413.ダブルデート、いやトリプルデートかもしれない
「えへへぇ、深冬さんとデート……」
「ゆきめちゃん、とっても上機嫌ですー」
「あ、あはは、まあこれで機嫌を直してくれるのなら……」
さて日曜日。今日はゆきめさん、杏子さん、いづなと共に喫茶オールドスウィングを訪れていました。
先週のことの補填……という名前のご機嫌取りになっていますが、こういうバランスを取るのも大事なのかも。いえ、千夏の言う通り、私が招いてしまった事ではありそうですが……
DCOについては、バージョン1終了時に貰ったもの、バレンタインデーで貰った品々を防具に組み込むため、装備をまるっとガインさんに預けたので本日はお休みです。
日曜日ということで、いよいよユエさんのブルーフロントラインも重要な岐路に立つ6章の攻略。ということで、今日のお昼はこうしてダブルデートに当てたわけです。
いづながいるのは、今後に備えた新居の下見などを行っていたからですね。デートとしてもあちこちを歩くほうがそれっぽいかな、と思った次第でした。
結果的にダブルどころかトリプルデートになってしまったわけですが。事情を理解してくれたためか、三人とも和気藹々としていてくれていたようです。
……昨日、私からのチョコレートを渡そうとしたときの争奪戦が、まるで嘘のように。
「にしても、さすがいづなさんですー。どの物件もすっごく豪華でしたー」
「はい。父が折角だからいいところを選びなさいと」
「港区の高級タワーマンションの一室はさすがにびっくりしました……いいと思ったら即決で決めているのもさすが……」
「狐賀谷一族はひとつの大都市を治めていますし、一族の中での熾烈な競争を勝ち抜き、市長選を制してきた名士ですから。お金は……ね?」
「選挙の時期になると、他の家に取られまいと父が本気の目になりますから。祖父、父と続けて維持できているのは凄まじいことなんですよ」
「となると、いづなさんは未来の市長さん候補なんですねー……」
「うう、いづなさんが強すぎます……わたしなんか羨望の目で見るしか」
狐賀谷一族はあの地を広く束ねる名門一族で、結婚などで名字が変わったりしていますが、街を歩くだけであちこちにいるんですよね。
なんならいつも里乃が近くにいますが、その里乃の一族も長らく狐賀谷一族に仕えてきた名家ですし。あの優秀さも、代々の血筋あってこそなんでしょうね。
祖父のいるその街も、長い時間をかけて大きくなってきた場所で、今でこそ祖父の持つ広い土地も、いづなの祖先から貰った土地なのだというらしいですし……
何なら私、龍ヶ崎の一族も辿れば江戸か戦国の頃に家臣として仕えていたとかで。どの程度かはわかりませんが、私にもほんのちょっと含まれているそうです。
一応、そんな彼女に言い寄られている以上かなりの玉の輿ではあるのですが。法律上は大丈夫としても、まだあの件があって少し抵抗が出てしまうというか……
「それならなおさら、深冬さんは受けられた方が! わたしもいづなさんになら……」
「そんなざめざめと泣くものですー……?」
「ふふふ。私はいつでもお待ちしておりますよ、深冬さん」
「……考えておきます。こちらでの大学生活や、他にも色々ありますから」
いづなもあの一件までと違って、ものすごい勢いで迫ってくるなんてことはなくなりました。なんというか、静かに三歩後ろをついて歩いてくるというか。
ある意味では杏子さんと同じ動きではあるのですが、あちらは恋愛感情というより戦友という意味でのパートナー感が強いですからね。
一時期いづなと張り合っていたのはその位置取りを奪われないため、みたいな空気だったからだとか……それでも、機会があれば一気に詰めて来そうですけれど。
「深冬さんはこのあとは?」
「そうですね。DCOは今装備の大改修中で、代替もないですからどこに向かうにしても丸腰に近い状態なので……まあ、夜まで久しぶりにゆっくりしているかと」
「夜はブルフロ6章ですもんねー。深淵の巫女としての力に呑まれたヤチヨ達とリュナーさんが対峙してー、どう助けるかで、表ルートと裏ルートに分かれますしー」
「私もそのゲームをプレイさせて頂きましたが、裏ルートは心苦しすぎて挫折しそうでした……」
「あのシーンは有名ですよね! いよいよ帝国への復讐を始めようとした矢先の事件ですし、表裏どっちのルートを選ぶかでも帝国がどうなるか変化しますもん」
「おそらくユエさんは表ルートを即断で選ぶとは思いますが……なんだか裏ルートも気にしているみたいなんですよね」
「おや、それはどうして……?」
