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第二十三章 王の決意




A.F.683/02/19 10:22

 アズリア王國國務大臣クロヴィス・ド・ゲランは困惑していた。國王セリーヌ・ド・ミュレーが頑として意見を曲げないからだ。

「セリーヌ様、それはなりません。そのようなこと、許されることではございません。」

 ゲランは必死に訴える。だが、セリーヌもいつになく必死だ。

「誰の許しが必要だと言うのか。それにゲラン自身がやろうとしていたことであろう。」

 ゲランも説得を諦めない。目の前の女性は、彼の生命に代えてでも護らなければならない存在だ。

「わたくし如きとセリーヌ様とでは、國事に与える影響というものが…」

 ゲランの言に被せてセリーヌが主張する。

「だからこそだ。アズリアを変える原動力とするに、余以外の何者を以ってするか。」

「ですから、そこはわたくしめが。」

 ゲランは今にも泣きそうだ。

「では、ゲランの計画も許可せん。余の言を容れるか、計画自体を白紙に戻すか、いずれかだ。」

「何を仰います、今更白紙になど…」

 セリーヌは大きく息を吸ってから、一息に言った。

「お願い、クロヴィス!これだけは、これだけは譲れないわ。私も考えていた事なの、あなたがチャンスをつくってくれた。そのチャンスを私にも分けて!」

 普段、無理矢理つくっている王の風格とやらも忘れ、セリーヌは訴え続ける。

「もう耐えられないの。何もできない王として、こんな所にいるくらいなら…」

 話がそこまで及ぶと、ゲランは深々と頭を下げて言った。

「…わかりました。御心のままに致しましょう。」



A.F.683/02/19 16:30

 ミコト・カイ大尉はアズリア連邦の構成國惑星國家ルーペの情報を、悲壮な表情を浮かべて探してまわっている。ルーペ首都ケルンサル・カリッテの悲報を耳にした時、彼は足元が崩れ去っていくような感覚に襲われた。彼が余計なことをしたばかりに、多くの市民に犠牲が出たのではないか、そう感じているのだった。

 ケルンサル・カリッテについての報道は、アズリア連邦発表の内容と勇敢で義侠心に溢れた一部ジャーナリストの取材内容とで、大きく乖離していた。

 アズリアの主張は以下のようなものである。


・ルーペ駐留部隊司令部がテロ攻撃を受けた。

・テロの首謀者はシモン・ルーセルなる者で、以前より活動を活発化させていた。

・テロ組織と癒着していたルーペ駐留部隊の一部が呼応し、武装蜂起した。

・テロ組織と蜂起部隊は、主要自治政府施設を不法占拠した。

・テロ組織と蜂起部隊は、ケルンサル・カリッテ市内で住民を虐殺し、街を含む多数の場所を爆破した。

・テロ組織と蜂起部隊は、降伏した司令部部員及び捕縛した自治政府要人を殺害した。

・アズリアから派遣されたソシュール元帥率いる部隊が、残忍な蜂起部隊を殲滅した。


 対して、勇気あるジャーナリスト達は以下のことを報道した。


・ルーペ駐留部隊司令部にルーペ解放戦線が攻撃を仕掛けた。

・ルーペ解放戦線はシモン・ルーセルが率いる組織で、アズリア軍を狙った攻撃を繰り返していた。

・解放戦線の攻撃に駐留部隊の一部が呼応し、司令部を降伏せしめた。

・解放戦線と蜂起部隊は自治政府施設を占拠し、要人を逮捕・拘禁した。

・アズリアから派遣されたソシュール元帥率いる部隊は、宇宙空間からの無誘導爆撃を行った。

・降下した部隊はケルンサル・カリッテ市内で無差別殺戮を行った。

・蜂起部隊は市内に降下した部隊に向かい進撃したが、撤退した。その時の状況・理由は不明。

・ルルパート補給廠に立て籠った蜂起部隊を、アズリアからの派遣部隊が殲滅した。


 安全は保証できないと言うよりも、むしろ積極的に攻撃を受ける状況で、ジャーナリズムの戦士たちは彼らの武器であるカメラとペンを振るい、必死に戦った。報道管制をぬって配信される映像には、巨大なクレーターやアズリア派遣部隊の装甲車にこびりつく肉片なども含まれており、どちらが真実に近いかは、疑問の余地がなかった。


