54話 陽動
それは少し前の事、砦の正面扉側でリナが作戦開始を高らかに叫んだ。
「いよいよ作戦開始ね!」
砦の正面扉側には大きな通り道があり、リナは藪から飛び出て通り道の真ん中に仁王立ちになり叫ぶ。
「さぁ、王国騎士団長リナ様のお通りよ!」
「かかってらっしゃい!」
正面扉には防備警戒の為のサーチライトがあり、その光が暗闇から飛び出て叫んだリナを照らした。
リナの強襲に気付いた雑魚ゴブリンがリナの方に向かって襲いかかる。
ズバァ!
ズシャア!
華麗な剣技で襲いかかって来る雑魚ゴブリンをバッタバッタとなぎ倒していくリナ。
「リナ様の実力はまだまだこんなものじゃ無いわよ!」
今までのフラストレーションを全部吐き出すように嬉しそうに戦うリナ。
「光の女神よ、その類稀なる数多の加護にて彼の者の力となれ」
後方にいたモモがリナに向かっていつもより念入りに詠唱をする。
パァァァ
リナの体がほのかに光り、多数の加護の効果が与えられる。
「攻撃力の他、各種能力アップよ!」
「さぁ、かかって来なさい!」
モモの援護を受けたリナが再び雑魚ゴブリンに向かって叫ぶ。
ズヴァァァァ!
ズヴォァア!
さらに襲いかかって来る雑魚ゴブリンを千切っては投げ千切っては投げ、というか華麗な剣技で薙ぎ払う。
「ひゃぁぁっほぉおぉい!」
なんだか浮かれすぎでテンションおかしくなって来ているリナ。
とは言え西や南の塔の時よりも雑魚ゴブリンの数は遥かに多い。
一騎当千のリナとは言え、多勢に無勢なのは目に見えて明らかである。
「リナ、一旦引きますよ」
次々押し寄せてくる雑魚ゴブリンを見てモモがリナに声をかける。
「ぇ〜、まだまだ行けるわよ」
リナがそう言って駄々をこねた。
「リナ、一旦引きますよ……」
同じ台詞を二度言うが、前回とは明らかに違う低いトーンで話すモモ。
「ぁ、はい」
それを聞いて何かを察したリナは大人しくなり、素直に返事を返す。
ザッザッ……
相手していた雑魚ゴブリンを切り払い、敵の流れが一瞬開いたタイミングでリナは藪の中に逃げ込む。
「こっちです」
そのリナをモモが先導し、指定の場所に連れて行く。
リナはモモから教えられた場所に立ち、追いかけてきた雑魚ゴブリンに向かって叫ぶ。
「さぁ、かかって来なさい!」
「この騎士団長リナ様が相手してあげるわ!」
おなじみの口上を叫び、雑魚ゴブリンに対して剣を構える。
叫びに気付いてリナの居場所を見つけた雑魚ゴブリンが襲いかかって来る。
が、そのタイミングでモモが叫ぶ。
「今です!」
その叫びと共に森の闇の中で何かが動いた音がしたかと思うと……
ズガァァァァアン!
ドゴォォォォォン!
轟音と共に暗い森の中から丸太が飛び出し、雑魚ゴブリンを吹き飛ばす。
さらに竹槍も多数飛んできて他のゴブリン達に命中する。
リナはと言うとその森のトラップの安全地帯とおぼしき場所なのだろうか、全く攻撃を受けていない。
「ウガァァア!」
「ウギャーァア!」
ひとしきりトラップが作動し、追いかけてきた雑魚ゴブリンの大半はやられていた。
「もう大丈夫です、リナ」
モモがそう言うと、
「わかったわ、任せて!」
すぐさまリナが返事をする。
そのまま残っていた雑魚ゴブリンを剣で切り払う。
ズバァァァッ!
ズシャアァア!
追いかけてきた雑魚ゴブリンをあらかた片付けて、一息つくリナとモモ。
「ふぅ、これでひとまず第一陣は倒したかしらね」
モモに向かってそう言うリナ。
「まだまだ先は長いです、気を引き締めて行きましょう」
自分にも言っているのだろうか、真剣な眼差しで話すモモ。
「……それにしても」
「このトラップえぐいわね」
「妙にタイミングバッチリだったし、モモがやったの?」
追いかけてきた雑魚ゴブリンの大半をやっつけたトラップをみてリナはモモにそう問いかける。
「私はリナを指定位置に誘導しただけですよ」
「タイミングは……」
そう言いながらモモは森の奥の方を見る。
リナもモモが見た方向を見てみると……
グッ!
