9話
クエストの報告を終え、雑貨屋に行ってきたアバラは上機嫌だった。クエストの報酬も上々だった。どうやら【ヤンキー】の件で冒険者達の戦闘力向上に一役買いそうな事と、「これからもよろしくお願いします」という事で色を付けてもらったらしい。
さらに雑貨屋では欲しかったヘアアイロンの代わりになりそうな魔道具を見つけることができたのだ。魔力を込めれば発熱する櫛である。これならアバラの魔力コントロールの練習にもなるため一石二鳥である。
「いやぁ、どの世界でも見た目を気にする人間は似たような道具を発明するんだねぇ」
宿に戻りさっそく髪をセットし直すと宿の一階で待つテトラの元へ向かった。
「おそーい。普通こういうのって女の子の方が時間かかるもんじゃないのー?」
「最近そういうこと言うとよくないって言わないか?男女びょーどーよ」
「おや、お色直ししてデートかい?」
洗濯物を取り込んで戻ってきたおばちゃんがからかう。
「だからおばちゃん、そういうのじゃないってば!誰がアバラなんかと!」
「そうだぞ、こんなつるぺったんとそんなことにはならなふぐぁ!!」
筋力のステータスは低いテトラだが、魔力は多い為本気で殴る一撃は結構強い。
「じゃあいってきまーす!」
アバラを引きずって出ていくテトラを見送るおばちゃん
「あれは尻に敷かれるタイプかね……」
「「かんぱーい!」」
ふたりでエールの入った樽ジョッキを軽くぶつけ合う。
「いやーアタシもついにパーティが組めたかぁ…。長かった……!」
「そういや、なんでテトラは誰ともパーティ組んでなかったんだ?お前結構強いだろ?」
注文した唐揚げのような食べ物、何の肉なのか考えるだけ無駄なので心を無にしながら食べ、テトラに質問する。
「いやぁ、アタシってやっぱ可愛いじゃん?乙女の秘密のステータスを教えても良いって思える奴が中々現れなくてねー!」
こんなにも自己肯定感が高いのはもはや才能の域と言えるのではないだろうか。華麗なまでの自惚れっぷりを聞き流しながらよくわからない魚のフライを食べる。
「お、この魚うめぇな」
「ちょっと!聞いてないでしょー!あんたもアタシに選ばれたんだからちょっとは光栄に思いなさいよー!」
「へいへいこーえーこーえー」
などとふざけ合っていると、酒場に昨日の3人組が現れる。
「おぉ!昨日の兄ちゃんじゃねぇか!ギルドの姉ちゃんから話は聞いてんだろ?いやぁほんとにありがてぇ話だぜ!今日も奢ってやるから飲んでくれや!」
「いや、今日はパーティ結成祝いなんでな、奢りはまた今度にさせてもらうわ。職業の件は俺がなんかしたわけじゃねぇから気にしねぇでくれ!」
「じゃあ邪魔しねえ方がいいな!昨日の嬢ちゃんとパーティ組んだんだな!おめでとさん!」
「あんたら、またアタシの事ガキンチョとか言ったら次はアタシが燃やしてやるからね」
座った目で3人組を見るテトラ。たぶん本気だ。
「お、おう、すまなかったよ…まぁお互い頑張ろうや!」
気まずくなった3人組はそそくさと立ち去っていく。
「お前、あんまり威圧すんなよ…」
「ふん!」
テトラは【アイアン級】なのだが、実際アバラがやり合った感覚では例の【ブロンズ級】3人組一人一人よりはテトラの方が強いと思われる。
こればっかりはパーティを組んでいるかどうかの違いだろう。
「また質問なんだけどよ【アイアン級】とか【ブロンズ級】とかに上がるにはどうしたらいいんだ?」
「特定のモンスター又はそれに準ずるモンスターの討伐と、一定のギルドへの貢献かしらね。【ウッド級】から【アイアン級】に上がるのはゴブリンを倒すだけだから、たぶん明日にでも【アイアン級】の冒険者証が貰えるんじゃない?」
