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第二十一章 フソー・イワツツ連動戦(後編)




A. F.683/02/19 00:00

 アテラス國國防軍第1艦隊とイザナ共和國宇宙軍統合艦隊はフソー星系外縁で互いの姿を確認した後、別々のルートをとって第5惑星タチハヤオと第6惑星ヤサカトメの間に広がる、小惑星帯(アステロイドベルト)に近付いていた。アズリアのコメート艦隊は、強襲降陸艦、輸送艦、補給艦と言ったステルス性能の低い艦艇を、レーダーが無効になる小惑星帯の中に紛れ込ませ、その所在を秘匿している。

 第1艦隊旗艦 巡航戦艦イブキの艦橋で司令長官カルロ・アンドラーダ大将は、戦術ディスプレイに周辺宙域のマップを表示させ、腕を組んでいる。

「降陸艦等がこの周辺の小惑星帯の中に潜んでいるのは間違いないとして、戦闘艦部隊は何処に行ったかな。」

 参謀長ユジュン・マツナガ中将も自信は無さそうに

「強力な火砲を持つ戦艦部隊ですから、所在を明らかにして堂々と決戦を求めても良さそうなものですが、今のところ、そういう気はないようですね。」

「まあ、航宙攻撃を恐れてのことだろうな。サテリット艦隊の被害も伝わっているだろう。」

 アンドラーダは、艦隊情報と人事情報をディスプレイに表示させるよう、戦術参謀に指示する。本星から、ツクヨミでの戦闘詳報やその他、多種多様な情報が提供されている。


〈アズリア連邦軍〉

 ・コメート艦隊(司令長官クリストフ・フェリング大将)

        (参謀長ブリュノ・ド・プレヴォ中将)

   ・戦艦    10隻 健在 9隻 戦線離脱 1隻

   ・重巡航艦   8隻 健在 7隻 戦線離脱 1隻

   ・軽巡航艦  12隻 健在10隻 戦線離脱 2隻

   ・駆逐艦   30隻 健在21隻 戦線離脱 9隻

   ・航宙母艦   5隻 健在 5隻

   ・補給艦    8隻 健在 4隻 戦線離脱 4隻

   ・強襲降陸艦 40隻 健在40隻

   ・輸送艦    8隻 健在 8隻

  陸戦部隊

   ・兵員     5万5千人

   ・戦闘装甲車  3千2百輌

   ・各種車輌   6千輌


「重ね重ね、シャンチー元帥閣下の偉大さがわかる。あの寡兵でこの強大な敵と渡り合い、これだけの損害を与えるとは。とても真似できん。」

 マツナガも感嘆する。彼もシャンチーを深く敬愛する1人だ。

「全く同感です。敵の司令官も計算がくるっていると思いますよ。敵の司令官と言えば、フェリング大将ですか、なかなかの変わり者だとか。全く喋らないと詳報にはありました。」

 アンドラーダが疑わしそうな眼をする、彼は詳報を()だ読んでいなかった。

「全くと言うことはないだろう、どう指揮を執るんだ。」

「それが、プレヴォ参謀長が、手の動きなどで意図を読み取り、指示を伝達すると。」

 アンドラーダはマツナガの返答に唖然とする。

「なんと…宇宙には変わり者がいるな…」

「その変わり者、戦略戦術論の専門家だそうです。シミュレーターでは無敗だとか。」

「そうか、理論家か…どう、鼻を明かしてやるか。」

 アンドラーダは楽しそうだ。



 アンドラーダが言う変わり者、コメート艦隊司令長官フェリング大将は、旗艦ペルピニャンの艦橋で戦術コンピュータを操作している。アテラス軍の行動を様々なパターンで予想し、その対応を検討しているのだった。サテリット艦隊の生き残りから戦闘の詳細が送られてきた。事前情報と異なり、エトワール艦隊との戦いで、アテラス艦隊はほとんど損害を被ってはいないようだ。サテリットも大きな損害を与えられていない。逆にたった一回の航宙攻撃で、6隻もの宙母部隊が行動不能に陥ってしまったらしい。参謀長プレヴォ中将もその詳報を読んで愕然とした。

