第二十七章 第四次フソー星系の戦い(後編)
A.F.683/05/14 01:25
アズリア連邦連邦軍キャスナ駐留艦隊(通称:ルナ艦隊)は敵襲を避けようと退避したツクヨミ内で、文字通り行動不能の状況に陥ってしまい、アズリア駐留艦隊(通称:ソレイユ艦隊)との合流が果たせたのは、駆逐艦4隻、航宙母艦3隻、強襲降陸艦8隻にすぎなかった。
この時点での両軍戦闘艦艇の戦力は下記の通りである。
〈アズリア連邦連邦軍〉
・戦艦 16隻
・重巡航艦 8隻
・軽巡航艦 4隻
・駆逐艦 36隻
・航宙母艦 7隻
〈アテラス國國防軍〉
・戦艦 6隻
・巡航戦艦 3隻
・重巡航艦 7隻
・軽巡航艦 10隻
・駆逐艦 26隻
・航宙母艦 5隻
〈イザナ共和國宇宙軍〉
・戦艦 5隻
・重巡航艦 5隻
・軽巡航艦 3隻
・駆逐艦 12隻
・航宙母艦 2隻
〈アズリア正統政府軍〉
・重巡航艦 1隻
・軽巡航艦 2隻
・駆逐艦 16隻
・航宙母艦 7隻
ソレイユ艦隊の旗艦 戦艦マルセイユの艦橋で司令長官リュドヴィック・ラコスト元帥は、苦虫を噛み潰したような表情でいる。参謀長ジョゼット・ド・ルナール大将も同様の表情だ。先ほど、ルナ艦隊司令長官パトリス・ダーノー大将と参謀長ジャン=ミシェル・ド・ニザン大将とのリアルタイムビジョン通信での会談を終えたばかりだ。がっくりとうなだれるダーノーとニザンにかけられる言葉はなかった。
「ダーノーめ、油断しおって。だが、ルナもやられソレイユだけになってしまったか。まぁ、ソレイユの破壊力を持ってすれば、アテラス、イザナ、更に正統政府軍などとほざいている裏切者どもが徒党を組んだところで、敵ではないが…アテラス艦隊の所在は、未だ掴めないのか。」
ラコストは彼我の戦力を比較しながら、ルナールに索敵状況を確認する。ルナールは発見できていない旨を伝えるが、1つの作戦案を提案した。
「アテラスは本星が危険に晒されていることから、最短ルートを選択するに違いありません。空船になった強襲降陸艦と航宙母艦1隻を前進させ、例の作戦を実施しましょう。」
「あれか、小細工めいていてあまり好きではないが…」
ラコストはそれほど乗り気ではないようだ。彼はソレイユが持つ圧倒的砲撃力に自信があり、砲撃戦によって勝利を得られると考えていた。邪道ともいえる作戦には抵抗があったのである。だが、ルナールには彼女なりの思案と懸念がある。
「機動戦は先手必勝です、如何に犠牲が多くとも先手を打つべきです。こちらの位置は捉まれていますから、先に攻撃するしかありません。」
アテラス軍は常に偵察機を接敵させ、ソレイユの動向を逐一報告させている。追い払っても追い払っても群がるハエのような鬱陶しさであった。
「うむ、確かにな。先手を取るにはあれしかないか。」
渋々ではあったがラコストは作戦の実施を承認し、航宙母艦トゥール、強襲降陸艦12隻、護衛駆逐艦4隻が、アテラス艦隊が現れるであろうマガツヒ方面に向けて進出していった。
一方のアテラス第1艦隊は、独立駆逐艦隊所属機やツクヨミから離脱した偵察機が発するソレイユ艦隊の情報を基に、全速で会敵を目指していた。参謀長ユジュン・マツナガ中将が首を傾げながら、司令長官カルロ・アンドラーダ大将に報告する。
「航宙母艦1隻、駆逐艦4隻、それに強襲降陸艦10隻余りが分派して、こちらに向かっているとの報告です。どういうことでしょうか…」
アンドラーダも首を傾げる。
「航宙母艦は索敵の中核とする意図かな。強襲降陸艦は…よく判らないな。カイ大佐、どうだ。」
マコトにも自信は無い。
「ちょっと、判らないですね。ですが、本星に降りた兵力から考えて、空船だと思います。もしかしたら、強襲降陸艦は宙母に艦型が似ているので誤認を狙ってるとか。こちらの攻撃を吸収する意図かもしれません。」
アンドラーダは頷く、だが、確信は持っていないようで表情は微妙だ。