「ユエさん曰く、この作品のリュナーさんはちょっと綺麗過ぎるって言ってて。実際はもう少し荒っぽいところがあるとかで」
「あー……そうなるとー、確かに裏ルートのリュナーさんの方がそれらしさはありますねー……」
「幻双界にいるリュナーさんはいったいどっちなんでしょう……?」
先週の五章に続き、今夜は六章の攻略があります。クリア後には杏子さんが言うとおり、選択肢によってブルーフロントラインは表裏別のルートに分岐します。
どちらのルートを選ぶのか、というのは開始前からリスナーの間でもかなり議論が交わされていました。私としては王道と正義の表ルートを選んで欲しいのですが、復讐と悪逆の裏ルートも見て欲しいという思いもあります。
選択において鍵となるのが、リュナーに付き従う姉妹……チグサとヤチヨの二人。彼女達が育ったのはある死を司る魔神を祀る村であり、二人はその巫女として選ばれていたのでした。
彼女達が旅に出た理由は、無意識下にその器となる人物を探すため。それがリュナー……もしくは、リュナーを破滅に追いやった帝国の宰相のどちらか。
表ルートを進めばリュナーは二人の魔神との呪縛を断ち切り、帝国の闇を打倒するために動き始めます。そのあと、宰相が魔神の力を取り込み現世へと顕現して表ルートのラスボスとして立ちはだかる、と。
裏ルートを選べば復讐のための力を得るため、魔神の器になる道を選びます。この場合、力を得られなかった宰相はあっさりと倒されることとなり、リュナーは力を振るい続けて帝国を崩壊させてしまいます。
全てのイベントフラグ、つまりすでにユエさんが開放に取り掛かっている最難関イベント、大魔女アマギを仲間にした状態で指定難易度以上で表ルートをクリアすることで、魔神本体と対峙する真ルートへも派生しますが……とはいえ、それはさておき。
なんだか私が傍でアドバイスしている中で、若干裏ルートへの興味があるような素振りをしているんですよね。暴走するリュナーを止めるために、かつての仲間たちも立ちはだかるかなり重いバッドエンド寄りの展開なのですが。
「なんだか、聞いてる限りはニコイチっぽいんですよね。口にする幻双界のリュナーさんの技は、どうも裏ルートのスキルに近いですし」
「魔神リュナーさんと、指導者リュナーさん両方の性質を持つ……いろんな意味で理想形!」
「リュナーさんと密接な方々ってー、びたいちリュナーさんのこと喋ってくれませんもんねー……」
「ユエ様が語ってくれる断片的な側面から推察するしかないですものね」
「確実なのは、本編メンバーほぼ全員を連れて、中盤から建てるカバーカンパニーことリュナポーター貿易を運営していることですからね」
「これまで出てきた味方キャラクターは全員いるみたいですからね。早くリュムちゃん様にお会いしたいです!」
ユエさんの口から色々とリュナポーター貿易については情報が出ていますが、ふわふわとした確証がないものが多いですからね。
もっと進んだらきっと現れて来るでしょうから、その時に色々と聞き出さないと。特に、色々と知っていそうなシスさんとはニアミスしていますから。
そういう意味でも、明日から予定しているドラゴンズエアリー総出による夜界攻略作戦は楽しみではあるんですよね。トップ勢をこれでもかと取り揃えたうえで、有名NPCまで加えた錚々たる面々ですから、どこまで一気に進められるやら。
とはいえ、街の細かいクエスト群は後続の圏外組に一任することになってしまいます。そういうところを見逃さざるを得ないのは、ちょっと仕方ないところなのかも。
そんな最前線の話に興じていれば、ふと、カウンター側から声を掛けられました。
「……なあ、その最前線攻略は強敵がたくさんいるのか?」
「はい、もちろん。まだ見ぬ強敵もたくさんいますよ―――って」
「じゃあきっと楽しいね! 女禍さんに貰った装備も絶好調だし!」
「あわわわわ、お話に横入りするのはよくないというか、そのお……」
長い黒髪に、現代にはちょっと不釣り合いな和服の方と、その妹らしき快活そうな少女。それに、あわあわと私達の会話への闖入を諫めようとする一回り小さな女の子。
よくよく思い出せば、先週千夏が連れていた方々。あの時はゆきめさんが修羅場モードに入ってしまい、席も反対側の隅の方に行ってしまって声を掛ける機会を失ってしまっていましたが。
その三人の声色は、改めて聞いてみると特に聞き慣れたものでした。
「……もしかして、サヨさんとハクさん、レトラさん?」
