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第二十五章 第四次フソー星系の戦い(前編)




A.F.683/04/15 12:00

 アズリア大規模侵攻の艦隊フソー星系到着は05/02前後と予想された。従ってあと2週間ほどで、圧倒的大軍を迎え撃つこととなるアテラス軍も、その陣容を整理していた。アズリア軍陸上戦力の大きさから、本星での陸上戦闘の可能性も考慮し、新たな包括的防衛体制を構築したのである。軍制の改編と来たる対アズリア作戦の要旨説明に、主要な部隊指揮官が集められ会議が行われていた。


〈アテラス國國防軍〉

・本星防衛司令部(司令長官(軍令部総長兼任)ジェミヤン・エフレモフ元帥)

        (参謀長(参謀総監兼任)アレクサンドル・ネギチ大将)

 ・首都防衛軍 

 ・北半球防衛軍

 ・南半球防衛軍

 ・宇宙空間拠点防衛軍

  ・ツクヨミ基地防衛隊(連隊長ニール・ウォルシュ大佐)

 (・マガツヒ基地防衛隊)


 ・総合艦隊  (司令長官チュン・シャンチー元帥)

        (参謀長(作戦課課長兼任)スルギ・パク中将)

  ・主星各基地航宙隊

  ・ツクヨミ基地航宙隊

 (・マガツヒ基地航宙隊)

  ・警戒遊撃隊(群狼部隊)


  ・第1艦隊 (司令長官カルロ・アンドラーダ大将) 

        (参謀長ユジュン・マツナガ中将)

   ・戦艦     6隻

   ・巡航戦艦   3隻

   ・重巡航艦   7隻

   ・軽巡航艦  10隻

   ・駆逐艦   26隻

   ・航宙母艦   5隻


  ・独立駆逐艦隊(司令長官スニール・ラジ中将)

         (参謀長トン・タイン少将)

   ・第11駆逐戦隊(司令官スニール・ラジ中将直率)

    ・駆逐艦    6隻

   ・第12駆逐戦隊(司令官チャンタサック・クンタニット少将)

    ・駆逐艦    6隻


  ・特別機動艦隊     (司令官クリストフ・フェリング大将)

  (アズリア正統政府軍) (参謀長ブリュノ・ド・プレヴォ中将)           

   ・軽巡航艦   1隻

   ・駆逐艦    6隻

   ・航宙母艦   3隻


 惑星クラミツハの衛星マガツヒは本星からの距離が遠く、アズリア来襲までの期間で充分な防衛体制を構築することは困難と判断され、一旦放棄することに決定した。

 先の戦いで降伏したコメート艦隊艦艇はアテラス軍の手によって修復され、亡命政権であるアズリア正統政府に無償譲渡された。コメート艦隊の司令長官クリストフ・フェリング大将と参謀長ブリュノ・ド・プレヴォ中将は、アズリア王國國王セリーヌ・ド・ミュレー及びアズリア正統政府に忠誠を誓い、正統政府軍の創軍を宣言した。また、アテラスに囚われていた捕虜のうち、6割ほどは正統政府軍への参加を希望し再びフェリング大将の指揮のもと、今度はアズリア軍と戦うこととなった。尚、正統政府軍の兵力で戦艦を運用することは困難であったため、拿捕戦艦2隻はアテラス第1艦隊に編入、代わりに4隻の駆逐艦が供与され、アズリア正統政府軍の所属となった。


 軍令部大会議室での作戦会議が終了し、各部隊の指揮官が解散していく中で軍令部作戦部作戦課マコト・カイ大佐が、改編されたツクヨミ基地防衛隊の連隊長ニール・ウォルシュ大佐に声をかけた。

