410.誰でも作りやすく、誰でも食べれるように
「にゃっは。みんなやってるみたいにゃあね」
「私にはわかりませんが……そうなんですか?」
「もしかしたら、その"いんすたんす"ってヤツなのかもにゃ。夜津がやりたい放題しているのがピリピリと感じるのにゃ」
さて、カカオ農園に入ってきたわけですが。だいたい100人単位くらいで1インスタンスに分かれているのでしょう。入ってすぐの待合広場の人数はそこまで多くはないですね。
パーティで突入すれば同じところに飛ばされるようですが、夜霧さんが言うに、プレイヤーと双界人では森の中が完全に別物のようです。
となると、森の中へと突入したら夜霧さんとは別の場所へ、となるのでしょう。あまり入りたくなさそうな顔をしていますけれど。
「にゃー、夜津だけじゃないみたいにゃあね。結構な人数がやってるみたいにゃ」
「紗那さん主導で、皆さん結構楽しみにしていたみたいですし……」
「妹たちの気配もするにゃんね。だいぶ好き勝手やってるみたいなのにゃ」
「先ほどルヴィア達も突入していましたから、一緒に入っていったのでしょう」
「にゃるほどにゃ……それじゃ、にゃあも頑張ってくるかにゃあ、またあとでにゃー」
そう言って夜霧さんは一足先に、といったように森の中へと入っていきました。すぐに気配はなくなりますが、夜霧さんが言う通りの面々がいるのであれば、向こうはどんな魔境になっているのやら。
おそらくプレイヤーサイドの森とは比べ物にならない速度で魔物が狩られているのでしょう。たぶん、魔物の方が可哀想に感じるくらいには……
さておき、私達も向かうとしましょう。ギンシュとヤオファもやる気満々、ぷにもちも感情を示したいかのように、ころころとやる気で私の周りを転がっていますからね。
既に素材集めでてんやわんや状態のエアリーのチャットから、この森に現れる魔物については把握済み。改めてこのエリアでの目的を再確認しておきましょう。まずは―――
「ちょーっとおまちください! 私も連れて行ってもらえませんか!」
「わっ!? びっくりしました!」
「えへへ、突然すみません……こないだぶりです、ラゼリアです!」
歩きながら森に入ろうとしたところ、ずざーっ、と目の前に滑り込んできたのが一名。はい、先日入ったばかりの珍しい火属性アルラウネさんですね。
確か配信中のはずですが、いいのでしょうか……? いえ、それは私もなので別にいいのですが……
「もちろん構いませんが、他のビブリオフォビアの皆さんは……」
「やったっ! 今日は……ビブリオフォビアのみんなは足が早くてもう先に入っちゃってたり、忙しくてログインできてなかったりでバラバラで。それで私だけここに取り残されていて?」
「なるほど、ひとりぼっちと」
「うぅ、それ言われると辛いです……なので! 折角なのでクレハさんの戦いぶりを検証班として間近で見てみようかと!」
やたらと目をキラキラとさせながら私を見つめるラゼリアさん。随分と期待を向けて貰っているようですが。
確かに、直に検証班の方に戦闘を見てもらうのは初めての経験かも。ほとんどの方は映像越しだったり、過去の配信で見ていたりしますから。
本当はセヴィンさんがやりたかったのかも知れませんが、彼は今日、チヨちゃんの方に同行しているようですからね。そちらも結構な波乱を迎えているようですけれど……
パーティメンバーが一人増えるのは、それはそれで大歓迎です。ラゼリアさんのいつものメンバーはそれぞれ忙しそうですからね。
「それではパーティ招待を送りますね」
「はいっ! ……って、うわぁ、従魔のみなさんでいっぱいだ!」
「今日はそちらのお披露目の意味合いが強かったので……いいでしょうか?」
「もちろん構いません! 従魔も出てきたばかりで、私も見てみたいですからね!」
ずっとテンション高いままなんですけれど、イベントが終わるまでその元気が持つのでしょうか。ちょっとだけ心配ですね。
どことなしにこの暴走特急気味なのはアカラギさんを思い出しますが、彼女はやれることをやる方のやる気の方向性ですし。ラゼリアさんはただ興奮寄りだとは思いますけれど。
特にこれまで発見例がないぷにもちに対しては興味津々で、まじまじと見つめているようですが……向こうのリスナーさんがこの子の正体を言った途端、びくぅっと飛び退きましたが。
