45話 スクラッチ音
「リナ!それはマズイです!」
そのリナの行動にモモが叫んだ。
「ぇ、そんな急に言われても!」
リナが襲いかかって来る黒い板を剣で受け流した瞬間!
キィィィィィィィッ!!
部屋中に不快な音が響き渡る。
「ぅえぇぇぇえ!」
その音は黒い板とリナの剣が擦り合わされて発生した。
金属的な物で黒い板を引っ掻くと出るあの音である。
至近距離でその音を聞かされたリナは背筋に悪寒が走り顔が青ざめる。
「ふぇぇ」
「……くっ」
少し離れていたとは言え、その音を聞いてしまったクルミとモモも謎ダメージを食らった様だ。
リナを襲った黒い板は直ぐ様体勢を直して、再びリナに襲いかかる。
「ちょ!まって!」
不快音を聞かされ怯んでいたリナは攻撃に移ることもできずに防戦一方になる。
キィィィィィィィッ!!
キィイイイイイィィィ!
リナが黒い板を剣で防ぐ度、室内に不快音が響き渡る。
「うぇぇええぇぇ!」
「ふぇぇええぇぇ!」
攻撃を防いでいるのにものすごくダメージを喰らっているリナ。
「もぉぉおぉぉお!」
「いい加減にしなさいっ!!」
不快音に涙目になりながらも、リナは意を決して反撃に移る。
スバぁァァァァァァン!
キィイイイイイィィィ!
黒い板を切断する音と不快音が同時に起こり、黒い板が一刀両断される。
真っ二つになった黒い板は床に落ち、動きを止めた。
「うぅぉえ」
「ふぇぇ、なんなのよもう」
勝ったのはリナなのに不快音ダメージを食らいすぎてフラフラになっている。
「だ、大丈夫ですか?リナ」
フラフラのリナにモモが駆け寄る。
「……凄い厄災」
クールなクルミもさすがにダメージを受けた様だ。
「ホント……なんなのよ」
「これは今までで一番の厄災かも……」
「ってか!あんたは何やってたのよ!」
不快音が止んで元気になってきたリナが僕に対してツッコむ。
「ぁ、うん?」
リナの声が良く聞こえていない僕は適当な返事をする。
その僕は厄災が予想出来ていたので手で両耳を塞いでしっかりガードしていたのだ!
当然リナのツッコミも聞こえていないが、リナの言動でツッコんでいる事は理解した。
「終わったみたいだね」
塞いでいた手を下ろし、リナに向かって返事する僕。
「なんで、あんたは、しっかり耳を塞いでいるのよ!」
不快音ダメージを喰らっていない僕に対して不快感を露わにするリナ。
「あ〜、ぇと……勇者の勘的な!?」
実際は昔の僕が作ったゲームなので大体の展開を知っていたからなのだが、僕はいつもの言い訳で誤魔化す。
「……なんか、腹立つ!!」
スマートに厄災を回避した僕に苛立ちツンドラするリナ。
そんな所がまた微笑ましい。
「さすが永太様、勇者の試練という厄災にすぐに対応出来るなんて」
モモが相変わらず手放しで褒めてくれて嬉しい。
「まぁ……リナならこの程度の厄災はクリア出来ると信じていたからね」
僕がそう言うと、
「ま、まぁこれ位お茶の子さいさいだから!」
「クリアして当然よ!」
上手いことリナが調子に乗ってくれてチョロ嬉しい。
「……扉」
黒い板を倒した事により、次の試練へと続く扉が現れた。
「カレーうどんにタンスに不快音って……」
「なんか腹立つ厄災ばっかりね!」
リナがちょっぴりうんざりしながら僕達は次の試練へと向かった。
その後……醤油とソースを間違えてかけてしまう厄災とか、調味料の蓋が取れたりして思ったより大量に掛かってしまう呪いとか。
トイレに入ってトイレットペーパーが無い厄災とか、先生をお母さんと言ってしまう呪いとかをなんとかクリアしつつ僕達は試練を進んでいった。
「はぁ、はぁ」
「なんなのよこの試練は!」
度重なる厄災と呪いの試練に疲れて来ているリナ。
「……九つ目」
クルミがそう呟きながら次の試練への扉を開く。
「次が最後の厄災……なんですかね」
モモもそう言ってクルミの後をついて行く。
「はぁ、ホントもうこれで最後にして欲しいわよ」
ちょっとグッタリしながらモモに次いで扉をくぐるリナ。
そんな三人を見ながら僕もついて行く。
その部屋も最初の祭壇があった広間程度の広さの空間だった。