「サテリットはイザナ軍の航宙隊にやられたようですが、アテラスも同様の戦術が可能と見るべきでしょう。航宙攻撃は特に警戒が必要です。」

 プレヴォの言葉を受けてフェリングも肯く。右手人差し指で、放射線状に何本か線を描くような仕草をした。プレヴォがその意図を読み取り、部下に索敵を強化するよう指示を出す。

 戦術ディスプレイには平面状に広がる小惑星帯と、そこに分散して潜む非戦闘艦の光点、小惑星帯を底にして上面側に展開する戦闘艦の光点が映し出されている。彼らの作戦指針は、下記の通りであった。


 ・小惑星帯を敵大型艦に対する防壁とする。

 ・小惑星帯の内部に潜んだ強襲降陸艦群は、敵航宙機が突破を図る時には身をもってその行動を阻害する。

 ・戦艦、重巡航艦ら打撃部隊は2列の縦陣を組み、敵打撃部隊と砲撃による決戦を行う。

 ・軽巡航艦、駆逐艦は打撃部隊を、敵航宙機から防御する。


 これら指針は、航宙攻撃を避け、アテラス艦隊を砲撃決戦に引き摺り込むことを意図している。大勝することは難しいが、同規模の損害を敵に与えられる可能性が高い作戦と言えた。後が控えているアズリアだからこその作戦である。



A. F.683/02/19 04:28

 アテラス、アズリア両艦隊は、索敵機同士の接敵、艦艇の発見、艦艇同士の接近と視認、と言う定石通りの手順を踏んで、相まみえた。

「敵艦確認、戦艦級4、重巡級4、軽巡級4、駆逐艦級8 進路169°仰角1° 距離800」

 オペレーターの報告にプレヴォは頷く。

「サテリットからの報告よりも少ない艦艇数ですね。どこかに潜んでいるのか。ですが、各個撃破の好機です。」

 フェリングは2呼吸ほど思案していたが、敵艦隊に向かい手を押し出すようにした。いつも通りプレヴォが翻訳する。

「第2戦速で前進、間合いを詰めるぞ。」

 コメート艦隊は堂々とアテラス艦隊に向かって進み始めた。それを見たアテラス艦隊はコメート艦隊の方向に進むのをやめ、小さく回頭して引き返していく。コメート艦隊の将兵から嘲笑が漏れる。

「恐れをなして逃げ出すのか、情けない奴らめ!」

「アズリアが怖いなら、さっさと降れ!命くらいは助けてやる!」

「逃げてないで勝負しろ、コメートが優しく戦い方を教えてやる!」

 各艦は敵にも聞かせようと、共通バンドで発信する。盛り上がる部下たちは置いておいて、フェリングは思案している。索敵は十全に行なっている、周囲に艦隊がいないことは確実だ。ノコノコ現れて、決戦をするのかしないのか、はっきりしない動きに不審が募る。だが、彼は決断した。素早く手を押し出した。プレヴォの声が響く。

「最大戦速!突撃しろ!」

 コメート艦隊は全速を出し、アテラス艦隊に襲いかかる。慌ててアテラス艦隊も速度を上げ、ジグザクに進路をとる、砲撃の回避行動だ。だが、その分間合いが詰まっていく。アテラス最後尾艦を旗艦ペルピニャンの主砲射程に捕らえた。フェリングは右手を立てて振る。

「砲撃開始!」

 主砲レーザーカノンの太い光の矢が、アテラス4番艦スオウに伸びる。スオウからも光の矢が返ってくる。お互いのシールドが光の矢をはじく。アテラス艦隊は逃げるのをやめ、コメート艦隊から見て右方向に整列する。距離をとっての砲撃戦の構えだ。盛んにレーザーカノンを撃ち始めた。コメートも大きく右に回頭し、アテラス艦隊の艦列と並行になる。戦艦4隻と戦艦10隻の砲撃戦が始まる。

