44話 タンスの厄災
「……これで完全勝利」
そして再びキメ顔をするクルミ。
すると今まで真っ白だった部屋の壁に扉がスッと現れた。
「この部屋の厄災の試練はクリア……ということですかね」
モモが現れた扉を見つめてそう呟く。
「それにしてもカレーうどんが襲ってくる試練なんてありえないんだけど」
確かにカレーうどんに襲われるなんて現実離れし過ぎている。
よっぽど昔の僕は適当に考えて作っていたのだろう、と思うとちょっぴり恥ずかしい。
「この部屋、試練用の空間らしいですし」
「現実の常識が通用しない空間なのかもしれません」
モモが相変わらず辻褄合わせして説明してくれて有難いことこの上ない。
「だとしたらこの先、予想もしない様なとんでもない試練があるかも……って事ね」
真剣な顔でリナがそう言う。
「頑張ってね〜」
僕はリナに向かって他人事の様に話す。
「いや!勇者の試練なんだからあんたの試練でしょ!」
そんな僕にリナがすかさずツッコむ。
いや試練の対象はリナじゃ……ってまた蒸し返そうとしたが、さっきもやったやり取りなのでやめておいて話を進める事にした。
「ぇと、じゃあ、とりあえず次に進みますか」
そう言って僕達は現れた扉を開け、次の試練へと進んだ。
扉を開けると先程と同じ位の広さの部屋だった。
部屋の中には二メートル程の茶色の家具?が沢山設置されている。
「これは……タンスの巨大迷路か何か?」
リナが近づいて触ってみるとまさにタンスである。
それが大量に置かれていてまさに迷路の様になっている。
「この迷路が厄災?……」
周囲の状況を確認しながらモモがそう呟く。
「……あそこ」
クルミが何かを見つけて指をさす。
遠くにはさっき通ってきた扉と同じ扉がチラリと見える。
「あそこが迷路の出口って訳ね」
「それじゃ行くわよ」
リナがそう言って扉に向かう為に迷路に入った時、
「痛っ!」
突然叫ぶリナ。
「大丈夫ですか?リナ」
その言葉に心配して声をかけるモモ。
「……いったぁ〜」
「大丈夫、ちょっとぶつけただけ」
リナはそう言って屈み、足の指先をさする。
どうやらタンスの角に足の指先をぶつけた様だ。
「まったくおっちょこちょいだなぁ、気をつけてよね」
僕はいつものリナのツンドラを逆にリナに返す。
「うっさいわね!」
「ちょっとぶつけただけでしょ!」
そう言いながら僕達は扉へと向かって進むことにした。
すると……
「痛っ!」
再びリナが叫ぶ。
「大丈夫ですか?リナ」
モモが先程と同じ台詞を言ってリナを心配する。
リナは屈んで足の指先をさわる。
また足の指先をタンスにぶつけた様だ。
「大丈夫?気を付けてね」
僕もリナの心配をしてそう声をかける。
「おかしいわね……」
足の指をぶつけた事にイマイチ納得していないリナが呟く。
リナが立ち上がり再び扉へと進み始め様としたその瞬間、
「痛ぁ!」
またもやリナが叫ぶ。
「またぶつけたんですか?」
モモがそう問いかけると、
「いや、まだ歩き始めてないし!」
「なんで?」
そう叫ぶリナの足の指先にはタンスが当たっている。
「……じぃ〜」
何かに気付いたリナがタンスをじっと見つめる。
「……じぃ〜」
さらに見つめていると……
カタッ!
