412.チョコレート、できあがり!
「では、次は《調温》の工程ですね。あと少しで完成です」
「ぴぴぃ!」
「完成も見えてきましたね!」
チョコレートの製造工程もこれで四段階目。あとは市販品からチョコレートを手作りしたことがある人なら誰でも経験したことのある工程ですね。
一度チョコレートを溶かしてから固め、もう一度溶かす。《調温》……テンパリングともいう、成分を整えて味を調整する工程となります。
これをやらないと口溶けや艶が悪くなるんですよね。失敗すると、最終的な品質が低くなること間違いなしの、重要な工程となります。
「あ、僕はブランデー入りください」
「おう! 俺もそれで頼む」
「おやおや、それなら自分で作ってみてはどうかナ~?」
「そうですよジェバン、ローラン。欲しい味があるなら自分で作るのが一番ですよ」
「持ち込んだフルーツで細かい味が調整できるので、悪くはないらしいですからね」
「ちぇー。ま、自分のなら好きに味付けできるか」
先程の精錬工程の最中にフィクサーズの皆さんも到着、各々空いている機器を使ってチョコレートの製造を始めています。
一応成人年齢の判定などもあるので、気分だけアルコール入りのチョコレートも作れるとかなんとか……検証班と直結しているので、情報が回ってくるのも早い早い。
案の定ローランさんやジェバンさんだけでなく、話を聞いたカルパさんも作ってみている様子。味は気になりますが、私はお酒が飲めないので……
改めて、それでは《調温》工程を始めていきましょうか。
やり方は簡単で、先ほど精錬した材料を入れた湯煎ボウルの温度を調整するのですが、ここは双界流。巨大な湯煎ボウルの下には火魔鉱石と氷魔鉱石を使って加熱も冷却もできる器具があり、その上に乗せてあります。
スイッチひとつで魔力の流れを切り替えることが出来、それで温めるか冷ますかを切り替えられる仕組みのようですね。こういった機械は珍しいのですが、調理器具の一種としてあるのでしょう。
というわけで、いくつ作る気なのかと聞かれそうな量になっている精錬済みチョコレートをボウルへ。大きさは投入素材の量に合わせて変わるようですが、この量だと超巨大鍋で芋煮を煮るような気分です。
「量が多いとた、たいへんそう……」
「実際大変ですよ。温度はこれくらいまで上がるように温めて……っと」
ラゼリアさんがちょっと心配そうに見上げてくれていますが、問題なのはこのミニゲームの内容……素材の温度を一定に保たなければならないというところでしょうね。
まず投入したココアバターが全て溶け切る温度まで上げて、それから冷やす。そのあとまた温度を上げて完成になります。
ボタンを押しては離す動作を繰り返し、微調整しながらお目当ての品質のものを作ります。私はこの手のものは様々なミニゲームで慣れたもので、さくさくと完成。
残すは最後の工程だけですが、とりあえず小分けということで一旦インベントリに収めます。今日だけで何度インベントリが空っぽと満タンを繰り返したのでしょうか……
従魔組は精錬工程の最中のようで、最初こそ苦戦したようですが、ぷにもちがハンドルを回し、二羽がボタンを嘴でつっつきながら工程をこなしていました。やっぱりこの子たち頭がいいですね。
ラゼリアさんが《調温》を終えたところで、いよいよ最後の工程に入りましょう。
「それでは最後の工程ですね。《成型》です」
「形を決めたり、何かと組み合わせて完成させたり、というところですね!」
「渡したい相手を見定めて、合うように作っていくわけですね。プレッツェルやら色々できるようですが、私は素直な形を作っていきましょう」
本当は色々凝った形がありますし、デコレーション素材やチョコレートに合いそうな素材と混ぜて色々とできるようです。
ただし、私はただひたすら量を作らないといけないため、適当に見繕った型へとさっさと流し込んでいきます。それなりの種類があるので、一応全種類作れるようにしていきましょう。
それと、チョコレートと組み合わせて使う前提で、色々な果物も渡されているのでそれらも混ぜつつ作って、と。
まず出来上がったのは卵型に固めたチョコレート。中にはカットフルーツを入れてみたもので、これらは双界人の方々向けです。
蛇姫姉妹の皆さんは、想像ではありますが卵の方が好きそう……という偏見もちょっと。それに何のフルーツが出てくるのかというお楽しみもあって、霊華ちゃんや大多数はこちらを好みそうですからね。
夜津さんにはとてもわかりやすく、チョコレートパンケーキなるものがあるのでそちらを。あとは……適当に見繕った中に、これを渡してくださいといわんばかりの型があるので、それに沿って渡していきましょう。
私に続いてラゼリアさんは八葉の巫女たちにあげるためのチョコレートを作っている様子。あの子たちは洋菓子店も経営しているので、ある意味本場の人たち。
詳しく見るとどういったものを好むか……というヒントになりそうなのは、彼女たちの元になった種族でしょうか?
