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第十五章 第四次マガツヒ宙域の戦い(前編)




A.F.682/10/22 15:30

 イザナの増援艦隊がマガツヒ宙域に姿を現した。司令官ティモシー・ロバーツ少将はシャトルでやって来た第41任務艦隊の司令部部員を、戦艦コネチカットの艦橋で迎える。ロバーツはクラフトマンの下で成長した子飼いの精兵で、猛々しくも部下を大事にするクラフトマンを深く敬愛していた。彼は敬礼し、随分と雰囲気が変わったかつての上官に、内心驚いていた。

「クラフトマン司令長官閣下、お久しぶりでございます。船をかき集めやって参りました、麾下への編入をご許可願います。」

「久しいな、ロバーツ少将。編入を許可する。無事に届けてくれたこと、ありがたい。」

 クロフォードや他の参謀たちとも挨拶を交わし、ロバーツは現状を尋ねる。

「道中、イザナ、アテラスの双方とも戦闘は控えていると聞き及んでおりますが、現状も変わらないのでしょうか。」

「変わらない。停戦継続中だ。」

 ロバーツは嬉しそうな表情である。

「では、我らの到着で均衡は破れますね。周辺にアテラスは、駆逐艦しか配置していないとも聞いております。先ずはその駆逐艦隊を叩き潰しましょう。」

 クラフトマンの返事は決まっていたが、最後までロバーツの話を聞き、間を置いてから答える。

「それは出来んな。」

 ロバーツの顔に不審の色が浮かぶ。

「何故ですか、急ごしらえとは言え、こちらは戦艦4隻、重巡4隻を有しております。駆逐艦隊など敵ではありません。」

「いや、勝てんよ。我々はその駆逐艦隊の凄まじい統率と機動力を見せつけられた。戦艦の火砲がいくら強力でも、練度の低い艦が捉えられるようなものではない。漸撃(ぜんげき)されて消耗するのがオチだ。それに、アテラス主力が時期にやってくる。」

 ロバーツは悔しさを全身で表している。練度が低いと言われても反論はできない。

「…では、どうするのですか。」

 クラフトマンはロバーツ始め新たに加わった参謀たちに、今後の作戦行動について説明する。それを聞き、ロバーツらは驚愕し絶句する。呻くようにロバーツが問いただす。

「それは、利敵行為ではないですか…」

「アテラスが敵ならばな。だが、本当の敵は誰なのか考えた事はあるか。」

「考えた事はあります。ですが、それを決める権利は我々にはない!」

 クラフトマンは動じずに、ゆっくりと答える。

「確かにそうだ。だが、正規の手段を経る時間もない。」

 第41任務艦隊からの参謀たちが、いつの間にかロバーツ達を取り囲み、腰の銃に手をかけている。クラフトマンが手で部下を制し、ロバーツに再度問いただす。

「…で、どうする。貴官が考えた本当の敵は、アテラスだったか。」

 ロバーツは下を向き、声を絞り出す。

「…違いました。」

 幸運なことに、増援艦隊は1兵も損なうことなく、クラフトマンの下への合流を果たしたのであった。



A.F.682/11/01 未明

 アズリア連邦を構成する惑星ボルバスから、ひとつの艦隊が出立した。艦の舷側には二振りの剣と盃を図形化した紋章が付いている。その盃の中には輝く星があしらわれ、『星をも呑み込む』というエトワールの信条が表現されている。

 戦艦8、重巡航艦8、軽巡航艦8、駆逐艦24、航宙母艦4、補給艦6の大艦隊は艦列を組み、堂々と進む。星系外縁の亜空間跳躍可能域まで1週間、亜空間跳躍航行に3週間弱の旅程である。

 司令長官テオ・メルシエ大将は精悍な艦隊をみて満足げに頷く。

「我がアズリア連邦に楯突くとは、アテラスの身の程知らずも甚だしい。一瞬で宇宙の藻屑に変えてくれる。」

 参謀長イザック・モラン中将も同調する。

「アテラス、イザナの田舎者達に戦の何たるかを教えてやりましょう。」

 指揮官の侮りが参謀たちに伝染し、士官たちに伝染し、下士官・兵たちにも伝染していく。こうした敵への侮りが、自分の首にかけられた縄であることに彼らは気付いていない。自國の強大さが彼らを盲目にし忘れさせているのだ、エトワール艦隊こそ初陣であり、歴戦のアテラス軍を見縊(みくび)っていられる理由などないことを。更に言えば、戦場までの距離が近いアテラス軍は、決戦の直前まで準備や訓練に勤しめる。数的に圧倒しているとも言えないこの勝負、客観視できる者がいれば、その危険性に気づく事は容易だったに違いない。