小さな物音と共に何かが動いた。
「やっぱり!動いてる!」
動くものを見たリナがそう叫ぶ。
「なんですか?小動物か何かですか?」
叫ぶリナにモモは問いかける。
「違うわ!動いているのは……」
「タンスよ!」
そう叫んでタンスに向かって指を差すリナ。
「……タンス、ですか?」
モモが状況を理解出来ずにリナに問い返す。
「さっきからおかしいと思ってたのよ!」
「私が足の指をぶつけたんじゃなくて」
「タンスがぶつかってきているのよ!」
リナはタンスを指差しながらそう熱弁する。
「……ほぅ」
「……はぁ」
クルミもモモも何言っているんだろう感を出しながら相槌を打つ。
「いや、ホントなのよ!」
「タンスが悪いんだって!」
なんかちょっぴり涙目になりながらリナは叫ぶ。
「へぇ~、そうなんだ」
僕もちょっぴりニヤけながらリナに相槌を打つ。
「……とりあえず進む」
リナの熱弁を他所に出口へと向かおうとクルミがそう言う。
「そうですね、って」
「あれ?」
モモもクルミに同意して進もうとした所、異変に気付く。
「迷路……なんだか変わりました?」
先程まで道があった場所にタンスがあり、道が無くなっている事にモモが気付く。
「まさか……動いている?」
クルミがそう呟き、周囲を警戒する。
「だからそう言ってるじやない!」
リナがそう叫んだ瞬間、
迷路の壁だと思っていた多数のタンスがリナの足の指めがけて襲いかかって来た。
「ぇ!ちょ!」
ドゴォ
ドガァ!
ズゴォ!
さすが騎士団長、タンスの連続攻撃を何とか躱す。
「タンスに足の指をぶつける……それがここの厄災?」
モモがタンスに襲われるリナを見ながら解説してくれる。
「いや!タンスに指をぶつけるってレベルじゃ無いんですけど!」
「足の指にぶつかってくるタンスってなんなのよ!」
リナが襲いかかるタンスの恐怖におののく。
さらに襲いかかるタンスにリナが身構えたその時、
「氷盾」
クルミが氷の盾を創りタンスの攻撃を防ぐ。
「ぁ、ありがとうクルミ」
タンスに襲われるという意味不明の状況に戸惑いながらもクルミにお礼を言うリナ。
「と、とりあえず出口の扉に向かいましょう」
モモが僕達に向かってそう叫ぶ。
ドガァ!
ドゴォ!
ズコォ!
何度もタンスに襲われるリナを守りながら僕達は出口の扉へと走る。
タンスが並んで迷路みたいだったはずが、襲いかかるタンスによりもはや迷路の体をなしていない。
そんなタンス達をかいくぐり、僕達は出口である扉へと滑り込む。
ズサァァァッ
扉に入るとタンス達は扉を越えてまで攻撃はしてこなかった。
そして静かになると入ってきた扉はスッと消えていく。
「ふぇ〜、なんなのよもう」
「タンスに襲われるなんて初めての経験なんだけど」
足の指を執拗に狙われていたリナが恐怖を思い出しながら呟く。
「こうやって厄災と呪いを乗り越えて行くのが聖なる勇者の試練、ということなんですね」
そう説明してくれるモモに解説ありがとう、なんて思う僕。
「それにしてもカレーうどんにタンスって」
「ホント意味不明でショボい厄災ね!」
負けず嫌いか痩せ我慢か、リナがそう言って動揺している自分を誤魔化してる。
「ショボいって言う割に、結構驚いていたみたいだけどね」
リナは割と良いリアクションしていたと思い、僕は軽くツッコんでみる。
「うっさいわね!」
「あんな意味不明な物に襲われたら誰だって驚くわよ!」
確かにカレーうどんやタンスに襲われるって現実離れし過ぎていている、なんて思ったり。
「試練用の空間って、何でもアリなんですね」
ちゃっかりモモがこの意味不明な厄災に理由付けしてくれる。
「まったく、一体何個あるのよ!この厄災と呪いって!」
リナが誰に向かってか叫んで問いかけた。
「……多分、九個?」
クールなクルがその問いに冷静に答えて、
「悪龍九帝って言う位やからな〜」
クルミの肩に居るちびシャドウが説明してくれる。
「マジか〜……」
全部で九回もこんな試練を受けなくちゃいけないと聞かされ、うんざりした顔をするリナ。
「……次の厄災」
クルミがそう言って扉を抜けた先の、この部屋を見渡しながら呟く。
部屋を見渡すと何かある。
タンスでも無くカレーうどんでも無い。
黒くて薄くて大きな板が見える?黒というか濃い緑と言うか。
大きさとしては縦1メートル横5メートル程度?といった感じのどこかで見たような黒い板。
そんな黒い板が動き出し、リナに襲いかかる。
「ぇ!また!?」
リナはそう叫び剣を構えて攻撃を受け流そうとする。
「リナ!それはマズイです!」
そのリナの行動にモモが叫んだ。