「なるほどな。だが、まあよい。あと3時間ほどで79式の行動半径内に入る。入ったら、即、攻撃だ。」
マコトは釈然としていなかった、敵ソレイユ艦隊は何を考えているのか。
A.F.683/05/14 04:03
アテラス第1艦隊の各航宙母艦は攻撃隊の準備中であった。1時間ほど前にソレイユ艦隊偵察機の接敵を受けた。アンドラーダの読み通り、先行した航宙母艦を中核にして索敵範囲を広げているようだ。
「先行している航宙母艦1隻は既に攻撃範囲内だが、1隻だけ沈めてもな。主力の6隻にぶつけるべきだろう。」
その時、周辺警戒中の81式艦上複座偵察機から通信が入る。
「ヒリュウ4から緊急連絡、『敵航宙機約250機発見、位置T66V80、進路186°俯角3° 母艦方向に向かう。』」
アンドラーダとマツナガは顔を見合わせる。250機もの編隊であれば6隻の主力から来た攻撃隊だ。だが、アズリアの主力戦闘機ラファエール5の航続距離では、未だ行動半径外のはずである。
「誤認ではないのか。接敵中の偵察機からは何も無かった。」
マコトは先行させていた艦隊の意味に気付く。
「司令長官!すぐに迎撃隊をあげて下さい。彼らは片道攻撃に出たと考えられます。おそらく先行する艦隊に戻るつもりです!」
アンドラーダはすぐに迎撃機発艦を指令する。
「ソレイユ主力に接敵の偵察機は、堕とされたか見落とすかして報告できなかったのでしょう。」
マコトの説明にアンドラーダとマツナガは頷く。
「そうか、先手を打つために行動半径外から攻撃し、帰投は先行した1隻に。余る分は搭乗員だけ救出する腹か。」
「しかし、まずいです。迎撃機の数が揃いません。もうすぐ会敵してしまいます。」
第1艦隊の航宙母艦5隻は必死に迎撃機をあげる。だが、80機ほどが離艦したところでアズリア航宙隊と会敵した。
制宙隊として出撃準備をしていたチェン・ユウ少佐には急遽、迎撃任務に切り替えての出撃命令が下った。迎撃にあがれた各機に隊内通信で呼びかける。
「ちょっと予定外だったが、やることは一緒だ。奴ら、1隻に戻るしかないんだそうだ。しっかり減らしてやろうぜ。」
アズリアのラファエール5の制宙隊は速度を活かして突っ込んで来る。アテラスの79式はそれをひらりと躱し、ラファエールの背後に着く。そこかしこで宙戦が始まった。
ユウは宙戦を行いながらも、アズリア機の動きに注意を払っていた。セオリーと異なりアズリア機は1隊でやってきた。だが、捨て身の作戦で攻撃機がいない訳がない。すると、宙母に向け攻撃態勢に入る編隊が目に入る。追いかけまわしていた敵機を捨て置き、急旋回をして編隊に向かう、編隊の横から対宙誘導弾を撃ち放ち、パルスレーザー砲を撃ち込む。敵機が編隊を乱した所で右旋回、先頭のラファエールの後ろをとる。パルスレーザーを撃ち、すぐに左旋回する。旋回中、2番機に目標を変え再度パルスレーザーを撃ち込む。敵機が火を吹く前に宙返りをうち、3番機の後ろにつき、これも撃墜する。ユウは一呼吸の間に3機を撃墜するという、卓越した技量を見せつける。
他の79式も、戦場で鍛えられたその技量を遺憾なく発揮し、次々にラファエールを撃墜していく。だが、来襲したアズリア機の数に比して迎撃機の数が少ない。
「クソ、数が多すぎる!各隊、宙母に進行する攻撃機を狙え!」
獅子奮迅の活躍を見せるアテラス迎撃隊の隙を突き、アズリア攻撃機が宙母に迫る。
A.F.683/05/14 04:50
「宙母ソウリュウ、命中弾2、離着甲板使用不能!」
「宙母ウンリュウ、命中弾7、総員退艦発令!」
「宙母ズイカク、命中弾2、離着甲板使用不能!」
被害報告にアンドラーダは歯噛みする。だが、すぐに反撃を命じる。
「ショウカク、ヒリュウに攻撃隊を出させろ!先ずは、先行する1隻を沈めてしまえ!迎撃機も残弾の無い機を戻して出撃させろ!」
イザナ統合艦隊旗艦 戦艦コネチカットにもアテラス艦隊の被害は伝わっていた。
