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第十二章 ミュレー家直近史



A.F.682/10/10 09:50

 人工惑星ツクヨミに第12駆逐戦隊旗艦ムツキが入港した。舷側から伸びるタラップを司令官スニール・ラジ少将が降りてくる。港湾施設は所々封鎖されているが、概ね復旧したようだ。

 パチャラ・チナワット技術少佐は、車椅子で旧友を迎える。

「いよぉ、スニール!今回はキズを付けずに帰ってきたじゃねぇか、感心感心。」

「おやじさん!大丈夫ですか、負傷したって聞いてびっくりしましたよ。」

 一言挨拶を交わした後、ラジがチナワットの車椅子を押し、司令室の方向に歩いていく。

「お前らが取りこぼすからじゃねえか。誰のせいだと思ってんだ。」

 ラジが頭をかきながら謝る。

「そうですね、すいません。ムツキ型は最高の船ですが、もうちょっと火力があると、言うことないのですけど。」

「まあ、駆逐艦だからな。なんでもかんでも詰め込むと、何にも使えねぇ船になっちまうよ。」

 2人は港湾施設入り口に差し掛かる。ラジが止まるよう、ラジに声をかける。

「ここだ。うちの分隊の若いのが3人死んだ。イザナは装甲車を引っ張り出してきてな、一瞬だった。」

「そうですか。」

 ラジは黙って目を閉じる。1分ほどの後、また、車椅子を押し始める。

「ツクヨミでの戦死者は513名でしたね。イザナ側は1500名ほどですか…ここだけでも2千人が、この世から居なくなってしまったんですね。」

「そうさ。敵が3倍倒れているから勝利。そんなバカな話があるかよ。」

「その通りですね。」

 2人は黙って、弾痕の残る廊下を進んで行った。



A.F.682/10/10 11:12

 惑星アズリアはアテラスより600光年の距離にある。現代の超光速航行技術では、最速の船を以ってしても、ひと月余りの旅程となる。

 國としてのアズリアは、2つの意味を持っている。惑星連合國家盟主としてのそれと、惑星単体のそれである。

 惑星連合としてのアズリアは『アズリア連邦』と呼称される。5つの可住惑星を抱え、それに付随するコロニーや衛星都市からなる超大國である。対抗しうる存在としては、人類発祥の地地球(テラ)を含むUPH(United Planets for Homo sapiens)のみであり、この2超大國間の争いが2度の大戦争を引き起こした。この戦争は星間大戦と呼ばれ、人類史上に黒々と印刷される負の所業となった。

 第2次星間大戦では、アテラス、イザナ両國が盟主アズリアに反旗を翻し、紆余曲折を経ながらも独立を果たした。対するUPHも大戦末期において、勢力範囲の大幅な改編を余儀なくされた。得るものの全くない大戦に懲りた2大國は、相互不可侵不干渉の条約を締結し、以後専ら自己勢力範囲内の統治に力を注ぐこととなった。これが現在の人類社会情勢である。

 惑星国家としてのアズリアは正式名称が、『アズリア王國』である。その名の通り、王政を敷いている。王家の家名はミュレー、現在、王位にあるのはセリーヌ・ド・ミュレー、24歳の若き女王である。ティアナ・サーンとは祖父が兄弟同士の関係となる。

 王は執務室にあり、國務大臣クロヴィス・ド・ゲランの拝謁を受けていた。

「國王陛下におかれましては、ご機嫌…」

 セリーヌが手を振ってやめさせる。

「何度も言っているであろう、冗長で無駄な挨拶などいらん。用件のみ手短に話せ。毎度毎度、よくもまあ懲りもせず…」

「はっ、お耳汚しかとは存じますが、辺境の裏切り者どものことにございます。かの者達は戦ばかりに明け暮れておりましたが、ここのところ、アテラスを僭称する輩が大分優勢になっている由にて、イザナを僭称する…」

「あー、鬱陶(うっとお)しい!『アテラス』と『イザナ』で良いわ。いちいち、妙な枕言葉を付けるな。」

「では失礼ながら、アテラスがイザナをかなり押し込めているようにございます。」

「ほう、つい先日は『イザナに巻き返しの策を預けた。』とか言ってはいなかったか。」

 ゲランはハンカチを取り出し、汗を拭きながら答える。

「御賢察、恐れ入ります。確かにそのように申し上げましたが、アテラスは我々の予想を超えて、イザナを圧倒した様子にて。」

 セリーヌは椅子に大きくもたれかかりながら、(あざけ)るようにゲランを責める。

「やらずとも良い戦を(けしか)け、挙句、望んだものとは逆の結果を招来したか、とんだ面汚しだ。」

「お返しする言葉が見つかりませぬ。」

 セリーヌは横を向き、不服を全身で表している。だが、内心も同じように、サディスティックな快感に酔っていられるほど、彼女は単純でも純真でもなかった。

(と、ゲランを嘲ってみても、彼もまた操り人形。アテラスの勢力拡大は、私にとっては吉か凶か…)