「いいぞ!同航戦なら数が多い方が勝ちだ!撃てぇ!」

 プレヴォが叫ぶ。フェリングは叫ばずに、細かく艦隊の進路を調整させる。この状況でしばらく砲撃戦が続いた。


 遠距離での砲撃戦のため、双方大きな被害は出ていない。が、アテラス艦隊のシールドが限界を迎えつつある。

 巡航戦艦イブキの艦橋でアンドラーダが親指を立てて、上に振る。敵将を真似ているのだ。マツナガが指示を伝える。

「全速前進! 進路10°仰角92°、直上目掛けていけ!」

 イブキは小惑星帯の中に突入する。続いて巡航戦艦ヒジリ、同ホウライ、重巡航艦やそれ以下の艦艇も次々に突入していく。

「ここは我々の庭だ。好きにはさせん。」

 アンドラーダは面倒になったのか、もう喋り始めた。

 小惑星帯に浮かぶ岩石や氷は膨大な数があり、その全ての軌道を把握することはできない。しかし、アテラス軍は重点範囲を決め、その範囲においては綿密な調査を行っていた。そして小惑星帯を貫く狭路を確保していたのである。戦艦部隊は砲撃戦に応じつつ、コメート艦隊打撃部隊を強襲降陸艦が潜む宙域から引き摺り出した。そして、自分たちが確保している狭路の近くまで、誘導していたのであった。

 イブキは右に左に舵を切り、小惑星帯を突き進んでいく。ときおり船体に氷の塊が当たり、粉々に砕けてキラキラと光を反射する。突然、周囲に岩石などの浮遊物がなくなる。

「抜けた!」

「敵艦確認!方位78°俯角83° 、距離360!」

「砲撃戦開始、撃てぇ!」

 オペレーターの報告と指示を出すアンドラーダの声とが交錯する。一気に艦砲の射程内に躍り出たイブキと僚艦たちは、コメート艦隊の最後尾にいる戦艦カーンに砲撃を集中させる。コメート艦隊は突然、背後に出現したアテラス艦隊本隊に驚愕し、艦列を乱す。3隻の巡航戦艦に集中砲火を浴びたカーンは、がっくりとうなだれるように艦首を小惑星帯に突っ込んで沈黙する。遠方からの砲撃に専念していた戦艦部隊も、回頭してコメート艦隊に突撃し、コメートの3番艦メスに砲撃を集中させる。同格の4隻に攻撃を集中されたメスは船体に大破口を生じ、艦内にあったあらゆる物を宇宙空間にばら撒いてから、真っ二つに折れ曲がった。

 アテラス艦隊は、重巡航艦は重巡航艦、軽巡航艦は軽巡航艦、駆逐艦は駆逐艦とそれぞれのクラスで獲物を定め、集中砲火によって、次々にコメートの艦艇を撃沈していく。



A. F.683/02/19 05:10

「戦艦カーン、通信途絶!」

「重巡航艦イエール、撃沈!」

「第32駆逐戦隊、壊滅の模様。」

「戦艦メス、撃沈!」


 悲鳴が溢れているペルピニャンの艦橋で、プレヴォが愕然としている。

「小惑星帯を突破してきただと…信じられん。」

 フェリングはそれでも動じずに、手のひらを縦にして2回前に押し出した。プレヴォがフェリングの指示を読み取り、部下に伝える。

「2列縦陣を組み直せ!混戦は相手も同じだ、狼狽(うろた)えるな!」

 だが、イザナとの死闘によって鍛えられたアテラス艦隊は、プレヴォの予想を遥かに超える統率を見せる。いつの間にか戦艦と巡航戦艦が単縦陣を組んで、艦列が乱れきり行先が決まらない羊の群れと化したコメート艦隊に、容赦のない砲撃を浴びせかける。旗艦の周囲を取り巻く艦艇が次々に被弾し爆発していく。

 なんとか砲撃の雨を抜け出し、距離を取ることに成功した時には、戦艦は3隻が撃沈され、その他の艦艇にも大きな被害を出していた。

「強襲降陸艦がいる宙域に戻りましょう。とりあえず、小惑星帯からの航宙攻撃は防げます。」

 頷くフェリングだったが、すぐに新たな敵の接近の方がもたらされる。イザナ共和國宇宙軍統合艦隊の到着である。


 旗艦戦艦コネチカットの艦橋で司令長官ポール・クラフトマン大将は時計を見ている。

「そろそろ、よいかな。参謀長。」

 参謀長グレース・クロフォード中将は真剣だが明るい表情で答える。

「よろしいかと思います。存分に暴れましょう。」

 クラフトマンは頷き、

「全速前進!奴らを叩き潰すぞ!」

 コネチカットを先頭に戦艦5隻が単縦陣でコメート艦隊に向かう。混乱から覚めたコメート艦隊から砲撃が浴びせかけられるが、ものともせずに突進していく。

 すると、イザナ航宙母艦から発艦した航宙攻撃隊CFー32D 120機が戦場に到着した。だが、第1陣と第2陣は大きく距離を開けて進撃している。コメート艦隊からもラファエールが迎撃に上がる。イザナ制宙隊とアズリア迎撃隊の宙戦が始まるが、いつもと様子が異なっている。

