411.加減を誤っても壊れない、らしい
ラゼリアさんと従魔たちで素材を集めて回ること小一時間。各種素材をインベントリがいっぱいになるまで集めることができました。
ある程度カカオ木霊を倒した後は、牛乳の入手手段……何故か森の中にいる乳牛から搾乳する方に没頭していました。
結構なペースでぷにもちとギンシュとヤオファが集めて来てくれるので、私とラゼリアさんはほとんど眺めているだけでもよかったというのが本音ですが。
本当はインベントリいっぱいになるほどまで集める必要はないのですが、ギルドメンバーや、おねだりしている双界人たちの分、そして自分のおやつ分まで含めてなので。
もっとも、そのほとんどは双界人たちのためで消えそうな気配はしますが……まあ、足りなければ、期間のうちにまた取りにくればいいだけですし。
「たくさん集めたあとは、どうするんですか?」
「素材が集まったら、いよいよ調理ですね。本来なら皆さん街に設置された調理機器を使うのですが……」
「使うのですが?」
「ドラゴンズエアリーは強い双界人の皆さんに好かれているので、何故か《静の龍湖》、つまり私の《龍誕の秘境》にも設置されていまして」
「さすが、というか、らしい、というか……しかも最奥ですか」
「はい。なので、もう移動しています」
「移動させられました!」
ということで、もはやエアリーの第二の溜まり場となりつつある《龍誕の秘境》、その最奥であり、本来はユエさんと戦う《龍の試練》の会場に移動していました。
豪勢にも五セットのイベント用調理機器が用意されており、今はそれらのうちひとつ……筒状の機器が全部使用中です。もちろんユエさん、霊稀さん、夜津さんが使用中なわけで……
残りの二つはメンバーが使用中です。NYXのタラムさんが華麗な弓捌きで丸太のような器具を攻撃しており、もうひとつはアカラギさんがサンドバッグを相手するかのように殴打していますね。
「あの、どうして大切な調理器具を殴って……」
「ラゼリアさん。取ってきた素材って、このまま使えると思います?」
「……ちょっと雑ですし、大きいですね。あ、もしかして」
「はい、そのとおり。まずは《粉砕》の工程を行います」
なんとも現実に比べてダイナミックな工程になっていますが、要はこのままで作るとものすごく苦いチョコレートが出来てしまうので、それをなだらかにするためにさらに細かく粉砕しましょう、ということです。
イベントエリアで集めたカカオマス、ココアバター、砂糖、牛乳をあの謎の機器に入れて起動、稼働中に攻撃を加えることで内部で粉砕と攪拌が行われます。要はダメージチェックの木人ですね。
高DPSを出せば出すほどおいしいチョコレートの素材になるということで、集めてきた素材をああやって皆さん頑張って粉砕しているのだそう。
とはいえ、作れる品質にしてもやはり上限はあるそうなので、極限まで詰める必要はないとのこと。おそらく私のように、色んな人に配る人もいることを見越した仕様でしょう。
ただし、ノックバックのある攻撃を行わないと、稼働が途中で止まってしまうため、継続ダメージのある攻撃を当ててそのまま放置、というズルはできないようになっています。
「機器が空くまで待つとしましょうか。それまでは……ラゼリアさんにギルドの特色について改めて説明しておきましょうか」
「特色……?」
「あ、クレハだ。時間かかってたってことは、私たちのためにたっぷり集めてたの?」
「はい。皆さんから結構な量を要求されているので、それなりに……」
「いいねぇいいねぇ、私にもおいしいのちょうだいねぇ? うりうり~」
ラゼリアさんと機器が空くのを待っていれば、私の姿を見つけた女禍さんが寄ってきました。いつもどおりに泥で作られた大黒蛇こと《レメゲトン》を連れています。
もちろんのこと、私は慣れたもので気楽に会話をしますが、隣のラゼリアさんは今まで言伝や映像でしか見たことがなかった超有名NPCがいることに驚いていますね。
……ラゼリアさんも結構な有名人なんですけど、それはさておき。続けてヨルムさんと屍羅さんも寄ってきました。
夜津さんは見たことのない魔術を使い、機器を破壊しない程度にダメージを与えています。こないだ、私達を一撃で消し炭にしてくれた魔術も使ってますね……
「……とまあ、こんな風に有名な双界人の方々が気軽に交流、遊びに来るので」
「は、はわわ……」
「なんじゃ、例の新入りかのう? クレハは群れるのは苦手そうな顔をしておるのに、次から次へと増えとるのう」
「でもクレハとヒルデが見繕ってるってことは、それなりに強い素質はありそうだよね。うーん、楽しみ」
「今回はヒルデ経由ですよ。ヨルムさんの部下二人をちゃんと倒して入団条件を満たしてます」
「は、はいっ! 海佳さんと揺葉さんを……」
「おんやぁ。ジュリアルプの復興が落ち着いたら、また鍛え直しかなぁ?」