予想外のパーティ参加がありましたが、改めて森の中へと入るとしましょう。アルラウネは移動速度が低いので合わせる必要がありますが、まあゆっくりといきましょう。
「クレハさんは今回のイベントMobについては?」
「ある程度ルヴィアの配信から。既に次の工程に入っているので、ちらりと見る程度でしたが」
「配信しながら別の配信を視聴しつつゲームプレイ……歴戦って感じがします」
「それほどでは……」
「私、それやるといっぱいいっぱいになっちゃうんですよ。普段のゲームならまだしも、DCOは……」
「ちょっとわからなくもありませんね。でも、ちょっとずつ慣れておいたほうがいいかも知れません……おっと」
森の中に入って数分。いましたね、今回のイベントMobが。まずはステータスチェックを。
カカオ木霊 Lv.95
属性:闇
状態:ドロップ率増加
桜や銀杏、最近では松なども見られていた木霊タイプの魔物、そのカカオの木バージョン。
へんにょりとした簡素な顔が木目に沿って付いており、器用に根を動かして動いている様子。他のものとは枝がちょっと長めなのが特徴的ですね。
事前情報どおり、まずは相手にこちらの存在を気付かせます。いつもどおり倒せばいいだけであれば、後ろからざっくりと倒すのですが……
いつもどおりに倒せばいいと思い込んでいたラゼリアさんはちょっと驚いたようですが、それは一旦置いておいて。
「えっ、えっ、カカオの実を!?」
「ぴぴぃ!?」
カカオ木霊は、頭に付いていたラグビーボールのような実を手、もとい枝で持って構えると―――思い切り私へと向けて投げ付けてきました。
冷静に飛んできたカカオの実を《居合術》のカウンターを使うまでもなく斬り飛ばして迎撃。こんなもの弾丸ゲンゴロウやトビトビウオ、砲弾鯉で鍛えられた私の目にはまだまだ遅く見えます。
唖然とするラゼリアさんと二羽を他所に、弾切れとなる10発目をいなすと、同時にぷにもちが転がっていき、伸ばした触手による超高速の往復ビンタで本体を倒してしまいました。
私がトドメに走るつもりだったのですが、ぷにもちが意図を理解していたかのように倒しに行きましたね。たぶん、霊華ちゃんから情報をもらっているのかも。
さて、今回私が先に魔物にこちらを気づかせた理由ですが……聞いていたとおり、これで素材は入手できたはず。
斬り落とした実を拾ってインベントリへと入れて、改めて覗けばしっかりと《カカオマス》と《ココアバター》、そして《ココアパウダー》へと変換されて入っていました。
そう、これがこのイベントの第一段階です。カカオ木霊が投げ付けてくる実を叩き落として集め、素材を手に入れる。いわば収穫というものですね。
「……というふうに、今回は素材を集めます。もう一種魔物がいるので、ギンシュとヤオファはそちらの担当をしてもらいます」
「ほ、ほぇー……今回は直接倒すだけじゃダメなんですね」
「普通に倒すだけでもちゃんと素材は手に入るそうですが、こうして回収するよりも効率が落ちるようで。ラゼリアさんはできますか?」
「もちろんこれくらいなら! 弾き返せばいいんですね? よーし……」
飛び道具ということで、まだその対処に慣れないギンシュとヤオファは近くの木の裏に隠れつつカカオ木霊の動きを見ています。
もう一種、タンコロリンの亜種がいるそうなので、二羽にはそっちを……かと思ったら森の中で早速見つけたようで。これだと言わんばかりに二羽がかりでつっつき回しています。
そちらはテンサイコロリンといって、甜菜……つまり、砂糖の原料です。長らく求められていた《砂糖》を落とす魔物ですね。
貴重な砂糖をこの機会に余分に確保しておこうという人達もちらほらいるようですし、機動力もあり、目もいいギンシュとヤオファにたくさん集めてもらうとしましょう。
さておき、カカオ木霊がもう一匹。折角ですからラゼリアさんのお手並み拝見といきましょう。
手にしているのはこれまた珍しく棒……父と同じく《棒術》の使い手のようです。ただし長さはやや短く、長めのバットといった形状ですね。
カカオ木霊側もラゼリアさんに気付いたようで、実を構えて投球。対するラゼリアさんは……タイミングを合わせて、フルスイング!