ラゼリアさんもそのあたりに気付いて、しっかりリサーチ済みなのでしょう。急遽追加した葉綺さんとそのメイドさん達の分も含めて、それぞれの好みに合いそうな形状で作っています。
もはや私の場合はどれをどう渡しても喜んでくれそうなので、そこまでこだわってはいませんが……
そうして手早く作っていった大量のチョコレートを冷やし固めたところで完成。どれも最高品質なので、あとはそれぞれに渡していくだけですね。
あとは、渡し切っても余りそうだったので、完成したチョコレートをこの場にいない面々へと贈りつつ、今後のおやつ用として、チョコチップやミニ板チョコ、チョコパンなどなども作成。
チョコレートを使うものなら、素材がある今のうちは何でも作れるので、今のうちですね。リアルではこんなにおいしいチョコレートはなかなか食べられませんから。
「わあ、こんなにたくさん……クレハさんお上手です!」
「いくらかはレシピがあったので、それを参考に。あとは、おやつに作ってたので……」
「このチョコクッキー、ひとついただいても?」
「ええ、どうぞ。本当は従魔たちのおやつですが、きっと本人たちが作ったチョコレートを使って作った方が気に入ると思いますし」
ラゼリアさんにチョコクッキーを渡すと一口齧り、おいしそうにうんうんと頷き。こうなると普段から《調理》スキル伸ばしに色々な素材を作っていたのが功を奏しましたか。
傍目では、最後の調温をギンシュとヤオファが頑張っていますね。そのあいだにぷにもちが使う型を選定しているようですが、私がチョコクッキーを作っていたのが気になり、チョコチップにするのを選んだようで。
確かに従魔からすれば、スナックおやつ感覚で食べられるこっちの方が好ましいのでしょう。
「ぷにもち、もしかしてチョコクッキーを作りたいのですか?」
ころころ。ぐっ。
「わかりました。それなら小麦粉などの材料はここにあるので、クッキーの作り方を教えますね」
ぐっ。ぴょんぴょん。
どうやらしっかりと言葉が通じていて、ボディランゲージで返してくれます。粉物はギンシュとヤオファには扱えないでしょうから、ぷにもちにクッキー生地を作ってもらいましょう。
素材はあらかじめ持っていたものを出して、レシピを教えると早速作り始めました。触手を巧みに使ってクッキーを作っている姿を見ると、ちょっと便利そう……
あとはほっといても完成させられそうですね。そう胸をなでおろした矢先に、後ろから飛びつかれ、ついでに足にも抱き着かれる感覚が。
「クレハ、できたー?」
「くれは、デキた!? オイしいのデキた!?」
「おおっと、できましたよ。お渡しするので、離れて離れて」
案の定、出来たと見るやいなや飛びついてきたのはヨルムさんと霊華ちゃん。後ろでじいっと見つめている夜津さんも含めて、一番楽しみにしていた面々でしょう。
その他にもずらりと囲まれていますが……まあ、この場に八葉の巫女や露喰姉妹がいない分マシなのでしょう。故金ちゃんたち綾鳴さんの使い魔たちはいますが。
「ほえー、卵型ねえ。これ食べやすくて……んっ、林檎が入ってる!」
「ワタシのにはパイナップルがハイってる!」
「……どれ、わらわもひとつ……むむ、苺とな、美味であるな」
ヨルムさんは蛇らしく卵型チョコレートを丸呑みしてから口の中で楽しんでいる様子。ちょっと大きめのはずなんですけど……蛇らしいといえば蛇らしいですね。
霊華ちゃんにも予想通りに好評ですね。入っている果実は様々なので、食べるたびに味が違うのが気に入っているようです。後ろで霊稀さんも手を伸ばしてもきゅもきゅと。
屍羅さんも一袋貰うと、メイドの皆さんと食べているようで。他の人達からも送られているだろうに、優先的に食べてくれるところを見るとちょっと嬉しくなりますね。
「夜津さんにはこちらをどうぞ」
「む、クレハのパンケーキ。ひさしぶり」
「これは。こういった食べ方もあるのですね……とても美味しいです」
「おかわり、ほしい」
「もう食べられたんですか!? ちょっと待っててくださいね……その間はこちらをどうぞ」
「ん、みんなが貰ってるフルーツチョコ……こっちもおいしい」
夜津さんのために作ったチョコレートパンケーキ、三枚重ねだったはずなのですが。一瞬で夜津さんの口の中に消えてしまいました。
漆咎さんは粛々と味わいながら食べているのですが、夜津さんのパンケーキ好きには驚くばかり……というわけでささっとおかわりを作ります。
こういう時は個人所有の調理器具セットを持っておいてよかったと思います。あと、この《静の龍湖》は倉庫のアイテムを自由に出し入れできる半マスタールームであったことも。
要望に応えるためにおかわりのチョコレートパンケーキを作り始めます。その間に、チョコレートを贈った各所からお礼のメッセージが届き始めました。人によっては返礼のアイテム付きで……
