39話 古戦場
「まぁ、確かにどうにかしないとかもね」
聖剣探しと悪龍対応に乗り気なモモを見ながらリナがそう呟いた。
「でも大丈夫なの?北の塔に行くのに遠回りだったりしない?」
本来の目的が塔の解放と魔王討伐である事を一応確認するリナ。
「……それなら大丈夫」
クルミがそう呟く。
「その古戦場は北の塔に向かう道中にあるからな」
「方向としては同じやで」
クルミの肩に乗ったちびシャドウがエセ関西弁で説明してくれる。
「場所などの詳細についてはクルミに伝えてありますので」
「よろしくお願い致します、勇者様」
僕に向かって優しく微笑むミアさん。
「は、はい!」
「任せて下さい!」
その優しい笑顔にドキッとしながら、それを隠すために僕は勢い良く返事する。
「それじゃあ、早速準備して向かいましょう」
ちょっと浮かれているモモがバタバタと部屋を出ていく。
「ちょ、待ってモモ」
そう言って急いで追いかけるリナ。
「……案内役」
その二人を追ってクルミも部屋を出る。
「ふふっ」
そんな光景を微笑ましく見ているミアさん。
せわしなく三人が部屋を出て行き、部屋には僕とミアさんが残った時点で僕はミアさんの方を見る。
「……」
「あら、愛の告白でもしますか?」
何かを察して冗談交じりに話すミアさん。
「まぁ、それもいいですけど……」
「悪龍の対応をする代わりと言ってはなんですが」
「少し頼み事を聞いて貰ってもいいですか?」
おちゃらけたミアさんの話を流して真面目な顔で喋る僕。
「ほぅ、何でしょう」
僕の顔を見て真剣な顔に戻るミアさん。
「それは……」
僕は静かに話し始める。
「モモ〜」
「ハァハァ、慌てると転んじゃうわよ」
いにしえの勇者ゆかりの場所に向かう事になり、その準備で浮かれているモモを追いかけてようやく追いつくリナ。
「……馬車の方はバッチリ」
案内役を任されたクルミが、古戦場行きの馬車を既に手配済みである事をモモに伝える。
「さすがです、クルミ」
そう言ってモモが喜ぶ。
そんな話をしている所に僕が遅れて合流する。
「あんた何してたの?」
「まさかミアさんを口説いてたんじゃないでしょうね」
リナが遅れてきた僕に向かってツンドラする。
「あ〜」
「あながち間違いでは無いかも」
なんて冗談交じりに返す僕。
「はぁ?あんたなんか相手にされる訳ないでしょ!」
「どうせ振られたんでしょ!」
「まぁ、あんたは黙って私についてくればいいのよ!」
「騎士団見習いでしょ!」
なんだかツンドラなのかツンデレなのか不思議な返答が帰ってくる。
そう言えばリナが勝手に見習い認定した、騎士団見習い勇者という設定なんてものがあったな〜などと思い出しつつ、
「それよりどう?準備は順調?」
話題を変えるように僕はモモとクルミに話を振る。
「はい、馬車の手配もクルミがしてくれましたし」
「他の準備もバッチリです」
モモは遠足にでも行くような満面の笑みで話してくれる。
「そっか、じゃあ」
「腹ごしらえしたら出発しようか」
そろそろお昼も近くなってきたので、そう言ってクルミを見ると、
「そっちもバッチリ」
ジト目なのに満面の笑みで親指を立てるクルミ。
肩に乗ったちびシャドウも何故かドヤ顔だ。
段々クルミは食いしん坊キャラを隠そうともせず表に出てきて微笑ましい。
そうして僕達はクルミの手配してくれた食事処で早めの
昼食を取る事にした。
「……なにこれ、ウマっ!」
一口食べてリナが叫ぶ。
「なんだっけ?これ、暇つぶし?」
リナが舌鼓を打ちながら意味不明な事を口走る。
「ひつまぶし、ですね」
リナの意味不明なボケにもモモが優しくツッコむ。
「おひつに入ったご飯の上に、ミーカワの名産である鰻の蒲焼きを刻んで乗せて」
「一杯目はそのまま」
「二杯目は薬味を加え」
「三杯目は出汁でお茶漬けに」
「四杯目はお好みで」
いつもは口数の少ないクルミが事ご飯の事となると饒舌になり、ひつまぶしの説明をしてくれる。
「美味しいですね、ひつまぶし」
モモも嬉しそうに食べている。
