二ノ十.絵美佳の過去
*絵美佳視点です
「里緒に幸せになって欲しいからエゴを押し付けたくないってことか」
ウトゥヌの抱えている感情は切なすぎた。
それを理解はできるけど、納得はできない。
「でもさ、そうやって聞き分けの良い年長者ぶってたら、欲しいものは手に入らないと思うけど」
実際は何歳なのか知らないけど、たぶん何百年って生きてるんだろうから、悟り開いちゃってるのかもしれない。
それでも誰かを恋しいと思う気持ちは普通の人と変わらないんだって分かって、こんなこじれた関係を黙って見ていられなくなった。
「―――よし。アタシがどうにかする」
怪訝そうに黙ったままこちらを窺うウトゥヌに、アタシは少し昔話をすることにした。
「アタシね、成瀬に返したい恩があるんだ」
***
幼い頃、アタシは成瀬の事が本当に好きだった。
当時、周りの女の子がママゴトやシールや変身モノの少女アニメに夢中になっているのを、どこか冷めた目で見ていた。
同世代の子の遊びには全く興味が持てなくて、虫を捕ったり穴を掘ったり本を読んだりするのが好きだった。
幼いながらに周りから浮いていると気付いてたけど、別に気にしなかった。
そんなアタシと気が合う相手は、歳上の成瀬以外に居なかったから、いつもコバンザメのようにくっついて回っていた。
幼稚園の年長になった頃、ウチの両親は喧嘩ばかりするようになった。
それと同時期に成瀬は外に出なくなった。理由は分からなかったけど、いつも家の中に一人で居た。
アタシは家に居るのが嫌だったし、いつ遊びに行っても成瀬は家に居た。
だから二人で本を読んだり、図鑑を見ながら絵を描いたりして過ごした。
その時間だけは本当に楽しかったと覚えている。当時、心の拠り所だった。
それから数ヶ月して、両親が離婚した。
アタシは母親に引き取られ引っ越すことになって、成瀬とも会えなくなった。
母親はいつも夜遅くまで働いていた。それでも贅沢は出来なかったけれど、なんとか二人で暮らしていけた。
転機は中学一年の時。
母が突然再婚した。
相手の男性に不満はなかったけどその連れ子が問題だった。二歳上の男で、そいつがアタシを見る目が嫌だった。
最初から嫌な予感がしていたけど、それはすぐに的中した。両親が留守の時に手を出されそうになった。
後先考えずに家を飛び出したけど、もうアイツのいる場所に戻りたくはなかった。
行き着いた先は、昔住んでいた父親の家だった。
自分が女だからこんな目に合うんだと思うと本当に嫌になって、母親の趣味で着ていた女の子らしい可愛い服も、長く伸ばしていた髪もバッサリ捨てて、新しい気分で生きていこうと思った。
けれど、父親はタチの悪い女に入れ込んで半同棲していた。
居場所がなくなったアタシは高校にも行かず、バイトしながらあちこちをフラフラして悪い連中とも連んで、そろそろヤバいかなと思っていた時にこっちの世界に迷い込んだ。
そして、またしても成瀬に救われた。
アタシは今まで、二度も成瀬に助けられたことになる。
ウトゥヌは「それは神子同士だから~」とか言われるかもしれないけど、そんなのはどうでも良い。
ただアタシが成瀬に恩を感じている。それを返したいと思うっていうそれだけのこと。
雑貨屋にもらったペンダントを、目の前に持ち上げる。
成瀬とお揃いのガラス玉が、月に透けてキラキラ光った。
成瀬は恩人ってだけじゃない。大事な友達なんだ。




