第十六話
突然姿を消した鎌原が中々戻って来ず、サニーは気をもんでいた。「一体鎌原は何処に行ったんだ」修理所の室内をうろうろ歩き回っているサニーへ、アランが声をかける。「先生、ペティの微調整が終わりました。後は起動するだけです」ペティの修理は順調に進んでいた。「ありがとう、アラン。よしっ、ペティを起動しよう」サニーが起動ボタンを押す。
しばらく機械の鈍い振動音がした後、その瞳に光が宿った。ゆっくりと身体が起きていく。「おはようございます。製造番号SB00027の起動が完了しました」「やったぁ、ペティが治った!」「やりましたね、先生!」サニーとアランは手を取り合って喜んだ。
「でも、人工知能はリセットしたからまた一から教えてあげないとですね、先生」「うん。そんなのは苦労に入らないさ。これからよろしくね、ペティ」サニーとアランがペティに改めて自己紹介をしていると、修理所の前で車が止まる。少しして、鎌原が姿を現す。
「鎌原!?何処行ってたんだ、心配したんだよ!?」「ごめんなさいね、ちょっと知り合いに会ってたのよ」知り合いって、とサニーが問いかけようとした時、イリヤが扉の陰から出てきた。
「あ!な、何でイリヤ・オロフが!?」「あ、あなたは以前修理所で暴れた人!」狼狽えているサニーとアランを横目に、鎌原は成り行きを説明する。「……ということで、イリヤも一緒に日本へ行くことになったわ。味方は多い方が良いでしょう?」「よろしく頼む。ま、まぁ、何だ。あの時は悪かったな」イリヤは頭を掻きながらばつが悪そうに謝罪した。
「そ、そうか。君にそんな過去があったなんて。」「先生、仲間が増えたからって僕は反対ですからね!」承諾の雰囲気が出ているサニーに、アランが厳しい口調で言う。その眼は鋭くサニーを睨んでいた。
「大丈夫よ、アラン。こいつの腕は知ってるから。使い物にはなるわ。」鎌原が飄々としながらぞんざいに言う。「……な、何だと、この野郎」イリヤが鎌原に詰めよろうとした時、ぼんやり佇んでいるペティが視界に入った。「いや、何でもない」
「アラン、手遅れになってからじゃ遅いんだ。ペティと修理所に残ってて。この二人がいれば安心だよ」サニーはアランを宥めるように優しく言う。「……わかりました。……僕がずっと心配して待ってることを忘れないで下さいね」アランは渋々といった様子でいた。
「ありがとう、アラン。……いつも迷惑をかけてごめんね」サニーは申し訳なくも、嬉しく思っている。二人のやり取りが終わった後、鎌原がこほんと咳払いをして注目を集めた。
「では、日本行きが決定したわけだけど、問題はどうやって行くかね。もう出入国に制限が出始めているわ」「流石にまだ飛んでる飛行機は無いよね。早速で悪いけど、どうかなペティ?」サニーの発言を受けて、ペティが検索を始めた。
「現在、大英帝国家と日本帝国を往来している便はありません」ペティが機械的な声で言う。「……だそうよ。困ったわね、もう躓いてしまったわ」うんうんと頭を悩ませている二人を見ていたイリヤは微かに笑ったが、二人は気づかなかった。
「しょうがねえな。俺らの飛行機使うか?」えっ、とサニーと鎌原は驚いた顔でイリヤを見る。「知らなかったか?俺らは結構色々持ってるんだぜ」イリヤがしたり顔で言った。「何よ、持ってんならさっき言ってよね!それなら早速見に行くわよ!」
そういうと鎌原はすぐに外へ出て、無人タクシーを捕まえる。可愛い丸いライトが印象的な、黒い車が修理所の前に止まった。後部座席のドアが自動で開く。鎌原は後ろの席に乗り込み、イリヤは助手席のドアを自分で開け乗った。
「それじゃあ私、イリヤと今から行ってくるわ」「ちょ、ちょっと待って、僕も行く」サニーが修理所の中に戻る。少し待つと、上着を着ながらサニーが慌てて走ってくる。
「じゃあ遅れたお詫びにタクシー代、よろしくね」鎌原がからかうような笑顔で言った。イリヤも笑いを堪えている。「ゔっ……」三人を乗せた無人タクシーは、深夜の道路を滑るように走り出した。
アランは修理所の前で三人を見送る。ペティは無言でアランの横に突っ立っていた。「何だかんだ言ってぞっこんじゃないですか、先生」アランが遠ざかっていくタクシーを見ながらぼやく。それを聞いて、ペティがアランを見下ろした。
「アランさん、ぞっこんとは何ですか」曇りのない、純粋な眼をしている。「……うるさいよ、もう!」アランの叫び声が夜の街に響いた。