「で、どうするのだ。」

 ゲランは机に頭を打ち付けるのではないかと心配になる程、平伏を繰り返しながら答える。

「彼の者どもの、力の均衡が破れることは皇国にとって望まざること。国務省は和平の仲介に乗り出してございます。」

(片側の勢力が増すと、和平の提案か。炎を前に、右手に油、左手に水。どれだけ都合よく振る舞えるのだ。)

「仲介と言っても、それほど優勢であれば、アテラスが乗ってくるまい。」

 返答はわかりきっているのだが、敢えて尋ねる。

「軍部は、ミズホナ星団へ出兵の御裁可を乞うております。」

(まあ、そうなるな。)

「『和平に応じないのであれば、攻めるぞ。』と、そう言うことか。まったく…」

「御心を騒がし(たてまつ)り、まこと面目次第もございませんが、なにとぞ御裁可のほど。」

 ゲランは腰を90°に曲げ、微動だにしない。セリーヌは横を向いたまま、ふてた態度でいる。だが、いつ迄もこうしてはいられないし、させておくのも気が引ける。

「わかった。出兵を許可する。どうせ裁可しなければ、得意の捏造文書が出るだけであろう。」

「これは異なことを仰せになられる。」

「何が異なことだ、白々しい。」

 ゲランの顔つきが変わる。それまでのオドオドした態度は鳴りを潜め、真剣な眼差しでセリーヌを見つめる。そして、声をひそめ、

「セリーヌさま、それ以上はお口になさいますな。今は辛抱の時、決してこのままでは終わりませぬ。どうか、どうかご辛抱を。」

 セリーヌは動きを止める。そして、彼女のために無能を装い、彼女に降りかかる火の粉を、身を挺して受け止めている腹心に、横を向いたまま謝る。

「悪かった、クロヴィス。苛立ちをぶつけてしまった。許せ。」

 ゲランは深々と礼をして、部屋を辞した。


 セリーヌ・ド・ミュレーは、生まれた時から王位を約束されていた訳ではない。彼女の母は國王の娘ではあったが、二男三女の末妹であり、王位継承順位は、意識されることが皆無であるほど低く、また当人も窮屈な王宮から解放されることを、強く望んでいた。

 彼女エマ・ド・ミュレーは大学進学にあたり、王家御用達校に進むことも拒否した。彼女は一般の受験生に混じって答案を提出し、面接を受けて合格を果たした。穿(うが)った見方をする輩は、それでも何らかの國家或いは王家権力の介在があったのだと主張したが、彼女の成績は、それら根拠のない批判を黙らせるのに、充分なものであった。

 そして、在学中に1人の青年、ジェラール・デュメイと恋に落ちる。出会った当初、政治学部で1期上のジェラールは、國王の娘を邪険に扱った。自分の領域に何人たりとも侵入させないジェラールは、自己世界を護っているだけのことであったが、エマはそう受け取らなかった。自分の出自を知りながら、媚び(へつら)うことのない高尚な人物と、受け取ったのである。ジェラールもまた、普段女性に見向きもされない自分に、付き纏ってくる世間知らずなエマが、愛おしくてたまらない存在となっていった。

 彼らは、エマの卒業と同時に結婚を強行した。だが、王家を始め周りの反応は、彼らの予想と異なり、温かく祝福に満ちたものであった。兄と姉が4人もいるエマは、王位継承の可能性も低く、王家の関心を得なかった。逆に王家への予算を圧縮したい政府は、王位に関係しなさそうな王族が民間に降ることを、歓迎すらしていたのである。

 ジュラール、エマ夫婦は更に自由を求め、惑星アズリアを離れてしまう。アズリアの傘下にある惑星キャスナに移住したのである。これも特に問題が生じるでもなく、ジェラールは小さな町の行政書士として、エマはピアノの家庭教師として生計を立て、自立した生活を送っていた。周囲の住民には、エマの出自を知る者も当然いたが、本人たちがそれを望まないことは明らかであったので、特別な扱いは一切しないという、意外に難しい配慮をみせてくれた。

