8話
準備を終え、西の平原に向かうために街道を抜け門にたどり着く。門番に冒険者証を見せ、門を抜け馬車が通る道とは外れたルートへ進む。
「アンタ、やっぱり目立つわねぇ。みーんなアンタのこと見てたわよ」
「まぁそれに関しちゃ向こうの世界にいる時から慣れっこだぜ」
「やっぱりその格好、万国共通で変なのね…」
呆れるテトラだったが、アバラと行動を共にするということは、慣れなければならないということである。
「そういえばよ、【先日の雨のためスライム大量発生】って書いてあったけど、雨が降るとスライムが出るのか?」
「魔物はね、空気中に漂う魔素ってやつが一定数貯まると生まれるって言われてるの。そして魔素が貯まりやすい場所には強力な個体が生まれやすいんだって。そんで、一定の魔物が生まれやすくなる条件っていうのもあるみたいで、雨が降るとなぜかスライムがいっぱい出てくるんだってさ」
「雨季がある地域はやばいらしいよ~」とケラケラ笑うテトラ。
「合体してデカくなったりすんのか?」
「何それ、また異世界の常識?少なくともアタシは聞いたことないわね…そろそろ平原が見えてくるわよ」
歩くこと30分程だろうか、草木が茂る平原に出た。平原のあちこちにモニモニと動くスライムがいるのがわかる。
「こいつらを倒せばいいんだな。襲ってくるのか?」
「スライムは襲ってこないわよ。こいつらほっとくと草木を食いつくしちゃうから駆除しないといけないだけなのよねぇ」
無抵抗な生き物を殺すというのは気が引けるが、これも生きるためである。
「南無三!」
アバラが近くにいたスライムをぶん殴るとスライムはその場で爆散した。
「きったねぇ!!」
「あーあアンタ何やってんのよ~それじゃ体液回収できないじゃない。スライムはね身体の外から魔石が見えるから、ナイフでスーっと切れ込みいれて魔石を抜けば体液も残るし倒せるのよ」
「もっと早く言ってくれ…」
テトラからナイフと体液を入れるビンを数本受け取る。
「綺麗なとこだけビンに入れるのよ。スライムの体液は案外利用価値が高いから、持ってきたビン全部入れるまで狩るわよ」
「これ、何に使うんだ…?」
スライムのねばねばと格闘しながらアバラが聞く。
「スライムの体液って100%純粋な魔素物質だからこの体液に魔法をかければ色々な効果を乗せることができるのよ。例えば【ヒール】を乗せておけば回復軟膏になるし、美容液とか石鹸にも使われてるんだって」
「へぇ~すげえんだなスライム」
そうつぶやいたあと、ふっとアバラに考えがよぎる
「こいつをうまく使えばヘアワックスが作れるんじゃ…?」
「お願いだからスライムをそのまま頭にぬったくったりしないでね?これ加工するのって結構独特の技術がいるらしいから、今のアンタには無理よ」
がっくりと肩を落とすアバラだったがその後ろからキラッとした光が見えてテトラが素早く杖を構えた。
「屈んで!!!【ファイアーボール】!!」
「うおっ!」
木の陰から弓を構えたモンスター、ゴブリンの鼻っ柱に火の玉が命中する。絶叫の後しばらくはもがいていたものの、動かなくなってしまう。
すると「ゲッギャーッギャ」と独特の声を出しながら数体のゴブリンの群れが姿を現した。奇襲が失敗したので数の差で倒そうということなのだろう。
「結構な数がいるじゃねぇか。初心者用クエストって言っても結構あぶねぇんだな」
「アンタが遠くからでも目立つからじゃないかしら…」
「あ、そーゆーことですか…」
リーダーらしきゴブリンが「ギギャー!!」と鳴くと一斉に襲い掛かってきた。
「ふんっ!」
「「「ギギギャーーー!!!!」」」
襲ってきたゴブリンにフットワークで一気に近づいて3匹をワンツースリーで殴るとそのすべてのゴブリンが爆散した。