 コメート艦隊の航宙機隊は、ツクヨミの戦いで消耗したとは言え130機ほど稼働機があった。そして、その全てを迎撃に当てていたのである。対するイザナ航宙隊は半数を攻撃機に当てていたため、130対60の戦いとなり、数的劣勢は明らかであった。

 制宙隊隊長アレックス・サンチェス少佐は再び戦場の(そら)を飛べることに、非常に強い喜びを感じていた。彼は今戦役最初の『ツクヨミの戦い』で、艦ごと捕虜になり、戦線離脱をよぎなくされていたのである。アテラスと戦って捕虜となり、今度はアテラスと共にこのフソー星系で戦っている。そのことに、運命のイタズラを感じる。だが、再びこうして飛べることが何よりも嬉しい。あの時、反航戦に応じ、サンチェスの銃撃を受けたであろうアテラスのパイロットも、この宙で戦っているのであろうか。

「イザナここにありってことを、見せてやるぞ。いいか、CFの得意なところを最大限伸ばしてやるんだ。いくぞ!」

 イザナ機はアズリア機の中に突入する。双方、数機が火炎を噴く。そのまま突き抜け、緩く旋回して再度突き抜ける。従来通りの格闘戦を予想していたアズリア機はこの一撃離脱戦法に面食らう。だが、制宙隊との戦闘を避け、攻撃機に向かう一団がある。その一団に向かってまた突撃していく。イザナ機は中隊以下の単位にならず、執拗に一撃離脱を繰り返す。アズリア迎撃隊は突撃を受け、突撃を避けているうちに、単機レベルの離散状態になってしまった。

 隊内通信にサンチェスの声が響く。

「よし、宙戦開始!」

 反航戦や一撃離脱が得意なサンチェスは、すでに3機のラファエールを墜としていた。イザナの一撃離脱に慣れてきたアズリア機は、突然旋回し背後に回り込むサンチェス機に対応が遅れる。慌てて下方向に急旋回するが、サンチェスはピッタリと付いていく。照準機に敵機を収め、トリガーを引く。エンジンを撃ち抜かれた敵機は、フラフラと天頂方向に飛び去っていった。

「味気ないな。やっぱり、あいつが一番骨があったな。」

 そう呟き、また新たな敵を探す。


 一方の攻撃隊はジェーン・リベラ大尉が率いている。制宙隊が2倍以上のアズリア迎撃機を引きつけてくれている。

「今回はタイミングが重要よ、好き勝手しないでね!」

 リベラの声に部下が答える。

了解(ラジャ)、姐さん。いつでも言うこと聞いてますよ。」

「オーケー、じゃあ、いくわよ。準備して。」

 リベラはイザナ戦艦の動きを気にしている。戦艦の発砲光を見て、叫ぶ。

「突入!」


 クラフトマンは既に叫んでいた。

「砲撃開始!」

 戦艦コネチカットから光が伸びて、アズリア戦艦マムズのシールドと、エネルギーの対決をする。レーザーが負けて弾かれる。更に6本の光が追加され、今度はシールドが消失する。そこに、リベラの小隊が突撃してきた。次々に推進弾を発射し離脱していく。8機の推進弾が装甲の同じ場所に連続して命中する。艦内で爆発が連続し、ひときわ大きい内部機関の爆発が起きた。マムズは木っ端微塵になってしまった。