「む、そういえば先週会った時は名乗っていなかったな。冷泉 雅という、クレハ―――ではなくて、深冬殿が言う通り、DCOではサヨと名乗らせてもらっている」
「あたしが冷泉 菜月。うん、わかってると思うけど私がハクだよ」
「……あうう。葉室 鈴羽です、DCOではレトラって名乗ってます……」
「わあ、みなさんだったんですねー!」
「雅さん以外全然面影がないです!」
なんとまあ。千夏もあのあと教えてくれればよかったものを……たぶん、すっかり忘れていたんでしょうけれど。
和服で堂々としているのが、どことなしにDCOでのサヨさんを感じさせますが。こうしてみると菜月さんもどことなし雰囲気があるというか……
鈴羽さんはもう言うことなしですね。ちょっと縮こまっているところに面影があります。
とりあえず改めてお互い自己紹介をしておきましょう。カウンターの向こうで雨宮さんと佐倉さんがニヤニヤと見てますけど。
「……冷泉に、葉室? もしかして、京都の名家筋の方ですか?」
「一応本家筋ではなく分家だ。DCOは、龍ヶ崎の翁殿から護身の技を教わるように言われてな、そのついでだったんだが……」
「思った以上に姉妹一緒にハマっちゃったんだよねー。で、知り合いの鈴羽ちゃんも巻き込んで、色々教わっていたってワケ」
「はいっ。そこのところは、一緒に楽しく遊ばせてもらっています。えへへ……」
「それでも短期間で祖父たちの教えをあそこまで取り込めるのは凄いですよ。私は何年掛かったか……」
「いや、私達はまだ付け焼刃だ。長く修練を経ている深冬殿にはまだまだ及ばない。いつかは追いつきたいが」
「実際、いっぺん千夏ちゃんに酷い目に遭わされたもんね。いやー、あれは怖かったなー」
「あれ、たまーに夢に見るんですからね! 怖かったんですから!」
「あ、あはは。それはちょっと申し訳ないというか……」
聞けば、三人は京都の生まれですが、こちらへは京凰義塾大学に通うために来ているのだとか。意外と近場ですね?
鈴羽さんだけは付属の高校に通っているそうで、この中では一番年下と。後の耳打ちで、実は二人のお目付け役なのだとも話してくれました。
確か、その大学と言えば杏子さんも通っていると言っていましたね……と、なると?
「しかし、イチョ……杏子殿は秋山家の出だったとは」
「はいー、近いうちに妹もこっちに来るそうですよー。最近深冬さんのお傍にいられなかったのはそれもありましてー」
「えっ、そういうことだったんですか? なんだか最近単独行動が多いと思ったら……」
「そうなんですー。千代女ちゃんも妹さんが始めたそうでー、そっちにかかりきりだったみたいですよー」
「もしや、シリュウ殿から弓術を教わっていた方と、刀の扱いを教わっていた方か?」
「えっ」
おや、これは驚き。二人にも妹さんがいたんですね……いずれ紹介されると思うので、楽しみにしておきましょうか。
またも祖父たちが先に顔を知っているということになっていますが、どれだけ強力な後進を育ててくるつもりなんでしょうか。
戦力が増えるのはいいことですが、いつの間にか両親は吸血鬼になっていますし……明日が楽しみになるのと同時、恐ろしくもありますね。
来週のどこかでカエデさんも唯装ダンジョンの攻略を手伝って欲しいと言っていましたし、どんどん強化が進んでいくでしょう、きっと。
ただ、その話をした時の杏子さんの顔が、どこか浮かないような顔をしていたような。
チヨちゃんもなかなか手を焼いているような気がしていましたし、どちらもまた癖が強そうな妹さんなのかも知れません。
「蘆屋と安倍の系譜もいるから、エアリーって割と京都系も強いんだね? 蘆屋はあんなひょうきんだと思ってなかったけど」
「ああ見えて鬼才ですよ、あの子。特に医科学分野ではトップの成績を誇っていますから」
「それ以外はちょっとヘンなのは、私の目から見ても明らかですけど……」
「そこは誰も否定しないんですねー……」
「にとらが変人なのはいつものことですから」
今日も大学の研究室で論文片手に高笑いしているのでしょうね、彼女は。付き合いがちょっと長いので、見えてなくてもわかるというか。
それでも彼女の才覚は本物ですからね。あの計算高さと発想のお陰で、去るバージョン1ラスボスの前座における紗那さんとの戦いで、繰り出される神業の仕掛けを解いたのですから。
私の幼馴染や伝手のある人たちは、誰も彼も類稀なる才覚を持っている気がします。そのいずれもが、DCOで更にその才能を伸ばしているような。
「さて、折角の機会だからもう少し聞いてもいいか?」
「ええ。構いませんよ。もう少ししたらユエさんも来ますから」