 しかし、慢心とは恐ろしい。冷静に考えれば当たり前に理解できるその事に、気付く者は1人も居なかったのである。彼らはフソー星系外縁に到達するその瞬間まで、自分たちの勝利を疑っていなかった。



A.F.682/11/23 6:46

 アテラス國國防軍第1艦隊はマガツヒ宙域に到着した。軍令部作戦部作戦課マコト・カイ中佐は司令長官カルロ・アンドラーダ大将の要請で、旗艦巡航戦艦イブキに乗艦している。

 前方からイザナ艦隊がやってくる。

 新任のアンドラーダ司令長官はいつもと変わらない、飄々(ひょうひょう)と指示を出す。

「さて、先ずはイザナ艦隊に挨拶だ。全速前進!」

 アテラス艦隊はイザナ艦隊に向かって突進していく。イザナ艦隊は巡航速度のまま航行している。彼我の距離がレーザーカノンの射程に入る直前に、両艦隊が逆進をかけて停止する。しばらくそのまま見合う。

 アンドラーダは頷く。

「よし、わかっているようだな。左回頭120°」

「この瞬間まで、不安で不安で仕方なかったですよ。」

 やはり新任の参謀長ユジュン・マツナガ中将が呟く。他の参謀たちも同じ気持ちだろう、溜め息をついている。

「当面、イザナ艦隊を考慮に入れる必要は無い様ですね。敵ワープアウト宙域を目指しましょう。」

 マコトは当然のような顔をしているが、内心では胸を撫で下ろしていた。増援部隊の戦力を得たイザナ軍が、密約に従って行動するか、僅かではあるが不安があったのだ。だが、クラフトマン大将とクロフォード中将は部下を掌握できているようだ。アテラス艦隊は星系外縁部の亜空間跳躍可能域へと進路を取る。

 一方のイザナ艦隊はそのままの位置に留まり、2つの國の艦隊は別れていく。

 第1艦隊が暫く航行していると、マガツヒから第14駆逐戦隊が上がってきた。そして、そのまま本隊に合流する。

 準備は整った。



A.F.682/11/25 11:33

 独立駆逐艦隊の12隻は、亜空間跳躍可能域手前の宙域に凹面陣で待機中だ。敵のワープアウト位置は、かなりの確度で限定できている。無論、これはスエツミから提供された情報である。搭載機の81式艦上複座偵察機を全機、跳躍可能域に侵入させ、予測された範囲の哨戒を実施中だ。ラジは指揮卓に手をつき身を乗り出す格好でいる。通信が入った。

「シワス1から入電、『事象先行波確認!位置H37A77』」

 即座に指示が飛ぶ。

「よし、いくぞ!全速前進!」

 凹面陣を保ったまま、検知した宙域に急行する。直ぐにワープアウトしたばかりの敵駆逐艦が見えてくる。敵艦は時空波振動の解消に手間取っている。距離が詰まり、レーザーカノンの射程に入る。ラジが右手を上げる。

「砲撃用意、、…撃て!」

 上げられた右手が素早く振り下ろされるのと同時に、12隻の前部砲がただ1隻に向かって、光の矢を放つ。シールドは即座に破られ、アズリア駆逐艦に光の矢が突き刺さる。オペレーターの報告が艦橋に響く。

「敵駆逐艦アルル級撃沈!」

「ヤヨイ1より入電、『事象先行波確認!位置Y28U95』」

 ラジはその方向に艦隊を向ける。

「右回頭48° 仰角29°、陣形を維持しろ!」

 今度は軽巡航艦がワープアウトしてきた。待ち構えていたアテラス独立駆逐艦隊が一斉に砲撃する。やはりシールドは一瞬で消失し、矢に貫かれたアズリア艦が力無く浮遊する。

「敵軽巡アヴィニョン級沈黙!」

「次々に来ます。方位75°仰角38°距離180、方位62°俯角18°距離210、ウヅキ1から…」

 艦隊司令部は次々に現れる敵艦情報に大忙しだ。

「近い奴からやるぞ!回頭左68°俯角20°全速! 戦艦級は放っておけ、我々の仕事ではない。」

 艦隊は次々に現れるアズリア艦に一撃を加えては、別の艦へ向かう。ようやく、アズリア艦から反撃が返ってくるようになってきたが、単艦レベルでの反撃ではほとんど効果がない。