「ウォルシュ大佐、カイです。」

 振り返ったウォルシュが軽く手を挙げる。

「おう、作戦課のエース。相変わらず、すげぇな。今回の作戦もあんたの立案なんだろ。」

 マコトは恐縮しながら答える。

「えぇ、まあ。色々な方からアドバイスやヒントを頂きましたが。」

 ウォルシュは手を広げ、少し呆れたように言う。

「謙遜すんなよ。あんなの誰も思いつかねぇよ。」

 マコトは益々恐縮する。

「あの案を最初に考えついたのは、弟なんです。」

 ウォルシュは一瞬驚きの表情を見せるが、納得したように頷く。

「ミコト・カイか、なんだかすげぇ兄弟だな。で、何だい?」

 マコトが真面目な表情になる。

「基地防衛隊の皆さんの動きが、当作戦の成否を決めます。よろしくお願い致します。」

「おう、任しておけ。」

 そう言って、後ろ手に手を振りウォルシュは行ってしまった。



A.F.683/04/15 15:00

「始まりますよ。」

 ネットワークビジョンのチャンネルを合わせ、ミコト・カイ大尉の横にナオミ・ヴァルバドス大尉が座る。ここは軍令部内の共用スペースである。アズリア國王セリーヌ・ド・ミュレーと、アテラス國内で反アズリア活動を主導してきたティアナ・サーンとの対談会が、ネットワーク局により企画されたのであった。各人の個室で観ても構わないのだが、ナオミの主張によって一緒に見ることになっていた。

 笑顔のアナウンサーが2人を紹介する。袖から現れたセリーヌは上下白のスーツを着込み、ティアナは灰色のパンツスーツ姿であった。対談が始まると、2人がそれぞれに現行アズリア政府の政治姿勢には問題がある事を主張し、改革の必要性とローラン独裁体制の打倒が必要であることを力説する。画面を観ながら、ナオミが感慨深く呟く。

「なんだか、凄いことになりましたね。アテラスにアズリアの國王が居るんですよ。」

 ミコトも肯く。

「そうだねぇ。それに、1年前の放送では、ティアナさんの言うことに耳を貸す人なんて、(ほとん)どいなかったのに。今じゃ、アテラス國内、アズリアローラン体制の打倒で一色になっちゃった。」

 ナオミがミコトを見つめる。

「ミコトくんの狙った通りなんじゃないんですか。」

 ミコトは少しのけぞった。

「いやいや、そんな『狙った通り』だなんて…僕は、目の前のことをやっていただけで…」

「でも、こうなって欲しいとは思っていたんですよね。」

 ミコトはしばし考える。

「うーん、『欲しい』と言うか、『そうならざるをえない』と言うか。この國を、本当の意味で平和にするって誓ったんだよね、小さい頃。それで一緒に考えてたらこうなった、と言うか。」

 ナオミは身体を乗り出す。

「一緒に?誰とですか?」

「兄さん。マコト・カイ大佐。」

 ナオミは眼を輝かす。普段、ミコトは兄のことも家族のことも話をしないからだ。

「カイ大佐!大佐も凄いですよね。対イザナ戦も対アズリア戦も作戦たてて実施して。でも、そんな小さい頃から、國の平和とか考えていたんですか。」

 ミコトは遠い眼をする。

「僕らはほら、モガ中尉事件でね。」

 ナオミが申し訳なさそうに言う。

「あぁ、はい。そうでしたね…」

「それで誓ったんだ。こんなことが二度と起きないようにする。そのために何ができるか、何をするべきか、って。だから、軍にいるんだよね。」

「そっか…でも、きっと、この戦いが最後で平和になりますね。」

「そうだね。そうだといいよね。」

 そう答えながら、ミコトは考えていた。戦いが終わった後、自分はどうするのかを。

(戦いが終わったら、平和になったら、僕は何をしようか…)



A.F.683/05/01 23:49

 フソー星系外縁の空間が歪み、大小様々な艦船が出現する。超大國アズリアが誇るソレイユ艦隊とルナ艦隊の到着である。尚、サテリット艦隊は1日遅れで到着する予定となっている。

 敵襲も無く、問題なく集合を果たした2艦隊は、当初の予定通り、惑星クラミツハの衛星マガツヒに向かう。

 時空変異と事象先行波、それに対宙レーダーの観測からアズリア艦隊の侵入を検知したアテラス政府及び國防軍は、ただちに防衛作戦を発動させ、同時に同盟國イザナ共和國に救援を求めた。



A.F.683/05/03 02:23

 サテリット艦隊がフソー星系外縁に到着した。司令長官代行ゾエ・トルトゥリエ中将の胸中は、不快と不安に満たされていた。

(我が隊は戦闘艦部隊主力が宙母だが、鈍足の強襲降陸艦を護衛するため快速を活かすことも秘匿性を活かすこともできない。この部隊で、おそらくは外縁から救援に駆けつけて来るイザナ艦隊を食い止めることができるか…それにしてもこの男…)