 双方の戦艦が放つ極太レーザーカノンの光と、無数に撃ち上がる対宙砲の細い光を軽快に躱し、リベラたちはアズリア戦艦を目標として次々に命中弾を与えていく。

「あそこにまだ元気なのがいるわよ、第5小隊行け!」

 リベラの指示で、4機のCFー32Dが翼を翻して戦艦に向かっていく。


 戦艦コネチカットの艦橋では、戦果報告の声と歓声で溢れる。クラフトマンは満足そうに頷き、クロフォードの方を向いて声をかける。

「さすがだ、参謀長。見事な砲撃と爆撃の連合だ。」

 クロフォードは笑顔で答える。

「いえ、アテラスのおかげです。」

 クラフトマンはまた肯き、

「アテラスに教えてもらったことで我が隊も強くなった。協力すれば益々強くなれるだろう。」

 そこに一旦距離をとり、艦列を整理したアテラス艦隊が再度、コメート艦隊に接近し砲撃を開始する。今度は中程度の距離で、一艦に的を絞った集中砲火だ。砲撃が最も効果を発揮する体勢である。


 アテラスとイザナの艦艇では、歓声と戦果報告の声に溢れていたが、対するコメート艦隊の艦艇は悲鳴と被害報告の声で満ち溢れていた。

「戦艦ロリアン、爆沈!」

「重巡航艦ナルボンヌ、艦内誘爆発生、復旧の目処立たず!」

「当艦、第1、第3砲塔、射撃不能、負傷者多数!」

「第33駆逐戦隊、通信途絶!」


 プレヴォがフェリングに撤退を具申する。

「閣下、打撃部隊の損傷率が7割に達しています。もはや、戦局の好転は見込めません。撤退止むなきかと。」

 フェリングはプレヴォの眼をじっと見た後、水平方向に手を大きく回し、手のひらを顔に向けて引き寄せた。そして、戦術コンピュータで撤退のルートを検索する。プレヴォが部下に伝える。

「非戦闘艦は撤退だ、小惑星帯から出て集合しろ。」

 コメート艦隊の非戦闘艦が小惑星帯の上面に現れ集合する、そして星系外縁に向けて航行を始める。戦闘艦は未だその場に留まり、アテラス、イザナ両艦隊の猛攻に耐えている。

 非戦闘艦群は、味方の戦闘艦が戦っている間に出来るだけ距離を開けようと、必死に逃走を図る。脚の速い航宙母艦は艦隊の先頭を走っている。だが、先頭の航宙母艦ル・マンが突然急停止し爆発した。小惑星帯の中から発砲されたのだ。小惑星帯の中の、大きな岩石の影から新たな敵が姿を現す。軽巡航艦オオヨドと駆逐艦3隻、それらはシャンチー率いる小艦隊であった。オオヨドは航宙母艦に同航し、機関のある後部を狙って砲撃を集中する。駆逐艦もやはり、別の航宙母艦の後部に砲撃を加える。3隻の航宙母艦が力なく宇宙空間に漂う。

 航宙母艦を血祭りに上げたシャンチー艦隊は補給艦に狙いを定め、強襲降陸艦の間をぬって砲撃を加える。アテラス小艦隊の意図に気付いた強襲降陸艦が体当たりを敢行する。オオヨドはすんでのところで回避に成功した。だが、オオヨドの後ろにいた駆逐艦は躱しきれなかった。衝突された駆逐艦の船体がひしゃげ、爆発を起こす。この捨て身の攻撃でアテラス駆逐艦2隻とコメート艦隊の強襲降陸艦が2隻が沈没した。

 強襲降陸艦の献身的な攻撃にも関わらず、鈍足の補給艦はオオヨドの追撃を振り切れない。2隻が撃沈され2隻が航行不能に陥った。シャンチーの軽巡航艦オオヨドと駆逐艦1隻は追撃を止め、航行不能になった補給艦2隻を降伏させ、漂流者の救助を開始した。

 全ての補給艦を失ったコメート艦隊は更なる窮地に陥った。なんとかメッキュロまでは航行できるが、弾薬や砲術エネルギーが補給できない。輸送艦に積んだ物資を使用するには、いずれかの港か陸地で積み替えが必要となるためだ。