 独立駆逐艦隊が2隻目の軽巡航艦を沈黙させた時、ひときわ太い光の束が眼前を通過する。

 ラジは声を上げる。

「お寝坊戦艦が目覚めたぞ!引き潮だ!左回頭98°俯角13°全速!」

 12隻の駆逐艦と12機の偵察機が、一斉に戦闘宙域から離脱していく。レーザーカノンの矢が放たれるが、距離が遠すぎて有効な攻撃にならない。離脱中に艦隊は単縦陣に変形した。初期にワープアウトした駆逐艦2隻が追いすがってくる。良いようにやられ、怒り狂っているのだろう、ぐんぐんと味方の艦隊から離れてくる、明らかに深追いしすぎだ。

「魚が食いついたぞ。第12駆逐戦隊分派、進路そのまま、第11駆逐戦隊は緩く回頭して敵の後背を遮断しろ。」

 単縦陣の前側6隻が円を描いてアズリア艦2隻の後ろに出る、アズリア艦は逃げる敵を追うことに夢中で反応が遅れる。あっという間に前後をアテラス艦に挟まれてしまった。慌てて回頭するアズリア駆逐艦2隻は集中砲火を浴びて爆散する。

「第1艦隊に打電、『敵駆逐艦4撃沈、軽巡2大破以上、当方被害なし』だ。」


 第1艦隊旗艦巡航戦艦イブキの艦橋に独立駆逐艦隊からの通信が入り、歓声が上がる。

 アンドラーダ司令長官が嘆息する。

「さすがだな、ラジ提督。『当方被害なし』と言うところが、また素晴らしい。無理に粘って被害を出さないあたり、凡将の為すところではない。」

 マツナガが肯く。

「全くおっしゃる通りです。我々も負けてはいられません。宙母部隊から攻撃準備完了の報告がありました。手筈通りの編成です。」

「よし、では全機発艦だ。」

 アンドラーダは攻撃隊の発艦を指示する。この攻撃隊にもトリックが仕込まれている。


A.F.682/11/25 12:56

「くそっ、初動でこれほどの被害を出すとは。」

 メルシエは唇を震わし、怒りを露わにしている。確かにアテラス独立駆逐艦隊の戦術は見事だったが、ワープアウト直後の無防備状態を狙う作戦は、艦隊戦の基本とも言える常套手段だ。彼らの油断が招いた被害と言えよう。モランも顔色が変わった。

「司令長官、この次ですがアテラスは航宙攻撃に出てくると思われます。先日行われたアテラスーイザナの機動戦で、アテラスは艦載機による攻撃で相当な戦果を上げたそうです。自信を深めた奴らは攻撃隊を送ってくるでしょう。」

「そうだな。宙母部隊に援護機の準備をさせろ。敵主力の位置はまだわからん。先ずはしっかり護ることだ。同時に敵主力の位置把握に努めろ。それとイザナは何をやっている。通信を送って、現場に急行するよう伝えろ。」

 メルシエはイザナ艦隊が積極攻撃に出ないことに苛立つ。

(なぜマガツヒ宙域から動こうとしない。事前の戦闘も行われなかったようだ。何を考えている…)

 しばらくして、エトワール艦隊旗艦戦艦ル・アーヴルの艦橋にオペレーターの声が響く。

「敵、航宙機編隊接近、迎撃部隊と会敵します。」



A.F.682/11/25 13:04

 アテラス第1艦隊の航宙母艦から飛び立った、152機の79式艦上単座戦闘機は、第1航宙隊72機、第2航宙隊80機に別れて進撃していく。第2航宙隊が敵艦に向かい、緩やかに進路を変えていく。

 第1航宙隊はマガツヒ基地航宙隊から転出したチェン・ユウ少佐が率いている。

「敵迎撃機編隊確認 機数およそ120 第1航宙戦隊、前へ。あれがラファエールか、みんな油断するなよ。だが、奴らは全員初陣だ、気楽にやれ!」

 アズリア連邦主力機はラファエール5、79式ほどではないが機動性が高く、速度もある。ちょうど、アテラス79式とイザナCFー32Dとの、中間あたりの特性を持っている戦闘機だ。