それを見たゴブリンたちの怖がり様は半端ではなかった。腰が抜けて立てないもの、我先にと仲間を押しのけて逃げるものと様々だった。
「追っかけて倒したほうがいいか?」
「たぶん、二度と人間は襲わないだろうし…ほっといてあげたら?それにしてもアンタ手加減って奴があるでしょー。全部爆散させるってどんだけ…」
「いや、街の奴らを殴ったときはもっと全然固かったぞ?」
「当たり前でしょ、レベルが違うわよ。あとお願いだから人間を爆散させないでね…」
「本気だからね」と言いながら粉々になったゴブリンから魔石を拾う。
「いや~でも魔法も凄かったな。俺も使ってみてぇー!」
「なによアンタだって拳に魔力を込めて殴ってるじゃない。まぁ込めすぎて魔物が爆発してるけど」
「え?そうなのか?全然わからねぇぞ」
自身の拳をグッパーグッパーして見つめてみるが何も分からない。
「あんた無自覚だったのね。両手出して、アタシが魔力の感覚を教えたげる」
そういうとアバラの両手を握った
「今からアンタの身体の中を右手から左手に抜けるように魔力を流すから感覚を掴んでみて」
「お、おう…」
するとテトラから暖かいエネルギーの様なものが身体を巡っていくのがわかった。右手から右肩、頭を通って左肩、左手と通ってテトラへ還っていく。
なんとなく勝手にエネルギーが巡っている感覚がもどかしくて自分でもエネルギーを回そうとする。
「ちょっと、魔力の主導権を勝手に取らないでくれる?びっくりしたじゃない」
そういうとパッと手を放す
「あぁ、すまん、なんとなくもどかしくなってな」
「まぁそんだけ動かせれば上々なんじゃない?コントロールできそう?」
言われた通り先ほどのエネルギーの流れを意識して拳にエネルギーを集める。
「ひっ…アンタそれどこにぶつける気よ」
「え、これぶつけるまでこのまま?」
そう言っている間にもみるみる拳に魔力が集まっていく。
「ちゃんと霧散させられる…?ゆっくり、ゆっくりよ…」
「む…無理そう」
「ちょっとこっち向けないでよ!!ほんとに危ないから!!どっかやってそれ!!」
「どうすりゃいいんだよこれ!!!くそ!!うおりやぁぁ!!!」
自分の右腕を持ったまま右往左往するアバラはついに耐えきれなくなり地面を殴りつけた。
ドォン!!と地鳴りが起き、近くの木に止まっていた鳥たちが飛び立つ。遠くでゴブリンが「ギギャー!!?」と鳴いている声も聞こえる。
「びっくりしたぜ…」
「こっちのセリフよ…次からはもう少し慎重に練習して頂戴…」
気が抜けたアバラは、どさっとその場に座り込む。
「なんかすげぇ疲れたんだけど…」
「当り前よ、あんだけ魔力を使ったんだから…あとは私がやっとくから、ちょっと休んでなさい」
しばらく休んだ後はアバラも参加し、無事スライムの討伐と体液の収集を終えた二人は持ってきた水筒で手と汚れた服を流し、帰路についていた。
「なんかあちこちにスライムの体液の取り残しとかあるけどいいのか?」
「モンスターの死骸は時間がたてば魔素に還るから大丈夫よ。このスライムを入れたビンは魔素還りを止める魔法がかかってるから平気なの」
「ふーん」と落ちてきた日差しにスライムのビンを透かしながら歩く。
「さぁ、帰ってクエストの報告したらアンタの生活雑貨買いに行くわよ。そしたらまた酒場に行きましょう!」
「また飲むのか?昨日も飲んだだろ?」
「何言ってんのよ!パーティ結成記念と初めてのクエスト記念じゃない!これが飲まないでいられるかー!」
肩を組んでがははー!と笑うテトラを見て「記念日とか一々祝いたがる彼女ってこういう奴なのか…?」と思うアバラなのであった。