「あははっ。でもなんか配信を見させてもらった感じ、しっかりと二人の弱いところを分析して突いてたみたいだよ」
「確か、分析と調査を専門とするグループだったかのう。ならば、褒めてやるのが正しいと思うのじゃが」
「そういうことならー、よく勝てましたー。よしよしー」
「あわっ、わわわっ、ちょちょ、わっ!?」
早速ラゼリアさんが遊ばれているようです。確か、翠華さんからも珍しい火属性アルラウネということでちょっと目を掛けられてるんでしたか。
双界人がものすごく気軽に遊びに来るこの雰囲気に関しては、今のうちに慣れておいて欲しいものです。極端な例ですが、父母のようにずっと四季ちゃんを連れて双界を旅することもありますからね。
今日もチョコレートを街の方で一緒に作っているのだとか。両親の面倒見の良さが出ていますね。
「そういえば、その露喰姉妹の皆さんは? てっきりこっちにいると思ってたのですが」
「ああ、あの子たちならブレッシングクレーターの方でやってるよ。たぶん私から逃げるためだろうけど」
「思った以上に嫌われとるなヨルム姉……いや、慕われておるからこそかのう?」
「ん? たぶん違うんじゃないかなあ。あっちに珍しくヘルダーとライカが揃ってるから、全員でお礼参りしてやろうとして行ってるみたいだよ」
「あっ、そういう……」
「あやつら、全員屠られたからって躍起になっておったしのう……」
「気持ちはわからなくもないかなぁ。じゃ、今度エキシビジョンマッチとしてあたしが挑みに行ってみよーっと」
「流石に、それは試練が過ぎるかなぁ……」
プレイヤー多しといえど、露喰姉妹全員にソロで打ち勝ったのはその二人だけですからね。プライドの高いあの子たちがリベンジに躍起になるというのも、わからなくもないですね。
私やルヴィア、ジュリア……他にもできそうな人は何人かいますが、やらないだけ……というか、ひとつチャレンジとして面白そうではあるんですけど、やると間違いなくしつこそう。
本来スペックでは間違いなく負けるんですけれど、相手の土俵で負けた、というのがかなり響いているんでしょうね。現にシグレさんしか倒してないとはいえ、それでも彼女から時々再戦のお願いが来ますし。
もしかしたら何度か倒すと何か教えてくれたり……ありそうですね。誰か試してくれるといいのですけど。
雑談しているうちに、霊稀さんが粉砕の工程を終えたようです。彼女の作るチョコレートもどんなものが出来上がるのか楽しみですが、まずは私の分も作らないと。
まずは私の分の素材を投入して……あ、一度でいくらでも素材が入るんですね。それなら手持ち分の最大量を入れてから作るとしましょう。
明らかにキャパオーバーな量の素材を飲み込んだ機器のスイッチを入れると、ガタガタと動き始めました。21カウント後に殴ればいいようですね。
「では……」
「さあ始まります、クレハさんのDPSチェック。実況解説はビブリオフォビアのセヴィンがお送りします」
「なんか始まったんですけど」
「ゲストのチヨです。おそらくクレハさんの初手は《月輪》と《花月》から始まると思います」
「刀術士ビルドのスタートとしては妥当ですね。ですが、クレハさんは大量の想装をお持ちと聞いていますが」
「はいっ。私も知らないくらい色んな人から貰ってるって聞きます、なので本気となるとわたしでも知らない動きをするかもしれません」
カウント待ちに刀を構えてると何だか横から実況が聞こえてきました。おそらく依頼したのはヒイロさんでしょうね。
チヨちゃんが何に釣られたのかは知りませんが……まあ、いいでしょう。それなら散々トレーニングモードで練習した理論上最大ダメージが出る組み合わせ、やってみましょうか。
それなら、と初手のために刀を《翡翠薔薇》へ。この時点で何か察したかのようにチヨちゃんが目を丸くします。そうですよね、ほとんど使ったこと無いですし、これ。
前準備として一番火力を出すために《八卦・水》で水属性を付与。初動として《トリプル・シードプロード》を構えておいて―――カウントが0になると同時に一際稼働音が大きくなり始め、それに合わせて投げ付けつつ接近。
《飛行》状態での接近に《飛燕》を使いつつ、種爆弾3つの着弾と同時に滑り込むように《花月》による四連撃。続けざまに《月輪》を叩き込んで攻撃速度と与ダメージ上昇のバフを付与。
続けて《リーフエッジ》を叩き込みつつローキック、一瞬で《銀門の加護》で武器を《夜刀神漆月》へ。鈍い輝きを持つ鋭い刃で《重月》から《斬月》を放ち、即座に《剣閃一刀》を叩き込んでから再び手持ちを変えます。
取り出したるは《暮日泉平坂》。連続で外から嬉しそうな声が聞こえた気がしますが、今は一旦スルーして、その骨刀を地面に突き立て。すると地面から骨龍の顎が現れ、挟み込むかのように機器へと継続ダメージを与えます。
ちょっと前に霊華ちゃんのダンジョンに行った時、しれっと解放されていたんですよね。備えられたその想装奥義こと《朽龍の顎》は、再び刃を振るいつつ《幻咲稲穂》に切り替えても維持されたまま。この想装奥義は初見せなので皆さん驚いていますね。