 特務参謀長ニコラ・ド・ショーメ中将は呼びもしないのに艦橋に陣取り、アズリアの強大さとローランの偉大さとを強調する話ばかりしている。

「閣下、すぐにマガツヒに向かい、ソレイユ、ルナと合流致しましょう。」

 トルトゥリエは舌打ちしたい衝動を抑えながら、なんとか平静を装い答える。

「そのようなことは承知している。そのためにも部隊集合を急がせているのではないか。」

 ショーメはそんなトルトゥリエの心中を知ってか知らずか、乱暴なことを主張してくる。

「遅れた艦など待たずに、順次向かわせれば良いのです。子供じゃなし、マガツヒまで到着するくらいできるでしょう。」

 常道を無視した言い草に、トルトゥリエは呆れるやら苛立つやら、自分を抑えるのに必死である。

「無論、辿り着くことはできるだろうが、隊列が伸びきってしまう。それでは敵襲があった時に対応できない。」

 ショーメは嘲るような口調で言い放つ。

「何を恐れておいでなのですか。敵襲など恐るるに足りません。アテラスは縮こまって震えているに違いありません。」

 トルトゥリエは不毛で不快な議論を打ち切る。

「貴官の意見は承知した。検討することにしよう。」

「…では、ご検討よろしくお願い致します、司令長官代行閣下。小官が、急ぎ合流を具申した旨、ご記憶に留めておいて頂ければ幸いでございます。」

 殊更、役職名を付けるのも当て付けであろう。トルトゥリエは、このような不快な男と生死を共にしなければならない状況に、泣きたくなる。



A.F.683/05/05 17:44

 サテリット艦隊がソレイユ艦隊、ルナ艦隊の布陣するマガツヒ周辺宙域に到達し、3艦隊間でリアルタイムビジョン回線が繋がる。

 トルトゥリエとショーメが敬礼し、着陣の挨拶をする。ソレイユ艦隊司令長官リュドヴィック・ラコスト元帥と参謀長ジョゼット・ド・ルナール大将、ルナ艦隊司令長官パトリス・ダーノー大将と参謀長ジャン=ミシェル・ド・ニザン大将が其々の画面で答礼する。最高位階級で年長のラコスト元帥が最初に口を開く。

「ソレイユとルナは惑星アテラス方面に進出し、アテラス艦隊に決戦を求める。サテリットはマガツヒの攻略、と言ってももぬけの殻のようだが、これの攻略と基地化作業に当たれ。イザナ艦隊の侵入を検知した場合は、その行動を妨害するのだ。」

 トルトゥリエは頷く。

「承知致しました。アテラス本星への攻撃のためには、どのタイミングで進出致しましょうか。」

 その問いにはルナール大将が答えた。

「アテラス主力は本星近傍で待ち構えているであろう。決戦に突入した段階でこちらから指令を出す。マガツヒには輸送艦、降陸艦等、幾らかの補助艦艇を残し、戦闘艦は全隊で進出せよ。」

 トルトゥリエは不審に思う。

「それですと、マガツヒに残った部隊は、護衛もなく敵中に取り残されることになりますが、」

 ルナールが言い切る。

「それが、どうした。」

 トルトゥリエは耳を疑う。ルナ艦隊のダーノー大将とニザン大将は、若干嫌な顔をしているように見えるが、ショーメはニヤけている。

「マガツヒ残留部隊は捨て石ですか…」

 ラコストが苦言を呈す。

「言葉に気を付けろ、トルトゥリエ中将。完勝を期すための布石だ。マガツヒなど我々にとっては戦略的価値などない。」

 トルトゥリエは抵抗する。

「であれば、そもそも攻略などせずに、全隊で向かっても良いのではありませんか。」

 ラコストは平然と言い切る。

「それでは、星系外からの侵入を検知できん。奴らの十八番(おはこ)奇襲は避けねばならん。この作戦は、我らにとっては無価値でも奴らにとっては価値がある、マガツヒという土地を活かしたものだ。」

(そのために将兵の生命を危険に晒すのか!)

 罵ってやりたい気持ちを抑え、トルトゥリエは頷く。だが、ラコストは余計な、そしてトルトゥリエにとって許さざる言葉を吐く。

「どうせ、地方軍だ。それほど気に病むこともない。」

 トルトゥリエは自分が信じてきたものが崩壊していくように感じた。アズリアにとって地方軍とは、その程度の存在だったのだ。息が詰まるような感覚の中、敬礼し通信を切る。腹立たしい感情を逆撫でする様に、不快な男が口を開く。