と、親指を立ててウインクしている……カシューおじいさんだった。
「って、まじで?」
思わずリナが叫ぶ。
「まぁこのトラップはクルミが新しく仕掛けたり」
「元々あった物をクルミが流用しただけなんだが」
「クルミ、さすがワシ直伝のトラップ技じゃ」
なんて事を言いながらモモとリナに向かって再びウインクするカシューおじいさん。
「私もリナが出ていった後の作戦会議の詰めで」
「カシューおじいさんが参加するって言われて」
「ビックリしました」
リナの驚き顔を見てモモも苦笑いする。
「まぁでも、クルミの山での生活や生き方は」
「おじいさんから教わったものらしいので」
「ある意味山の師匠さん?」
モモがそんな事を言ってリナを納得させようとする。
「ぁ〜、まぁ」
「モモがそう言うなら」
イマイチ納得しきれてはいないがリナは返事した後、
「……とりあえず」
「まだまだ砦には敵がいるはずだから」
「正面突破を続けるわよ!」
そう話を続けて、作戦続行を改めて確認する。
「いや」
「陽動ですけどね」
モモがリナのキメ台詞に軽くツッコむ。
「そう、それ!」
リナも話を合わせて改めて叫ぶ。
「なので、トラップのタイミングは任せて下され」
カシューおじいさんもそう言ってキメ顔をする。
「では正面扉に戻りましょう」
といった感じで再び砦の正面扉前に向かうモモとリナ。
「さぁ、騎士団長リナ様のお帰りよ!」
なんてリナが正面扉付近に居る雑魚ゴブリンに対して挑発行為を再び行う。
何匹かはリナに対して襲いかかって来るものの、リナが森に入る素振りを見せると深くは追ってこず扉付近に戻り守りを固めるといった感じになっていた。
「何よ、根性無しね!」
深追いして来ない雑魚ゴブリンに少々不満気なリナであったが、
「これで注意を引きつけたまま時間が稼げますから」
モモはそう言って正面突破しそうなリナをなだめる。
僕とクルミはそんなリナを制圧した魔力管制室のモニターで眺めていた。
「……魔力障壁の解除はもう少しかかる」
何かのパネルを操作しながらクルミは呟く。
「というか、そろそろここが制圧されたのバレて」
「敵が魔力管制室に押し寄せてくるんじゃ……」
なんて心配を僕がしていると、
「その辺りについても対応中だから」
「一応魔力管制室の入り口を警戒しておいて欲しい」
クルミからそう頼まれたので僕は魔力管制室の閉じた入り口扉の横で警戒しながら耳を澄ませる。
すると……
ガヤガヤ
なにやら物音と共に話し声が聞こえてくる。
この感じだと追加の雑魚ゴブリン達がこの魔力管制室を再び取り戻そうと突入しそうな予感がする物音だ。
「クルミ、敵が来そうだ」
僕は冷静さを装いながらクルミにそう告げる。
「……大丈夫」
「間に合った」
何かの操作を終えたクルミが僕の方を向き、親指を立ててニヤリと微笑む。
と同時に扉の外が急に騒がしくなった。
ドドドドドドォォォォ
「ギャァァァ!」
ドガガガッ!
「ウボァーッ!」
けたたましい轟音と悲鳴が聞こえて来る。
僕は魔力管制室の扉を静かに開けて外の様子を伺うと……
「うへぇ〜」
その阿鼻叫喚というか地獄絵図に僕は変な声を上げる。
僕の目に映ったのはこの砦の内部防衛システムに攻撃されている雑魚ゴブリン達だった。
ズガガガガッ!
「フボウァァア!」
魔力トラップなのか、壁や床に魔法陣が現れてそこから魔力弾やら拘束魔法やらとにかく雑魚ゴブリンは壊滅していた。
「ぇ、こんなトラップが砦内にあったの?」
こっそりクルミについて来て侵入したが、こんな物があったと知っていたらビビリ倒していたかもしれない。
「大丈夫、解除コードや回避ルートは把握していたから」
なんて涼しげな顔で説明してくれるクルミ。
さすが隠密特殊部隊、敵に回すとこんな恐ろしい事になるのか……なんて僕は静かに思った。
「……魔法障壁も解除出来た」
「正面扉側も大丈夫」
魔力管制室のモニターに映し出された正面扉側の映像を見る僕。
「うへぇ」
先程と同じ声を出した僕が見たものは、正面扉側でも砦の防衛システムが雑魚ゴブリンに牙を向く映像だった。
「これでモモとリナの方も大丈夫」
そう言ってニヤリと微笑むクルミ。
うん、クルミには優しくしとこうと思う僕であった。