 ミコトはソシュール元帥が攻撃を開始した02/17からルーペの情報を探しまわり、二夜の間ろくに寝ていない。

 ドアの向こうからナオミ・ヴァルバドス大尉が声をかける。

「カイ大尉、もう休んで下さい。カイ大尉、倒れてしまいますよ。」

 しばらく声をかけていたが、返答はない。ボードを叩く音や呻き声のようなものが聞こえてくるので起きてはいるようだ。情報課課長マイキー・シャープ中将とナオミが顔を見合わせ、溜め息を()く。2人がそこから立ち去ろうとした時、中の音が止みドアが開いた。ナオミが振り返る。出てきた夢遊病者のようなミコトは、そのままバッタリと倒れてしまった。



A.F.683/02/19 20:47

 医務室のベッドにミコトは寝かされていて、腕には点滴の針が刺してある。

(あぁ、なんだっけ。ナオミさんがいたような…どこだ、ここ…)

 周りを見回す。傍らにはナオミが下を向いて座っている。

(あぁ、倒れちゃったのか…あ、なんか、忘れているような。…あ、そうだ!やらなきゃ!)

 身体を起こすミコトに、ナオミが気付く。

「あぁ、カイ大尉。良かった。気がついて。」

「えっと、これ抜いていいのかな。早くやらなくちゃ!」

 ナオミが、起きあがろうとするミコトの肩を抑える。

「待ってください、カイ大尉。少し休まないと。」

「だって、ルーペが大変なことに、早く情報を集めて…」

 それでも、起きようとするミコトにナオミが叫ぶ。

「ミコトくん!」

 一喝されたミコトの動きが止まる。

「…はい。」

「ミコトくんは傲慢(ごうまん)です。」

「はい?」

「何もかも、自分でやろうとして。自分にならできると思って。」

「いや、…まぁ、うん、ごめん。」

「みんな、…私も、必死に頑張っているんです。」

「…うん。」

「スエツミ総出で情報を集めています。だから、今は休んで下さい。」

「…はい、わかりました。…ごめんなさい。」

 こうして、ミコト・カイは休養することができたのであった。



A.F.683/02/26 14:37

 不安定状態を脱し、肉体的にも精神的にも復活を果たしたミコトは、次の作戦に向けて健全な努力を始めた。アズリアの情報網に攻撃を仕掛け、多種多様の情報を入手していた。

 アズリアが保有している5艦隊の内、残るはキャスナ駐留艦隊(通称:ルナ艦隊)とアズリア駐留艦隊(通称:ソレイユ艦隊)である。この2艦隊は、アズリアが1惑星國家に過ぎなかった時代に創隊された由緒ある部隊で、他3艦隊とは別格の扱いであった。創隊当時はソレイユ艦隊が艦隊決戦を担い、ルナ艦隊がその補助的な役割を与えられたため、その伝統を受け継いでいる。即ち、ソレイユ艦隊は艦隊決戦に特化し、強力な打撃力を有する戦艦部隊を主力とする。対するルナ艦隊は、快速の艦艇を集め、遊撃戦、機動戦に対応できる編成となっている。2艦隊は協力、連携することで更にその能力を高めるよう、部隊設計が為されていた。


〈アズリア連邦軍〉

 統帥本部本部長     オレール・ド・ローラン元帥

 幕僚総監        シャルル・ド・ソシュール元帥

 ・ソレイユ艦隊(司令長官リュドヴィック・ラコスト元帥)

        (参謀長 ジョゼット・ド・ルナール大将)