「どうされましたか、司令長官代行閣下。お顔色がすぐれないようにお見うけ致しますが。」

 トルトゥリエは手を振ってショーメを遠ざけようとするが、ショーメは気付かないフリをして纏わりつく。見かねた部下たちが助け船を出してくれた。

「閣下、お部屋にお戻りください。」

 半ば強引にショーメを遠ざけ、トルトゥリエを部屋に連れて行く。ギリギリ聞こえる音量を狙ったショーメの嘲りが聞こえる。

「けっ、女ごときが。」

 部屋に戻ったトルトゥリエはようやくひと息つけた。部下に礼を言う。

「すまん、助かった。」

 部下は敬礼した後、一度躊躇(ためら)った後、不穏な言葉を発する。

「閣下、小官は閣下の御命令とあらばどんなことでも厭いません。司令部全員が同じ気持ちです。ご安心を。」

 そう言って、部屋を出ていった。



A.F.683/05/08 06:29

 ソレイユ艦隊とルナ艦隊はアテラス主力艦隊との決戦を求め小惑星帯(アステロイドベルト)を超え、第5惑星タチハヤオ付近まで進出していた。だが、未だアテラス艦隊は姿を現さない。

 一方、マガツヒに残留しこれを攻略したサテリット艦隊には異変が生じていた。猛烈なジャミングを受け、一切の通信が不能となってしまったのである。これは敵艦の接近を意味していた。

 トルトゥリエは索敵機を全周に飛ばす。すると、索敵機からの連絡が入る前に、敵艦隊が自らの位置を暴露してきた、3ヶ所から、同時に。


「位置S73R88の敵艦隊から打電、『我、アテラス國國防軍第1艦隊。貴隊に対し航宙攻撃隊約300機が準備中である。』」

「位置K27A92の敵艦隊から打電、『我、イザナ共和國宇宙軍統合艦隊。貴隊に対し航宙攻撃隊約140機が準備中である。』」

「位置E10Y41の敵艦隊から打電、『我、アズリア正統政府軍特別機動艦隊。貴隊に対し航宙攻撃隊約200機が準備中である。降伏せよ。』」


 そして、それを裏打ちする様に、各方面に派遣した索敵機から敵艦隊発見の報が入る。


「索敵25号より入電、『敵艦隊発見、戦艦5、重巡5、軽巡5、駆逐艦約20、宙母2、位置K27A92、進路327°仰角8°』」

「索敵3号より入電、『敵艦隊発見、戦艦9、重巡7、軽巡10、駆逐艦約25、宙母5、位置S73R88、進路140°俯角12°』」

「索敵17号より入電、『敵艦隊発見、軽巡1、駆逐艦6、宙母3、位置E10Y41、進路278°俯角4°』」


 トルトゥリエは愕然とする。イザナ艦隊はおろか、アテラス艦隊の主力までもがマガツヒ宙域に結集し、マガツヒを取り囲むように進撃している。それは即ち、サテリット艦隊が完全な包囲下にいることを意味していた。

「何と言うことだ…、だが、戦わずして降伏などできるか!航宙攻撃隊発艦せよ!位置K27A92のイザナ艦隊を攻撃だ!それと、ソレイユとルナに緊急連絡、『我、優勢なる敵艦隊の包囲下にあり。至急、救援を求む。』だ!」

 指令を受け、4隻の航宙母艦から180機のラファエール5が発艦していく。だが、この時点で既に戦況は絶望的である。2倍以上の敵に三方から囲まれているのだ。生き残る可能性があるとすればひたすらに攻撃を耐え、ソレイユ、ルナ両艦隊の救援を待つしかない。だが…


 攻撃隊が去った方向から4機のラファエールが現れ、緊急着艦を要請する。オペレーターが許可の返答をして毒づく。

「クソ、一気に4機か。最近、故障機が多いな。」

 トルトゥリエは、そのことにそれほどの関心を払わなかった。


 それぞれの母艦に1機が着艦する。艦載機格納庫に降りた機体に整備兵たちが群がる。

「どうした?何があった。出力は問題ないように見えたぞ。」

 搭乗員がヘルメットを外さずに降りてくる。

「どうしたんだ?故障箇所は何処だ。」

 問いかける整備兵に、搭乗員は右手に持った何かを掲げて見せる。

「全員、離れろ!いいか!これは対艦推進弾の起爆スイッチだ!一歩でも動いたら起爆させるぞ!…おい、そこのお前、艦橋に状況を伝えろ。正確にな。」


 艦橋のオペレーターが悲鳴を上げる。

「格納庫で反乱、いえ、攻撃です。対艦推進弾を爆破すると脅しをかけています。」

「何だと!」

 トルトゥリエは驚愕し、状況を悟る。

(そうか、奪取したラファエール5を使い、故障を装って着艦する。格納庫に降りたところで推進弾を爆破すれば、艦内命中弾2機の致命傷だ…)