すぐさま《狐八葉》の構えに入り、ヒット数の加算で威力が上昇する《雨月》を発動しつつ、《八葉・黄昏舞踊》でストックの刀を展開し、それを《増殖》で増やして滅多打ちに。そこから飛び掛かっての三刀による一撃を加えていき。
さらに返す刃で刀を《清流水蛇》へと変更し、即座に唯装奥義の《清流遠呂智》による八連撃で斬り抜け。更に仕上げと言わんばかりに《白雨》に切り替え、最大火力と化した《水龍閃》で締め。
スコアは……まあ余裕の五桁ですね。品質も最高級で、投入した分の素材が加工された状態で帰ってきます。またインベントリがいっぱいになってしまいましたが、まあそれはそれとして……
「―――すっごい、これ見たことない」
「あまりにもアーツと魔術の繋ぎが綺麗過ぎて。それどころか一体何本の想装と唯装を」
「セヴィンが何も言えてなかったのが、もう物語ってるよね」
「とっ、とりあえず、私の目が追えただけ解説しますね……」
実況席も絶句しているようですね、ついでにチヨちゃんも口をぱくぱくとしています。夜津さんと霊華ちゃんは、自分達が渡した想装が使われていることを嬉しがっているようですが。
実況解説に長けているというセヴィンさんも流石に配信を確認しつつ解説しているようです。
とはいえ、既存の刀術よりも、《八葉の耳飾り》による八葉の巫女全員の権能と、想装・唯装それぞれの奥義を組み合わせた動きというほぼ唯一無二のダメージの出し方。
しっかりと普通ではないやり方をしたので、解説もチヨちゃんと映像を確認しながら行っているようですね。聞こえてくる解説も戸惑っているようで、なんだか聞いていてちょっと面白い……
本来であれば水属性を付与してダメージを与える前提であれば、漆月の動きは白雨の方で使うべき……のように見えて、単純な威力だけで見ると漆月の方が上なんですよね。
たぶん、まだ解放されていない奥義か何かの影響があるのでしょうね。夜津さんのことだから何かとんでもないものを仕込んでいそうな気配もしていますが……
「さすが、くれは! しっかり、《朽龍の顎》、ツカってくれた!」
「私の漆月も、よく使ってくれた。たいへんすばらしい、出来になっている」
「二人とも、ありがとうございます。使い勝手がとても良くて、役に立っていますよ」
「あれだけやったのじゃ、さぞ美味しい洋菓子を作るのであろうな?」
「もちろんですよ。それじゃあ次の工程に移り……ああ、また順番待ちですね」
次の工程は均一に混ぜる《精錬》の工程ですが、こちらはまだ五台とも使われています。
ハンドルを回しながら、側面に付いた加減を調整するためボタンを押す……ある意味音ゲーのようなことをします。ルヴィアが得意そうですね。
先程の粉砕工程で見せたものを見て、また双界人の方々がこちらに走り寄ってきましたし、また少し休憩がてらに雑談としましょう。
それに、どうやらさっきの工程をぷにもちとギンシュ、ヤオファもやりたがっているようで、皆さんから半端に余った分の素材を分けて貰ってから、三匹に叩かせてみます。
触手で叩き、嘴でつつき、魔術を叩き付け。頑張っているようですね。品質もなかなかいいものができそうです。
「やるじゃんクレハ。あそこまでやれるなら、練度さえ達せばあの子たちもあっさり倒せるかもね」
「さすが、わらわ達が認めただけはあるな。そのうち、夜津に負けない何かしらを渡したいものであるがのう」
「そうだねえ。折角ならこないだハクちゃんに渡したあれくらいいいものをねぇ~……?」
「流石にあんな露出がすごいのは勘弁願いたいですが……」
「あ、でもでもそんな顔してるってことは興味あるんだ? まあ加減したのは作ってあげるから、待っててね?」
「あたしからあげるってなったらー……何がいいかなあ? 夜津が武器を渡してるから、アクセサリーとか?」
「む、クレハはわたしのもの。みんなが渡すなら、まずわたしに話を通して」
「ヤツねぇ! ずるい! くれははミンナのモノ、レイカもイッショ! キョウドウザイサンってヤツ!」
「夜津様、流石にクレハ様を独占すると周囲が怖く……」
「……むう、しかたない。でも、被らないようにしてほしい」
随分と私も気に入られたものですね。この場に集っているのって、少なくとも私の知る限り、この幻双界でも指折りの人たちの筈なのですが。
ルヴィアも別方向で伸ばしているので、おそらくおあいこだとは思っていますけれど……これだけ想装が集まると大変なことになりそうな。
ジュリアの方も順当に伸ばしているようですし、また私とは違ったネットワークも手に入れていそうな気がします。それを聞き出すのもまた楽しみなのですが……
「でも今は、クレハからチョコレートがほしい。みんなたのしみにしている」
「わかっていますよ。ちょうど空いたようですから、出来るまで待ってくださいね」