   ・戦艦    16隻

   ・重巡航艦   8隻

   ・軽巡航艦   4隻

   ・駆逐艦   32隻

   ・航宙母艦   4隻

   ・補給艦   14隻

   ・強襲降陸艦 60隻

   ・輸送艦   15隻

  陸戦部隊

   ・兵員    11万5千人

   ・戦闘装甲車  6千3百輌

   ・各種車輌   1万7百輌


 ・ルナ艦隊   (司令長官パトリス・ダーノー大将)

         (参謀長 ジャン=ミシェル・ド・ニザン大将)

   ・巡航戦艦  12隻

   ・軽巡航艦   8隻

   ・駆逐艦   24隻

   ・航宙母艦   8隻

   ・補給艦   10隻

   ・強襲降陸艦 48隻

   ・輸送艦   10隻

  陸戦部隊

   ・兵員     8万2千人

   ・戦闘装甲車  4千2百輌

   ・各種車輌   8千8百輌


「やれやれ、1個艦隊だけでも十分強力なのに、2個艦隊で来るよな、やっぱり。」

 ミコトは独り言を言いながら、アズリア艦隊の編成表を眺める。先日のフソー星系とイワツツ星系の連動戦では、アズリアが敢えて別々の星系に艦隊を送り込んだため、アテラスとイザナは危険を犯しながらも、戦力を集中させて各個撃破に成功した。次回、同じ轍を踏むはずがない、同一星系にソレイユ艦隊とルナ艦隊を送り込み、圧倒的戦力で押し潰すであろう。

「太陽と月か、アテラスに月はないからな。…月はツクヨミか…いやいや、僕はスエツミだった。作戦のことは兄さんと作戦課に任せておこう。情報、情報、餅は餅屋に、と。」

 言いながら、ミコトは何かを思いついた。

(…ツクヨミ、…もち?)



A.F.683/02/28 12:34

 アテラス國國防軍独立駆逐艦隊の11隻は長躯進出し、ある星系の外縁に到達した。惑星イザナがあるイワツツ星系を出てから22日、外務大臣ユートン・キョウを乗せフソー星系を出てからは2ヶ月半が経過している。

「さて、ここからは油断ができないぞ。みんな気を引き締めていけよ。」

 司令官スニール・ラジ中将の檄に皆が応える。

「会合点まであと4日、予定通りですね。」

 参謀長トン・タイン少将は航路図を表示させ、時間と距離を確認している。特務参謀マコト・カイ中佐はレーダー員に声をかけ、得られた画像を確認していた。艦橋の戦術ディスプレイに表示させ、戻ってくる。

「ターゲットと思われるレーダー波をキャッチしました。ターゲットであれば、5分後に2秒間レーダーを停止すると言うか、しているはずです。」

 現在、ターゲットとムツキとは40光分ほどの距離がある。到達するレーダー波は40分前に発せられたものだ。レーダー員が実況してくれる。

「補正完了、3、2、1、レーダー波消失、、回復、、あ、また消失、、回復」

 ラジ、タイン、マコトの3人が顔を見合わせる。

「2回、消失しましたね。」

 マコトの確認にラジとタインが肯く。

「確かに2回だったな。どう言うことかな。」

 ラジの問いにタインは首を傾げながら答える。

「予定外のことが何か生じていると言うことではないでしょうか。」

「そうかもな、とりあえず我々は向かうしかない。あまりやりたくはないが、航宙哨戒をしながら航行しよう。」

 航宙機によって哨戒範囲を広げると、敵を早く発見できる利点がある一方、敵に航宙機が発見され侵入に勘付かれる危険性が増す。そのため、完全秘匿作戦の場合、航宙哨戒を避ける場合があるのである。



