりに勇者の僕、というか僕達四人が動いているという訳だ。
まぁ普通に考えるとたった四人でこんな事をするなんて、無茶が過ぎる。
だから勇者と呼ばれている……のかなんて考えが頭をよぎる。
とは言え様々な事があったがなんとか乗り越えて来て、塔の奪還と解放も残すはこの北の塔のみとなった。
そんなはやる気持ちを抑えながら、最上階へと向かう階段を僕とクルミは登って行く。
タッ
僕とクルミは先行しているリナとモモを追いかけ、割と長かった階段を登り最上階へと着いた。
最上階には広間があり、その広間にはこの国の結界の要であるクリスタルがあるはずだ。
僕とクルミは広間へとつながる扉の前に立つ。
「じゃあ、行くよ」
僕が扉に手をかけてクルミにそう言う。
「……うん」
クルミは相槌を打ち、身構える。
ギィイイ
裏口とは言え結構な大きさの扉を僕は開く。
ギィイイン
キィィィィィィィン
激しい金属音と共に目に入って来たのは、戦っているリナとそれを見守るモモの姿だった。