A. F.683/02/19 05:54

 コメート艦隊旗艦ペルピニャンの艦橋では、プレヴォがガックリとうなだれている。戦術コンピュータには壊滅したコメート艦隊の状況が表示されている。戦闘艦で生き残っているのは、旗艦の他には戦艦1隻、軽巡航艦1隻、駆逐艦2隻のみであった。いずれの艦も大きく損傷している。アテラス艦隊とイザナ艦隊は連携して包囲陣を完成させた。もはや突破の成功は望めない。そしてなによりも、補給艦を失い、戦うための弾薬やエネルギーを補給することが出来なくなってしまった。

 フェリングはプレヴォに向かい、手のひらを見せるように手を上げた。『しばし待て。』だ。プレヴォはそれで司令官が何を考えているか解ってしまった。

「閣下、自決はいけません。降伏しましょう。」

 フェリングはプレヴォの眼をジッと見つめてから、首を振った。そして、艦橋を降りようとする。プレヴォは司令官の肩を掴む。彼らしからぬ無礼な行動だ。

「小官は閣下に長年仕えて参りました。たまには小官の意見を容れて頂いても、よろしいのではないでしょうか。」

 フェリングはまた、いつに無く必死で真摯な眼差しのプレヴォを見つめ、3呼吸ほどの思案の末、首肯した。



「敵の司令官から降伏の申し出がありました。降伏です。」

 通信参謀が興奮した面持ちで報告してきた。艦橋に歓声が上がる。

「では、リアルタイムビジョンの回線を開くよう伝えてくれ。」

 アンドラーダはマツナガの方を振り返る。

「噂の、沈黙の提督は出てくれるかな。」

 マツナガは手を広げて肩を上げた。『さあ、どうでしょう。』の意味だ。

 しばらくして回線が繋がった。2名の高級士官が敬礼している。アンドラーダとマツナガも敬礼を返す。

「アテラス國國防軍第1艦隊司令長官カルロ・アンドラーダです。貴軍の、降伏の申し出を受諾致します。」

 相手の司令官は意を決したように、口を開いた。

「ぶ、、部下の、、安全、、を、や、やく、約束し、て、いた、頂きたい。」

 プレヴォは文章を口にしたフェリングを、驚きを以って見つめた。アンドラーダは大きく頷き、

「勿論です。閣下と貴軍の諸官は、星間戦時条約の条項に基づき、遇されることをお約束致します。」

 フェリングは頷いた。そうして、フェリングとプレヴォは敬礼し、アンドラーダとマツナガも敬礼を返した。会談はそれだけであった。

 会談後、再度、アンドラーダはマツナガの方に振り返り、言った。

「喋っているじゃないか、スエツミの情報にも誤報があるんだな。」

 そう言って2人は笑った。



A. F.683/02/19 08:33

 戦場では漂流中艦艇からの乗員救助が続いている。

 第1艦隊旗艦巡航戦艦イブキの艦橋にシャンチーが現れた。アンドラーダとマツナガ、参謀たちはアテラス軍随一の宿将に敬意を込めて敬礼をする。答礼を返したシャンチーにアンドラーダが慰労の言葉をかける。

「元帥閣下、お疲れ様でございました。また、閣下の用兵の妙、勉強させて頂きました。」

 シャンチーは軽く手を振って笑う。

「いやいや、司令長官や参謀長も、滅多にない他星系への進出で苦労が多かったのではないかな。」

 そこに、イザナ艦隊からの通信が繋がる。ディスプレイに敬礼しているクラフトマンとクロフォードが映し出される。シャンチーは一歩下り、アンドラーダが敬礼をして挨拶をする。そのすぐ後、待ちきれないというようにクラフトマンがシャンチーに声をかける。

「シャンチー元帥閣下。申し訳ございません、馳せ参じるのが遅くなってしまいました。しかし、アンドラーダ大将閣下らを我がイワツツ星系に派遣していながら、独力であのコメート艦隊を撃退なさるとは、感服致しました。小官など、とても及ぶところではございません。」