 結婚から7年、移住から3年後、そんな2人は子を授かった。生まれた女の子はセリーヌと名付けられ、安定した家庭でスクスクと成長していった。セリーヌは、活発で負けん気が強く正義感に溢れていて、意地悪な男の子とよく取っ組み合いの喧嘩をした。そして、負けることは一度もなかった。健康で快活で優しく(たくま)しい娘は、両親の生きがいであり誇りでもあった。また、彼らの選択が間違いではなかったと、信じさせてくれる存在であった。

 だが、不幸は幸せの後ろに音もなく忍び寄る。キャスナ首都大学附属高等学校に進学したセリーヌに会うため、両親は機上の人となった。そしてそのまま、消えるように、新たな世界へ移住してしまった、たったひとりセリーヌを残して。

 アズリア王家は、哀れな航空事故孤児を引き取ろうとした。だが、遺体も遺さなかった両親は、娘の将来を考え、備えを遺してくれていた。セリーヌは、父が加入していた保険の証書と、母が積み立てていた預金を示し、一切の援助を辞退した。それでもなお、余計な手を貸そうとする王家に対して、自己の自由への迫害を理由に訴訟を起こす構えまで見せた。そうして彼女は、高等部の寄宿舎で、卒業するまでの時を過ごした。

 大学は父母が通った大学の政治学部に、優秀な成績で合格した。だが、大学に入学し3年が過ぎたある日、王家、いや國家を揺るがす大事件が起こり、セリーヌ自身の人生も、大きく方向転換を強いられることになるのである。

 その日は蒼い空がどこまでも広がる、気持ちの良い秋晴れの1日であった。王とその一族は、王宮の庭園に飛来した、次男ノエルが操縦する、小型航空機の様子を眺めていた。機には皇太子アルフレッドの子テオドールと、長女クロエの娘アリスも搭乗していた。軍のパイロットであるノエルに、テオドールとアリスがせがみ、遊覧飛行を約束させたのであった。

 当初は王宮の周りを大きく旋回して帰るつもりだったノエルも、地上で自分たちを見上げる王の姿を見て、気が大きくなってしまった。子供達のはしゃいだ声が更に後押しをし、サービスのつもりで曲芸飛行を始めた。クルクルと軽快に飛び回る航空機を見て、段々と不安になってきた王たちは、地上から手を振ってやめさせようとする。だが、地上の者が喜んでいると勘違いしたノエルは王たちの至近まで機体を寄せる。興奮が最高潮に達したテオドールとアリスが王の名を叫んだ。その声に驚いたノエルが操縦桿を更に倒し、機体は王族の群れに墜落してしまったのである。

 この大惨事によりアズリア王國は、王グラシアンと王妃ドロテ、皇太子アルフレッド、その妻マリー、王女クロエ、その夫シリル・ド・モラン、王子ノエル、皇太孫テオドール、アリスと、王だけでなく、王位継承権上位者をも一挙に失ってしまった。

 王の子は次女のリゼットのみとなったが、彼女は目の前で起きた惨劇のショックにより、精神の平衡を失う。孫の代もテオドール、アリスが亡くなり、残った皇太孫は、王室を離れ民間で暮らすセリーヌのみとなってしまった。

 アズリア國民は深い悲しみに暮れたが、事故の内容が内容で、他に責任転嫁しようもなく、

(権利と同等、或いはそれ以上の責任を負うべき一族が、一体何をやっているのだ。)

と、やり場のない憤りを、心の中に溜めるのみであった。

 突然、王位継承の上位者となってしまったセリーヌは、当然のように辞退を望んだ。しかし、伯母リゼットの取り乱す姿の前で、セリーヌが断った場合は彼女が王となる以外にないと説得され、國のいく末と伯母の健康のため、王位に就くことに同意したのだった。だが、この選択は、セリーヌと彼女を王に据えた双方にとって、不幸を呼び込むものだったのかもしれない。

 彼女は王となるに当たり、國の大方針を決める重責を、相応の覚悟を以って担うつもりでいた。だが、王とした側の意図はそうではなかった。彼らは単に、若く美しいセリーヌが君臨していればそれで良く、統治させる気など毛頭無かったのである。セリーヌは最初からつまづいてしまった。王でありながら、一切の決定権が自分にないことを、嫌と言うほど思い知らされたのであった。