A.F.683/03/04 04:28

 ムツキとその姉妹11隻はターゲットまで4光秒の位置まで接近していた。

「いきなり姿を現してしまうのはいかにも危険だな。」

 ラジの懸念も(もっと)もである。ここまでは順調だがレーダーの件もあり、偵察機を先行させることになった。

「どの機に行かせるか、やはりウヅキ1のオウ大尉かな。』

 ラジの意見にタインも同意する。

「そうですね、現場の判断力が問われるシチュエーションです。オウ大尉が適任でしょう。」

 指令を受け、ウヅキから81式艦上複座偵察機が発艦し離れていく。

「さて、何が待っているかな。」

 ラジは呟き、腕を組む。全員がウヅキ1からの通信を待っていると、通信ではなくウヅキ1が戻ってきた。航法用の機幅灯を、付けたり消したりしている。

 タインがその意図を読み取った。

「あれは…モールスですね。テ、キ、ア、リ、ケ、4、ク、8 ケは軽巡、クは駆逐艦でしょう。護衛が多いですね。これはちょっと厳しいな。」

「追跡してチャンスを待ちますか。」

 マコトの言葉にラジは難色を示す。

「燃料がな…ただでさえギリギリだ。」

「では…」

 そう言ったタインに、ラジはニヤリと笑い返す。

「強奪するぞ。総員、戦闘配置!各艦に艦偵を上げさせろ。艦偵はK37P02まで進出して縦列陣を組め。レーダー照射して敵を(おび)き寄せるぞ。」

 艦内が(にわ)かに騒がしくなる。だが、長い航宙にすっかり飽ききっていた乗員たちは皆、晴れ晴れとした表情で機敏に動く。各艦から81式が飛び立っていく。ムツキたち母艦は回り込んで敵護衛艦隊の後ろに付く。


「航宙機隊、レーダー照射します。照射。」

 ラジは時計の見ながらタイミングを計る。8分後、ラジが叫ぶ。

「最大戦速!各砲塔右舷指向、敵艦隊の左脇を抜けながら砲撃だ。」

 ムツキたち11隻の戦乙女(ワルキューレ)は最大の速度で敵艦隊に近づく。敵艦隊が非武装の民間クルーザーの周囲を取り囲んでいる。軽巡航艦2隻、駆逐艦5隻だ。他は航宙隊の発するレーダー波を確認しに行ったのであろう。

「レーダー波照射、混乱させろ!」

 ムツキたちからレーダー波が照射される。前方のレーダー波に意識を集中させていた敵艦隊は、突然現れた背後のレーダー波に驚愕し、慌てて回頭を始める。だが、これこそがラジが望んだ状況であった。手前にいる軽巡航艦のわずかに左の位置を狙って突進していく。ラジの指令が飛ぶ。

「砲撃開始!」

 ムツキ、キサラギ、ヤヨイが軽巡航艦に向かって光の矢を伸ばす。敵軽巡航艦のシールドを消失させ、砲塔と船体に光の矢が突き刺さり爆発する。

「よし、次だ!」

 回頭中で船体の横を晒した駆逐艦に、照準を移す。ムツキからサツキまでが砲撃を集中させた駆逐艦は瞬時に爆散した。

「次!、いや、抜けろ!先頭艦を先にやる!」

 3番目の獲物に攻撃しようとしたが、クルーザーが射線に入るため通り過ぎ、艦隊先頭にいる艦に照準を移す。ようやく敵から砲撃が返ってくるようになったが、単艦での散発的なものだ。

「ムツキ、キサラギ、ヤヨイは後方の駆逐艦!ウヅキ、サツキ、ミナヅキは先頭艦!第12駆逐戦隊はクルーザー右側へ、護衛艦との隙間にねじ込め!」

 射線方向が変わったムツキたちは、一旦見逃したクルーザー横の駆逐艦に砲撃を集中させる。レーザーの光が交差する。後続にいたフミヅキ、ハヅキがクルーザーとその右側にいる駆逐艦の間に割り込み、駆逐艦に砲撃を集中させる。右側の駆逐艦がハヅキに主砲を指向するが、クルーザーが射線に入り、発砲できない。ナガツキ、シモツキ、シワスは後方から砲火を集中させ、右側駆逐艦も仕留めた。右側にいたもう1隻の駆逐艦は抵抗を諦めレーザーが追い縋る中を逃走していく。