「閣下、盟友が攻撃を受けています。ただちに我が隊の手で反撃しましょう。」
参謀長グレース・クロフォード中将の言葉に司令長官ポール・クラフトマン大将は大きく頷く。
「ただちに全力出撃だ!我が隊は未だ発見されていない、迎撃機を残す必要はない!」
迎撃機を全く残さないことは非常に危険な選択だ。だが、反対する者はいない。イザナ艦隊の航宙母艦から140機のCFー32Dが飛び立っていく。
その頃、ソレイユ艦隊旗艦 戦艦マルセイユには歓喜の声があがっていた。
「航宙攻撃隊より入電、『敵宙母3に対し命中弾多数、大破以上確実!』」
ルナールは更なる航宙攻撃を具申する。
「距離が詰まり、今度は作戦行動半径内です。ただちに第2次攻撃隊を出しましょう。」
ルナールの提案にラコストは難色を示す。
「更に攻撃隊を出してしまうと、艦隊の防御が出来なくなる。先行するトゥールからの出撃に留めよう。」
ルナールはラコストの決断に不満であったが、司令官はラコストである。やむを得ず、トゥールからの攻撃に切り替える。
A.F.683/05/14 06:38
司令官3者が見せた姿勢の差はそのまま結果となって現れた。アズリア航宙母艦トゥールから発艦した航宙攻撃隊は、復讐に燃えるアテラスの迎撃隊に捕捉され、その殆どが撃墜されてしまった。逆にアテラス航宙攻撃隊は1個中隊の攻撃で命中弾7機を得て、トゥールをあっという間に爆沈せしめた。制宙隊と攻撃するまでもなかった他の中隊はそのまま、ソレイユ艦隊主力に向かった。
ソレイユ艦隊にはイザナ艦隊が放った航宙攻撃隊140機が到達していた。
イザナの制宙隊隊長アレックス・サンチェス少佐は、部下を率いてラファエールの群に突入していく。優速のCFー32Dは一撃離脱でラファエールを蹴散らす。だが、サンチェスは被弾した味方機を庇い速度を落とした時に、4機のラファエールに囲まれてしまった。僚機ともはぐれ、執拗に続く攻撃から単機で逃げまわる。なんとか反撃の糸口を掴もうと強引に旋回したところで、敵機の射線に捕まった。被撃墜を覚悟した時、背後についたラファエールが火を吹いた。そして、爆発するラファエールの背後から現れたのは、イザナCFー32Dではなくではアテラス79式であった。隊長機を示す赤ライン3本のその機の搭乗員はサンチェスに敬礼し、宙戦に戻っていく。
迎撃任務で4機を堕とし、今しがたも、1機のラファエールを堕とした制宙隊隊長チェン・ユウ少佐が隊内通信で味方機に指示を送る。
「イザナCFに喰らい付いたラファエールは79式が始末しろ!逆に、後ろに付かれたら、CFの前に誘導してやるんだ。彼らの重武装で始末してくれる!行くぞ!」
イザナ制宙隊とアテラス制宙隊が協力して、ラファエールを次々に堕としていく。行動の自由を手に入れたイザナ攻撃隊隊長ジェーン・リベラ少佐が宙母への突入態勢に入る。すると1機のアテラス79式が編隊の前に躍り出て翼を振る。それから、宙母に向かって螺旋状軌道で突っ込んでいく。意図を理解したリベラが隊内通信で全機に伝える。
「アテラス機が攻撃を支援してくれる。彼らに付いて行け!」
アテラス機がつくる対宙砲火のトンネルをイザナ機が突入していく。
A.F.683/05/14 08:07
ソレイユ艦隊の航宙母艦は5隻が炎上し、無事な艦は1隻のみとなっていた。ラコストはディスプレイを憤怒の表情で睨みつけていた。
「健在な機は全て宙母フェランに集めろ。アテラス艦隊との会敵はまだか!」
オペレーターは1時間半ほどと答えた。
一方のアテラス第1艦隊も宙母部隊をその場に残し、アズリアソレイユ艦隊との決戦を求めひた走る。
A.F.683/05/14 09:48
アテラス第1艦隊とソレイユ艦隊とが互いに視認できる距離まで接近した。
ソレイユ艦隊は戦艦が2列の縦隊を作り重巡航艦、軽巡航艦、駆逐艦が周囲を取り囲んでいる。アテラス第1艦隊は戦艦6隻が横隊をつくり、その右翼に巡航戦艦、重巡航艦が単縦陣を組む。軽巡航艦と駆逐艦は戦艦列の上下に横隊をつくっていた。