「えーいっ!」
「打った! って、あれ……」
「ピッチャー、大丈夫ですかね……」
快音と共に投げられたカカオの実が打ち返され、そのままカカオ木霊に鈍い音を立てて直撃。これデッドボールってやつですかね。
結構なダメージがカカオ木霊に入ったようで、倒れ込んで悶絶している様子。普段ならトドメを刺しに行きますが、まだ一投目ですから。
ちょっとすると起き上がって、改めて二投目を投げてきました。ただし、さっきよりも速度が遅いので、ラゼリアさんは今度は余裕のバントで叩き落としました。
続く三投目以降も難なく叩き落とし、すべて投げ切ったカカオ木霊はやり切ったという顔を浮かべつつ、ラゼリアさんのフルスイングで素材になっていきました。
ちょっと可哀そうとも感じましたけれど、まあ本人……本木? が後悔がなさそうに倒されていったのでよしとしましょうか。
「き、気を取り直してー……今度は三匹ですか」
「それじゃあ、お手本にぷにもちが一体と、あとは私とラゼリアさんで一体ずつやりましょうか」
「はいっ。ぷにもちちゃんのお手際、見せて貰いますね」
複数体歩いているとわさわさと揺れる葉がシュールですね。二人と一匹でそれぞれ引き付けて、カカオ木霊からの素材取りに挑みます。
私は先ほどと同じように実を叩き落としていき。ラゼリアさんもさっきの一体で慣れたのか、丁寧に叩き落とすなり、本体に当てないように打ち返したり。
一方のぷにもちはぴょんこぴょんと跳ねて挑発。それに乗ったカカオ木霊からだいぶ強めの投球をされますが、丸っこい白い体で受け止めて実をキャッチ。
なるほどそうきましたか。ぷにもちは元が元なのもあって、防御力と耐久力がかなり高いうえに、常に継続回復持ちなのです。なので、体で受けてもそこまでダメージが入らず、すぐに回復するのです。
この子、やっぱりびっくりするくらい賢いですね。ステータスを見てもINTも高めだったので、その影響も大きいのでしょうか。
「この調子で集めていきましょうか、もっとたくさん集めないといけませんし」
「ぴぴぃ!」
「ぴゅーい!」
「ギンシュちゃんとヤオファちゃんもこんなにたくさん……さすがクレハさんの従魔さんです!」
カカオ木霊が投げた実を集めると、テンサイコロリンのドロップ品をしっかり集めた二羽が森の奥から戻ってきました。
しかもドロップ品を集めた袋を見るに結構な量ですね。二羽がかりとはいえ、よく集めてきたものです。それぞれにおやつを渡すと、再び森の奥へと飛んでいきました。
猛禽類として狩りを楽しんでいるようですね。砂糖の方はラゼリアさんと折半しつつ、引き続き集めてもらうとしましょう。ぷにもちも早速、次のカカオ木霊を相手にしているようです。
私達もそれぞれギルドメンバーやリスナーたちに配る量を調達しないといけないので、それなりに集めないといけませんからね。頑張っておかないと。
「でも、従魔さんって本当に便利……って思うんですけど、ここまで従順なんですか?」
「というと?」
「サハラちゃんの従魔も見せて貰ったんですけれど、クレハさんのギンシュちゃんとヤオファちゃん、ぷにもちちゃんは特別賢いように見えて」
「あー……言われてみると、ちょっとわかる気がします。確かに、ジュリアのスライムたちと比べても、ここまで命令に従ってくれるのは珍しいですね」
「入手手段によって、絆というか繋がりの強弱が変わったりするんですかね? って言っても、そんな例は今のところクレハさんくらいしか……」
検証班らしい疑問を口にするラゼリアさん。確かに、ジュリアやサハラさんの従魔はなかなか言うことを聞いてくれていなかったり、たまにそっぽ向くことも。
スキンシップと愛玩という面ではジュリアは楽しんでいるようですが、戦闘に駆り出してもぷにもちのように素直に従ってくれているようにはあまり見えませんし。
サハラさんの方はレベル差の少ない、または自分よりもレベルの低い魔物を育てて使うことで、その欠点をできるだけ解消しているようですが。それでも時折、思った動きをしてくれないこともあるとか。
そういったところはゲームの仕様かと思い込んでいましたが、検証班のラゼリアさんから見ると、やっぱりこの三匹は異質に見えるようです。
「ギンシュとヤオファは、NPCから頂いた卵から孵った存在ですし。ぷにもちは元と言えば、従魔実装前に《暗路》の八層にいた《蠢く肉塊》を手懐けたことが切っ掛けですし……」
「どっちも曰く付きですね……NPCとのご縁を深くすると、特殊な従魔が貰えるかもって仮説が出てきますね」
「ぷにもちは一応霊華ちゃんの経由ですから、確かにその仮説には合いますね」
「ということは、今日のイベントはそういう可能性を伸ばすチャンスでもありますね! 例えば、悠二さんの好感度を稼いだら、強いお馬さんが貰えるかも!」
「それはありそうですね。もしかしたら悠二さんに勝つためのヒントになるのかも……」
一部のリスナーが何か立ち上がった気配がしますが、それはさておき。確かにこういう方法で優秀な従魔が手に入るのであれば、今日のイベントはまさにうってつけでしょう。
もちろん悠二さんに限った話ではなく、例えば霊稀さんからなら狐霊、翠華さんからなら植物系の魔物と、それぞれ魔物を従えている人からであれば何か貰えるという可能性もなくはありません。
ただ、貰える条件はそれ以外にもありそうですし。全部を満たせるというのは、かなり厳しそうですけれど。
……そう考えたら、私があれやこれやとしてきたことで、この三匹以外にもどかんと増える可能性が出てくるわけなんですけども……
「よぉし! 検証のためにもチョコ素材集め、頑張りますよー!」
「そうですね。私もちょっと検証したいですから、頑張りましょう!」




