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神官見習いの日常  作者: 伊代
二章
20/26

二ノ八.畏怖

*絵美佳視点です

 その日の夜、成瀬が日本へ戻った後にウトゥヌに会いに行った。

 神殿に来て日は浅いけど、ウトゥヌがよく時計台に居る事にアタシは気付いてた。

 他の人には見えないだろうけど、小さなテラスにもたれかかってぼーっとしているのを見かける。


 時計台は街と本殿をつなぐ門をくぐった先の、中庭の脇に建っている。

 てっぺんは小さな部屋になっているから、もしかしたらそこに寝泊まりしているのかもしれない。



「おや、絵美佳。こんな時間にどうしたんだい?」

「ちょっと話があってさ。アンタいつもここにいるだろ」

 ウトゥヌは面白そうに片方の眉を上げた。

「よく気付いていたね。ここから眺める街が好きなんだよ」


 ウトゥヌが動かした視線を追うと、テラスから外を望めた。

 確かに遠くまでよく見える。この辺りではこの時計台が群を抜いて高いみたいだ。


 近くの飲食店に出入りする人や、歌いながら歩く酔っぱらい、小さな灯りの民家、遠くに続く林やそのもっと奥の海、それらを照らす星月夜。

 おとぎ話の挿し絵みたいな風景だ。


「へえ―――うん、いいね」

 なにがとは言わなかったけど、ウトゥヌは満足そうに頷く。

 言葉を省いても話が通じる相手ってのは、なかなか居そうで居ない貴重な存在だ。一緒に居て楽で良い。


「気に入ってもらえたようで嬉しいよ。それで、話というのは?」

「ああ、うん。あのさ。王子と成瀬が変なの、気付いてるよな?」

 当然だろうけど一応確認してみると、ウトゥヌは真顔で小さく頷く。

「それってやっぱヴィエナちゃんのせい?」

「分からないな。けれど、おそらくはそういうことなのだろうね」

 ウトゥヌなら何か知っているんじゃないかと思ったけど、当てが外れたみたいだ。


「そっか……。じゃあなんで凹んでる成瀬を放っておくわけ?」

 瞬間、一気に下がる体温。

 身体の中心が痛いぐらいに冷たい―――やらかした!?


 いつも皆の保護者や先生みたいに穏やかな態度で、飄々とした雰囲気を崩さないウトゥヌ。

 その彼が殺気立っている。

 知らずごくりと喉がなった。無意識に後ずさる。

 これが神への畏怖というものか―――。


 そんなアタシの様子に気付いたのか、彼の表情が少し緩む。

 けれど、その声音は普段より低く暗いものだった。


「―――歯止めが、きかなくなる自信があってね」

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