ソレイユ司令長官ラコスト元帥は、ようやく得た砲戦による艦隊決戦の機会に興奮を隠せないでいた。
「ソレイユが持つ本当の力を見せてやる。この圧倒的砲撃力の前にひれ伏せ、アテラスめ!」
参謀長ルナール大将はアテラスの陣形を見て、敵左翼への集中攻撃を具申する。
「アテラスの鍵型は十字砲火を意図したものと推察されます。正面に進むように見せかけ右回頭して敵の左翼に攻撃を集中させましょう。」
ラコストはルナールの言を容れる。
アテラス第1艦隊司令長官アンドラーダ大将も彼我の陣形を確認している。彼はある方針を以って決戦に臨んでいた。
「そのまま当たればこちらの負けだ、なんといっても戦艦16隻だからな。だが、こちらには隠し球が2つもある。めいいっぱい驚かしてやろう。」
両艦隊は徐々に間合いを詰める。ソレイユ艦隊の先頭2隻が飛びかかる猛獣のように増速した。そして、両艦隊はほぼ同時に砲撃を開始した。
アテラス艦隊はソレイユ艦隊の左列先頭艦 戦艦ブザンソンに砲火を集中させる。ソレイユ艦隊は右に舵を切り、アテラス最左翼 戦艦サツマとその隣り戦艦イヨの間に割り込もうとする。アテラス艦隊の横隊陣は一斉に右回頭をして右に向かう単縦陣となる。右翼にいた巡航戦艦イブキはヒジリ、バンダイを従えてソレイユの右を逆進していく。下辺にいた戦艦列はバンダイの後を追いかける。L字の単縦陣となったアテラス艦隊はソレイユ艦隊の左列に攻撃を集中する。一方のソレイユ艦隊はアテラス艦隊の最後尾となったサツマに砲撃を集中する。
戦場に新たな役者が現れた。イザナ統合艦隊がソレイユ艦隊の右手方向から単縦陣で突撃してくる。ソレイユ艦隊の右列部隊とイザナ艦隊との間で猛烈な砲火の応酬が交わされる。アテラス艦隊は更に逆進しソレイユ艦隊の背後まで出て左に舵を切る。イザナ艦隊は突撃を続け、ソレイユ艦隊の艦列に突入する。ソレイユ艦隊の艦列後ろにいた戦艦4隻が、背後からアテラス艦隊、前方をイザナ艦隊に挟撃される形となった。ソレイユ艦隊は孤立した戦艦4隻を救おうと、左に大きく舵を切りアテラス艦隊の艦列後ろを追いかける。
更に新たな役者が現れる。
アテラス独立駆逐艦隊司令官スニール・ラジがぼやく。
「やれやれ、大物同士の殴り合いに参加すると、危なくって仕方がないが、黙っている訳にもいかんな。いくぞ!」
左に舵を切ったソレイユ艦隊の先頭艦ブザンソンに、12隻の駆逐艦があらゆる方向から一斉に砲撃する。それぞれの方向に抜けた駆逐艦は、同時に180°回頭し、再度、ブザンソンに砲撃を浴びせかける。ブザンソンはダメージの蓄積によって、そのほとんどの砲を失い、戦線を離脱した。
独立駆逐艦隊の集団攻撃の間も、包囲された戦艦4隻には多数の命中弾が生じる。戦艦アルジャントゥイユは全周を蜂の巣状態にされ、大爆発を起こした。
ソレイユ艦隊はそれまで戦艦に付き従っていただけの駆逐艦を以って、包囲の一角を占める拿捕艦ペルピニャンと同じく拿捕艦のナンテールを集中攻撃する。ソレイユ艦隊の戦艦もこの動きに呼応し、ペルピニャンとナンテールに砲火を集中する。10隻以上のかつての味方に集中砲火を浴びた両艦は爆発し粉々になった。孤立していた3隻の戦艦は、ペルピニャンとナンテールが占めていた位置から脱出に成功した。ここまでで双方とも一旦距離を取り、隊列を整理する。
両軍は再度向かい合う。ソレイユ艦隊は先頭5隻が横隊、その後ろに残りの戦艦が単縦陣で並ぶ。T字状の陣形だ。旗艦 戦艦マルセイユは先頭5隻の中心にいる。対するアテラス艦隊は単縦陣、旗艦 巡航戦艦イブキを先頭にヒジリ、バンダイ、戦艦サツマ、イヨ、スオウ、アキと並ぶ。イザナ艦隊はアテラス艦隊の左手側にやはり単縦陣で並んでいる。