 第1航宙隊が機速を上げ、パルスレーザーを撃ちながらラファエールの群れに突進していく。経験の差か、ラファエール隊は動きが鈍い。機体の性能を活かしきれていない印象だ。79式は集団のまま、そのまま抜ける。ラファエールの何機かが炎上して爆発する。

 ラファエール隊は第2航宙隊に狙いを定め、正面上方から攻撃を仕掛けにいく。距離が詰まった刹那、アテラス第2航宙隊は左右と下方の3隊に別れて旋回する。とても推進弾を抱いた機体とは思えない、小さな半径で旋回を終え、兵装格納庫を開放する。そこにあったのは対艦用の推進弾ではなく対宙誘導弾であった。3隊は元々自分たちがいた空間に向かい誘導弾を一斉に放つ。ラファエール隊の後ろからも、旋回を終えた第1航宙戦隊が誘導弾を発射する。あらゆる方向から狙われた哀れなラファエールが次々に爆発する。

 アテラスのトリックは、攻撃隊に欺瞞した第2航宙隊も制宙隊として出撃させたことにあった。迎撃部隊は、動きが鈍いはずだった第2航宙隊の軽快な動きに驚愕し、そこに集中攻撃をうけて四分五裂の大混乱状態となった。

 ユウの声が隊内を走る。

「かかった。宙戦開始!小隊単位で敵機に当たれ、単機になるなよ!」

生き残ったラファエールが、包囲から逃れようと必死にもがく、しかし、小隊単位の79式が追いかけてパルスレーザーを撃ち込む。

 ユウの小隊も2機のラファエールに狙いを定めて追いすがる。

「ニシ、いけるか。」

「いけます!」

 ニシ機が先頭となり敵の動きに合わせて右旋回をする。更に下方に逃げようとするラファエールをニシ機のレーザーが貫く。続けて、至近から誘導弾をもう1機に撃ち込む。

「よし!」

「おー」「やるなぁ」

 周囲にいた味方機から賞賛の声が上がる。

「よくやった、ニシ。もう一人前だな。」

 ニシ中尉はツクヨミ時代からユウの小隊で戦っている。当時は新人だったが、生き残り、立派に成長した。

「各隊、状況知らせ。あらかた堕としたか、宙戦継続中の隊は知らせ。」

 僅か10分程度の戦闘で、ラファエールの迎撃隊はほとんどが撃墜されてしまった。

 宙域の覇者となった79式は悠々と隊をまとめ、母艦へ帰っていった。


 迎撃隊の壊滅がエトワール艦隊旗艦ル・アーヴルに伝わる。

「迎撃隊壊滅です。未帰還88、損傷18…」

「な、んだと。そんな馬鹿な、たった1度の迎撃で航宙戦力の半分近くを失うとは…」

 メルシエは言葉を失う。

「どうも、アテラスは全機戦闘兵装で出撃させたようです。艦艇攻撃を目的とせず、航宙機をターゲットにした攻撃に(はめ)られました。」

 モランも被害の大きさとアテラスの独創的な作戦にショックを隠しきれない。メルシエが何かに気付いたように頭を上げる。

「第2次攻撃が来るぞ、残りの艦載機も迎撃の準備をさせろ。但し、戦闘は相手が爆装と確認できてからだ、これを徹底させろ。索敵機は何をしている、敵本体の位置はまだわからんのか!」