紗那さんのところに向かった夜霧さんからも届いたところを見るに、仲良く取り合いをしているようですね。お返しはお守りのような何かですけれど。
チョコレートを混ぜたホットケーキミックスを焼き上げて、チョコレートソースとホイップクリームでトッピングし、余っていたフルーツを乗せて……完成と。
「夜津さん、おかわりできましたよ」
「あっ、夜津姉ずるーい。あたしもクレハのチョコレートパンケーキ食べたい!」
「ん。それなら女禍は追加でなにかあげるべき。んむんむ」
「えぇー? こないだ色々あげたんだけどなぁ。それなら……」
「あっ、そこまで無理はしなくても……」
「追加で要求するのなら、なにかあげるべき……んっ、おいしい」
夜津さんにおかわりを渡すと、するすると寄ってきたのは女禍さんでした。姉妹の中で最も遅く接触したにしては、かなり好いてくれているんですよね。
私が先ほど渡したばかりのフルーツチョコを食べつつ、羨ましそうに夜津さんの食べるチョコレートパンケーキを見つめています。材料は全然余っているので作るのですが……
要求する以上は、という夜津さんの言葉もそれはそうなのですが、こないだ《霊道》でそこそこいいものを貰っている以上はちょっと気が引けるというか。
それでも私が作っている中、レメゲトンさんの中に手を突っ込んだりして、何か渡せるものがないかと思案している様子。
「んー……じゃあこれあげる!」
「これは、ええっと……綺麗な金装飾のようですが?」
「知り合いの装備職人に防具に組み込んでもらうといいよ! それじゃあたしの分もーらい!」
「え、えっと、ありがとうございます……?」
チョコレートパンケーキと交換として女禍さんがレメゲトンさんの口の中から取り出して渡してくれたのは、綺麗な金装飾と青い宝石の付いたベルトが二つ。
……頭を傾げつつ詳細を見ると、あー、えっと、なるほど。こないだハクさんが貰っていた《錬石補天の衣》の一部、《錬石補天の金飾り》のようです。
以前貰った分と合わせて、今の装備に組み込んで使ってほしいということでしょう。一式装備として性能がかなり高いとはいえ、バージョン1中盤の装備なので型落ち感がありましたし、強化するにはいい機会でしょう。
これを組み込んだら間違いなく《製作防具》から《唯装》にクラスアップしそうなのですが。こんなものを気軽に作るとは、さすが夜津さんに次いで破格の能力を持つだけはあるというか……
貰った装飾品の性能を眺めている間に、チョコレートを贈った天城一家や露喰姉妹からも返事が届き始めます。
どれも丁寧なお礼の中で、アイテムが付いているのも少なからず。大抵はレアドロップ品ですが、この中にもひとつ《想装》が混じっていますね……
その贈り主はシグレさんで、付いているのはこれまた武器……詳細は後々確認するとしましょう。メッセージには一文、「次、最前線に向かう時は僕もついていくね」とのこと。
既に最前線の各地でパーティに参加しては助けている姉妹達ですが、今後はもっと手伝いますよ、ということでしょうね。
「ぷにもち達も無事作れたようですね」
「きゅい!」
「ぴぃ!」
一通り繋がりのある双界人たちにチョコレートを渡したり贈り終えたりしたところで、従魔たちもチョコクッキーを作り終えたようです。
綺麗な焼き加減になっていて、早速ひとつ、と言わんばかりにギンシュとヤオファが啄んでいます。ぷにもちも触手の先から食べていますね。
むしろそこに口を作れるんですね。どうやって食べ物を摂取しているのか不思議でしたが、ある意味すごい食べ方してたんですね……
さすがに食べるためだけの器官のようですから、そこから発声とかはできないみたいですけれど。それはまあ、この子が喋らないところからも察せてはいましたが。
「さ、それでは……一番油断ならないところに渡して回りますか」
ええ、そうです。双界人たちに渡し終えたということは、次はギルドメンバーや伝手のある人たちに渡して回ることになるのです。
この場に集まっている面々はビブリオフォビアやフィクサーズ、白牙騎士団、NYXメンバーの方々といった"まだ"無害の方々ですけれど。
ここの面々に渡したあとはギルドハウスで火花を散らしながら作っているフキノやヒイロさんたち、イチョウさんたちにも渡しに行くわけでして。
なんならまだかまだかと待ち構えているジュリアにも渡しに行かないといけないわけでして。その場にはずらりと戦闘狂たちがこれでもかと並んでいるわけで……
逆に言えば、シグレさん以外からも何か貰えるチャンスだったりはします。そちらに期待しつつ、行ってみるとしましょうか。
このあと、案の定露喰姉妹に囲まれましたとさ。
さて、カクヨムの方でもこちらの転載による投稿を始めました。
気付いている方もいると思いますが、現在1話目から総見直しと修正を加えておりまして。
1話ずつ毎日投稿しておりますので、出来上がった分を振り返りながら読んでみたいという方はあちらもいいかもと思います。