射程に入る前にアテラス艦隊は右に舵を切り、イザナ艦隊は左に舵を切る。ソレイユ艦隊は左に回頭するが、距離が長くなる右側の戦艦ヴィルールバンヌ、グルノーブルが遅れる。イザナ艦隊は今度は右に大きく回頭して、ヴィルールバンヌ、グルノーブルを追撃する形となる。ここで、アテラス艦隊は大きく左回頭、Uターンをして元の位置に戻ってくる。ヴィルールバンヌとグルノーブルは右斜め前のアテラス艦隊と背後のイザナ艦隊に猛射を浴び、両艦は爆発した。ソレイユ艦隊はサツマに攻撃を集中する。アテラス艦隊を前後に分断する意図だ。マルセイユ、ディジョン、サンテティエンヌの3隻に集中攻撃を受けたサツマは艦中央に大破口を生じ沈黙する。
イザナ統合艦隊司令長官クラフトマン大将が吠える。
「左回頭!ソレイユ艦隊の中央を分断しろ!」
戦艦5隻が猛烈な力感を持ってソレイユ艦隊後続艦の前に立ちはだかる。アテラス艦隊はイザナ艦隊の左を抜け、イザナ艦隊が分断したソレイユ艦隊の後続艦を取り囲む。アテラス第1艦隊司令長官アンドラーダ大将も叫ぶ。
「砲撃集中、1隻づつ仕留めろ!」
包囲に取り残されたソレイユ艦隊の艦艇が次々に爆発する。
アテラス独立駆逐艦隊司令官ラジ中将は、艦隊運動から遅れたソレイユ艦に攻撃を集中し戦闘力を奪っていく。
「正面左の重巡に砲撃集中、左回頭して行き先を塞げ!」
アテラス第1艦隊、アテラス独立駆逐艦隊、イザナ統合艦隊は、其々が歴戦の勇者たる司令官に率いられ、独立した動きをしながらも連携し、ソレイユ艦隊を分断し包囲し撃沈していく。徐々に押されていく状況に焦ったソレイユ艦隊司令長官ラコスト元帥は艦を引かせる。
「ええい、クソ!戦力ではこちらが優っているのに押されているのは何故だ!かくなる上はアテラス艦隊の旗艦を狙って突撃するぞ!」
指揮官の能力・経験に勝り、乗組員の能力・経験に勝り、士気に勝り、連帯感に勝るアテラス・イザナ同盟軍に対抗する術はない。ラコストの言葉こそがソレイユの慢心と言える。参謀長ルナール大将はやぶれかぶれの突撃に不安を覚えるが、良案がある訳ではない。
ソレイユ艦隊は艦列を揃え、突撃に移る。ひたすらにアテラス艦隊旗艦 巡航戦艦イブキを目指すが、その単調な攻撃を3人は待っていた。アテラス第1艦隊が中央、イザナ統合艦隊が左、アテラス独立駆逐艦隊が右に展開する。異口同音に叫ぶ。
「撃て!」
突撃してくるソレイユ艦隊に集中砲火を浴びせかける。それでも、ソレイユ艦隊は突撃を続ける。
A.F.683/05/14 11:29
突撃を繰り返したソレイユ艦隊もその力を使い果たそうとしていた。既に戦艦は12隻が失われ、残るは4隻のみ、補助艦艇も多くが失われている。
「閣下、もはや戦況の好転は望めません。撤退を具申致します。」
ルナールの言葉にラコストは激昂する。
「撤退!?バカなことを言うな、ソレイユに撤退などあり得ん!」
「閣下、惑星アテラスの地表には多くの我が軍将兵が残っています。我々には彼らをアズリアに送り届ける責任があります。」
ラコストは、焦点の合わない視線を正面に固定したまま動かない。
「ソレイユが、アズリアが、負けるのか…」
その理由をラコストは考えるが、彼にはわからなかった。
「なぜだ…」
ソレイユ艦隊は戦闘宙域を離れた。と同時に惑星アテラスの地表に降りていた陸戦部隊も撤収した。アテラス軍は積極的な追撃は行わず、去るに任せていた。
「ふぅ、なんとか凌いだかな。さすがにもう攻撃してくる元気は無いだろう。」
アンドラーダの言葉にマツナガとマコトも頷く。
「なかなかのしつこさでしたね。敵将もしぶとい。しかし、追撃はしなくてよろしいのですか。」
アンドラーダは笑って答える。
「帰ってくれるのを邪魔しちゃいかん。さっさと帰ってやるべきことをやってもらわねばな。」
そこに、イザナ艦隊からリアルタイムビジョン通信を求める通信が入ってきた。回線を接続すると、クラフトマンとクロフォードが敬礼して現れる。
「クラフトマン大将閣下、貴軍の御助力、大変助かりました。ありがとうございました。」