 シャンチーは照れ臭そうに笑う。

「いやいや、長く軍務に就いていますと、たまには良いこともやってきてくれます。運が良かったのですよ。それよりも、貴軍のご協力、大変感謝しております。」

 慎み深いシャンチーらしい言葉であった。その後、戦後処理などについて2、3の取り決めをした後、イザナ艦隊はイワツツ星系に戻ることを告げて辞していった。

 アンドラーダが感慨深くシャンチーに話しかける。

「我々は、心強い味方を得ることが出来ましたね。」

「全くだ。それもこれも彼のおかげだが、今頃どうしているかな。」

 『彼』とは無論、マコト・カイのことである。彼と彼を載せた独立駆逐艦隊は、特別な任務を携え旅路の途中であった。

「そういえば、閣下がツクヨミを脱出した時のことは詳報にも記載がありませんでした。どんな魔法を使われたのですか。」

「おお、まさに『魔法』だ。彼の弟が眠りの魔法をかけてくれたのだ。」

 そうして、彼らはお互いの戦場で起こったことを語り合ったのだった。



 アズリア連邦は、2個正規艦隊を投入したにも関わらず、フソー・イワツツ両星系において惨敗した。サテリット艦隊、コメート艦隊は戦闘艦艇のほとんどを失い、その再建には極めて長い時間と多量の物資、費用がかかることは明らかであった。その報告を副官マルタン・ルフェーブル大佐から聞いた統帥本部本部長オレール・ド・ローラン元帥は無表情のまま、残るアズリア駐留艦隊(通称:ソレイユ艦隊)とキャスナ駐留艦隊(ルナ艦隊)に出撃の準備をするよう下命した。


 2週間ほど前、ローランの元に、ルーペで反アズリア抵抗組織による大規模攻撃があった、との情報が入った。

 ルーペ駐留部隊の司令部は占拠され、多くの物資や装備が持ち出された。続いて、主要な自治政府施設がその抵抗組織によって占領された。主謀者のシモン・ルーセルなる者はルーペのアズリア連邦からの脱退を宣言し、在来政権の要職にある者を(ことごと)く逮捕・拘禁せしめた。

 ローランとアズリア連邦の中枢は当初、ルーペに駐留する地方部隊で充分に対応可能と考えていたが、地方部隊に属する約半数の部隊が抵抗組織に呼応してしまい、地方独力での鎮撫は難しい状況となった。そこでローランは、彼が最も信頼を置く幕僚総監シャルル・ド・ソシュール元帥に、ソレイユ艦隊から部隊を切り出し、ルーペの反乱を鎮圧するよう命令した。そして悲劇が起きる。

 ソシュール元帥は、ルーペの抵抗組織及び呼応した部隊、更に言うと、ルーペの一般市民でさえ、アズリアの同胞とは見なしていなかった。彼の眼には、至高の存在であるアズリアに、意味もなく歯向かう野蛮人の群れに見えていたのである。彼はルーペ首都ケルンサル・カリッテに猛烈な絨毯爆撃を開始した。そして、凄惨な地上戦が展開された。彼の作戦主旨は単純明快『そこにいる者を殺せ』であった。女性や子供、老人、果ては外國人や報道関係者までをも殺し尽くすその姿勢に、アズリア連邦に属する各國は憤りの念を表明する。しかし、表面上、対処を約束するローランが放つ、『同じ目に会わせるぞ。』という言外の脅迫に震え上がった各國首脳は、『遺憾の意を表明する。』に留まり、実効的な対応は何一つ為されなかったのである。



A. F.683/02/19 10:04

「本國が『フソー星系に侵入したアズリア艦隊の排除に成功した』と宣言しました。」

 通信士官の報告に独立駆逐艦隊旗艦ムツキの艦橋も沸き立つ。司令官スニール・ラジ中将は参謀長トン・タイン少将と特務参謀マコト・カイ中佐に笑顔を向ける。

「本國はなんとか凌ぎ切ったようだ。超光速通信の情報量では詳しいことは解らんが。」

 タインも笑顔で答える。

「帰る家が無事でないと気が気じゃないですから、ひとまずは安心ですね。」

 マコトも笑顔をつくるが、心なしか表情がかたい。マコトの気にしていることをラジが言い当てる。

「カイ中佐はルーペのことを気にしているのかな。」

 マコトは肯く。

「信憑性は定かではありませんが、ルーペでは一般市民を含め相当の被害が出ているとの情報です。情報が真実であれば、ローラン独裁政権の残虐さは想像以上です。」

「うむ、我々も急がねばならんな。そして、絶対に任務を成功させねばならん。」

 3人は課せられた任務の重大さを再認識した。そして、ムツキ達は星々の間をひた走る、光よりも速いスピードで。




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