奥の方を見ると祭壇らしき物と剣が見える。
「あれが聖剣ですね!」
聖剣を見て嬉しそうにはしゃぐモモ。
「……今度は慎重に」
クルミはそう言いながら僕達の方を見つめる。
「わかってる!わよ」
最初、リナか不用意に聖剣に触ってしまったか為に説明無しで試練が始まってしまった。
それを気にしてかリナがちょっと強めに返事する。
そうして僕達は聖剣へと近づいていった。
聖剣の手前5メートル程まで近づいた所で何かの気配を感じる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「なに、なんなの?」
厄災と呪いを受けすぎて警戒モードになっているリナが叫びながら聖剣を見つめる。
「ぁ、聖剣が」
モモがそう言って指差した聖剣から霧の様なモヤの様な物が現れて聖剣を覆い隠す。
その霧かモヤのような物はやがて形をなして聖剣のあった場所に現れた。
「……あれが悪龍?」
クルミが呟き、現れたのは大きな身体に沢山の首を持つモンスター、というか悪龍。
「その九つ首が九つの厄災と呪いを産んだという悪龍」
「悪龍九帝ですね!」
モモが現れたモンスターを丁寧に解説してくれる。
「あれ?」
「でも首は三つしか無いわよ」
リナがそう言うのでよく見ると、九帝なのに首が三つしか無い。
「しかもナーガって言う位だから蛇寄りの龍かと思ったら、ずんぐりむっくりだし」
「竜って感じの翼も無いし」
その悪龍に対し疑いの眼差しを向けるリナ。
確かにナーガは確か蛇っぽさがあった気がする。
なのに悪龍のフォルムは翼の無いキング的なギドラ?と言うよりはヒドラみたいな見た目である。
まぁ昔の僕の知識で作り上げたものだし、結構ツッコミ所満載だ。
「ホントにこれが悪龍なの?」
さらにリナが悪龍に対して、結構ズバズバ言っちゃう。
すると……
「黙れ黙れ!」
「我は悪龍九帝であるぞ!」
「頭が高い!ひかえおろう!」
その悪龍はどこぞの肛門みたいな台詞で威嚇してくる。
「いや、だって」
「首の数が足らないじゃない」
リナが珍しくクールにツッコミを入れる。
「仕方ないであろう!」
「あやつに切られちゃったし、封印のせいで力が出ないし!」
「今は三本が限界なの!」
なんか威厳のある口調から小物感のある喋りに代わりつつある悪龍。
「そうなんですか……残念」
伝承好きなモモとしては九つの頭を持つ伝説の悪龍を見たかった様だ。
「まぁ、九つ首だろうが三つ首だろうが」
「あんたが九つ目の厄災なら」
「ぶっ飛ばすだけよ!」
今までの厄災イベントと違い戦闘イベントとなると、途端にやる気の出てくるリナ。
「くらいなさぁあい!」
リナはいつも通り戦略も何もなく真正面から突っ込んで行く。
ギィイイン!
悪龍に向けられたリナの剣が弾かれる。
「くっ!」
三つある首の一つがリナの斬撃を防いだのだ。
「ふっふっふ、たとえ首が三つだとしても……大した力も無い貴様らの様なヒヨッコには負けぬぞ!」
悪龍はリナの攻撃を防いで調子に乗り始めた。
まぁ勇者は僕なんだけれどね、剣に最初に触ったのがリナだから多分勘違いしているのだろう。
「この騎士団長リナ様を……なめるんじゃないわよ!」
そう言ってリナは悪龍に向かって飛びかかろうとした瞬間、
ズババババババババッ!
悪龍が首の一つを振ったかと思うと、そこから小さい何かが沢山飛んできた。
「くうっ!」
ギィイイン!
キィイイイン!
飛んできたのは龍の鱗?の様だ。
何個かは剣で弾くものの足元に飛んできたモノまでは防ぎきれず攻撃を喰らってしまうリナ。
「いったぁぁぁあ!」
リナはそう言って屈み、攻撃を食らった足を触る。
ちょっと前も同じ様な攻撃を食らって、屈んでいた記憶が蘇るリナ。
「まさかこれは、厄災?」
悪龍の攻撃を喰らい、屈んだリナを見てモモがそう呟く。
「……タンスの、やつだね」
それに合わせてクルミも解説してくれる。
「また足の指に攻撃食らったんですけど!?」
「もう嫌なんだけれど!」
そう、今まで食らった厄災の一つがリナに再び襲いかかってきたのである。