「ゴブリンを倒した報告とか別にしてねーけど、それでも上がんのか?」
するとテトラはごそごそと自分の冒険者証を出すと、その冒険者証からステータスプレートと同じような半透明の板が出現する。
「冒険者証には持ち主が倒したモンスターを記録する魔法がかかってんのよ。これでどんな魔物を倒してきたのか一目瞭然ってわけ」
「なるほどな、嘘ついてランク上げとかはできねー訳だ」
「そーゆーこと」
そういうとテトラも謎魚のフライをフォークで刺して食べる。
「あら、ほんとに美味しいわねこの魚」
「だろ?なんて魚だ?」
「アタシが魚の名前なんて知るわけないじゃない」
ぶっきらぼうに答えてエールを飲む。
「あぁぁー!!うまいわぁ!!」
「まぁいいか。うめぇし」
アバラも考えるのをやめ、ささやかなパーティ結成祝いを楽しむのだった。
異世界に来て二週間ほどが経過した。無事【アイアン級】に昇格したアバラとその一行は日々クエストでモンスターを討伐、薬草を集め、迷い猫を探す。そんな毎日を送っていた。
「おっ、アバラちゃん。今日も派手だねぇ!」
「よう!八百屋のおっちゃん!この間のウネウネする野菜美味かったぞ!」
「おう!赤いの!まだ武器は使わねぇのかい!?安くしとくぜぇ!」
「アバラだっつうの。名前覚えろ!俺はステゴロ一本なんだよ!特攻服作ってくれるなら買うぜ!」
「アンタどんだけ馴染んでんのよ…」
アバラは持ち前のキャラクターとその派手な見た目であっという間に街の住人達と仲良くなっていた。元の世界では主張が強すぎた性格も、この世界ではうまく嚙み合っているようだ。
「アバラ君、だよね…?」
「あん?」
街を歩いていると急に後ろから声をかけられた。自信なさげに話す青年にアバラは心当たりがあった。
「あ、おめぇ!一緒に転移してきた!」
「よかった!覚えててくれたんだ!」
彼は確か最初の職業判定の時【商人】と言われた青年だ。確かアバラが国王と話していた時「家に帰せ」と声を上げた一人でもある。
「僕はイウラ、イウラタカユキって言うんだ」
「すぐ思い出せなくて悪かったな。あれ、自己紹介したっけな?」
イウラは照れくさそうに頭をかく。
「実は僕、向こうの世界にいた時から君のこと一方的に知ってたんだ…。烈怒羅員のアバラ君、でしょ?」
「え?お前、もしかしてオナチューとかなの?」
ハハハとイウラは笑った。
「その表現なんだか久しぶりだな。こっちでそんな言葉聞くとは思わなかったよ。僕は地味だから覚えてないだろうけど、同じ中学校出身だよ。それに君は地元では有名だったから、こっちに来て最初は凄くびっくりしたんだ」
中学校、と言われた時アバラの表情が曇った。
「そうか…中学の……あの時はちーとグレてたからなぁ。あんまり良いイメージないだろ?」
「いや…僕にとってはその…憧れのような?なんて言ったらいいかわからないけど、純粋にすごいって思ってたよ。それにグレてるって言ったら今の方がそうじゃないの?」
「ははっ、違えぇねえな」
「アバラ、オトモダチ?」
ずっと黙っていたテトラがひょこっとアバラの後ろから顔を出す。
「そうだな、異世界出身でオナチューなんてダチみてぇなもんだろ」
「おなちゅー?」
「ダチ…!」
なんとなく友達のハードルが高そうなイウラはどことなく嬉しそうだ。
テトラとイウラが「どもども…」と初対面同士で挨拶をする。
「こんなとこじゃなんだし、どっか落ち着ける場所で話そうぜ。聞きてぇこともあるしよ」
「僕も君に話したいことがあって呼び止めたんだ。丁度今お世話になってるお店があるからそこで話をしない?」