 オペレーターが更に悲鳴を上げる。

「あぁ、各航宙母艦からも同様の報告が!」

 サテリット艦隊はその主力である航宙母艦4隻全てを、人質に取られてしまった。

 そこに敵の通信が入る。

「アズリア正統政府軍を名乗る艦隊が、リアルタイムビジョン回線を開くよう要請しています。」

 トルトゥリエは一瞬ためらった後、回線を繋ぐよう指示する。すると、ショーメが怒声をあげる。

「何だと!そんなもの、無視しろ!」

 トルトゥリエはうんざりする感情を、顔にはっきりと現して答える。

「ショーメ中将、落ち着かれよ。降伏する訳ではない。フェリング大将とプレヴォ中将になぜアテラスに組みし、祖國に弓引くのかを問いただす。」

 ショーメの唇が震えている。返答を待たずに、オペレーターにもう一度接続するよう指示する。


 メインディスプレイにフェリングとプレヴォの姿が現れる。トルトゥリエとフェリング、プレヴォの3名は敬礼しているが、ショーメは敬礼していない。手を下ろし、トルトゥリエが詰問する。

「フェリング大将、プレヴォ中将、貴官らはアズリア連邦への脅迫及び敵対行動に及んでいる。即刻、兵を収め、本来在るべき立場に戻られよ。小官が一時の錯乱であった旨、陛下にお伝えし、寛大な処置を取りなすこと、約束しよう。」

 フェリングは黙っている、プレヴォが答える。

「陛下とは誰か。小官とフェリング大将は國王セリーヌ陛下への忠誠を誓った。陛下は『アテラスと共に戦え。』と仰られた。貴官が言う『陛下』とは何者か。」

「セリーヌ殿下は既に廃された。今はリゼット陛下の御代だ。」

「何を言う。セリーヌ陛下を廃するなど誰が決めたのだ。そのようなこと、臣下が決してよいものではないことくらい、初等部の生徒でも知っておろう。」

 トルトゥリエは真っ直ぐにディスプレイを見ていたが、すっと視線を外して話題を変える。

「建前の話は置いておこう。では、同胞に対し刃を向けるは何故か。」

 プレヴォの表情が少し険しくなる。

「そう、同胞に刃を向けるは苦しい。故に騙し討ちとも言えるこのような手に及んだのだ。」

「『とも言える』ではない、騙し討ちだ。」

「そうかもしれんが、最大限、人命を護るための策だ。アテラスはこのような手を使わずとも貴官らを撃滅できる。だが、そうはしなかった。貴官らの生命も大切だと考えるからだ。翻って、ソレイユを見ろ。貴隊の窮状に駆けつけて来ると思うのか。」

「それは…」

 トルトゥリエが言い淀む。トルトゥリエには解っていた。『地方軍ごとき』であるサテリット艦隊を救うために、ソレイユ艦隊とルナ艦隊が動くことはないであろう。周囲に敵勢力がないことをいいことに、アテラス本星への攻撃を激化させるに違いない。

 だが、トルトゥリエは首を振る。自分たちは祖國アズリアのために戦っているのだ。生命を投げ出す覚悟は出来ている。

「アズリアに弓引くことについて、貴官らはどう考えているのだ。」

 フェリングとプレヴォは視線を動かさない。

「アズリアに弓引くのではない、アズリアに害なす寄生虫に弓引いているのだ。小官らの、アズリアへの忠誠心に一点の曇りもない。」

 その言葉にショーメが激昂する。

「何だと!寄生虫とは誰だ!キサマ、誰のことを言っている!」

 プレヴォは引かない。

「決まっておろう、寄生虫とは宿主から養分を与えられていながら、宿主を死に至らしめる。アズリアの、民の力を借りながら、その民を虐げ苦しめる。そう!寄生虫とはローラン、ソシュール、そしてショーメ!キサマのことだ!」