「追うな!分派した奴らが帰ってくるぞ。次は奇襲じゃない、気を抜くな!」

 クルーザーを取り囲んだ独立駆逐艦隊は、駆逐艦の残骸と大破した敵軽巡航艦2隻を残し、そのまま全速で航行していく。マコトが作戦の提案をする。ラジはその案を採択した。

「そうだな。閣下にも少しは手伝って頂こう。」

 ラジはクルーザーの前に麾下の駆逐艦を横隊で整列させた。航宙機が引きつけた敵艦隊が前方から迫ってくる。射程に入る直前に、右に並んだ艦は右、左に並んだ艦は左に回頭しクルーザーを中央に残して左右に別れる。敵艦隊はクルーザーを取り返そうと中央に殺到するが、そこは左右に別れた独立駆逐艦隊の射線焦点に当たる。レーザーカノンの十字砲火が敵艦を炎上させる。敵もようやく単艦では対応できないことを認識し、ミナヅキとシワスに砲火を集中してきた。ミナヅキ、シワスは砲塔に被弾し、砲撃力が落ちる。

「ウヅキ、サツキはミナヅキの前面に展開、ナガツキ、シモツキはシワスの前だ!」

 致命傷を負う前に配置を変え、損害を分散させる策だ。その間にも敵艦隊は突撃を繰り返すが、4回目の突撃が失敗に終わり、遂に力尽きた。

「駆逐艦3撃沈、軽巡4大破、駆逐艦5大破、こちらはミナヅキ、シワス中破、ウヅキ、サツキ、ナガツキが小破か。まあ、こんなもんだろ。」

『こんなもん』どころではない。機先を制したとは言え、終始、相手を圧倒したラジの手腕と独立駆逐艦隊の技量に、マコトは舌を巻いた。

「鮮やかな指揮でした。」

 褒めるマコトにラジは親指を立てて見せ、

「カイ中佐の作戦も良かったが、今回は経験の差だな。敵将はおそらくルーキーだ。」

 そう言って笑った。



A.F.683/03/04 06:08

 戦闘宙域から離れたところで、クルーザーにムツキのシャトルを接舷させる。ここでターゲットを受け取り、ステルス性のないクルーザーは別星系へ逃走する予定となっている。シャトルに乗って迎えに行ったマコトは、複雑な顔をしてムツキに戻ってきた。ラジとタインが怪訝に思い、尋ねる。

「どうした、カイ中佐。問題でも生じたか。あ、囮に使ったことにご立腹か。」

 マコトは首を振り、苦笑いを浮かべる。マコトの後ろには、白髪で品の良いスーツをきた初老の男性と、白のスラックスに白いスーツを合わせた小柄な人物が見える。ターゲットは1人ではなかったか。

「…アズリア王國國務大臣クロヴィス・ド・ゲラン閣下と…國王セリーヌ・ド・ミュレー陛下が乗艦をご希望です。

 ラジとタインは慌てて、敬礼をした。


 場所を食堂に移す。狭い駆逐艦の船内、他に集まれる場所がないのである。最上座にセリーヌが座り、話が始まった。

 最初にラジが当然の疑問を発する。

「えっと、なぜ、國王陛下がこちらにおいでになったのでしょうか。予定ですとゲラン閣下お一人では…」

 ゲランが答えようとするが、セリーヌが大きい声で被せてくる。

「わたくしも亡命を希望いたします。」

「國王陛下自らが亡命ですか…」

 ラジたちアテラス組は唖然としている。

「歴史上、無いことでは無いと存じております。」

 言い切るセリーヌに、皆どうすれば良いのかわからず困惑している。

「それは…そうなのかもしれませんが。ゲラン閣下もご納得のことなのでしょうか。」

 ゲランは恐縮して答える。

「皆様には、大変ご迷惑をおかけしますが。陛下たってのご希望ゆえ、何卒ご承諾頂けないでしょうか。」

 ラジは腕を組む。今度はタインが口を開いた。

「先ほどの戦闘をご覧になったかと思いますが、航行には当然、危険が伴いますよ。」

 ゲランが頭を何度も下げて言う。

「そのことです。こちらの不手際で護衛の船がまとわりついてしまいました。出港時は単独航行だったのですが、追いかけてこられて…皆様にご迷惑と危険を招来したことを、平にお詫びいたします。」