 彼女が本当の王となるに当たって、最大の障害は軍部、特に統帥本部本部長オレール・ド・ローラン元帥の存在であった。ローランは、先王グラシアンが皇太子であった時代からの副官であり、最も信頼を置かれた腹心であった。先王グラシアンは軍自体を、自分個人に絶対的忠誠を誓う親衛隊として育て上げた。この軍官僚組織のトップに据えられたのがローランであり、彼はこの強固な組織を先王から継承した。

 盟主アズリアの混乱に乗じようと画策を始めた、とされた、各國の反アズリア勢力を、ローランは完膚なきまでに叩き潰した。だが現実は、事件の発生があまりに突然過ぎ、具体的な行動計画を持った勢力など、ひとつもなかったのである。

 また、少しでもローランに批判的な言動・行動を感知すると、『新王のために』情け容赦のない殲滅戦を展開した。ローランの専横と暴力は、國民の憎悪を掻き立てた。だが、彼への憎悪と同時に、その専横を止められない新王セリーヌへの、怒りと失望も高まっていったのである。

 セリーヌもこの状況に、坐していただけではない。当初は、國王として正面からローランを批判し、彼を罷免しようと試みた。だが、軍はもちろんのこと、治安組織、行政官僚、侍従に至るまで、彼の支配力は國家組織の隅々にまで行き渡っていた。

 先王時代から虎視眈々と権力の掌握を目指し、触手を伸ばしていたローランに対し、王族とはいえ、市井の娘と変わらない生活を送ってきたセリーヌに、太刀打ちできるはずもなかった。

 セリーヌは王宮の窓から外を眺める、視界には一棟だけ空に向かってそそり立つ、威圧的なビルが見える。そのビルを見て独り言を呟く。

「あなたは王様。だけど、あなたのモノは何もないのよ。あなたは王様。だけど、あなたが決めることは何もないのよ。」



A.F.682/10/10 14:42

 臨時本星防衛司令部の3名(司令長官チュン・シャンチー大将、参謀長カルロ・アンドラーダ中将、次席参謀マコト・カイ中佐)は惑星アテラスに戻り、軍令部総長リドル・リー元帥と参謀総監ジェミヤン・エフレモフ元帥に、今作戦における戦闘報告を行っていた。

 アテラス軍における現役の元帥は、ここにいる2名のみである。

 リドル・リー元帥は軍人らしくいつでも背筋が伸びて、悠然としている。彼は、前線で数々の武功を重ね、その地位を手に入れた。積極的に攻勢をとるタイプであり、攻勢に立った時の破壊力は随一と、長年語られ続けてきた。反面、護りに廻ると若干粘りにかけるとも言われている。無理に反撃を試みて、被害を広げてしまった事例が何度かあるのだ。だが、そうは言っても、常に自軍以上の損害を敵に与え、勝利してきたからこそ、元帥の地位まで登りつめたのである。標準を遥かに超える能力があることは疑いない。

 一方のジェミヤン・エフレモフ元帥は軍人らしかぬ姿勢の悪さだ。背丈は高いのだが、猫背のためあまりそうは見えない。知的な参謀タイプで、事実、軍歴の過半を参謀として務めてきた。非常に理性的で整理された思考能力の持ち主だが、それだけに人間関係や人情に関わる判断は、彼にとって理解不能な領域のようだ。逆に、情に流されず辛辣な作戦も採用できることが、評価に繋がっている部分もある。

 アテラス軍の2大トップを前に、マコトが戦闘の経緯と結果について、中央の3Dスクリーンを用いて説明している。


戦果

・航宙母艦   撃沈 5、撃破1

・軽巡航艦   撃沈 2、撃破1(健在1)

・駆逐艦    撃沈 7、撃破1(健在8)

・強襲降陸艦  撃沈24、撃破2

・輸送艦    撃沈 2、撃破1

・単座艦上戦闘機CFー32D  撃墜189、撃破170(総数不明)

・複座艦上偵察機RFー12B  撃墜 20、撃破 10(総数不明)


 イザナ艦隊は投入した航宙母艦6隻の内、5隻を損失、残る1隻も自力航行不能の状態に陥った。全航宙戦力を喪失したイザナ艦隊は全滅に近しい状況であり、作戦継続は不可能であった。対するアテラス側の損失は、航宙母艦ライリュウ1隻であり、艦隊決戦はアテラスの完勝と言えるものであった。

 ツクヨミに突入した1800名のイザナ陸戦隊は、港湾設備を占拠し、一時は司令部に迫る勢いだったが、反撃に出た保安部隊との戦闘により約1500名の戦死者を出していた。