 メルシエは怒りに震えながら戦術ディスプレイに向かい呟く。

「おのれぇ、アテラス!許さんぞぉ、田舎者の分際で!」

 敵を根拠もなく格下に見る姿勢こそが、彼らの足元をすくっていることにメルシエは気付いていない。


 一方のアテラス第1艦隊にも、航宙隊からの報告が入る。

「航宙隊チェン・ユウ少佐から入電です。直接繋ぎます。『当方被害、撃墜4、損傷14、戦果、、、よくわからん!100くらいだ!これから帰投する!』」

 この通信を聞き、艦橋は歓喜に包まれる。

 アンドラーダも笑顔を見せ、マツナガとマコトに声をかける。

「カイ中佐発案、マツナガ参謀長検討の作戦が見事に嵌った。よくやってくれた。これで、奴らも航宙攻撃に出られないだろう。」

「敵の司令官、メルシエ大将でしたか。そろそろ我慢の限界でしょう。」

 マツナガが愉快そうにアンドラーダに答える。

「次の作戦で、更に怒らせてやりましょう。」

 マコトも応じる。アンドラーダはまるでイタズラをする子供のように嬉しそうに次の作戦指令を出す。

「よし、第2次攻撃隊発艦だ!」



A.F.682/11/25 15:49

 戦艦ル・アーヴルの艦橋にようやく敵艦隊発見の報が入る。だが、ラファエールの航続距離では届かない。その上、航宙機を多数失ったため、航宙防御を考慮すると十分な数の攻撃隊が編成できないのであった。

「やむを得まい。残りの航宙機は防御用として運用しよう。攻撃は戦艦、重巡の打撃部隊だ。」

 補給艦6隻は護衛の駆逐艦4隻を付けて亜空間跳躍可能域に残し、本隊は敵主力との決戦を求めマガツヒ方面に進む。そこに哨戒中の艦上複座偵察機ミカエル2から敵航宙機編隊接近の報が入る。

「2次攻撃隊が来たぞ。いいか、攻撃機だけを狙え。制宙隊に気を取られるな。」


 アテラスの航宙機編隊は1次攻撃の時と同じように、第3航宙隊が前、第4航宙隊が後ろに別れて進撃して来る。第3航宙隊を率いるのはラクシュミ・グルン大尉である。前方にアズリアの迎撃隊が上がってきた。

「敵さん、上がってきたぞ。よし、いくぞ!」

 グルン機が翼を振る。戦闘開始の合図だ。他の中隊長機も盛んに翼を振る。第3航宙隊は中隊単位に別れて増速する。だが、何かがおかしい。


 一方の第4航宙隊はカスン・ジャヤスリヤ大尉が率いている。ゆっくりと進路を変え、敵艦の方向に向かう。

 アズリア迎撃隊のラファエールは前方にいる制宙隊(・・・)を躱し、後方の攻撃隊(・・・)の迎撃位置に着く。だが、攻撃は対艦推進弾を装備した攻撃機だと確認できてからだ。

 第4航宙隊はアズリアの航宙母艦への攻撃体勢に入る。ジャヤスリヤが隊内通信で各機に呼びかける。

「よし!演技はここまでだ、散開!宙戦開始!」

 同時にグルンの通信も入ってきた。

「攻撃隊、突入開始!軽巡と駆逐艦を血祭りにしろ!」

 先行していた制宙隊(・・・)がアズリアの軽巡、駆逐艦めがけて突進していく。後を追っていた攻撃隊(・・・)が散開し、素早い機動でアズリアの迎撃隊に襲いかかる。

 アズリアの迎撃隊はまたも、アテラスが仕掛けた罠に嵌ってしまった。迎撃隊が慌てて旋回し本当の攻撃隊に向かおうとするが、追いかける本当の制宙隊に次々に落とされていく。

 本当の攻撃隊は、攻撃支援機の作る対宙砲火のトンネルを通り抜け、敵艦に肉薄し推進弾を浴びせていく。


 戦艦ル・アーヴルの艦橋は迎撃隊の隊内通信からの悲鳴と護衛艦艇群からの被害報告で溢れ返る。

『ダメだ、攻撃機に近づけない!うわっ!』

「軽巡航艦アミアン命中弾多数 総員退艦発令!」

「第53駆逐戦隊から入電『駆逐艦エヴルー、アルビ、サン・マルタン、ロアンヌ撃沈』」

「軽巡航艦ル・カネ命中弾多数 消火作業難航中」

『クソ、誰か助けてくれ!2機が張り付いて離れない!』

「第52駆逐戦隊から入電『旗艦サン=ブリースト撃沈、当艦タランスが指揮を引き継ぐ。』」

『推進弾を放った奴らも来やがった!ダメだ、敵だらけだ!』

「第51駆逐戦隊司令部応答なし。」

「軽巡航艦スヴラン、駆逐艦バニョレ、アグノー 撃沈」

「各駆逐戦隊、損傷艦多数」

 ・

 ・

 ・


「おのれぇ、おのれぇ、アテラスめ!」

 怒りで血管が切れそうな司令長官メルシエに対し、参謀長モラン中将は若干冷静だ。

(戦艦を放っておいて、足のある軽巡や駆逐艦を先に攻撃してきた。一艦も逃さぬと言うことか。)