 ショーメの顔が怒りに歪む。

「キ、キサマ!」

「黙れ。」

 静かにそう発したのはプレヴォでも、ましてやフェリングでもなかった。そう発したのはショーメの隣にいるトルトゥリエであった。

「なにを、女ふぜいが、」

 怒りに我を忘れたショーメが、腰のハンドガンを引き抜く。トルトゥリエもハンドガンを抜こうとするが反応が遅れる。

 銃声がした。

 ドサっと大きな音をたてて倒れたのは、ショーメだった。倒れたショーメの背後にトルトゥリエを部屋に連れていった部下が立ち、その手にはハンドガンが握られている。

「プレヴォ中将閣下の仰る通りです!この男は、ケルンサル・カリッテで女子供までも殺した恥知らずの寄生虫だ。私の家族を!妻を!子供を!」

 呻くショーメに更に3度発砲した部下が、銃を落とす。もうショーメは動かない。

「閣下、閣下のお話の邪魔をする寄生虫は駆除しました。フェリング大将閣下、プレヴォ中将閣下とのお話をお続け下さい。」

 頷いたトルトゥリエが再度、ディスプレイに向き直る。

 口を開こうとするプレヴォを手で制して、フェリングが口を開く。

「と、とも、共に、た、たたか、たたか、戦おう。」

 トルトゥリエはフェリングが発する声を始めて聞いた。トルトゥリエは彼の決意を知ると共に、ある人に尋ねていた。

(セシル様、わたくしはアズリア軍人としてどう振る舞うべきでしょうか。)

 そして、一つ頷いた。


 トルトゥリエはオペレーターに対し、艦内放送と隊内通信を開くよう指示する。そして、準備ができると息を大きく吸って吐いた。

「諸官、サテリット艦隊及びその付随艦隊は現時点をもって解隊とする。そして、小官はアズリア王國國王セリーヌ・ド・ミュレー陛下に対し忠誠を誓約し、同様にセリーヌ陛下に忠誠を誓約したアズリア正統政府軍フェリング大将閣下の指揮下に入る。正統政府軍創軍の目的は、アズリア連邦國民を虐げ苦しめるローラン、ソシュール両名、及びその手の者どもを排除することにある。彼らの罪は、ケルンサル・カリッテの一例を以ってしても明らかである。志を同じくする者は正統政府軍への参加を明らかにせよ。各艦艦長は乗組員全員の参加不参加を集計し、その少数を以って下艦させよ。検討猶予時間は2時間とする。以上」

 トルトゥリエの言が済むと、ざわめきが艦内に充満し、歓声となって爆発した。

「おぉぉお!やるぞ!ローランを倒せ!」

「ケルンサル・カリッテを忘れるな!敵はソシュール、ローランだ!」

「セリーヌ陛下万歳!ローランくたばれ!」

『こちら航宙攻撃隊、アズリア正統政府軍への参加を希望する。帰投許可を乞う!』


 艦載機格納庫で、整備兵らに周囲を囲まれた搭乗員が力が抜けてへたり込む。彼はメッキュロ出身であったが、ルーペ出身の恋人がサテリット艦隊に所属していた。なんとしても流血を避けようと、この特別任務に参加を希望したのだった。整備兵と肩を組み、打倒ローランを共に叫ぶ。


 歓声上がる艦内で、トルトゥリエはフェリングの映るディスプレイに敬礼する。

「麾下への編入をご承認ください。」

 フェリングは黙って頷いた。



 2時間後、サテリット艦隊由来の艦艇はその全てがアズリア正統政府軍への参加を希望した。コメート艦隊由来の艦艇は元司令官の指揮下に入る安心感からか8割強の参加率、エトワール艦隊由来艦艇は6割程度の参加率であった。

 不参加者には強襲降陸艦20隻と輸送艦8隻が充てがわれ、ソレイユ艦隊、ルナ艦隊のいる惑星アテラス方面かアズリアへの帰途に着くかの選択権が与えられたが、一部の病的國粋主義者を除き、ほぼ全ての不参加者がアズリア帰國を選択した。



 アテラス國國防軍第1艦隊旗艦にサテリット艦隊解隊と、トルトゥリエ中将をはじめとする大多数将兵のアズリア正統政府軍参加の報が入る。司令長官カルロ・アンドラーダ大将が特務参謀マコト・カイ大佐に親指を立てて見せる。

「よし!戦わずして、1個艦隊を殲滅どころか味方にしたぞ。さすがだ、カイ大佐。」

 マコトも笑顔を見せるが、すぐに表情を引き締める。

「急ぎ、アテラスに戻りましょう。一刻も早く、エフレモフ元帥、シャンチー元帥の救援に駆けつけなければなりません。」

 アンドラーダは大きく頷く。

「勿論だ。アテラスへ向け、最大戦速!」


 戦いは始まったばかりである。


 


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