 マガツヒへは約4万人が降陸に成功した。航宙機基地は一時占領され、地上に駐機中だったほぼ全ての航宙機が破壊されてしまった。その後、基地の再占領に成功したが、航宙機の破壊に成功したイザナ軍が、固守することを選ばず放棄した、という意味合いが強かった。

 10/02に現場指揮官判断により停戦合意が為される。ツクヨミ方面のイザナ残存艦艇は、マガツヒまで後退し、強襲降陸艦部隊との合流を果たした。尚、大破し自力航行不能な航宙母艦1隻も、マガツヒまで牽引されている。本国から工作艦を呼び寄せ、修理を試みる意図と思われる。マガツヒは現状、陸上部隊同士、艦隊同士が睨み合っている状態である。


戦闘後の保有艦艇数は次の通り、

〈アテラス國國防軍〉

・戦艦    4隻(修理中 1隻)

・巡航戦艦  3隻

・重巡航艦  6隻(修理中 2隻)

・軽巡航艦  8隻(建造中 2隻)

・駆逐艦  34隻(建造中 4隻)

・航宙母艦  5隻(修理中 1隻)


〈イザナ共和國宇宙軍〉

・戦艦    4隻(建造中 2隻)

・重巡航艦  4隻

・軽巡航艦  6隻(修理中 3隻)

・駆逐艦  25隻(建造中 4隻、修理中 4隻)

・航宙母艦  0隻(要修理 1隻)


 今回の作戦でもイザナは多数の艦艇、特に機動戦の中核となる航宙母艦のほとんどを失い、國外作戦能力は大きく減衰した。

「マガツヒでは、敵陸戦部隊が残存し我が軍陸戦隊と対峙していますが、イザナ艦隊に制宙権を確保する能力は、もはや有りません。従って、艦隊と陸戦部隊の生殺与奪の権は我が方にあり、これらの戦力を急ぎ排除するよりも、今後の交渉事の材料とすべきと考え、積極的な攻撃は控えている状態です。」

 マコトの説明に、リー元帥が悠然と、疑問をぶつける。

「敵戦略目標の打破には成功し、我が方の被害は、彼我の比較と言う意味では、軽微だ。勝利と言って良いと思うが、なぜあのタイミングで停戦したのかが腑に落とせん。武士の情けかね。」

 エフレモフも3名を見据える、同じ疑問を持っていたのだろう。この質問にはシャンチーが答えた。

「それもありますが、ツクヨミは敵の陸戦部隊に突入され、司令部や送電ユニットに危険が迫っていました。敵の攻略部隊は決死隊でしたから、残りの兵員だけでも送電ユニットに突入、自爆でもされればツクヨミは全損となっていたかもしれません。」

 リーが椅子に深く腰掛けなおす。

「そうか。言うまでもないが、現地司令官は戦闘の継続、停止、敵性勢力と接渉の権限も有している。従って、シャンチー大将の行為は適正なものだ。だが、若干非難がましい意見をあげる者もいてな。ツクヨミと本星の位置関係を考慮すれば、本星に伺いを立ててもよかったのではないか、とな。」

他ならぬリー自身がそう思っているのだろう、と現場にいた3人は考えるが、口には出さない。

 アンドラーダが謝罪のオブラートに包んで、次の話題に誘導する。

「確かにおっしゃる通りです。本星軍令部に通信を送る、時間的余裕すらもなかったとは言い難く。参謀長を拝命していた小官の落度です、申し訳ございません。とは言え、過去に遡る訳にも参りません。現在も、マガツヒにおいて両軍睨み合っているわけですが、如何致しましょうか。」

 リーは顎を撫でながら答える。

「うむ、この状況だ。フソー星域から敵勢力を一掃してしまうのが良い。と言いたいところだが、横槍が入りそうだ。」

「横槍、ですか。」

 シャンチーが重々しく繰り返した。すると、黙っていたエフレモフが語り始める。

「本日午前のことだ、國防大臣クアンユー・ライ閣下が蒼ざめてやってきた。アズリアが『停戦の仲介を引き受ける。』と通告してきたそうだ。」

「『引き受ける』ですか。それは、ありがたいことで。」

 アンドラーダは嫌味たっぷりに相槌を打つ。

「戦火が遠のくことは歓迎すべきことだがな。話はそう単純でもない。マガツヒの権益をイザナへ譲渡することが和平の条件だ。回答期限は明後日正午。」

「なんと…」

 3名は言葉を失う。

「この情勢下で、マガツヒ権益の譲渡を条件にするとは…」

「奴らの言い分では、マガツヒの所有権はイザナにあり、アテラスの不法占拠状態を是正する、と言うことになるらしい。第4次の時とちょうど逆だな。」

 エフレモフはあっさりとした口調のままだ。

 現状、アテラスはイザナを圧倒している。条件を呑んだ場合、『我々は勝っている、譲渡など受け入れられない!』と騒ぐ勢力が出るのは必至だ。では、拒否するケースはどうか、『アズリアが仲介に骨を折っているにも関わらず、アテラスが和平に協力せず平和が遠のいている。許すまじ、アテラス!』そうして、武力で恫喝する意図であろう。