「司令長官、アテラスは護衛艦隊を優先して攻撃し、戦艦ら打撃部隊を裸にしました。一旦、星系外に出て、体勢を立て直しましょう。」

「何を言うか!ここまで好き勝手やられて、おめおめと引き下がれるか!戦艦の砲撃力で勝負だ!」

「では、イザナ艦隊と合流を果たしましょう。護衛ぐらいの役にはたつでしょう。」

「そうだ、イザナ!あいつらは何をやっておるのだ!我々ばかり戦わせて高みの見物か!」

 メルシエは肩で息をしている。代わりにモランが各隊に指示を出す。

「第51、52、53駆逐戦隊の残存艦は第54駆逐戦隊の指揮下に入れ。損傷艦は状況知らせ、希望的観測はいらん。無理なものは無理と言え。」

 エトワール艦隊は救命シャトルを回収すると、足早にマガツヒ方面に舵を切った。その際、艦隊速度に付いていけない損傷艦も、やむを得ず味方の砲撃で撃沈された。



A.F.682/11/25 16:28

「戦果 敵軽巡ル・カネ級4隻に対し命中弾多数、駆逐艦ロアンヌ級或いはタランス級9乃至10に命中弾多数、いずれも大破以上確実  被害 撃墜12、損傷18  以上」

 航宙隊の報告に旗艦イブキの艦橋は再度沸きあがった。アンドラーダは司令長官の身でありながら、右手にウィスキーのミニボトルを持っている。

「よぉし、またもや大はまりだ。次は砲術の番だな。まだまだ見せつけてやるぞぉ!」

「おぉおお!」

 マコトも苦笑いをしながら、マツナガから回ってきたボトルに口を付ける。

「敵将は怒り狂っているでしょう。まだ、熱を冷まして貰いたくありません。ラジ提督にもう一度活躍して貰いましょうか。」

「そうだな。独立駆逐艦隊に打電、『どうぞ、お好きなように』だ。」

 なんとも明るく活気ある戦場である。だが、ふと、マコトの目に喧騒から離れたアンドラーダが入る。彼は敵艦のいる方向に軽くボトルを掲げ、一口飲む。

 たとえ少数であっても戦死者はいる、それにアズリアに殉じた者に罪があるわけではない。マコトはそういうことだと考えた、それが正しいか確認などいらない。



「『どうぞ、お好きなように』か、では好きにやらせてもらおう。」

 独立駆逐艦隊司令官ラジ中将と同参謀長タインは顔を見合わせてニヤリと笑う。2人は自由裁量が与えられる戦場ほど楽しいモノは無い、という救い難い人種なのかもしれない。

 独立駆逐艦隊はワープアウト直後の序盤戦以降、アズリア艦隊と距離を取り並進していた。無論、偵察機を接敵させ、逐次情報を集めながらである。敵は相当数の航宙機を失い、護衛艦群も減衰している。更に漸撃戦を仕掛け本当に裸にしてやろうという腹だ。

「全速前進、いくぞ!駆逐艦の真骨頂だ!」

「第12駆逐戦隊はそのままの方向で敵に当たれ、第11駆逐戦隊は迂回して敵の左舷側から攻撃するぞ!」

 艦隊は二手に分かれ、両舷からアズリア艦隊に近づく。

「よし、先ずは左舷からだ。右回頭40°俯角2°」

 アズリア艦隊の左舷に第11駆逐戦隊の6隻が単縦陣で接近する。軽快に方向を変え戦艦主砲の攻撃を躱す。生き残った軽巡と駆逐艦が間に割り込み、左舷に主砲を指向して砲撃を開始する。同航状態でアテラス第11駆逐戦隊は右舷に砲撃をし、両艦隊は砲火を交える。だが、両者ともシールドに弾かれ、あまり効果がない。徐々にアテラス艦隊は距離を取り始めた。アズリア護衛艦隊は有効距離を維持しようと左に舵を切る。