 あまりにも低姿勢のゲランに、アテラス側も申し訳ない気持ちになる。

「まあ、小官らは軍人ですから、危険は(いと)いませんが、お二人のご安全が…ローラン元帥も何かに感づいたと言うことですよね。」

 セリーヌが決然とした表情で言う。

「おっしゃる通りです。ローランは我々が國外脱出を企てたことに気付いてしまいました。もう、引き返すことはできません。戻ったら、我々を殺すことに躊躇はしないでしょう。」

 マコトが手を挙げている。皆の視線がマコトに集まる。

「國王陛下にお尋ねしてもよろしいでしょうか。」

 セリーヌが大きく肯く。

「なんなりと。」

「陛下の亡命目的は何でしょうか。ローラン独裁体制の打倒、強力な王政の復活、ですか?」

 タインがマコトを肘で突く。無礼だと言うのであろう。だが、セリーヌはマコトを真っ直ぐ見て答える。

「ローラン独裁体制の打倒はそうです。彼と彼の部下が行ったルーペでの蛮行、決して許されるものではありません。強力な王政の復活、これは違います。わたくしは、将来的には王政を廃し共和制に移行するべきだと考えております。」

 ゲランが驚きの表情を浮かべる。そのようなことを考えているとは、思ってもいなかった。

「質問は以上です。」

 マコトは頷いて、それだけ言った。

 ラジがとりあえず話をまとめる。

「戻れば、お生命の危険が生じるというのは理解できます。人道的対応ということで弊國にお連れいたしましょう。ですが、この船は戦闘艦艇でサイズも小さい。色々とご不便をおかけすることになると思いますが、そこはご容赦頂けますようお願い致します。」

 セリーヌの表情が明るくなる。

「ありがとうございます!わたくしは寄宿舎で生活していましたから、身の回りのことは何でも自分でやれます。いいえ、船に乗せて頂けるんですもの、皿洗いでも床掃除でも何でもお申し付け下さい。」

 一同が苦笑いを浮かべる。

 こうして、アズリア王國國王セリーヌ・ド・ミュレーと國務大臣クロヴィス・ド・ゲランは駆逐艦ムツキに乗艦し、アテラスに向かうことになった。



 その頃、アズリア王國の首都マシェリにそびえ立つ連邦軍統帥本部ビルで『國王誘拐』『護衛艦隊、壊滅』の報を受けた、アズリア連邦連邦軍統帥本部本部長オレール・ド・ローラン元帥は、一旦は驚いたもののすぐ平静に戻った。傍らには幕僚総監シャルル・ド・ソシュール元帥がいる。

「どう考える、ソシュール。」

「アテラスだな、長躯進出し、小艦隊を1つ潰し、國王を誘拐する。なかなか大したものだ。」

 ローランは椅子を回し、眼下の主人のいなくなった王宮に視線を送る。

「どう廃するか考えていたところで、自分でいなくなってくれた。ありがたいことだ。だが、できれば生命も置いていってもらいたかった。」

 生命を落としていれば、新たな、より御しやすい新王を据えてそれで済む。それだけの力をローランは持っている。だが、生きている或いは生死不明で新王を立てるのは抵抗が大きいだろう。だが、ソシュールの思考はもっと強烈だ。

「生死など、気にする必要はない。『國を捨てた王など王ではない。』そう言えば済むこと。」

「なるほど。」

「いっそのこと、お前が王位に立ってしまえば良い。」

「そうだな。」

 そう言ったローランであったが、まだその時ではないと判断していた。ルーペの抵抗勢力を根絶やしにして、アテラス・イザナを屈服させた時、その時こそが相応(ふさわ)しい。