アンドラーダの感謝の言葉にクラフトマンは笑って答える。
「貴國が我が國にして下さったことを考えれば、何でもありません。」
「現場では随分と協力ができました。今後、國同士としても、こうありたいものですね。」
アンドラーダの言葉にクラフトマンは大きく頷く。
「協力できます。我らは盟友ですから。ところで、フェリング大将閣下らのアズリア到着はいつごろになりますか。」
アンドラーダは指折り数えて答える。
「6月8日前後に到着し、掃討戦にひと月からふた月でしょうか。我々は6月の末あたりに出立すればよろしいかと。」
「では、小官らはイワツツ星系に帰還し、その時に備えます。では、」
敬礼し、クラフトマンとクロフォードは去っていった。
物語は時を遡る。
A.F.683/05/08 09:52
アズリア連邦連邦軍ルーペ艦隊(通称:サテリット艦隊)は解隊が宣言され、多くの者が亡命政権であるアズリア正統政府に参加を希望した。サテリット艦隊の司令長官代行であったゾエ・トルトゥリエ中将はアズリア正統政府軍のフェリング大将の麾下に加わることを宣言し、アズリア正統政府軍特別機動艦隊旗艦 航宙母艦エクス=アン=プロヴァンスに移乗してきた。
トルトゥリエが司令官フェリング大将と参謀長プレヴォ中将に敬礼する。
「閣下、すぐにアテラス艦隊とイザナ艦隊を追って惑星アテラス方面に進出しましょう。我々は宙母7隻の部隊に成長しました。重要な戦力になるはずです。」
フェリングもプレヴォも頷く。そこにアテラス第1艦隊からのリアルタイムビジョン通信の接続を求める通信が入る。回線を繋ぐとアンドラーダ大将と若い士官が現れた。フェリングとプレヴォは捕虜収容所で見た顔だ。一同は敬礼する。
「トルトゥリエ中将閣下、御英断、感謝いたします。」
「いえ、本分に立ち返って職責を全うしようと思った次第です。名高いアンドラーダ大将閣下と共に戦えること、光栄の極みです。」
そう言われたアンドラーダは少し言いにくそうに口を開く。
「そこなのですが、フェリング大将閣下には別の道を進んで頂きたいのです。」
フェリング、プレヴォ、トルトゥリエは怪訝な顔をする。
「貴軍にはアズリア連邦惑星ルーペに向かって頂きたい。」
プレヴォが反論する。
「しかし、ソレイユ、ルナ両艦隊が貴國に迫っているのです。この危機を排除することが先決なのでは。」
「勿論、そうなのですが。そちらは我々が対処します。貴軍には、一刻も早くアズリア連邦内に帰還して頂きたい。」
プレヴォが再反論しようと口を開きかけるが、止める。
「そうか、我らが戦場宙域にいるとその分不確定要素が増えると言う訳ですね。いつ、また裏切るかわからないと。」
アンドラーダが慌てて否定する。
「そうではありません。小官らとしても、貴軍に参加して頂いた方が有利なことは判っているのですが…カイ大佐、頼む。」
マコトが話を引き継ぐ。
「はい。アズリア正統政府軍には反ローラン体制の旗印を掲げ、抵抗勢力を結集して頂きたいのです。その中心地は惑星ルーペであると考えています。」
「しかし、話は戻りますが、ソレイユ、ルナは強大です。貴軍だけではいささか…」
アンドラーダが割って入る。
「大丈夫です。クラフトマン大将閣下が率いるイザナ軍がついています。遅れをとることはありません。」
まだ、納得しきれない三将にマコトが訴えかける。
「反体制の動きを検知すれば、ローランは更に弾圧を強化するでしょう。市民の反体制・自主改革の火を消してはなりません。それに、同胞同士の戦闘を極力避けた方が良いことは自明のことです。」
プレヴォは納得したようだ。頷いて言う。
「なるほど、我らには我らの戦場をお与え下さるということですね。小官にはもはや異存はありません。司令長官閣下は。」
フェリングも頷いた。
こうして、アズリア正統政府軍は母國への道を進み始めたのである。