第12駆逐戦隊司令官チャンタサック・クンタニット少将はこのチャンスを逃さない。

「護衛艦が離れた。今度はこっちの番だ。左回頭320°俯角4°」

 アズリアの護衛艦隊と戦艦列が離れた隙に、今度は敵の右舷から第12駆逐戦隊が急速に接近する。

「砲撃用意、撃てぇ!」

 先頭艦リヨンに全砲力をぶつける。シールドを辛うじて破り、装甲をわずかに傷つける程度だったがアズリア艦隊は慌てて離れた護衛艦隊を呼び寄せる。

「よし!かかった!全速であの軽巡を追撃、全艦砲撃集中せよ!」

 右に回頭し、戦艦の列に戻ろうとした軽巡航艦ヴァランスに第11駆逐戦隊6隻の全砲力が叩きつけられる。ヴァランスは光の矢に貫かれ、ぐるりと一回転してから爆発した。

 アテラスの2個駆逐戦隊はアズリア艦隊の両側を同航しつつ、優速を活かして交互に攻撃を仕掛ける。アズリアの護衛艦は右に左に、必死になって戦艦列を護ろうとするが動きの良いアテラス艦隊を捕らえられず、次々に撃沈されていく。

 だが、戦艦ニームの放った主砲レーザーがカンナヅキに命中した。直撃を受けたカンナヅキは木っ端微塵に吹き飛んでしまった。

「怯むな!ただのラッキーパンチだ!」

 クンタニットが吠える。その後もしつこく攻撃を繰り返し、アズリアの駆逐艦を1隻また1隻とすり減らしていく。

「ラジ司令、そろそろ砲術エネルギーが底を尽きます。」

「わかった。ここらで良いだろう。引き上げるぞ、進路40°仰角45° クンタニット少将にも引き上げるよう伝えろ。」

 2個駆逐戦隊は、好きなだけ暴れまわり引き上げていく。その姿は、まるで2匹の龍が獲物から離れて天に登っていくように見えた。



A.F.682/11/25 17:49

 独立駆逐艦隊からの戦果報告が入る。

「戦果、敵軽巡航艦ヌーメア級2、駆逐艦ロアンヌ級4、アルビ級3撃沈、被害、カンナヅキ撃沈 ウヅキ中破、ヤヨイ、シモツキ、シワス小破 以上」

 何度目だろうか、イブキの艦橋が歓声に包まれる。


 たった6時間ほどの間に、アズリア艦隊は軽巡航艦、駆逐艦を中心に大きな損害を受けた。一方のアテラス艦隊はカンナヅキの撃沈以外、大きな損害はない。彼我の開戦時参加艦艇数と現在保有艦艇数は次の通りである。


〈アテラス國國防軍第1艦隊〉

 ・戦艦     4  健在  4

 ・巡航戦艦   3  健在  3

 ・重巡航艦   7  健在  7

 ・軽巡航艦   8  健在  8

 ・駆逐艦   18  健在 18

 ・航宙母艦   5  健在  5

〈アテラス國國防軍独立駆逐艦隊〉

 ・駆逐艦   12  健在  7(撃沈 1、中破 1、小破 3)


 ・79式艦上単座戦闘機 360  健在302(撃墜16、撃破27、損傷15)

 ・81式艦上複座偵察機 100  健在 94(撃墜 3、撃破 1、損傷 2)



〈アズリア連邦連邦軍エトワール艦隊〉

 ・戦艦     8  健在  8

 ・重巡航艦   8  健在  8

 ・軽巡航艦   8  健在  0(撃沈 7、大破1(処分))

 ・駆逐艦   24  健在  4(撃沈18、大破2(処分))

 ・航宙母艦   4  健在  4

 ・補給艦    6  健在  6 ※補給艦6駆逐艦4は亜空間跳躍可能域にて待機


 ・ラファエール5  276  健在86(撃墜147、撃破23、損傷20)

 ・ミカエル2     80  健在73(撃墜  5、撃破 1、損傷 1)



〈イザナ共和國宇宙軍第41任務艦隊〉

 ・戦艦     4  健在  4

 ・重巡航艦   4  健在  4

 ・軽巡航艦   5  健在  5

 ・駆逐艦   20  健在 20

 ・航宙母艦   1  健在  0(修理中 1)

 ・工作艦    2  健在  2

 ・補給艦    6  健在  6


 アテラス第1艦隊の創意工夫に富んだ作戦により、アズリア連邦エトワール艦隊は護衛艦である軽巡航艦、駆逐艦の大部分を失った。また、艦載機も大きく減じている。だが、砲戦主力の戦艦、重巡航艦は無傷の状態である。

 いよいよ決戦が始まる。そして、イザナ艦隊の真意は何処(いずこ)に…


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