 受け入れれば、國内が分断され、拒否すれば、圧倒的武力で押し潰すつもりだ。どちらにせよ、アテラスの力は弱まる。一方のイザナにとっては、この提案には旨味しかない。喜んで飛びつくに違いない。

「閣議はこれからだが、政府も真っ二つだ。和平派はアズリアの武力行使を恐れ、反対派はいくら何でも國内世論や軍、まあ我々なのだが、を抑えられないと危惧している。」

「当然でしょうね。さすがに戦前からの権益を放棄せよとは、納得する國民がいると思う方がどうかしている。」

 アンドラーダが返す。

「國民はまだ良いのだ。今戦役においては、以前の反省を踏まえ、戦果についての報道を極力行わなかった。多くの國民は、自分達が大勝していることを知らない。」

「問題は軍内、ですかな。」

 シャンチーは正面で両手を組み肘をつき、その上に額を乗せている。彼らしからぬ不遜な態度だ。エフレモフはシャンチーの雰囲気が変わったことに気づき、不審に感じながらも会話を続ける。

「その通りだ。軍は戦果について誰よりも知っている。これだけの戦果がありながら、」

 エフレモフの言葉の途中でアンドラーダとマコトが席を立つ。そしてアンドラーダがリーの背後に、マコトがエフレモフの背後に、ゆっくりと近づく。

「…マガツヒの権益を譲渡するなど、納得する訳が…ない。」

 アンドラーダとマコトは、2人の元帥の後ろに立つ。2人とも右手を軍服のポケットに入れている。

 リーは姿勢を崩さず、シャンチーを睨みつけ、(うめ)く。

「貴様ら、どういうつもりだ。」

 シャンチーは同じ姿勢のままだ。背後からアンドラーダが答える。

「納得できない連中は、こういうことをするかもしれませんね。おい!」

 この声を合図に、4人の武装兵が部屋の中に入ってくる。そして、元帥それぞれに2人の兵が銃を構える。

 さすがというべきか、この状況においても元帥たちは取り乱したりはしない。各々がシャンチーを睨みつけている。エフレモフは普段の猫背が伸び、かえって堂々として見える。

「軍規に抵触する行為だな、上官への脅迫、私意による部隊の移動と動員、銃殺刑だ。」

 アンドラーダが馬鹿にしたように返す。

「唯々諾々と、軍法会議に出頭する気はございません。小官らの権利擁護についてご心配なされる前に、ご自身の安全に心を砕かれるべきですな。」

 リーはシャンチーを睨んだまま動かない。

「シャンチー大将、貴官の目的はなんだ。はっきり答えろ。」

 アンドラーダが口を開こうとするのを手で制し、シャンチーがゆっくりと答える。

「奴等を、叩き潰します。」

「そんなことが出来ると思っているのか。イザナの圏内軍は我が軍の倍以上、アズリアの干渉もあるぞ。」

「無論、彼らには黙っていてもらいます。政府にも、受諾の回答をしてもらいましょう。」

「騙し討ちをするつもりか、だが、そんなもの1回限り。その後、圧倒的な大軍で蹂躙されるぞ。」

 シャンチーは頭を上げる。

「魔法の杖で、艦も兵も集まる訳ではありません。準備にひと月、航行にひと月、ふた月で片を付けましょう。」

「戦功に驕ったか、そのようなこと出来るわけがない。イザナもアズリアも見くびり過ぎだ。」

「総長閣下にはできなかったこと。ですが、小官には出来ます。さ、総長閣下と参謀総監閣下をお部屋にお連れしろ。礼を欠いてはならんぞ。」

 シャンチーは席を立った。アンドラーダとマコトが2人の元帥に立つよう促す。

「待て、シャンチー!アテラスを破滅させる気か!やめろ!」

 リーの言葉を背に、シャンチーは部屋を出ていく。


 


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