「それにしてもひつまぶしなんて豪勢だね」
この食事処を手配したというクルミに向かって僕は問いかけた。
「フッフッフ」
「師匠の奢りだからな!」
クルミの肩に居るちびシャドウが何故か自信満々に話す。
「……悪龍対応を受けてくれたお礼も兼ねて、らしい」
「モグモグ」
ハムスターみたいにほっぺたを膨らましながらモグモグクルミが説明してくれる。
「なるほどね、そういうことなら」
「遠慮無くいただきますか」
そう言って僕も食べ始める。
鰻の蒲焼きはしっとりふっくら香ばしく、鰻の旨味がしっかり味わえる。
蒲焼きのタレも絶妙で、タレの染みた白米だけでご飯三杯はいけそうだ。
薬味を入れると鰻の美味しさとタレの味がハッキリしてきてますます旨い。
出汁をかけると美味しさと旨味がさらに変化し、飽きることなく永遠に食べていられそうだ。
四杯目は何でいこうかな〜なんて考えつつ、
モグモグ
「うま〜」
パクパク
「ホント美味しいわね、暇つぶし」
ホムホム
「美味しいです」
ハムハム
「……美味」
こうして僕達は豪華な昼食を満喫したのだった。
お腹一杯で満足気な顔のまま手配した馬車で古戦場へと向かう。
ゴトゴト
クルミが手配してくれた馬車は貸し切りで乗客は僕達しか居ない。
これもクルミの師匠であるミアさんの計らいなのかな?と思いつつ馬車に揺られる。
道中モモが伝承やら言い伝え話で盛り上がった他、ミーカワから伸びる流通網についても説明してくれた。
ミーカワは馬車の生産などの工業が盛んで、それに伴い流通網が張り巡らされている。
二ヴァーンの町からミーカワに向かう時に使った東明街道は王都にも繋がっており、他にも北に向かう街道など様々な街道がある東の流通拠点だ。
北の塔方面に向かう街道の道中に目的地である古戦場はあるので、僕達はその馬車に乗っているという訳だ。
「古戦場は森の近くにありまして……」
そして再びモモの伝承講演会が始まる。
「自然豊かな森で、皆の心を癒やしてくれる素晴らしい森だったと伝えられています」
「その森はヴァーンパークという名で呼ばれ」
「その素晴らしさから愛を知る森とまで言われました」
楽しげに話すモモを僕やリナ、クルミの三人は微笑ましく見守る。
「ですが、九つの厄災を振り撒いたとされる悪龍」
「ナーガ・クティが現れ」
「森は見る影も無くなったと言います」
「そしていにしえの勇者様が激しい戦いの末、悪龍を討伐、封印し」
「ヴァーンパークは再びその豊かな姿を取り戻したとの事です」
パチパチ
僕達三人はモモの昔話に拍手を送る。
「それでですね!」
モモがそう叫び、伝承講演会の第二幕か?と思ったら、
「その古戦場には勇者様と悪龍が戦った痕跡が今も残っていて」
「勇者様が割った巨石とか」
「勇者様が大地を切り裂いた跡とか」
「数々の名所があるのです!」
モモの古戦場観光スポット紹介だった。
なんだか遠足というか京都とかに向かう修学旅行中の女子高生みたいだな〜と思いつつ、そんなモモを眺めながら僕達は馬車に揺られて行く。
やがて日が傾いてきた頃には古戦場や森が見えて来て、その近くにある宿場町に到着する。
馬車から降りる時に馬車の御者が、
「皆様、お気をつけて」
そう言って見送ってくれたのだが、僕達の目的をなんだか知っている様な反応だった。
もしかしたら御者の格好をした王国関係者か、特殊隠密部隊の一員なのかもしれないな〜なんて思った。
ひとまず僕達はその宿場町で宿を取り、翌朝から古戦場やその近くの森へと向かう事にした。
翌朝僕達は聖剣と悪龍探しの為、宿を後にする。
「聖剣とか封印された悪龍って一体どこにいるのかしらね」
探し物とか探索とか頭を使う事が苦手だと、言葉尻から滲み出ていているリナがそう呟く。
「クルミは場所を知っているんですか?」
案内役だというクルミにモモがそう問いかける。
「ぁ、私は知らない」
予想外の答えが返ってきて、
「ぇ?」
「どういう事ですか?」
などとみんなビックリする。