 副官マルタン・ルフェーブル大佐は、恐ろしい会話が展開されている中、聞くでもなく聞かぬでもない微妙な注意の向け方を心がけている。聞いて、何か行動を起こそうとでもすれば、危険人物として粛清されるであろう。聞かず、言っていたことを知らないふりをすれば、腹に抱える人物としてやはり粛清されるであろう。決して自分からはアクションを起こさず、求められれば素早く確実にこなす。それが彼の処世術であった。

「ところで、國を捨てた輩の家族と王を奪われたクルーザーはどうした。」

 嫌な話が始まったと思いながら、ソシュールの問いにルフェーブルが答える。

「ゲラン様は奥様を7年前に亡くされ、家族と言える者はいないようです。クルーザーはルーペ方面に逃走した模様です。」

「では、ゲランの小間使いでも友人でも知人でもなんでも良い。とにかく、自分が原因で不幸になる者がいれば、人は動きを止める。クルーザーも同じだ。家族、友人、なんなら赤の他人でもなんでも良い。とにかくまとめて放り込んでおけ。」

「はっ」

 ルフェーブルは気の進まない任務に勤しむことになってしまった。



A.F.683/03/16 14:55

「これは、絶対に口外しないで頂きたいのですが、アズリア王國國王セリーヌ・ド・ミュレー陛下がアテラスに亡命しました。あと、國務大臣ゲラン氏もですが。」

 ナオミの言葉に、ティアナ・サーンは眼と口をまん丸にして驚きを表現した。セリーヌとゲランの亡命はアテラスに到着後に公表されることになっている。亜空間航行中に、敵艦に襲われる可能性は高くはないがゼロではない。道中の安全のための措置であった。

 ここはアマノイの中央公園、少し風が暖かくなり始め、日中には春の兆しを感じられる。だが、朝夕はやっぱり寒い、そんな季節だ。ミコトは1人、鉄棒にぶら下がっている。

 しばらく、ワタワタしているだけだったティアナが、ようやく口を開いた。

「私、会わせてもらえるかな。」

 ティアナは王族の出ではあったが、王家とはそれほど関わったことがない。子供の頃に宮廷晩餐会とやらに連れていってもらったくらいだ。

「会う機会はあると思いますよ。ティアナさんは少し自分の立場を自覚するべきですね。アズリアの陰謀を暴き、アテラス・イザナの融和を成し遂げた功労者の筆頭ですよ。」

「誰が?」

「あなたが。わざと言ってるんですか。」

「いやいや、私はただ多くの人に話を聞いてもらいたかっただけなんだけどな。」

 ナオミは手にしたコーヒーをひと口飲んでから、

「ティアナさんがそう思っていても、現実にそういう方向になった訳ですし。」

 ティアナもコーヒーをひと口飲む。

「でも、そのせいもあってアズリアとの全面戦争に発展して、今も大変なんでしょ。あんまり聞こえてこないけど。」

「大変ですね。でもルーペのこともあって、みんなが戦うべきはアズリア、独裁者ローランこそ倒す相手、と國内が(まと)まりました。その一因はティアナさんの草の根運動だったことは確実です。だから、自信を持っていてもいいんじゃないですか。」

 ティアナは両手を大きく上げてストレッチをしながら立ち上がった。

「そっか。じゃあ、そう思うことにしよう。打倒ローランの活動に國王陛下が参加されたら、どうなっていくんだろ。」

 ナオミも立ち上がり、2人はぶら下がっているミコトの方に歩いていく。

「さあ、どうでしょうね。でも、その前に軍人は戦いに勝たないといけないですから。その後は政治家にお任せします。」

「政治家ってガラじゃないかな。」

 ミコトが鉄棒から手を離し、地上に下りる。

「あー、キツい。2人もやってみなよ。」

 ティアナがミコトの真似をして鉄棒にぶら下がる。ぶら下がったまま2人に尋ねる。

「君たち2人はどうなの?順調?」

 2人はとぼける。

「何がですか?」

「何のことですか?」

 ティアナはニヤニヤしている。

「順調そうね。」


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